アメルの武器
オーガ討伐後と一緒で、一週間も経った今では指名依頼は落ち着いてきていた。
それでもありがたいことに、二、三日に一回は招集がかかる。
ここは宿。コココンッと小気味の良い音で眼が覚めた。ゆっくりと上半身を起こす。お腹にはライムがいた。
音の正体は扉のノック音。この音を鳴らす人物は一人しかいない。
「カイル君、居るかな? ヤマトです」
「どうぞ」
入るよ、と言い扉を開けここへ入ってきたのはギルド職員のヤマトさん。
作業着、工房等で着用されている服を好んで着ているようで、彼のトレードマークになっている。
ヤマトさんとは何度か会っている中で、成人している人であり性格は明るく、親しみやすい印象を持っていた。
「いつも朝早くからゴメンよ。起こしちゃったかな?」
「いえ、ヤマトさんのおかげで、規則的に起きれてます」
はは、それなら良かった、とヤマトさんは笑ってくれた。その後、ライムとも挨拶を交わしてくれる。
この人は、ジェシカさんと同じくいつ休んでるかわからない人。その二に当たる人物だ。
その最たる原因が彼のスキルにある。名は空間移動というらしい。
ヤマトさん曰く、扉を介して行ったことのある場所、会ったことのある人物の近くまで転移できるそうだ。
なんでもやりたい放題じゃん。俺はそう思ったが、実際はそうでもないらしい。
スキル発動の条件が、扉をノックし、ドアを開ける場所に手を掛けないといけないそう。例えば、悪と定義された人や場所、そこに転移することは可能だが、自分達が来たことを相手に知らせないといけない。それに、開けるのはヤマトさん自身でなくてはならず、危険が伴う。
ギルドはそう判断して、ヤマトさんを荒事に起用するのは極力避け、情報伝達や雑事全般を任せている様だ。領地間への移動もそう。
ついた二つ名が【運び屋】。ギルドでも上位の権限があるらしい。スキルを考えれば当然とも言える。だが、ヤマトさんは権力を振りかざす事なく、それこそ、セバンタート内では誰もが知っている親しみやすい人として有名だ。
この間は飯屋でたまたま一緒になって、周囲を交えて楽しく談笑させてもらった。
「ほんとは、朝食が終わった頃合いを見計らってお邪魔したい所なんだけど……このペースでいかないと、一日あっても足りなくてさ」
「忙しいのは知ってますし、気にしないでください。今日は?」
「そう言ってくれると有り難いよ。今日は指名依頼が入ったそうだから、一度ギルドに顔を、って今は毎日行ってるか。後はティアジャールさんから、ギルドを通してウィズテーラスへ。これは……アメルさん宛だね」
「アメルに?」
「うん。『出来たから取りに来い』だってさ。もうちょっと愛想よくしても良いのにね。これ、そのまま伝えてるけど、分かるかい?」
「多分、お願いしてあった武器の事です」
ーーアメルの武器が出来た。恐らく、遠距離系統の武器。
それも死ぬ思いで採った……俺は吹き飛ばされてただけだけど。鉱石を使った、アメル専用のちゃんとした武器だ。楽しみだな、どんなのが出来たんだろう。
「アテがあるなら良かった。よし、それじゃあ現時点での伝達は全て終わったよ。またね」
「はい、ありがとうございました」
じゃ、と小走りに去っていくヤマトさん。あれはジェシカさんより体力勝負だな。荷運びもしてる様だから、護衛とか居なくていいのかな? 今度聞いてみるか。
「ライム、そんな感じだ。聞いてたか?」
「おー」
俺達はアメル達と合流する為、支度を始めた。
「ねぇ、どこ行くの?」
朝食を終えた俺達は、ティアジャールさんの所へ向かう。道中、リリが話し掛けてきた。
「あぁ、リリはまだ会った事なかったな。これからティアジャールさん、【鍛治師】の所へ行くんだ。アメルの武器を作ってくれた人だよ」
「へー」
興味無さそうに返事をするリリ。自分から訊いてきたのに……相変わらずだな。
桃色の髪に、一層彩りを持たせる花飾りを付けたリリはサキュバスであり、魅了の出力を抑えていても、すれ違う男性が振り返り視線を集めるほどに綺麗だった。
ーー私はアンタの事が、好き。大好き。
そんなサキュバスであり、従魔になってくれたリリから好意を向けられた俺。どう返事をしていいか分からず慌てていると、照れてやんのーと更に笑われてしまった。その後、別に返事が欲しくて言ったんじゃないわよ。嫌でもこれから一緒に居るんだから、と告げられ……それもそうかと妙に納得してしまった。
「どんな武器が出来たんでしょう……私に、扱えると良いんですが」
そう不安を口にするのはアメル。アメルも綺麗な青い髪、耳の上に花飾りの髪留めを通してくれている。
ギルドに大切に保管します! たまに見るんです! と言っていたもんだから、俺が半ば無理矢理、付けた。アメルも驚いていたが、顔を赤くして、小さな声でありがとうございますと言ってくれた。後、なんかリリが怒ってた。
今は毎日同じ場所に付けてくれている。うん、やっぱり身につけてくれた方が良いな。似合ってる。
「カ、カイルさん? どうかしましたか?」
「あ、あぁ。ごめん。多分遠距離武器だと思う。威力は今のボウガンより上がるはず。形状がどうなるかだね」
「そうですね。裏の方で……これは、試させてくれるでしょうか?」
アメルが気にしているのは、純白の長銃。
ティアジャールさんに見てもらってから、扱いをどうするか決めようという結論になっている。
「大丈夫だと思うよ、一回見てもらってからだね」
「はい」
そのまま少し歩くと、リズム良く鉄を叩く音が聞こえてきた。




