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西の都ジュエレール

「本日はよろしくお願い致します。いやぁ、こんなお若いのに称号持ちとは! 末恐ろしいですね」


「あ、ありがとうございます」


 指名依頼で顔合わせをした俺達。終始依頼主のペースで話を進められていた。褒められて悪い気はしないけど。


 依頼内容に変更はなく、ジュエレールまでの護衛。いつもより遠出になる。主に敷かれた街道を走るが、道中盗賊や魔物に襲われるケースも少なくない。それ程、商人の荷馬車は魅力的に映る。


 移動中、俺は月狼に変化したライムの背に乗って、荷馬車と並走する。すれ違う人の邪魔にならないよう、ライムはあえて道なき道を走ってくれているみたいだ。少し揺れるだけで快適快適。これがしたかったんだよなぁ、風も気持ちいい。


「リリー! どうだー?」


 上空から周りを見渡して欲しいと、リリにお願いしている。


「今の所何もないわよー。一回狼の群れがいたけど、ライムを見てどっか行ったわー」


「おま、それ早く言えよ!」


「どっか行ったんだから良いでしょー?」


 あんまり良くないけど……。まぁ、被害が出ている訳じゃないし、ギリギリセーフか。依頼主である商人さんの安全が、今一番大事だしな。


 その商人さんは、手綱を持ちながらアメルと楽しそうに話していた。


「いやぁ、これ程安全な道中はありませんな! 快適快適!」


「それは良かったです」


「もし盗賊や魔物が現れたとしても、それはもう一瞬の内に倒してしまうんでしょうな。それはそれで楽しみになってしまいますが。はっはっはっ!」


「は、はい……頑張ります」


 そんな明るく危ないことを言わないでくれ……。とはいえ今の戦力なら、この辺りにいる魔物は遭遇しても大丈夫なはずだ。余裕を持っていけると思ったから、この依頼を受けたんだしな。


 俺はポケットから、一枚の紙を取り出す。中身は、目的地のざっくりとした道順と、内容が書いてある。この依頼へ行く前に、ギルド近くでリョウさんと会った。今からジュエレールへ行くことを伝えると、そしたらついでにこれをお願いできないかな? と言って紙を渡してきた。


 別に読んでも構わないよ、とリョウさんは笑いながら去っていった。俺、行くって返事してないぞ……そう思ったのは、リョウさんが完全に居なくなった後だった。


「つうしんき三人分? なにコレ?」


「うおっ!」


 リリが後ろから紙を覗き込んでいる。さっきまで結構上空にいたはずなのに。


「何よ?」


「い、いや。ちょっと驚いただけ」


「アンタも大変ね。一つ事を終えたら、また一つ増えるんだもの。変わらないじゃない」


「……今回の方が気楽だよ」


「あぁ、アンタあの時緊張しまくってたもんね。見てて面白かったわ」


 そりゃそうもなる。事は貴族からの報酬である、小切手。その中身に一度家へ来て欲しいと書かれていた。


 行かない訳にもいかないから、余裕があった時にギルド、恐らくヤマトさん経由で貴族への伝言をお願いした。


 伺う際に、パーティーである二人も付いてきてくれた。別に、一人でとは書いていなかったしな。あちらは少し驚いた様だったけど。


「あの時は助かったよ。貴族と一緒の食事なんて初めてだったからさ」


「私のおかげでしょ?」


「二人のおかげだよ」


 そこは私って言いなさいよ、と呟いてリリは再び上空へと飛び立った。通信機の話は良いのか……。まぁ、俺も通信機について細かいことが分かるわけじゃない。今度リョウさんに聞いてみよう。風に飛ばされないように紙をしまった。



 眼前には、開けた景色で遠くに青く染められた地上が見えていた。


「いやいや、ありがとうございました! こんなに快適な道中は初めてです。また、指名させてもらっても?」


「勿論です。都合が合えば、何時でも」


「ありがとうございます。私はこちらで商いをしております。お寄りの際はサービスしますので、何時でもお待ちしております」


 領地前で、依頼達成のサインを頂く。依頼完了だ。


 商人と別れて一つ背伸びをした。


「ここが、えっと……」


「ジュエレールね。西の都」


「ジュエレール。初めて来ました……何だか、いい匂いがします」


 アメルが眼を閉じて、匂いの元を探そうと辺りを嗅いでいる。


「俺も初めて来たんだ。この匂いは多分、海の匂いかな?」


「海?」


「ほら、道中で地上が青くなってなかった?」


「あ! なってました。あれ何かなって不思議に思ってて」


「あれ全部水なんだ。塩が混じってる水、海水って言うらしいよ。加工しないとしょっぱくて飲めないんだって」


「全部水なんですか!? 先の方はどうなっているんでしょう?」


 俺もそこまでは分からないし、先を見たという人が居たという話も聞いたことがない。そう考えると、俺はこの世界のことを殆ど知らないんだな。


「ごめん、細かいことは分からないけど……折角遠出したんだ。色んな事も調べてみよう、人に聞いたりしてさ」


「はい!」


 アメルも笑顔で返事をしてくれた。



 俺達は、ジュエレールの領地内へ足を踏み入れた。途端に周囲にいる住民達からの視線を集めた。


 なんか、見られることには結構慣れてしまっているから、そこは良いんだけど……皆の視線は主にアメルへ集まっている気がする。その視線は、敵意を示す様な厳しいものではなく。かといって、すぐに好意と取れるような類のものでもない。


 俺達は、不思議な視線に戸惑いながらも領地の中心へと向かった。

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