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首狩り

 水の祭典を明日に控えた夜。


 嵐の前の静けさというべきか、明日に備えて住民の殆どは家へ戻っており、明かりも消えている所が多かった。


 ーーゴトッ。


 という音と共に、家畜であっただろう牛の首が切断され、地面へ転がる。


「……ふぅ!」


 少女は一仕事を終えたかの様に、達成感のある顔で剣を下ろし、一息つく。


 少女が下ろした剣は、身の丈に合うはずもない程の、大剣。屈強な戦士でも携えている者はそういないだろう。


「影踏み」


 ーー突如少女の背後で声がした。少女は慌てて振り向こうとするが、身体が思うように動かない。


「……っ!? 身体が!?」


「……お前が首狩りだな? 話があーー」


 少女の拘束をしていた男ーーニスイは、少女の行動に驚愕する。


 少女は力任せに身体を動かし、ニスイの影踏みから抜け出そうとしていた。少女の眼が、背後に居たニスイを捉える。


(なんだコイツの力は!? 本当に女か!?)


「あぁ、貴方は確か……手配書に載っていましたねぇ。ニスイさん? でしたっけ」


 少女は未だ拘束をされながらも、力任せにニスイへ後ろ蹴りをお見舞いする。ニスイは両腕で防御したにもかかわらず、それでも、容易く吹き飛ばされてしまった。壁へ激突し、衝撃に声を上げる。


「ぐっ!」


 影踏みの効果が解かれ、自由になった少女は大剣を担ぎ、ゆっくりと話し出した。


「住民じゃなくて良かったです。そしたら、どう言い訳をしようか困っていたので……そうだ。貴方をこれまでの犯人として、ギルドへ連れて行きましょう。そうすれば、警備も手薄になって、私もまたやりやすくなりますし」


 これは一石二鳥ですねぇ! とニコニコしながら声を明るくする少女。ーー血がついた大剣でどう弁明するんだ。ニスイは呆れながらも、ムセた呼吸を整え少女に言葉を投げる。


「お前は……本当にギルドの職員なのか?」


「そうですよぉ、何でそんな事言うんですか?」


 ひどぉい、と言う少女にニスイは溜息を吐く。ーー異常者ではあるが、力は確かか。ニスイは、相変わらずの確かな情報に、感心と僅かな苛つきを覚えるが、思考を切り替えて本題を切り出していく。


「別にお前の正体を暴きに来た訳じゃない。話をしにきただけだ」


「私は貴方とお話したい事なんてありませんよぉ?」


 どれ。逃げないように足だけ斬っておきますか、と少女は淡々と構えをとっていく。


 ニスイは身の危険、命の危険を感じながらも話を続けた。


「理由は知らんが、首を斬りたいんだろう? ーー【従魔士】の首、斬ってみたくはないか? ……その後なら、俺をどうしてもいい」


 その言葉は少女の琴線に触れた様で、構えていた大剣をゆっくりと下ろした。にも関わらず、重たい鈍器を落としたような音が辺りに響く。


「……お話、伺いましょうか」


 そう言って、少女ーーキララは恐ろしい程の笑みを見せた。

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