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揺籠の島で揺蕩う少女達。  作者: カズあっと
5章 夏の祭典。
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59話 外伝 タラスク1。


 邪竜タラスク。彼は海神の子とされている。

 不死の竜にして、あらゆる鉱物よりも硬い皮膚に、頑健な肉体を備えていた。

 強力な無詠唱術式の遣い手で、特に水を操る術式を得手としている。

 吐息は作物を枯らす猛毒で、灼熱の糞を排泄した。

 大きさはサイという動物と同程度で、竜としては小型である。

 六脚に、亀にも似た甲羅を背負っていて、頭は獅子のようであった。


 タラスクは術式を操り、気分のままに河川を氾濫させ、また、干上がらせる事が出来た。

 農業国家であるロストールにとって、彼は頭の痛い存在だった。

 邪竜などと呼ばれているものの、彼は別に邪悪なモノではない。

 人を喰う事もないし、滅多に襲う事もなかった。

 それでも、人類種にとっては邪魔者であるのだが。


 超越種とされているタラスクであるが、その知性は低く、人類種の幼児程度のものしかない。

 かろうじて人語を解するものの、難しい話は理解出来なかった。

 なので、自由気儘に遊び暮らしている。普段はドナウ河で泳ぎ暮らす無害な存在だ。


 だが、収穫の季節である夏や秋は別だった。

 美々しく実る作物に興味を抱き、陸に上がって踏み入った。

 ドナウ河沿線は小麦や稲などの大生産地である。大きな畑や水田が数多くあった。

 小麦や稲は収穫期ともなると、季節の陽射しを受けて、黄金色に輝く。

 煌めき波打つ美しい光景に目を奪われて、彼は近付くのだ。だが、彼の吐息は作物を枯らす猛毒である。

 顔を近付ければ、たちまち枯れ果てる。そしてしょんぼりとするのだが、美しく輝く物は、まだそこかしこに残っている。

 今度こそ。と、また近付き、またしょんぼりとする。それを日暮れまで繰り返し、やがて日は落ちた。

 すると輝きは失われていて、彼も興味を失い、トボトボとドナウへ帰るのだ。


 一日遊び疲れたタラスクはその前に排泄していく。

 彼は流水に排泄する習性があり、農地を流れる流水は灌漑用の用水路であった。

 夏場の小麦ならば辛うじて耐えるものがあるものの、秋の稲では致命的である。

 灼熱の糞によって沸騰した流水は水田に甚大な被害を齎した。

 これらは季節毎に七日に一度くらいの割合で繰り返された。

 更には大雨や干魃などの大規模な天災時もいけない。

 大雨ならば氾濫する水に喜び水脈を活性化させ水害を助長し、干魃ならば干上がった土に興味を持って水脈を不活性化させて被害を広げた。

 これらはそう頻度があるものではないのだが、やはり農作物への被害は甚大だった。

 農業国家であるロストールは豊作は富強へ繋がり、凶作は衰退に繋がるからだ。


 邪竜とされるのはこれらによる被害からのものである。邪悪な竜でなく、邪魔な竜。

 それがいつしか混同されて、邪竜として扱われるようになった。


 大昔にガリアを追われ、やがて美しき蒼きドナウに棲息するようになったというタラスクを討伐しようとした者は多くいた。

 過去のドナウ河流域支配者達がそうだったし、かつての巨人王トールもまた、そうした者であった。

 だが、無駄だった。不死であるからだ。

 軍に甚大な被害を出して仕留めたと思ったら、その瞬間には別の場所で呑気に遊んでいる。

 殺害も、消滅も、拘束も、封印も意味がなかった。

 武力では彼の自由を縛る事が出来なかった。

 その理屈は解明されてはいない。超越種とは、そういうモノである。

 とはいえ絶対に対処不能な災厄という程ではない。

 現に、タラスクの無害化や有効活用は幾度となく成功している。それもトール王国の末期を始めとして、ロストール王国期では何度もだ。

 歴史上ではこの期間にロストール王国は飛躍するのだと語られていた。


 最初の成功は旅に出されていた一人の巨人族の乙女によるものだった。

 彼女は人伝にタラスクによる農作物被害を聞いていて、なんとか出来ないものかと常々思案をしていた。

 とはいえ、タラスクは神出鬼没である。

 乙女は気儘にあてどなく、ドナウ河流域を彷徨った。幸いにも、彼女は特に大きなトラブルに巻き込まれる事はなかった。

 この時期にはトール王国と諍いを起こす乙女達も数多くいたが、なかには彼女のように争いからは距離を置く者もいた。

 最初期の旅の乙女には、そういう者が多かった。


 というよりも、こちらが本質である。彼女達は争いを好む者ではなく、大き過ぎる情により、やむなく争いに身を投じる者達だからだ。

 アレッシアの母に纏わる情報を受け取る前の乙女達は、同族との争いを避けようとする者が数多くいたのであった。


 そんな乙女であるので、タラスクによる農作物被害に困る人達を放ってはおけない。

 結果として殆どが接収されてしまう農作物であるが、そもそも収穫出来なければ生きてはいけないからだ。

 トール王国は郷と同じように全収穫を徴収した後分配したのだが、農奴とされた人々は逞しく、隠し田や秘密の畑などを用意していて密かに食い繋いでいた。


 そんな彼等の為にせめてもと、彼女はタラスクを探していた。

 タラスクが不死である事は知識として得ている。

 討伐は無意味だ。ならば、タラスク側の事情を確かめるべきである。そこにお互いに譲り合える事があるかもしれない。そう考えるのが、乙女であった。


 巨人族の郷で過ごした乙女には言語による意思疎通の壁など、問題としていない。

 彼女達は海の巫女と同じように、心を繋ぐ交信に長けていた。

 出会い、心通わせることで、僅かなりとも問題解決の糸口となる。そう、信じている。

 そして幾つもの偶然に恵まれて、彼女はタラスクとの邂逅を果たす。

 小麦が黄金色に実る、夏の盛りのある日の朝であった。

 乙女が見回りと呼ぶ名の朝の散歩をしていると、河から這い出てくる、大きな生き物が見えた。

 それは獅子の頭に亀の甲、逞しい六脚の獣。邪竜タラスクであった。


 美しく輝く黄金色に誘われて、タラスクは居心地の良い河から抜け出した。

 彼は陸地があまり好きではない。

 皮膚が乾いて不快だし、蒼き水流のように包まれるものがないので寂しかった。

 それでも態々河を出たのは、抜けるような蒼い空の色と、揺れる黄金に焦がれる気持ちが湧いたからだ。

 それらの色彩は、遠い昔から彼の心を捕らえて離さないものだった。


 夢見心地で、柔らかな黄金に鼻面を埋めたくて、タラスクはのっしのっしと進んだ。

 夏と秋、千年以上も繰り返してきたこの衝動。その顛末までは彼の記憶には残されていなかった。

 彼が柔らかく暖かいものに包まれたくて、それに鼻面を埋めようとすると、その優しい黄金は力無く萎れ、倒れてしまう。

 それは怖くて寂しくて、とても物悲しい事だった。

 そうして彼は、しょんぼりとし、アオーンと鳴くのだ。

 でもそうすると他にも優しい黄金が揺れていて、もう一度と希い、また枯らす。

 それが悲しくて、でも諦められなくて、彼は黄金が見えなくなるまで同じ事を繰り返した。

 そしてすっかり辺りが暗くなった頃、彼は漸く気付くのだ。

 もうどこにも、あの優しい黄金は居ないのだと。

 そうしてすっかり落ち込んで、心地よい蒼へと還る事にするのであった。


 間も無く夜がやって来る。

 夜は怖い。夜は憎い。夜は嫌いだ。

 黄金の衣を纏った、蒼い髪の柔らかく優しいあの人を奪った刻だから。

 それはどうしようもない真実で、タラスクは物悲しく、アオーンと鳴き叫ぶしかないのであった。


 そんな哀切ですら彼の記憶は七日と保たない。

 それは盟約にして契約。そして、不滅の呪い。

 彼はそうあれかしと望んだが故に、永劫、囚われ続ける運命を背負っていた。


 陽光を受けて、巨人族の乙女は目一杯に両手を拡げていた。

 涙目である。思った以上にタラスクは大きくて、怖かった。

 獅子の顔というのは伊達ではなく、大層恐ろしい怪物であった。

 だが、乙女は彼の意思を確かめようと必死である。

 このまま彼が歩みを止めずに居たのなら、彼女は大怪我を負うのは必至であった。

 だというのに、彼女は止まって欲しいと伝える術が、それしかない。


 果たしてタラスクは歩みを止めた。

 彼はまじまじと、乙女の瞳を覗き込む。揺れる麦畑よりもなお輝く、金色の瞳で。

 乙女は僅かに安堵する。

 タラスクが止まってくれたから。

 もしも止まらなければ、力比べをしなければならなかった。そうなれば、争いにしかならない。

 彼女は争いに来たのではない。

 彼を知りたくて、やって来たのだ。ペタリと伏せたタラスクに、おずおずと手を差し出した。


 タラスクは六肢を折り曲げ伏せている。何故かは彼にも判らない。だが、自然とそうしていた。

 そうしていると、何かが頭をくすぐった。

 それは柔らかくて暖かなものだった。優しい何かが、彼の鬣を撫でている。柔らかく、優しい音を奏でながら。


 乙女は唄う。優しい声音で。

 幼く、まだ理を知らぬ弟達に聴かせた歌を。

 それは子守唄。

 歌声を風に乗せれば、ぐずついていた弟達も大人しくなった。

 根拠のない直感でしかないが、タラスクの黄金の瞳は母親がいない時の弟達のものとよく似ていた。

 悲しそうで、寂しそうで、恋しそうで。

 そう思えばこそ、子守唄を自然と口遊む。

 悲しくないよ。寂しくないよ。お姉ちゃんが、ここにいるよと。

 そう心を込めて唄えば弟達は微笑んで、心落ち着けて微睡んでくれた。

 皆、良い子であった。その子達が郷を抜けて暴れ回る未来など、想像出来ない程に。


 歌いながらタラスクの鬣や額を撫で摩っていると、どうやら彼も満更ではないようで、うっとりと瞳を細め、耳は外側を向いている。

 この乙女の知見によれば、獅子は大きな猫である。

 猫の耳は顔よりも表情豊かで、嘘がない。この外向きの耳は、落ち着いて、心地良くいる時の猫の特徴であった。


 乙女はタラスクの頭を撫でながら交信する。深い奥底にある、心の触れ合う場所で。


 ねぇ。貴方は、どうして畑に行きたいの? そう心で尋ねれば、畑? と、これも心で問い返される。

 乙女は安堵し喜んだ。心が通ったのだから。

 交信の感覚は直感的かつ主観的なものであるが、これに必須なのは双方向からの繋がりたいという意思だ。

 それがなければ想いが流れる事もなく、反応も起こりようがない。


 そしてゆっくりと対話を重ねてみれば、邪竜タラスクはとても無垢で幼い魂をしている。

 彼は物を知らない子供であった。

 根気強く言葉の意味を伝えながら、彼の心を引き出していく。

 子供は想いを表す言葉を知らず、論理立てて伝える事が難しい。

 だから寄り添いながら、想いの伝え方を教えていくのだ。

 慣れた事だった。弟達にもしていた事だ。乙女も少し懐かしくなり、思わず顔を綻ばせるのであった。


 声が聴こえる。

 自分に語りかけてくる、優しい声だ。

 だが、意味は判らない。声の像は、二足歩行の人類種を名乗る生き物達の発するもので、幾度となく聞いたものだが、よく判らなかった。

 よく判らないから、聴きたくなった。


 それは、久しぶりの感覚だった。いつもなら、よく判らないから、興味がない。

 興味がないから、聴こうとも思わない。そう思っていた。

 人類種達は吠えたり叫んだりはするものの、ただそれだけだ。

 彼等は言葉を用いて口を動かすものの、何もタラスクに伝えてくれようともしなかった。

 発声をしている事や、恐れ、怒り、憎しみなどの厄介な感情の動きは把握出来た。

 彼等はこの感情を用いて、河を汚し、生き物を殺す。邪魔だった。

 邪魔だから、噛み砕く。邪魔だから、踏み潰す。邪魔だから、殺した。

 そうすると、またよく判らない発声をするのだ。厄介な感情を剥き出しにして。

 そうすると偶にだが、彼等によって、とても痛かったり、苦しまされる事があった。

 それらは水流に抱かれていると微睡から醒めたように掻き消えるのだが、とても嫌な記憶として残った。


 だから、人類種の声など聴く気はなかった。聴いても、嫌な気持ちにしかならないからだ。


 これまでに、心を寄せてくれたのは一人だけ。

 ここドナウではない、遠くレーヌの河のほとりで。

 心を繋いでくれたのは、ただ一人。

 黄金の衣を胸に巻き、蒼い髪を靡かせた、柔らかく美しい、とても優しい人だけだった。


 ねぇ。貴方は、どうして畑へ行きたいの? それが聴こえた声だった。

 懐かしいものが胸に溢れた。

 あの人も最初、そう尋ねてくれた。

 あの頃は、陸地も別に不快ではなかった。単にどこまで行けるのか、試してみたかっただけだ。

 河から流れる流水を辿って歩いていただけで、深い意味などなかった。

 そして畑を知らなかったので、畑? と問い返した。彼女は笑った。

 懐かしい言葉。最初の言葉。懐かしいから、大切だから、同じ言葉で返したかった。

 だからタラスクはちょっとだけズルをして、知らないフリした。そしてあの時と同じように、畑? と問い返した。


 対話を重ねていくうちに、乙女は一つの確信に至る。邪竜タラスクは、やはりまだ子供なのだと。

 伝承によれば、海神の子である彼は千年以上を生きる竜である。

 積み重ね、培ったものは多い。

 だが、乙女の生の百倍近くの時を生きていながら、純粋で、無垢だった。知識はある。知性もあった。


 最初に畑の意味を問い返されて、どう伝えれば良いものかと迷っていると、彼は慌てて謝罪した。

 ごめんなさい。本当は知っているんだ。

 みんなのご飯を作る場所なんでしょ。

 あの人と同じ事を聞かれたから、同じ答えをしたくなっちゃったんだ。ズルして、ごめんなさいと。

 交信によって捉える声は、自身の主観によるものだ。本来のものとは違うだろう。

 そもそも、発声器官の存在しないものには声などない。

 だが、魂の本質が滲むものでもあった。タラスクの心の声は、とても幼いものだった。


 乙女は、あの人? と問い返した。

 タラスクの言葉に倣うなら、彼女もズルをした。彼の言うあの人とは、かの唯一神教聖女の事であろうとすぐに思い至った。

 その伝承は有名で、彼女を喪った事により、タラスクはレーヌ河を離れたとされている。

 あまりにも彼が嬉しそうに言うものだから、乙女も色々と聴きたくなって、会話技術を弄する事にしたのであった。


 彼女の目論見は上手く進み、夕暮れ時となると多くの情報が引き出されていた。

 彼にある聖女の記憶は断片的かつ曖昧で、まるで意図的に封じられているようであったが、それは問題とならないだろう。

 記憶がなくとも、大層慕っているようであった。

 記憶の中には、残されない方が良いものだってあるのだ。


 乙女にとって重要な情報が幾つもあった。

 その中の一つには、彼が人類種を恐れている。というものがある。

 幼い口調で寂しげに、嫌われ、恐れられるのは、辛いのだ。と零されれば、乙女の胸は締め付けられた。

 彼女達は、押し並べて情に篤く、母性が強い。

 そんな健気な態度を取られてしまえば、もういけない。この子を皆に愛される子に育てないといけない。と誓うのであった。

 それには、愛情と教育が必要だ。時間がとにかく必要だった。タラスクは夜も恐れている。だから、また明日ね。と約束をして見送った。


 そして月日をかけて、水田や畑の黄金は、あの人ではない事を教え込み、寂しくなったら歌を唄って紛らわす方法や、衝動の制御方法などを覚えさせた。

 他には人類種との接し方として、彼等の好むもの、好まないものなども伝えていた。

 河が氾濫した時は水を広げない方が良く、逆に乾いている時に水を広げれば、喜ばれるなどの事だが、彼はその教えをよく飲み込んだ。

 また、彼の排泄による灼熱の糞であるが、これも望む場所がある事を教えた。

 この頃には蒸気機関は既に一般化しており、これを用いて発術に繋げる地熱発術機関があった。

 また、彼の糞は様々な元素の宿る溶岩であり、冷却された後に結晶化し、質の良い宝石が取れる。

 それは運次第でしかないのだが、良質な宝石は術式の触媒としても、術具の素材としても、多くの使い道があった。


 乙女はタラスクに、しっかりと教え込む。

 人類種は、超越種のように完成された精神構造を持ち合わせていない。

 このような利益による関係構築は決して最善のものではないが、次善ではあるのだと。

 人と人とでも、無償の愛だけで繋がる関係は少ない。

 私は貴方に害を与えず、利益を与える。そう判りやすく伝える事で、お互いに理解し合う機会を設け、心を伝え合う事が大事なのだと。

 それが未熟な人類種達がお互いを認め合い、愛情で繋がりあえる未来を作る為の手段の一つであるのだと。


 だから、純粋な貴方には、狡いやり方に思えるかもしれませんが、試してみてください。

 そうまで言われてしまえば単純なタラスクだ。

 乗せられない筈もない。

 彼は寂しかったのだ。

 誰も心を繋げてくれないから、拗ねて心を閉ざしていた。

 嫌悪や憎しみで見られるのが怖いから、避けてきた。

 少しでもそれを克服する手段があるのなら、試みる事に否はない。タラスクには彼女の言う狡いやり方が、そうとは思えないからだ。

 心を繋げる為に行う努力は、尊いとさえ思えた。

 そう聴かされるまでは、それを忘れていたのだから。怠っていたのだから。


 それに、彼女はまた、あの人と同じ言葉を贈ってくれた。

 可能な限り同行しますからね。貴方が皆を愛し、愛されますように。父と子と、聖霊の御名において、そうあれかし。と。


 そしてタラスクは乙女と共に、時間をかけて心を繋ぐ努力をし、様々な者達と理解し合い、助け合い、時には聖龍と崇められたりもした。

 祭りなどでは収穫した小麦や稲から作られた料理なども捧げられている。


 とても美味しかった。超越種には食事などの生物的な生理的欲求を満たす必要はないのだが、嗜好としては可能であった。

 実際に彼等が食すのは物質そのものではない。それに込められた、想い、願い、祈り。そういった優しいモノこそが、彼等にとっての最高のご馳走だった。それは、幸せな刻だった。

 これが、最初の調伏であるとされている。


 乙女にとっても、楽しい時間であった。

 タラスクは素直で可愛いし、トール王国に問題は多いが、普通に暮らす人々は良い人が多かった。

 幸せな旅が続く。

 だが、その幸せも長くは続かない。やがて名も無き乙女、後のアレッシアの母による情報が送られると、タラスクを躾けた彼女もまた革命に身を投じ、その災禍に巻き込まれる事となる。


 革命に身を投じたとはいえ、タラスクと共に人助けをしながらの活動であったので、それ程積極的に動いた訳ではない。

 だが、彼女はとても目立つ。まず、タラスクを連れている。そして美しい蒼い髪をしていた。

 巨人族の乙女であるからして、美貌で豊満だ。胸には黄金色の布を巻き付けており、これはタラスクが喜ぶからだ。

 彼は胸に鼻面を埋める事を好んだ。伝承によれば、聖女も同じような服装をしていたという。


 その思い出の為なのかは判らないが、乙女は聖女も同じ気持ちであったと思っている。甘えてくるタラスクは、とても可愛いかった。

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