水の間
「お話、聞かせてもらいますから!」
扉が閉められる前、リリが手をひらひらさせていた。ーー夜に合流したら事細かく聞こう、絶対。
「ハハハ! いやはや、愉快なパーティーだね!」
横でルーベルさんが盛大に笑った。……そうだ。人様のお宅で大きな声を出してしまった。急激に顔が熱くなるのを感じて、慌てて俯いた。
「良いではないか、アメルさん。こういったものは若者の特権だ。彼のことが気になるのだろう?」
「…………はい」
ルーベルさんは、素直でよろしいと言ってくれた。は、恥ずかしい……。
「駆け引きも大事だが、真っ直ぐにいくことも時には良いことだからね? 彼女に取られない様応援しているよ」
「あ、ありがとうございます」
「うん。さて、話を進めていこう。ネレイス」
「はい」
「アメルさんを、他の者達と会わせる準備をしてくれ」
「分かりました」
そう言って水の精霊ネレイスさんは、私達が入ってきた扉とは逆、ルーベルさんのベッドより奥にある扉へと入っていった。
「えっ、と?」
「あぁ、説明不足だったね。私はいつも配慮が足りない。今ネレイスが向かったのは水の間、といってね。水の精霊達が控えている所なんだ」
話を聞くと、数十は超える水の精霊が居たとのこと。
「アメルさんは、その中の一体を、護り手として選んでもらいたいんだ」
「ま、護り手?」
「うん。水の巫女を守護する精霊、通称護り手。ジュエレールは代々、水の巫女と護り手を主として栄えてきた。どちらかが欠けてしまっていたら、ここまで大きな領地にはならなかっただろう。ネレイスは私の護り手なんだ」
水の巫女が、水の間に居る精霊達と接見。そして数十いる中で、一体の精霊を選ぶという儀式。代々続けているみたい。
「で、でも。私は余所者ですし、それこそ水の巫女に、なんて……」
その後に続く言葉は言い出しにくかった。
「水の巫女になんてなりたくない、かな?」
「……っ!?」
ルーベルさんは、驚いた私を見て微笑んでくれた。
「彼も居るし、水の巫女になってしまったら、ジュエレールから動くことは簡単には出来なくなるからね。分かっている、そう深く考えないでおくれ。そうだな……仮、と思ってくれればいい」
「仮?」
「そう。あくまで、仮の水の巫女候補。精霊達にも、後からネレイスより伝えてもらう様にするよ。一先ず、水の祭典までの期間限定ということで。祭典が終わったら、アメルさんの意向に沿う。約束しよう」
ルーベルさんの優しい笑みに、私は自然と頷いてしまった。扉からネレイスさんが、準備が整いましたと戻ってきた。
「アメルさん。護り手を決める時、それと契約を結ぶ時以外、人間は入れないことになっている。ネレイスに案内してもらってくれ」
「では参りましょう、アメル様」
急に放り出された気持ちになりながらも、私はネレイスさんに続いて、水の間の扉へ入っていく。




