水の祭典.2
「ーー今年の祭典は久し振りなだけあって、いつもより凄かった気がするな!」
「あぁ! 次代の巫女も、その護り手も実力は確かなようだしな。こりゃ安泰だ!」
道中、節々にこんな声が聞こえてきた。俺達は一度来て欲しいと、フィデルさんの護衛に声を掛けられて、踊りを終えたルーベルさん達が戻った領主宅へと向かっている。中央を通り抜ける中、商店街も更に賑わいをみせていた。
「これが本来のジュエレール、なんだな」
俺は感心していたが、リリはどこか上の空だった。
「リリ?」
「え? あぁ、そうね。美味しかったわ」
「朝の話じゃないよ、どうした? 調子でも悪いのか?」
「……悔しいけど、アメルのことちょっとだけ綺麗って思っちゃったのよ。それだけ!」
ちょっとだけだから! ほら、さっさと行くわよ! と言ってリリは、何故か怒りながら先を歩いていった。
領主宅に着いた俺達は、衛兵へ話を通し中へ入れてもらった。そのまま、突き当りの部屋まで向かい、扉をノックする。
「いますか? カイルです」
「あぁ、今開けるよ」
扉を開けて出迎えてくれたのはルーベルさん。アメルは……部屋の端で丸まっていた。
側にいる精霊は、アメル様は何も恥じることはありません! お綺麗です! と言っていて、い、一旦止めて……とその精霊へ懇願しているアメルの顔は、どんどん赤くなっていった。
「えっと、フィデルさんの護衛の方が声を掛けてくれて」
「あぁ。私からここへ来るよう、探して伝えてくれと頼んでおいたんだ。外では話す暇もないからね」
そう言ってルーベルさんは苦笑する。嬉しい悲鳴というやつだな。掛けてくれと言われ、高級そうなソファーへ座らせてもらう。
ルーベルさん、そして未だ丸まっているアメルも、ドレス姿のままだ。出迎えてくれた時もそうだけど、露出が多い衣装に思わず見入ってしまう。
すると、隣に座っていたリリから肘打ちが飛んできた。
「あんまジロジロ見るんじゃないわよ、スケベ」
「じ、じゃあどうしろっていうんだよ?」
「私だけ見てなさい」
えぇ……。なんか急に端の方から圧を感じる気がするけど、多分気のせいだろう。うん、きっとそうだ。
ルーベルさんは笑いながら、事情を説明してくれた。
「着替えていないのは、今日の夕方にもう一度踊ることになっているんだ。一応終わりの踊りという事になるね」
「そうなんですね」
「そこまで、アメルさんはお借りするが、いいかな?」
「アメルが良いなら、俺からは特に」
「ありがとう。首狩り、などという物騒な事件も相まって、最近のジュエレールは特に活気が無いに等しいものだった。君達のおかげで、住民達の活気もようやく戻った気がするよ。もしここへ、君達が来てくれていなかったら、と想像しただけでもゾッとする。お詫びという程でもないが、君達を優先したいと思っているんだ」
「優先? 何の事ですか?」
「水の祭典から一週間程、現れるダンジョンがあるんだ。ーーその初陣の優先権をね」
ルーベルさんの言葉に、俺は高揚感を覚えた。
話を聞いていくと、開催後しか現れないダンジョンの様で、ここ数年は出現していなかったそうだ。
「でもそんな珍しいダンジョン、良いんですか? 俺達が初陣を切らせてもらっても」
「何を言う。その程度でお返しできる恩では無いよ。当然の権利、と思ってくれて良い。行く際には、そうだな……アメルさんも一緒に行くだろうし、アプサラスを付けよう」
そう言われてビクッと反応したのは、アメルの側にいて、ひたすら褒めちぎっていた水の精霊。
「あの水の精霊は? アメルとどんな関係なんですか?」
「アメルさん、その辺りの説明は……あぁ、すまない。私が引っ張り回しているせいだよね。私は歴代の中で一番体力があるらしい。そして配慮が足りないよ、とも。お祖母様からいつも言われていたよ」
そう苦笑しながらも、話を続けてくれる。
「ネレイスは、私の護り手として側にいてくれる。カイル君達でいう護衛の様な存在だ。アプサラスは仮、ではあるがアメルさんの護り手になっているよ」
凄いな、水の精霊が護衛か。それは頼りがいがある。
「ジュエレールにいる間の期間だけに今はなっているけれど、アメルさんにはアプサラスが付いている。彼女にダンジョンを案内してもらえば、問題ないだろう」
「分かりました、お言葉に甘えようと思います。じゃあ、アプサラスさん、でいいかな? ダンジョンへ行く時は、よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、アプサラスさんは更に驚きを見せて、慌てたように挨拶をしてくれた。
「あ、アプサラスと申します! その際はどうか、ご贔屓に……」
……なんか、どことなくアメルと似てる気がするな。そんな事を思いながら、しばらくここでゆっくりしていってくれ、とルーベルさんのご厚意に甘え、皆で豪華な昼食を頂いた。
いつも読んで下さりありがとうございます。
次週、11月21(金)は投稿休止します。
主に清書作業の為です。楽しみにしてくださっている方々、申し訳ありません。のんびりとお待ちください。




