領主との謁見
「すまねぇな。本来なら、腹が千切れる位食わせてやれるんだが」
「いえ、お腹一杯です。ありがとうございます」
丁度いいお腹の満たされ具合だ。ライムはもっとないの? と聞いていたけど、その辺はしょうがない。
「腹が落ち着くまでゆっくりしててくれ。俺ぁ少し海の様子を見て来るぜ」
「はい」
そう告げて、店主は店を空けた。……俺達が食い逃げしようとしたらどうするつもりなんだろう? いや、しないけどさ。
「何だか、大変そうですね」
「俺達に出来ることって、そんなある訳じゃないからね」
お金はちゃんと払ってから出よう。アメルにそう言うと、苦笑しながらそうですねと返してくれた。
俺達が談笑している中、お客さんと思わしき人が入ってきた。今は結構暑いはずなのに、しっかりとした黒の礼服を身に纏っている初老の男性。
その男性は、俺達を見つけるとゆっくりと口角を上げた。
「ハロウ。ご一緒してよろしいですか?」
そして、こちらへ近付いてきて相席を希望した。
これだけ席が空いてるのに、とは思ったが断る理由も特にないし、どうぞと自分達のいる場所へ招いた。
「ロドフォノス、と申します。ウィズテーラスの皆様とお見受けしますが」
「よく知ってますね。俺はカイル、彼女はアメルです」
「オフコース! えぇ、存じていますとも。私もセバンタートから来ましたので」
面白い喋り方をする人だな。お見知りおきをと差し出された手を、俺達はしっかりと握り返した。ロドフォノスさんも、先程より明るい笑顔を見せてくれる。
今は店主の帰りを待っている事を伝えると、ロドフォノスさんは額に手を当てた。
「オウ……ここの店主は、一度店を空けると中々戻ってこないのです」
マジか。どうしようかと思ったら、ロドフォノスさんが提案をしてくれた。
「でしたら、ここの支払いは私に持たせて頂きたい」
「え、いやいや! 初対面の方にそんな事はさせられないですよ!」
「いえ。有名人とこんな所で会えたのも、私としては天にも昇る思いなのですよ。どうか、この老いぼれの顔を立ててはくれませんか?」
ここの店主とは何度か会っているので、と言ってくれてはいるが気が引ける。
「良いんじゃない? 私甘いものが食べたいし、中央の所戻りましょ」
そう提案するのはリリ。確かにリリは自ら言ったとはいえ、何も食べてないしな。うーん……。
「……分かりました。ジュエレールには何泊か滞在する予定です。俺達に出来る事があれば、何時でも声を掛けて下さい」
「イエス。ありがとうございます」
ここが妥協点、かな。俺達はロドフォノスさんに挨拶をし、その場を後にした。
「セバンタートと一緒位ね」
「比較するな比較を」
中央へ戻った俺達。海の幸はリリの口に合わない様なので、ここ中央まで戻ってきて食べれそうな店を探した。
幸い、軽食を提供している店があったので、外のテラス席で頂いている。ここも、名物と書いてある海産物を使ったメニューは、無かった。
と、なると。海近くの飯屋、その店主は大分無理をしてくれたんだと思う。家から持ってきた、そう言っていたし、その日に海で獲れる保証はないみたいだ。
ーー何か手は無いのかな? そう考えても、そもそもジュエレール全体の問題だ。俺一人で、どうにか出来るはずもない。
「なんか難しい顔してるわね、これ食べなさい。甘いわよ?」
……一旦リフレッシュするか。リリに言われるまま、差し出された甘味を口に入れる。うん、確かに甘い。
「カ、カイルさん……!?」
なんだろう? 何故かアメルが身体を震わせていた。リリはニコニコしてるし。
現状俺に出来ることは無いけど、海の様子、見れるようなら見てみたいな。
ある程度、今後の動きが固まり始めた時、身なりのしっかりとした男性が歩いてくる。この感じ……俺達に向かって、来てるよな? 護衛の様な人もいる。
男性達は真っ直ぐ俺達、いや、アメルを見据えどんどんと近づいてくる。会話が出来る程近くまで来て、護衛に何か確認を取っていた。
「この方で間違いないか?」
「はい」
「あの、何か御用ですか?」
俺が尋ねるが、男性は俺を完全に無視。俺には眼もくれず、アメルへ話し掛ける。
「失礼。貴女のお名前は?」
「ア、アメルと言います、けど」
「アメルさんですね。一度、我々と一緒に来て頂きたい」
「ち、ちょっと! 勝手に話を進めないで下さい! アメルに何の用事があるんですか?」
「……君には関係ないことだ。邪魔をするなら、少々痛い目に遭うことになるぞ?」
「……は?」
何を颯爽と来て、訳の分からないことを言ってるんだ? 俺はスキルを発動し、一度だけ警告する。
「おい、もう一度だけ訊くぞ。アメルを連れて行く目的を、話せ」
はぁ、と男は溜息をする。そして後ろにいた二人に、捕らえろ。そう淡々と告げた。二人は指示に従い、俺へ向かってくる。……上等だ!
「ライム!」
「おー?」
「来てる二人は任せる! 俺はあの話が通じない奴をやる。遊べ!」
「おっけー!」
ライムが喋った事に男達は驚く。ライムは分裂のスキルを発動し、迫ってきた二人へあそぼー! と逆に跳ねていった。
「き、希少種だと!?」
「おい、オッサン。そこまで言ったんだ! ちょっとは動けるんだろうなぁ!?」
俺は啖呵を切りながら、男へ向けて駆けていく。身のこなしである程度分かる、戦闘経験は浅そうだ。既に及び腰となっている男をそのまま組み倒し、その上に馬乗りになる。
二人の護衛も、ライムにもて遊ばれており、こちらへ向かってこれない。
「な、貴様っ!? 離せ! 私が領主に仕える執事と分かっているのか!」
身動きの取れない男が、ようやく俺を見ながら吠えてきた。
「いや、知らねぇから聞いてるんだろうが。ちょっとは話す気になったかよ?」
「は、話す! 話すから一度離れろ!!」
上から目線なのは気に食わなかったが、話を進めないとなと思い、一度拘束を解除した。




