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一触即発

【跪けッ!!】


 カイルの頭が飛んだ瞬間、私は本能で理解した。カイルは死んでない。


 と、同時に私の中で何かが切れた音がした。


 ーーコイツらを殺す、グチャグチャにしてやる。私は怒りに任せて、両腕を魔獣化する。そのまま、まずは男、その後に女。


 そう決めて飛びかかろうとした時、震えているアメルを視界の端に捉え、僅かだが理性を取り戻した。それと同時にこんな時に何をやってんの! と苛立ちを覚える。


「っとに! このっ……狸!!」


 私がそう言うと、アメルはようやく我に返った様だった。世話のかかる女ね。


 その後、女の方をアメルに任せて男と対峙する。とはいえ、四つん這いのまま動けなくなっているんだけど。その男はどこか、聞き覚えのある風貌をしていた。


「アンタ……もしかして、ニスイ?」


「……だとしたら、どうした」


 肯定と取れる返事が来てしまった。いよいよ私の頭は冷え切ってしまう。魔獣化を解除し、話を続けた。


「……カイルにアンタの話を聞いた事があんのよ。私にはどうでもいい男関係の話だったけど、カイルから話してくれるのは珍しいもんだから、仕方なく聞いてあげてたわ。前のパーティーで、デカ男とアンタだけが自分を馬鹿にしなかったって。アンタは褒めてもくれなかったけどね、って笑ってたわ」


「それが……どうしたっ!」


「なんか、中央都市のダンジョンでカイルにちょっかい出したみたいじゃない? 良かったわね、その時私がいなくて。もしいたらーーーー間違いなくアンタを殺してたわ」


「……」


 ニスイは喋らなくなった。元々無口らしいから良いけど。


「ともあれカイルから『色々されたけど、憎めない。また対峙したとしても殺すことはしない』って言われてんの。だから、私が勝手に殺すわけにいかないのよ。良かったわね、カイルがお人好しで。そういう訳だから、そのまま大人しくしてなさい」


「ふざけるなっ!!」


 ニスイはナイフを取り出しーー自分の腕に目一杯刺した。痛みに苦渋の表情を見せるニスイ。コイツ何やってんの!?


 そう思ったのも束の間。ニスイは立ち上がり走り出した。ーー痛みで洗脳を解いたっ!? 逃げる気!?


 ニスイが走る先にはーーーー溶けかけたカイルの頭部がある。


 私は舌打ちをして声を張り上げた。


【動くな!!】


 瞬間、ニスイの身体が不自然に固まり、慣性で倒れた身体は地面を滑る。私は飛翔して、ニスイとの距離を一気に詰めた。手を踏み潰し、ナイフを落とさせ、それを蹴り飛ばす。


「あー、喉痛ぁ。大声出させないでよね、ったく。大丈夫と分かってても、好きな人が攻撃されるのは、嫌」


 アンタが自分を傷つけてまで、カイルを殺したいことは分かった。それは認めてあげる。でも、私がいる限りそれはやらせない。絶対。私は魅了の出力を上げていく。


「何……をっ!」


「アンタを認めてあげるわ。その馬鹿げた意志力を、ね。でも残念」


 眼だけをこちらへ向けるニスイに、口角を上げ告げてやった。


「ーーカイルを殺したいなら、まず私を殺してからよ。ま、雄の時点で無理でしょうけど?」


 ニスイは私の全力を受け、眼が虚ろになり、力無く地面へ身体を預けた。


 カイルの奴、コイツからどんな恨みを買ったのかしらね、とぼんやり考えながら、女と対峙しているアメルの方へ視線を向けた。

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