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西の都ジュエレール.2

「あれが領主がいる場所かな。感覚はセバンタートとそんなに変わらないな」


「そうですね」


 中心と思わしき場所まで来た俺達。見上げると、大きな建物が立っている。他を圧倒する大きさから、あれが領主の住まう場所と見当を付けた。


 眼前には、セバンタートと変わらない店構え。人はまばらだが、ある程度賑わっている場所の様だ。


 ここが商店街っぽいな。視線は変わらずあり、全てアメルへ注がれている。たまらずといった様子で、アメルが俺に尋ねてきた。


「カ、カイルさん。私今日どこか、へ、変ですか?」


「いや、いつもと変わらないと思うけど……」


「そ、そうですよね?」


「そんなオドオドしてるから変に見られるのよ。堂々としなさい堂々と」


「そ、そう言ったって……」


 リリがたしなめるが、アメルはいつもと変わらない。なんだろう? 花飾りが気になるのか? 新商品と言ってたし。それとも、ここ独自のルールを知らない内に破ってしまっている? それだとマズい。


 早めに懸念を取り除かないとな、そう思って近くの人へ声を掛けようとした時、遠くからみこさまだー! と走ってくる少年と、こら! 危ないから走らないの! と注意している親御さんらしき人がいた。みこさま?


 少年は忠告を無視し、夢中でこちらに駆けてきてーーーー地面に躓き派手に転んだ。


 注意していた親御さんが慌てて駆け寄った。俺達もその場に駆ける。


「ほら! 言ったじゃない! あぁ、こんなに怪我をして……!」


「い、いたぁい……」


 アメルが回復を担ってくれているから、俺達は回復薬の備えがない。


「大丈夫ですか!? この辺りに回復が出来る場所、それか回復薬が売っている所ってどこかありますか?」


 教えてもらえれば、いける距離なら急いで向かおう。そう思っていたが、親御さんは何故か口ごもってしまう。


「そ、それが……」


「? どうしたんですか? これだけの怪我、大事にはならないでしょうけどかなり痛むはずです!」


 困惑している親御さんへ、つい口調を強くしてしまった。少年の顔は擦り傷程度だが、前腕、それから膝。そこからかなり出血している。


「お恥ずかしい話を、見ず知らずの人に話すのも申し訳ないのですが……最近の不況で、お金の余裕が殆ど無いのです。今の所は夫が出稼ぎに行ってくれて、何とかやっている状況で……」


 話によると、急な出費へ回せるお金は無いとの事だった。そうは言ったって、この怪我をほっとくわけにもいかないだろ。


「いたい、いたいよぉ……」


 少年は泣きながら痛みを訴える。くそ! 地理が分かればなんとでもなるのに、初めて来た領地でどう動けばいいか分からん! どうする!? 


 俺が内心焦っているとーーーーアメルが少年の側へ座り、そっと手を握った。


「大丈夫だよ、すぐ良くなるからね?」


「み、みこさま……?」


 少年に笑顔を見せながら、アメルは言葉を紡ぐ。


「癒しの羽衣」


 瞬間、宙に透き通った水色の羽織が現れる。アメルのスキルだ。羽織はゆっくりと少年へと掛かり、眩い光を発した。


 そして、あっという間に少年の傷は最初から無かったかの様に全快し、何事も無かったかの如く、無傷で寝転んだ状態になっていた。


「アメル……」


 あれだけ、人前で使用することを避けていたのに、迷うことなくスキルを発動したアメル。


「緊急、でしたから」


 そう言ってアメルは苦笑した。その表情にどんな意味合いがあるのか、俺には読み取れなかった。


「そんな、あの傷を……一瞬で?」


「おい、見たか?」


「あぁ、まさかと思ったが……もしかしなくても、これは……次代の!?」


 親御さんだけじゃなく、こちらへ視線を向けていた人達の声も聞こえてくる。


「みこさまー!」


 そう言ってアメルに抱きついた少年を、アメルは驚きながらも優しく頭を撫でた。


 ーーその瞬間、周囲から一斉に歓声が上がる。


 俺もそうだが、アメルも何の事か分からない様子で、呆然と辺りを見回していた。

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