表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/37

水の祭典

 翌日。宿から出た俺達は、本来のジュエレールを目の当たりにした。


 住民が皆、楽しそうに騒いでいた。祭典開始は昼前のはず。今はまだ陽の光が暖かくなってきた頃合いで、開催まで時間は随分とある。住民達は、水の祭典の開催を待ち切れないと言った様子で、どこか浮ついている様にも見える。


「ジュエレールの人って、こんなに居たんだな」


「静かなのより余程いいわよ。ほら、行きましょ。アメルが失敗したら盛大に笑ってやるんだから」


 おま、そんな事したらどれだけ非難がくるか分かったもんじゃないぞ。その時は、リリを命懸けで止めようと誓った。


 アメルは、朝も食べずに宿を出ようとしていた。流石に食べないのはマズいと思って、調理の人に飯を握ってもらい、それを渡した。


 緊張も楽しさもある。そんな感じの表情をしていたな。俺達は活気溢れる中央を抜けて、早めに開催場所へと向かった。



 海の飯屋近くまで来た俺達。それ以上前に進めないほど、既に住民達が押し寄せている。俺、時間間違えてないよな?


 アメルが踊るであろう開催場所は、高台になっていてここからでも見えないことはない。


「ねぇ、コイツらどかす?」


 リリが、そんな事を言ってきたから慌てて止めた。


「皆楽しみにしてるんだろうし止めとこうよ。ここからでも見えそうだしね」


「そうは言っても、こう、わちゃわちゃしてると……あぁもう!」


 リリは、周囲の人へ少し離れなさい! と言っていた。


 次第に、俺達の周りだけ不自然に空間が広がっていく。


「リリ、お前なぁ……」


「なによ。あ、ほら! あれアメルじゃない?」


 あれあれ! と指差すリリ。はぐらかしたな? まぁ、迷惑という程の行為じゃないから、今回は多目にみてもらおう。


 皆はこちらに眼もくれず、高台へ来た人物に向けて歓声を送っていた。高台で準備を始めたのは、領主のルーベルさん。水の精霊ネレイスさん。アメルも見つけた……側にもう一体、ネレイスさんとは別に水の精霊がいる? 見た感じ、アメルと行動を共にしてるみたいだ。


 定刻まではまだ時間がある。ルーベルさんは歓声に笑顔で手を挙げて応えていた。その間も着実に準備が進められていく。



 昼前。おおよそ定刻近くになった開催場所は、俺達のいる場所以外、移動するのも困難な程に住民が集まっていた。住民の視線は全て高台へ向けられている。


 領主のルーベルさんが、住民達へ向けて真剣な表情で手を挙げた。それまで住民達は思い思いに話していたが、統率が取れた兵士の如く一瞬で静まり返る。


「皆! 長い間待たせてしまってすまなかった! 開催が出来なかったのは、全て私のせいだ。不注意による足の怪我に他ならない!」


 本当にすまない! と力強く頭を下げるルーベルさん。顔を上げて、だが! と話を続けていく。


「満足に踊れず、領主として本当に悔しい日々を送った……だが! 私の足を、これ以上回復出来る見込みが無いと告げられたこの足を! 治してくれた恩人がいる! 紹介しよう……次代の巫女候補、アメルだ!!」


 静まり返ったその場が、嘘だったように歓声に包まれる。


 歓声を一斉に浴びたアメルは、顔を赤くしながらも、お辞儀を返していた。


「では! 挨拶はこの位にして、本題へいこう! ーーーー水の祭典、開催を今ここに宣言する!!」


 ルーベルさんの宣言と同時に、音楽が鳴り響く。その音楽に合わせて、ルーベルさんが踊り始めた。


 ルーベルさん、そしてアメルも、透き通った水色のドレスを身に纏っている。肌の露出が多い気がするが、華やかに舞う姿は、どこか神秘的だった。


 アメルも、ルーベルさんの後ろで併せて踊っていく。


 ルーベルさんが踊りの中で、ネレイスさんに合図を送った。


 合図を受けたネレイスさんは、何か言葉を発した様で、眩い光が発せられた。住民達もおぉ! と声をあげる。


 収まった光から現れた……これは、ルーベルさんとネレイスさんが、融合した?


 従魔融合から連想して、そんな感想が出た。ルーベルさんの周囲には水が漂っており、ルーベルさんを追従している様だった。


 肌もどことなく、透き通っている気がする。まるで、水の精霊。そのものになったみたいだ。


 ルーベルさんは、その漂っている水を自身の一部の様に扱っていた。ルーベルさんが手をかざすと、漂う水はそれに合わせて時には鋭角に、時には弧を描く様に動いていた。


 その様子を見た周囲の住民達も、巫女様ー! と歓声を上げている。


 ルーベルさんが、今度はアメルへ合図を送る。アメルは頷き、近くにいた水の精霊へと声を掛けたようだ。


 水の精霊が手をゆっくりと上へと掲げる。するとーー海が形をゆっくりと変えていく。


 俺達、そして住民達も驚く中、海上でアーチ状の輪が何重にも出て来たと思ったら、音楽に合わせて魚の形をした水が、生き生きとした様子でその輪をくぐっていく。


 住民達の歓声は、開催の踊りが終わってもしばらく止むことはなかった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ