邂逅
「カイルさんっ!?」
眼の前の光景に、私は頭が付いてこなかった。
……え? カイルさん? 首が斬られ、え?
状況は把握出来ていたけど、それは到底受け入れられるものではなかった。これは、現実?
「っとに! このっ……狸!!」
ーー誰かが声を発している気がする。放心状態だった私は、懐かしく感じた悪口により意識を現実へと戻した。声のする方を向くと、リリだった。
両腕を魔獣化して、今にも飛びかかりそうな体勢。息は荒く、それでも、こっちを見ながらその場に居続けている。
リリのすぐ先には、男性がいた。スカーフで口を覆っている格好。
カイルさんが斬られてしまう前、身体が一瞬ガクッと硬直したようになっていて、あれ? と思った。
あれは、ニスイさんだ。
「やっと我に返ったようね! このポンコツ狸!!」
リリが更に言ってくるが、私は我に返った事で改めて認識してしまった。ーーカイルさんが、斬られた。
斬られたであろう頭部が、明後日の方向へ転がっている。
「う、あ、あぁ……!」
現状を拒絶した身体が、勝手に現実逃避をしようとする。膝をつきそうになる私に向かって、リリから怒声が飛んできた。
「ちょっと! いつまで呆けてんの!!」
「だ、で、カ、カイルさんがっ……! き、斬られーー」
「カイルは生きてる!」
ーーえ? その言葉に、私はちゃんと言葉を返すことが出来なかった。
「ライムと融合してたでしょ! だから多分大丈夫! 私はこっち先にやるから、アンタはソイツなんとかしなさい!!」
ーー本当に、カイルさんが、生きてる? ……嘘だとしても、今はリリが言ったことを信じるしかない。
本当は私がやりたいけどっ! と吐き捨てるように言ったリリ。苛立ちを隠さず告げていた場所へ視線を向けると、女性がいた。
その女性は、しゃがみこんでカイルさんの胴体を、指でつついていた。
「なんで血が出ないんですかぁ? うーん、不思議」
本当に人間ですかぁ? という言葉を聞き……私にこれでもかという位の感情が込み上げてくるーーこれは、怒りだ。
「何を……何をしているのっ!?」
私はホルダーからセロシキを抜き出し、初めて人に向けて、構えた。その女性は、ゆっくりと私の方を見てきた。
「あ、次代の巫女様も一緒でしたね。こんにちはぁ」
ニコニコとした笑顔を向けられて、私はどうしようもない程の嫌悪感を覚えた。
「気安く呼ばないでっ! 今すぐカイルさんから離れなさいっ!!」
あらら、つれませんねぇ、と言い女性はゆっくりと立ち上がる。私はセロシキを構えたまま、話し掛けた。
「どうして、こんなっ……! 貴女、自分のした事が分かっているの!?」
そうですねぇ、と女性は考える仕草をし、閃いたかの様に手を合わせながら口を開いた。
「あ。じゃあ、こうしましょう! ーーーー初陣でダンジョンへ入ったパーティー。しかし、時間が掛かりすぎている為救援、及び保護へ向かう。ダンジョンの奥で発見した時には、既にパーティーは全滅。かろうじて、亡骸を保護することしか出来なかった」
……何を、言っているの? この人は。女性が告げた言葉が、何一つ頭に入ってこなかった。
「どうですか? 我ながらいい出来だと思うんですけど。ーーーー巫女様ぁ、そういう事なので」
そう言って、地面に刺さっていた大剣を軽々と抜き取り、肩へ担ぐ。
「ちょっと、付き合ってくださいねぇ?」
「ーーお断りしますっ!!」
敵意の込められた笑顔を向けられて、私は警戒を強めていった。




