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探索準備

 夜。宿で食事を頂いていた俺達。昨日は静かでゆっくりと食べれたのに、今日は酒場みたいに賑やかだ。調理員さん従業員さん、どちらも忙しそうに立ち回っている。


 そこへ入口の扉が開いて、住民達から盛大な歓声が上がる。今回の立役者が入ってきた。こちらを見つけると、早足で向かってくる。


「も、戻りました……」


「お疲れ様、アメル」


 周りからは、巫女様ー! 次代は頼みましたよ! という声。


 アメルは苦笑しながらも、周りへお辞儀をしていた。側にはーーアプサラスさんがいた。だけど、周囲の人は驚く様子もなく気にも留めていない。


「アプサラスさんも来たんですね。こんばんは」


「はい。カイル様、出来れば敬語をお止め頂けると嬉しいのですが……」


 なんで? と思ったが、ひとまず本人の意見を尊重した。


「じゃあ……アプサラス、でいいよね? 領主宅から出ても大丈夫なの?」


「ありがとうございます。我々水の精霊は、水が豊富な場所ならば動くことが可能です。ジュエレールは海もありますし、領地内であれば、支障はありません。ルーベル様にはテティス姉様、それにフィデル様も付いていますから」


 テティス姉様? ネレイスさんの事かな。水の精霊は側にいるだけで心強いだろうけど、フィデルさんはどうなんだろうと思ってしまった。


 アプサラスはそれに、と続けて話す。


「私は仮とはいえ、アメル様の護り手として選んでいただけました。ですが、数日は共に動くことは叶わず、それはもう悔しい思いをしておりました……本日より一時も離れず、御身を護る覚悟です!」


 と勢い込んで話してくれた。アメルは苦笑していたが、嫌そうではないし良好な関係が築けているみたいだ。


「じゃあ改めて。今日の疲れを充分にとってから、ダンジョン探索に行きたいと思ってるし、案内の方よろしくね」


「はい! お任せ下さい!」


「アメルもゆっくり休んでね。そうだな、ダンジョンは午後になってから行ってみようか」


「分かりました」


「夕食は食べた? 俺達は、もうちょっとここで食べるけど」


「私もまだですし、一緒に頂きたいです。それに」


「それに?」


「一昨日から今日まで、リリとどんな事をされていたのか……じっくりと伺わないと、ですから」


 そう言って、ニッコリと笑うアメル。にこやかな表情なのに、俺は何故か冷や汗が止まらなかった。



 次の日。昨日の夜更けまで事細かく聞かれた俺。お話は分かりました、とアメルが言ってくれて、ようやく納得してくれた。これで一息つけるなと思ったら、アルクさんのお店、私も行ってみたいですと告げられた。


 リリは頑なに行かない! と言っていたから、一旦ライムと宿に居てもらうことに。


 俺、アメル、そしてアプサラス。このメンバーで行くことになった。


 私はアメル様の護り手ですので! どうかお側に! とアプサラスが懇願しており、アメルは困った顔をしてたしリリは笑ってた。


 朝食を頂いた後、今はアルクの元へ向かっている最中だ。午後には探索もある。


「でも良かったの? アメルまだ、疲れてるんじゃない?」


「正直な所、筋肉痛ではあります……でも、心地良い感じですし問題は無いです」


 なら良かった。中央も、水の祭典が開催された時と同じくらい商店が賑わいをみせており、中でも眼を引いたのはーーーー魚。


 魚がこれでもかと並べられていた。


「あれだけ、それこそ海を覗いても、姿すら見えなかったのに……祭典の効果って凄いんだな」


「その通りです。全てはアメル様、そしてルーベル様のお力あっての事です!」


 そう言うのはアプサラス。大きな声で我が事のように言うもんだから、住民の視線も集まる。


「ア、アプサラス。今は止めて、人の目があるから」


 アメルが顔を赤くしてアプサラスを制止する。だが、アプサラスは当然の様に続けていく。


「何をおっしゃいます! アメル様の御業を、ジュエレール、ひいては世界へ轟かせていかねばなりません!」


 住民達もそうだそうだ! と言ってきた。住民達は、巫女には必ず水の精霊が護り手として付いている。そういう認識があると聞いて、アプサラスがアメルの側に居ても、誰も驚かないことに改めて納得した。


 アプサラスと住民達は意気投合して、アメル様最高ー! と全員で拳を掲げていた。


 アメルは真っ赤になって、ただただ困ってた。


 アメルの事になるとって感じだな。うん、アメル一筋なのは分かった。護衛してもらうなら、この位信頼がある方が良い。


 俺達は中央を抜け、蛇行しながら入り組んだ道を進んでいく。


「カイルさん。この道、もう覚えたんですか? 迷路みたいで、私は今通った道もあやふやに……」


「いや、完全には。これのおかげだよ」


 そう言って、導きの羽をアメルに見せ、用途を説明した。


「そんな効果がある道具が創れるんですね……凄い」


 アメルは感心していた。やっぱり、これ凄い道具だよね? 思い描く場所へ羽が向きを変えるなんて、どういう原理なんだろう。その辺も聞けたら良いな、そう思っている内に、件の店へ着いた。


 連日の訪問、迷惑じゃないかな? しかも朝だし、まだ開店してないかも。


 ゆっくりと扉に手を掛けると、昨日と同じくすんなりと開き、カランと音がする。


「アルク、いるかな? カイルだけど」


 店内に声を掛けると、奥で人影が動く。アルクだ。


「おや……カイル、いらっしゃい。連日来てくれるなんて、もはや常連さんだね」


「ごめん、朝早くから。扉が開いたから、つい」


「構わないよ。開店時間は決めてないし、普段から鍵も掛けてないしね」


 それ、大丈夫なのか……? いや、土地勘のない人はそもそもここまで来れないか。看板も無いし、普通の一軒家と変わらない。でも危ない気もするなぁ。


「ところで君は……次代の巫女じゃないか。カイル、巫女とはどういった関係なんだい?」


「パーティーの仲間だよ」


「アメルといいます」


 アメルがお辞儀をすると、ご丁寧にどうも、アルクです。と挨拶を返す。


「カイル、昨日の彼女は?」


「リリの事? えーっと。午前は用事があるって、今はライムと動いてるよ」


「ライム、肩に乗せてたスライムだね。そうか、リリさんと言うんだね」


 ありがとう、とアルクは何故かお礼を言ってきた。どうした。


「それで、今日は?」


「カイルさんに聞いたんですけど、アルクさんが導きの羽、の様な凄い道具を沢山創っていると聞いて。今日、ダンジョンへ探索に行くんですが、何かあれば良いなと思って」


 本当は二人きりで……と何か呟いていたが、声がどんどん小さくなって聞き取れなかった。


「あぁ、あそこか。道具の効果に関しては、質に左右されるから。渡したのは、良く出来たやつだよ」


「質、ですか?」


「うん。基本は素材と水。それらを調合して、全く別のものを創るのが錬金の醍醐味だ。何が出来るか分からない組み合わせも、山のようにある。素材と水の質が良ければ、その分、効果の良い物が出来るんだ」


 聞けば、アルクはジュエレール出身ではないらしい。ここは水が良いから、その一点だけでジュエレールに店を構えたとの事だった。凄い行動力だ。


「アメルはどういう物が欲しいんだい? 探せば、ある程度好みに合った物はあるはずなんだけど」


「探せばって……アルク、その前にこの辺の整理はしないの?」


 汚くはないが、散らかっている印象はどうしても受ける。相変わらず用途の分からない道具が転がってるし、な、なんか動いてるのもあるぞ。


「前はしてたんだけど。整理してもいつの間にか散らかるから、段々良いかなってなったんだ。怪我に繋がりそうな物だけは、奥に仕舞ってあるよ」


 優しく微笑むアルク。これも、一つの職人気質ってやつなんだろうなと思う。


 アメルは、腰のホルダーから鬼銃セロシキを取り出し、アルクへ見せた。


「この銃なんですけど、発射音が通常の銃より大きいらしくて。音が気にならなくなる道具って、何かありますか?」


 アメルは伺うが、アルクはセロシキを見つめたままこう、呟いた。


「これはーーーーティアジャールの至宝?」

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