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揺籠の島で揺蕩う少女達。  作者: カズあっと
5章 夏の祭典。
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69話 夏の祭典。|終幕《フィナーレ》。


 あまり読まれませんでしたが、書きたい所でキリの良い所がここまでです。

 改稿と修正で暫く休止しますね。



「フロレンス様。状況を……」


 途切れそうになる意識を奮い立たせて尋ねる。

 確信があった。だが、心は決して強いものではない。権威に依ってでなければ、安心は出来ない。

 それは、アンナだけでなく、舞台上の皆も、それ以外の皆も。


悪性腫瘍(キャンサー)の反応は全て消滅。身体機能にも、大きな衰えはみられません。よって——」


 フロレンスに促されて、膝の上のアプリーレを見る。

 彼女は安らかな寝息を立てていた。肉体が、失った生命力を維持する為に休眠状態に入ったのだと推測出来た。


「the surgery was completed successfully——手術成功です」


 舞台上が、観客席が、会場が。そして彼女達を取り巻く世界の全てが沸いている。

 皆が揃って、とびっきりの、最高の笑顔を見せていた。アンナもその中に入りたくて、笑顔を一緒に浮かべたくて顔を上げようとした瞬間。

 よく慣れた、意識が遠のく予兆を感じる。


 ——もうちょっとくらい、保ってくれても良いじゃないですか! この! 根性無しっ! 筋肉! 筋肉を付けなさい! 私の意識っ!


 心中で根性無しな意識へ罵声を浴びせるものの、意味はない。

 嬉しくて楽しいので、心は滅茶苦茶元気であった。だが、肉体はそうはいかない。

 自己保存の本能に従い、休眠を求めるものなのだ。

 アンナの肉体はそれに抗える程頑丈ではなかった。


「まったく。この子は無茶をして。後で——」


 目も開けられない程に、意識を留められない程に消耗したアンナだが、耳元で優しく囁く声を聴いた。


「……マリアお母さん?」


 間違えようもない。大好きで、大切な、家の中だけで赦された、甘いマリアの声。


「頑張りましたね。今は少しだけ、お休みなさい。目覚めたら、めでたし。めでたし。ですよ」


 もっと聴いていたい。もっと、この温もりの中に包まれていたい。そう望むものの、抜け落ちそうな意識の中で、これは夢かとも思っている。

 幸せな、良い夢だった。だから、ちょっとだけ甘えてしまう。

 アンナの意識はストンと途切れた。




「貴女も、大概に親バカですね」

「保護術具が破壊されましたので。飛んで来ました。ありがとう。フロレンス。そして、皆様も、本当にありがとうございます。この子を、娘を、繋ぎ止めていてくれて」


 ポフンと倒れかけたアンナを抱き止めたのは彼女の母親、マリアであった。

 その顔に浮かぶのは嫋やかな慈母の微笑。

 会場内にはマリアによる神聖術式、神の領域ディヴァインフィールドが展開されている。


「大事無いようですので、すぐに戻りますけどね」

「良いのですか?」

「あんまり甘やかしても、仕方ないでしょうに。まったく、とんだお転婆になっちゃって」


 アプリーレを抱き上げたフロレンスはやれやれと溜息を一つ。この親バカが、何を言うという表情だ。


「お転婆はアンタだよ。バカ娘が」


 力強く威厳ある声に、マリアがビクリとして、油の切れた機構のような動きで振り返る。


「あら。お母様。奇遇ですわね」


 ちょっと頬を引き攣らせてオホホと笑うマリアの視界で腕組みするのは修道女。

 聖母、マザー・ドゥーラことシスター・ドロテアであった。

 彼女のコメカミには、太い青筋が浮かんでいる。

 隣には、当然のように親指を高く掲げながら、非常に良いという意味のハンドサインを会場へと送るシスター・カンナがいた。


「奇遇じゃぁないんだよ。アンタには突然時空が歪んだからって見に来てみれば、下手人が娘だった時の、親の気持ちがお判りかい?」

「あら。王都と教会へは通達文を送りましたけど」

「返事はちゃんと、貰ったんだろうね」


 マリアは無言でアンナをミリアムへと預けた。

 むずがるアンナの頬を撫でて大人しくさせたネーヴェが一つ、淑女の礼をする。

 マリアが皆に向けてにっこりと微笑むと、その姿は忽然と消え失せた。


「あっ! 追うよっ! カンナっ!」


 『ペンペンですね』と書かれた看板を振り回していたシスター・カンナだが、流れる様に頷いた。二人の足元から、複雑な幾何学模様をした光が立ち昇る。


「あー。アンナには、アタシ達の事ぁ、黙っておきな。こいつは詫びとか、賄賂みたいなもんだよ。後は、頑張ったガキ共へのご褒美さね。とっときな」


 マザー・ドゥーラがいかにも面倒そうに呟くと、荘厳なラッパの音が鳴り響く。神意の啓示者、受胎告知を齎す者。そして、救いのラッパを吹く幼女。ガブリエラと同質の福音が、会場内全域へと齎された。

 



「あっ! 起きたよっ!」


 元気な声。笑いを含んだそれは、今日、もう一度聴きたかった明るい声。重い瞼を開けば、おはよう。と挨拶をくれるアプリーレの顔があった。

 とても綺麗で力強い、最高の偶像による、最高の笑顔であった。アンナの胸が詰まった。

 この笑顔。この素敵なものを失いたくなくて、すごく頑張った。

 今更ながら、それを奪っていく世界が許せなくて無茶をしたという自覚はあった。


「おはようございます。アプリーレおねーちゃん」


 声が、震えていた。元気良く言ったつもりであった。だって、そうでなければ、心配させてしまう。不安など、与えるつもりはないのだ。


「……ぷっ」


 アンナによるボロボロな挨拶に、アプリーレが吹き出す。悲しくはない。怖くもない。なのに、瞳に熱いものが溢れた。


「何よー。なんで泣いちゃうのかなー。これじゃ、私が、苛めてるみたいじゃん」


 コロコロと笑うアプリーレお姉ちゃん。

 その台詞はついさっきも聴いたもの。悲壮な覚悟にあって、それでも届けたい、遺したいと望んだものと同じでありながら、まったく逆の意味を持つもの。

 それが嬉しくて、なのに、涙が溢れた。


「妾達は、アンナ嬢の目覚めを待っていたのですよ」


 涙を拭ってくれるネーヴェが指し示したから気付いた。既に日は沈み始めている。会場の舞台装置である照明により明るいが、夜は側まで迫っていた。


「フロレンス様は帰ったわよ。助平を連れてね」


 リーナの言葉にフロレンス様らしいと思ったアンナであった。

 それは、何よりも強固な証明。この場に、患者がいないという、彼女への硬い信頼。だが、助平とは何なのかが判らなかった。


「主治医のおじ様だよ。お医者様だから、そういうんじゃないと思うけどねー」

「アイツは普通に変態だよ。私も診察を受ける時、スカートを口で咥えさせられたよ。そのまま、お腹を見せろって言われたかな」


 レベッカのフォローは、リィンによる爆弾発言により掻き消されてしまった。会場が、怒号に染まる。


「それって、リィンが拳を折ってた頃じゃね?」


 マイアの疑問にリィンが頷く。

 ノエミに逃げられた選考会の後、リィンは両拳を骨折している。八つ当たりで会場の支柱を殴った為である。

 その後、暴れる彼女は呼び出されたプロデューサーとペトラに取り押さえられたのだが、その時に肋骨が数本折れていた。

 アプリーレの主治医はその治療で仕方なく、上着は咥えれば良いかな。と、指示を出していた。

 スカートを咥えたのはリィンのただの勘違いである。リィンは普段着ではスカートの下にパタローニを履く習慣があった。

 彼女にとっての上着は言葉通りに上に着るものだった。この場合、パタローニの上に履いていたスカートが上着であった。

 なお、明記しておくと主治医は無罪である。

 肋骨の様子を見るから、ブラウスを口で咥えておいて欲しいという意味で頼んだだけだ。

 残念な事に町医者である彼の診療所に看護師はいなかった。仕方なく、必要に迫られての措置だった。

 とはいえ、スカートやブラウスの裾を口で咥えさせてお腹というか、肋骨を診察するという行為は大概に変態的である。

 この時、彼もまた何かに目覚めてしまっている。


「別に、そんな事など大した事はあるまい。私もたまにやるぞ。こんな感じで」


 せかせかと両手を動かしながらそう言ったノエミである。また服を造っているらしい。

 そうしながらも、彼女はリーナの肩に顔を乗せ、スカートを捲り上げると口に咥えた。

 当然ながら、穿いているドロワーズが露わとなってしまう。


「何でウチのスカートでやるのよ」

「私のスカートでは丈が足りないだろう」


 それも、そうね。と言うリーナに動揺はない。

 リーナ的にはドロワーズは下着の上に身に着けるものだから問題ないようであった。


「荷物を抱えている時にロングスカートを穿いているとな、裾が邪魔で走りにくいんだ。だから、たまにやるぞ」

「あっそ」


 アンナはクルクルとお姉ちゃん達を見回しながらも、判ったような、判らないような気持ちになった。

 途中でミリアムと目が合って、手を振られている。

 ミリアムはペトラと共に、ヌオヴァ・ジェネラッツィオーネのプロデューサーである女性と話していた。

 どうやら何事かを打ち合わせているようだった。

 彼女もアンナの視線に気付き、深々と礼をする。

 アンナも返礼しておいた。

 現在、アンナは身動きが取れないでいる。

 どういう訳だかアプリーレと、そのご両親に構い倒されているからだ。

 彼女達に甲斐甲斐しく世話を焼かれている。アプリーレのご両親は、とても優しそうなご夫婦だった。


「体調は大丈夫? 疲れは抜けてる?」


 補給用の飲料を飲みながらオリーブの塩漬けを摘んでいるアンナであった。栄養補給だよ。と、勧められての事である。


「何故だか判りませんが、元気一杯です」

「そっかぁ。よかったぁ」


 蕩けるようなアプリーレと、そのご両親の笑顔を受けて、アンナもとても嬉しくなった。


「だけどね。有難いけど、感謝しているけど。だからこそ、お姉ちゃんとしましては、妹の無茶を叱らないとなりません」


 アプリーレの笑顔に圧が加わった。

 ニコニコと完璧な笑顔な筈なのに怖い。

 この感覚には覚えがあった。マリアとかドロテアとかで。

 本来、笑顔とは攻撃的なものである。とかなんとかという、どこかで読んだような説明的文章が脳裏を過るが、もう遅かった。


「救って貰った私が言うのは烏滸がましいけど、アンナちゃんのした事はとっても危険なの。理術を使う貴女に、それが判らない筈はないよね?」

「救った訳じゃありませんよっ! あれは単なる我儘で、方法があれしか浮かばなかったからです!」

「ふぅん……。救うつもりはなかったんだ? あんな無茶をした癖に。私の覚悟を無視した癖に」

「いえ。……あの。生きていて貰いたかったですし、また笑って一緒にって……」


 責められて、しどろもどろになってしまうアンナであった。

 生きていて貰いたい。そう思っていたのは本当だ。

 だが、それが救う。というものかと言われたら、しっくりとこない。

 だって、救われたのは私自身だという気持ちがあるのだ。


「もう。泣かないの。反省してるのなら、私の言いたい事も判るよね? 誰もが、一緒にいたいんだよ」


 今更ながらに本能的恐怖が溢れ、身体が強張る。明確には語らないものの、アプリーレが言いたい事は理解していた。

 今のアンナには、自分のした事の危険性が理解出来ている。

 お姉ちゃん達が護ってくれたから、『消え』ずに済んだだけだとも判っていた。

 もしも、アプリーレが救われた時に自分がいなかったら『呪い』を遺しただけだろう。

 もしかしたら、アプリーレの病も癒せずに、無意味な犠牲が増えただけ。という『結果』もありえた。

 それも、お姉ちゃん達まで、他にも多くの人達まで巻き込んだ『最悪』だってありえたのだ。

 だけど。とも思う。


 もし、あの時。アプリーレが逝ってしまったら、二度と笑えない。もう何も愛せない。そう思ってしまったからこそ、必死だった。

 生きていて欲しい。一緒にいたいと。

 それに、アプリーレにも望まれたのだ。生きたい。一緒にいたいと。

 同じ想いで通じ合い、同じ望みを祈った。だからこそ、その為に最適な手段を選んだだけである。

 それでも今更に、身体が震えた。


「大丈夫。もう。怖くはないよ」


 優しい笑顔で抱きしめられて、寒気は消え去る。

 暖かいモノを感じていて、それだけで恐怖心は薄れてゆく。


「お説教は、おしまーい。じゃ、行こっか」

「えっ?」


 アンナを抱いたまま、アプリーレが立ち上がる。

 その本物の笑顔は、真っ直ぐに最愛の両親へ向いていた。


「お父さん。お母さん。産んでくれて、育ててくれて、愛してくれて、ありがとう。貴方達の娘はこれからも、夢の先、『輝きの向こう側』に立ち続けるよ」


 父親も母親も、目を細め、確りと頷いた。


「だから、行ってきます。これからも、よろしくね」

「「行ってらっしゃい」」


 声が重なった。

 最高の笑顔で送りだされたアプリーレ。

 彼女に抱かれたままのアンナにもまた、笑顔が浮かんだ。




「みんなっ! お待たせっ!」


 舞台へ飛び出すのはアプリーレ、リィン、マイア、ペトラ、ネーヴェ。五人揃った完璧なヌオヴァ・ジェネラッツィオーネ。そしてそれに並ぶ、十五名の最高の偶像達。歓声が沸き起こる。


「ごめんね。歌の途中で。驚かせちゃったよね」


 その原因となったアプリーレが深々と頭を下げた。

 反応は静寂だった。誰もが、彼女は大切な事を伝えようとしているのだと察したが故に。


「中途半端で終わりそうになったのは、私の弱さ。でもね。皆が、ここにいる皆が。ここにはいない皆が。私を連れ戻してくれたんだ。だから、ありがとう」


 アプリーレのお礼の言葉の後に、歓声が上がった。旋律が流れ始める。リィンが彼女の手を確りと繋ぐ。


「私達の舞台が、こんな中途半端で終わって良い訳ないよね。だって私達は、どこまでも登ってやるって決めたんだから」


 彼女の言葉に客席は更に盛り上がる。彼女達の想いと自分達の願いが重なった。そしてマイアがリィンの手を取って掲げた。


「けど、言うだけなら簡単じゃん。だから魅せるよ。聴かせるよ」


 溢れる期待。それは未来への希望。ペトラがリィンの手を優しく握る。


「でもね〜。それは、私達だけで出来る事じゃないのよ〜。貴方達が居て、私達が居るのよ〜」


 それだけで伝わるものがある。会場内の全てが確りと頷いた。恭しくネーヴェがペトラの手を取った。


「此度の舞台。取りを飾るのは妾達ヌオヴァ・ジェネラッツィオーネではありません」


 ネーヴェの手を、アイドルの一人が掴んだ。それに続く様に、次々と手が繋がっていった。


「もう、紹介なんていらないよね。私達のありったけの、「ありがとう。これからもよろしくね」を込めて、姉妹達(シスターズ)が謳います。最高傑作(マスターピース)。おいでっ! 一緒に遊ぼっ!」


 アンナ、ミリアム、レベッカ、リーナ、ノエミが舞台へと飛び出す。再び歓声が沸き上がる。合わせる様にして、激しくも、優しい旋律が紡がれていった。


「『さぁ、今を輝いて!』」


 全員による唱和。それは、舞台上の偶像だけによるものではない。

 大勢のスタッフに十万もの観客。偶々居合わせた人々も。そして、遥かに離れた地にいる誰もが、同じ気持ちで同じ願いを重ねていて。

 紡がれるのは心から溢れ出る、祈りであった。


 やがて最後まで気持ちを伝え切り、二十五名の姉妹達(シスターズ)による真夏の奇跡(ライブ)は、「めでたし。めでたし」で結ばれた。


 その後の世間の混乱などの野暮は置いておく。

 何にせよ、シシリアがシラクザで開催された『夏の祭典』は、「めでたし。めでたし」の大団円を迎えたのだから。


 


 主人公の目的とかってむずかしいです。

 私の作品は普通の周りの人達が幸せで、楽しくいて欲しいと望むお話でした。

 その為に下手な説明を挟んだり、つまらないお話をしていたかもしれません。

 この後に一話だけ主人公の日常を書いたお話を投稿したいと思います。


 他の連載も頑張るし、読みたいと思わせられる作品を書きたいと思います。

 またご縁があれば。

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