錬金術士
外へ出た俺達。リリは俺に腕を絡めたままだった。腕に当たる感触が気になってしょうがない。
「も、もういいだろ。引っ張るなっての」
そう言って絡んだ腕を外した。
「照れてやんの。相変わらず分かりやすいわね」
そう言って、リリはケラケラと笑ってた。なんか俺をからかいたいだけな気がする、ちくしょうめ。
あ、そういえば、とリリが思い出したかの様に聞いてきた。
「アメルにライムは付けなくて良かったの? 一応、会ったばかりの奴しか居なかったけど」
「うーん、大丈夫だと思うけど……リリ、今日アメルが戻ってきたら、どんなもんだったか聞いてみてくれないか?」
今は俺の肩に乗っているライム。場合によっては護衛に付けなきゃいけないと思う。ただ、領主のルーベルさん、水の精霊ネレイスさん。それに、絡んできたフィデルさん。あそこだけ見れば、悪い方達じゃないとは思ってる。
リリは、まぁいいわよ? アメルが生きてたらね、なんて笑いながら物騒な事を言っていた。止めてくれよ、全く。
物騒といえば、首狩り、なんてのが事件として発生しているらしいし、見つけることがあれば、俺達の方でも対処出来ると良いな。まぁ、流石に日中は動かないか。
「にしても、明後日か。そこまで暇になっちゃったな」
もとより何泊かの予定だったけど、宿は取れてしまったし、時間にも余裕がある。アメルの務めが終わるまで、離れる訳にもいかない。
「じゃ、デートしましょうよデート。定番といえば買い物よね」
「とりあえず、宿の方に手紙を渡しておこうか」
そう言って、ルーベルさんからの手紙を取り出す。すると、ポケットから一枚の紙が落ちた。それを見て思い出した。そうだ、リョウさんから頼まれ事があったんだった。
宿の場所を把握して、宿の従業員に手紙を渡す。手紙を受け取った従業員は慌てた様子で、元から丁寧な対応をより丁寧に、俺達を部屋まで案内してくれた。どんな内容だったんだろう?
とりあえず、無料で泊まれるのは確約されているみたいだ。それを確認してから、領地の中央まで戻ってきた。
「で? どこ行く? 私、服かアクセサリーあるとこ行きたいんだけど」
「行くのは良いけどさ。先に頼まれ事済ませちゃおうかな」
にしても、これ……。紙を見ると、マジで大雑把にしか書いてない。中央は分かるんだけど、そこから蛇みたいにグニャグニャしてる。わ、分からん……。どうにもならなくなり、近くにいる人へ声を掛けた。
「すみません。【錬金術士】の所へ行きたいんですけど、その、道が分からなくて」
「アルクの所か? あそこ分かり辛いしな。一緒に行くか」
ありがとうございます! お礼をし、案内されるまま入り組んだ道を奥へと進む。
……この地図でいけると思うなよ? そう思う程分かりにくい所に、件の店はあった。ここで回復薬も買えるらしい。案内してくれた人が教えてくれた。
扉を開けるとカラン、と来客を知らせる音が鳴る。店内はところ狭しと、用途の分からない物が並んでいる。地面に転がってるのもあるな。どれも値札は付いていない。
「お客かい? 見ない顔だね、いらっしゃい」
店の奥から出て来たのは、店主と思われる、少年。もしかすると俺より、年下? そう思ってもおかしくない程、童顔だった。
「アンタね、あの訳分からない袋創ったの! おかげで捕まっちゃったじゃない、肌が荒れたらどうするつもりだったのよ!?」
「ちょ、リリ!」
そう店主へ向かって捲したてるのはリリ。いきなりの悪態に、怒るでもなく眼をパチクリとさせる少年。案内してくれた人は、アルクと言ってたっけ。
「袋? うーん……僕が創っているのは、主に魔物用のはずなんだけど」
「混沌の麻袋!」
「昏睡な」
「そうとも言う!」
俺がツッコむと、アルクさんは合点がいったようであぁ、と言った。
「昏睡……そうなんだ。確かに僕が創ったよ。どこに行ったか分からなくなってたけど、不思議な縁もあるもんだね」
「知らないわよ。ったく」
怒ってるリリを見て、ニコニコとするアルクさん。面白い人だなと思いながら、俺は紙を取り出して伝える。
「セバンタートギルド所属、ウィズテーラスのカイルです。リョウさんから、これをアルクさんにと」
アルクさんに手紙を渡す。アルクさんは、受け取った紙をまじまじと見つめながら呟いた。
「……これでよく来れたね」
「……案内してもらえました」
「なら良かった。それで、カイル達はいつまで滞在するんだい?」
「えっと、明後日の水の祭典が終わるまではいます」
「え、水の祭典って来月じゃなかったっけ? ……しまったな、暦を直しておかないと」
ここから殆ど出ないもんでね、とアルクさんはガサガサしながら告げる。
「じゃあ、ヤマト経由がいいか。【運び屋】、知ってる?」
「はい」
「セバンタートに戻ったら、ギルドを通してヤマトへ、店に来るよう伝えて欲しいな。多分出来てるから取りに来てって」
「あ、分かりました」
「用事はそれだけ? 何か買っていく?」
そう言って、ひょいと用途の分からない道具を掲げるアルクさん。そ、それ何に使うの?
「そんなおもちゃ買ってる暇ないの」
これから服見に行くんだから! そう言うのはリリ。
「面白いね、君。ジュエレールにいないタイプの女性だ。そうだ、ご飯でもどう?」
「無理」
リリはそっぽを向く。残念、とアルクさんは気にするでもなく笑っていた。
「それじゃあ、アルクさん。ありがとうございました」
「あぁ。カイル、僕達は多分同年代だ。十五、十六辺りだろう? 敬語は要らないよ、何時でも来てね」
「……うん、また来るよ。アルク」
「あぁ、またね」
外に出て扉を閉める。隣でリリがゲンナリといった表情をしてみせた。
「……アイツ苦手だわー」
「リリが何か言っても、ずっとニコニコしてたな。いい人だよ」
もうここには来ないっ! そう言ってリリは中央へと足を進める。俺も早足で追いかけるがーー道に迷ってしまい、結局ここを頼ることになってしまった。
「いらっしゃ……おや、お早い再会だね?」
そう言ってアルクはにこやかに出迎えてくれたが、リリは心底嫌そうにしていた。




