53話 紳士達。
アンナは老人の服を脱がそうと試みる。
回復には清潔が第一だ。それに、このまま汚れたままでいさせるのも可哀想だった。
だが、脱がせ方が判らない。
今や見る影もないのだが、老人は仕立ての良い燕尾服に似て、非なる衣装を纏っていた。
アンナは男性の服を脱がせた経験などないし、ノエミのように衣服の構造に精通してもいない。
元々が服等には興味が薄い娘で、着る物はマリアが見繕ってくれた物ばかりであった。
ミリアム達と出会って近頃は、服などを見るようにもなったのだが、他人の、ましてや男性の服等まじまじと見た事などなかった。
アンナの手は、虚しく止まっている。
むにむにと服を弄り回しているのだから、実際には止まっている訳ではないのだが、目的遂行の為の働きは完全に停止していた。
その時アンナの脳裏に電流走る。脱がせ方が判らないのならば、破いてみればいいのでは?
だが即座に却下された。
見診を用いたところ、ご老人の骨はかなり脆くなっていた。加齢と生活習慣によるものだろうと当たりを付けている。
この脆い骨が布地を破る力加減に耐えられるだろうか。その答えは否である。
多少はほつれ、破けてこそいたものの、打撲による骨折箇所付近の布地には大きな損傷がない。
単純な考えで、断言までは出来ないものの、布地よりも骨のほうが掛かる力に弱い事を否定する材料ではないのだ。
これ以上怪我を負えば、命にも関わるだろう。
それ程にまでに、老人の生命力はギリギリだと感じている。
「あ、あの。お嬢様でよろしいでんすかね? お嬢様、いかがいたしましたんで?」
「ち、ちゃんと脱がせますからね! 皆さんも準備をお願いしますよ!」
むにむにとお腹の辺りを弄ると、ボタンがあった。
アンナはこれだと思い外そうとしたのだが、外れない。どころかよくよく見てみれば、穴に通っている様子もなかった。飾りである。
ちなみにアンナが燕尾服によく似ていると思ったこの服装、略式の礼服だ。
ノエミ達ならすぐに気付いたのだろうが、アンナには判らなかった。
アンナがボタンと勘違いしたのは腰ベルト、あるいはカマーバンドという、これまた略式の礼装についた飾りであった。
先程までの勇ましさはどこへやら、大層情けない顔をして、むにむにと服を弄り続けるアンナであった。
そうした姿を男達は見ている。
自分達へアンナマリアと名乗った美幼女は神々しいし、汚物に塗れた衣服まで神聖なものに思えてきた。
アンナは単に恥じらっているだけだし、汚物塗れの服はそれ以上でもそれ以下のものでもない。
男達の、単なる幻想であった。
「そ、その。女神様? 女神様はひょっとして、服の、そ、その男の服の脱がせ方を、ご、存知ないのではありませんか?」
たちまちアンナの頬は紅潮する。
一神教の教えによれば、無知は罪である。正確には無知を無知として探究する事なく貪る事を罪としているのだが、そこまで帰依してはいない。
表面的な文言に踊らされて、とてもアンナは困惑していた。
しかも、お嬢様から女神様へと敬称まで進化している。アンナは自称、ただの街娘である。そんな彼女が目まぐるしく変わる情勢に恙無く対応できる筈もなかった。
「そ、その。お恥ずかしいお話なのですが、そ、そのですね! ごめんなさいっ! お服の脱がせ方なんて、知りませんでしたっ!」
それでも根が素直な娘であった。うっかりと本音を漏らしてしまう。
「うぉぉぉぉー!」
そして十名分の雄叫びが響き渡る。
「おいっ! そこのアンタっ! 仕事を増やしてすまねぇが、オイラの代わりに、服を着せる役割を請け負ってくれっ!」
叫んだのは先程からアンナへ声を掛けていた男である。
男はローブ組だ。その中でも一際体格が優れていて、年嵩の男であった。
中年を過ぎて、初老と呼ばれ始めるくらいの年齢だ。中年太りからのものだが恰幅が良く、割と貫禄があった。
彼は救急隊への連絡から戻ってきていた一同の中ではそこそこ若い男へ向けて大音声で叫んだ。
「ほぉれぃっ! ご開帳でぇいっ!」
そしてローブを双肌脱ぎにすると、連絡係の男へ向かって放り投げる。両腕を胸の前で交差させ、クロスアウッ! と叫びながら。
脱衣である。ただの脱衣であった。ローブを脱いで、衣服を放り投げただけだった。
「悪ぃが、テメェらっ! 服を着せてやるお役目は任せたぜぃ!」
「「合点で」ぇい!」やんす!」
脇に控える二人のローブ姿の中年男性達が応える。語尾が異なり唱和とならず、少々締まらない叫びとなったが、声には力が漲っている。
「後は任せたぜぃ! 野郎どもっ!」
「「へいっ! 親分っ!」」
そして赤裸となったおっさんであるが、彼の身体は大したものだった。
締まりはない。さして瑞々しい訳でもない。脂肪でいっぱいだ。
それでも、若い頃は、さぞ頑健な肉体であったのだろうと想像出来る身体であった。だが、目を引くのはそこではない。
傷だらけであった。切り傷、刺し傷、手術痕。
穴の空いたような丸い傷痕は弾丸の痕かもしれない。そのような傷痕が、親分と呼ばれた男の身体には無数にあった。だが、最も目を引かれたのはそれでもない。
「むぅ、まさか、あの刺青は……。まさしく、【堕萎我慢】っ!!!」
「知っているのかっ! ライトニングっ!」
「ああっ! 聴いた事があるっ!」
「「なんだとっ!」」
いち早く反応したのは薬剤持ちを命じられた三人組であった。
彼等は揃いの道服に似た衣装を纏う、屈強な体格の男達であった。
ライトニングと呼ばれた男は鼻の下に二房の泥鰌髭を長く伸ばし、額には【大往生】と書かれている。刺青かもしれないし、ただの化粧かもしれない。アンナの知らない文字であるが、なんとなく博識で縁起が良さそうな文字に見え、その為に薬持ちに選んだのだ。
決して、なんかいらん事をしそうな三人組であったから、あまり動かなくても良さそうな薬持ちに選んだ訳ではない。筈である。
彼等の纏う道服風衣装には『三面犬』と大書してある。
うろ覚えながらこの文字はアンナにも見覚えのあるものだった。その知識によれば『三』は数字の三、『面』は顔や表情を表し、『犬』は、お犬さん。ようするにワンワンを示す、東方の古代文字である。
どちらかというと猫派のアンナだが、犬さんも可愛くて好きだ。
大きい子も、小さい子も、それぞれ違った良さがある。とても可愛い。それは個人の感想だった。
ともかく、『大往生』の彼はライトニングと呼ばれているらしい。
「堕萎我慢とは、遥か昔、救世主時代に起こった武術、東西南北全方不敗流と鎬を削った武術流派、むっちり蒟蒻流の皆伝者が好んで入れた刺青の意匠であるっ! それぞれが、かの偉大なる帝国の文字であり、『堕』は、人道に悖る行いを示し、『萎』は、それを行なってしまう弱い心を表しておる。この、『堕萎』の二文字であるが、読みを『ダイ』と言い、『ダイ』には、『大』、即ち、大きい、凄いなどの意味も与えられている。続く『我慢』だが、これは熟語で、精神的、肉体的な苦痛を耐える事を呼ぶものだ。転じて、苦痛に堪えて彫り込まれる、刺青を指す言葉でもある。かの帝国で好んで食されたとされる蒟蒻は、味がなく、不思議な食感でいて旨味を吸い、無限の可能性を秘めた食材だ。当初は煮ても焼いても食えぬ物と蔑まれた食材であるが、後世には豊富な食物繊維による整腸機能が評価され、ご婦人方に愛されたと伝えられている。調理法一つで、味が変わるのだ。これらの故事から、最初は始末に困る物であるが、いずれは世に役立つモノとして大成するとされ、蒟蒻も転じて我慢と呼ばれる事となる。この我慢を刺青とした拳士は、堕と萎に耐え、やがて起こるとされる、苦難の時代を切り開く者となる事を信条としていると聞き及んでおる。……よもや、偉大なる古の拳士に、このような場所で見えるとは、人生とは、わからぬものでござるな」
「ふ……。どうやら私達は、とんでもない男と誼みを通じていたようですね」
「うむ……」
長髪の男が感心したように言うと、禿頭の目を瞑った男が頷いた。残る三面犬の二人である。
そういえば、何かの神話には三つ首のワンコがいたなとアンナは思った。
彼は地獄の門番とされるが、餌は三倍いるのか疑問であった。顔は三つでも、お腹は一つなのである。
「にぃちゃん達! 詳しいじゃねぇかっ! そうよ、俺こそが、むっちり蒟蒻流皆伝、鉄の掟の徒の一つ、グリセリンエステル一家を預かる、メタボのマルコよ! オメェ達! 漢の生き様、見せてやるぜぇー!」
そう叫んでアンナ達の元へ駆け寄ってくる男、もとい漢。親分こと、メタボのマルコは、凄い覚悟の決まった形相で、とても怖かった。
アンナはご老人には申し訳ないなと思いながらも、ちょっとだけ傍に退く。
何故なら、とても怖かったから。
三段に別れたお腹はブルンブルンと揺れているし、垂れたお胸もブルンブルンに揺れている。
蒟蒻と呼ばれた灰色の刺青はちょっとゼリーみたいで美味しそうに見えたのだが、たった今しがた味がないとも聴いたので、邪念を打ち払っている。
「うぉぉぉぉぉー!」
そして老人の元へ駆け寄ったマルコだが、汚れも厭わず、テキパキと服を脱がしていった。
「おー。そうやって脱がすんですね。勉強になります」
「女神様! オイラやジジイのような小汚い身体なんて見ていると、お目が汚れますぜ! どうか、ご容赦くださいっ!」
「汚れなんてしませんよ。それに、小汚いとは何ですか。貴方のお身体は、貴方だけの物ではありません。お父様やお母様が、望み、愛したお身体です。誇りを持ってください。その刺青、いつかの先に、どこかの誰かを救ける為に、入れられたのでしょう? ならば、いつか、どこかにいらっしゃる、貴方を愛する誰かの為に、どうか誇ってくださいませ」
「女神様……。そんなお優しいお言葉、オイラ、オイラぁ……。うぉぉぉぉぉぉぁぉぉ!」
そして老人を真っ裸にするとマルコは、保冷箱の持ち主から温かいタオルを受け取り、老人の身体を拭ってゆく。保冷箱の彼と子分達と協力して、老人の身を清めていった。
連絡係の青年は意外と気が利く者らしく、どこから持ってきたのやら、次々と物資を運んできていた。
「三面犬のワンワンさん方、お薬などを、お見せください」
跪いた三面犬たちが、うやうやしく薬剤などを両手で捧げるようにして持ち上げた。ごく当たり前にワンワン扱いしたのだが、突っ込む者は誰もいない。彼等は自然に受け入れているようだった。
薬剤を見て、なんとかなるかも。と判断したアンナは、に下げたポシェットを弄った。
ポシェットは収納術式が施された術具で、見た目よりも遥かに多くの物が入っている。
取り出されたのは試験管のような物が二つと、よく判らない木の枝みたいな物だった。
「むぅ。あれは」
「知っているのか。ライトニング」
「あ、解説は結構ですよ。長くなりそうですので。試験管は、一つは簡易錬金窯、もう一つは霊獣スライムを生捕りにして入れてあります。こちらの木の枝は、エトナ火山産の霊木で、とても甘い蜜が出ますね。非常食用に組合で売っているものです」
手短に説明すると、ライトニングはショックを受けたような顔をして項垂れた。解説役から解説を取り上げられては立つ瀬がない。
「救急箱の中には、長めの細い針などはありませんでしたか? このくらいの長さの」
そう言って手で長さを示したアンナへ三面犬達は首を横に振る。顔付きこそ異なるものの、まったく同じ動作であった。
「困りましたね……。針がないと、効果もお味も……。何か、代用出来るモノは……」
「僭越ながら、女神様。針が、それも細く長めの物がご入用でしょうか」
考えこんでしまうアンナへ声が掛かる。長髪の優男からのものだ。
「あ。はい。えーと……」
「名乗りをあげず、大変失礼致しました。私は三面犬、ビロタ拳のフルゥと申します」
「フルゥ様。私はアンナです。よろしくお願いします。はい。細くて長い針が欲しいのです。スライムの霊核を取り除かねばなりませんし、この霊木から樹液を出すには、下から中心部を貫かねばなりません」
アンナが針が欲しい理由を告げるとフルゥは一旦薬剤などを下ろし、両手で髪を掻き上げる。
男性としては珍しいくらいに手入れをされていてサラサラだが、意図が判らなくてアンナは困惑した。
だがアンナの困惑を他所に、彼は少しだけ指を折り曲げた不思議な格好で両手を上げた。
「こちらを、お使いください」
アンナの顔に疑問符が浮かぶ。それを察した中フルゥは、よく、ご覧下さいと促した。
「あっ!」
奇妙に曲げらた指の間に挟まっていたのは長い針。それも、狂化をしているアンナが目を凝らさないと気付けない程の細い針だった。
「霍刺穿凡という名の暗器です。髪の毛程の細さですが、強度はこの通りに」
そう言ってフルゥが床に向けて霍刺穿凡を振ると、針半分程まで突き刺さる。恐ろしい暗器であった。
「その、霍刺穿凡? の有用性は一目瞭然ですし、使わせて頂けると嬉しいのですが、暗器? という事は、フルゥ様は暗殺者? とかの、怖い人なのでしょうか?」
眉を下げて尋ねるアンナであった。所々疑問符が付くのはあまり使い慣れない単語だからだ。
暗器や暗殺者などあまり使い慣れた言葉であってはならないので、当然だった。
「カッカッカッ! 説明致しますぞ、女神様。この男、ここシラクザで鍼師を営んでおりましてな。ビタロサには珍しい針なので、暗器などと言って注目を集める宣伝なのです。男の子は暗器などという単語が大好きですならな」
「まぁ! ご解説、感謝しますわ。ライトニング様。それにフルゥ様にも、失礼致しましたわ。お針子さんならば、細く、頑丈な針が必須ですものね」
「ふふ。裁縫などは手慰めに好んでおりますが、鍼師とは針を用いた治療法を用いる医療従事者でございます。針は身体に刺すもので、身に傷を付けないよう細くしてあるのです。それに、見えない程に細ければ、針を怖がる人も恐れませんから。医師や癒師のように直接的に怪我や病を癒す事は出来ませんが血行促進や凝りのほぐし、各所の痛み緩和には役立ちます。尤も、あまり馴染みのない治療法なのでそう繁盛しておりませんが」
「なんの、なんの。女神様。この男、こう謙遜しておりますが、ほれ、この面構え。なかなかの色男でありますからな。フルゥの治療院、連日ご婦人方が詰めていて、結構な繁盛しておりますぞ」
「皆、健康なご婦人方だ。血行促進や肩凝り緩和に針は打つが、お代は頂いておらんよ」
「これはまた、重ね重ね大変失礼しました。ごめんなさい。フルゥ様は、鍼師様という癒師様でしたのね。馴染みのない、新しい治療法を模索するとは、とても感服いたしますわ。……それで、あの……大変厚かましいとは承知しておりますが、その……」
なかなかに会話が弾む。二人の話が上手い為だ。
そして話を聞いたアンナは思い付く。あのご老人の治療に、協力してもらえないかと。
身を痛めずに痛みを緩和させるなど、これからのあのご老人には、ピッタリの治療法である。
だがそれは、とても自分勝手な望みであった。なかなか言い出せない。言い淀むアンナにフルゥは優しく微笑んだ。
「あのご老人の治療でごさいますね。当然、ご協力させて頂きますよ。何せ我等は、愛情深く誇り高い、シシリアの男達ですから」
ふと老人達の方を見る。皆が協力して、傷に障らぬよう、新たに傷めぬように丁寧に、だがしっかりと老人の身を清めていた。生き生きとして、とても尊い光景であった。
「ありがとうございます」
淑女の礼を一つ。
最初は失望した。怒りも湧いた。だが、どうであろう。彼等は皆、素晴らしい人達ではないか。
人は、人の想いは、例え薄れ、忘れようとも、失う訳ではないと、彼等が教えてくれていた。ならば、自分も頑張るしかない。
「素材は充分です。後は私の腕だけでしょうが、皆が頑張っているのですから、負けられませんね」
「女神様、一体何をされるおつもりで? ……失礼。俺の名は、三面犬、チャク家流拳法ムンライといいます」
禿頭の、目を瞑ったままの男性ムンライが問いと共に名乗りをあげた。
「ムンライ様。私はアンナ。カターニアのアンナです。そのご質問への解答なのですが、霊薬、それも身体に負担が少なく滋養のあるモノを作成するつもりです。現状の材料ですと、エリクシールの劣化物までなら、なんとかなりそうですね」
「ほう。錬金術の心得までおありとは、大変素晴らしい。このライトニング、心より感服いたしますぞ」
「えへへ。私、見ての通りで子供ですから、無資格なんです。治癒と一緒で本当はいけない事なのですけど、非常事態という事で、目を瞑ってくださいね。どっちも、秘密ですよ」
そして、アンナは霊薬作成をする為に動き出す。最初に行うのは素材の選別だ。
「待たれい!」
「え?」
だが、静止の声が入る。ムンライだ。彼の声は重厚で、なかなか身体に響いた。
「女神様。そのお召し物のままでの錬金は、推奨致しかねる」
アンナは自分の服を見る。血や体液、汚物に塗れていてとても清潔とは言い難い。ぶっちゃけ、とても不潔であった。
錬金術は清潔な環境で行わないと望む結果を出しにくい。性能を度外視すれば環境に気を使わずとも済むが、それでは意味がない。
特に直接素材を触れる術師自身に余計な不純物があると、失敗の危険が高まる。
アンナは諌めてくれたムンライに深く感謝した。
目を瞑ったままなのに汚れが判るなんて凄い。もしかしたら、凄い糸目の人なのかもしれない。
糸目の人は目を開くと、凄い力を発揮するのだ。リーナの絵物語でもそういう人が出てくる。
アンナはとても頓珍漢な方向から、ムンライに凄味を感じた。
「ありがとうございます。ムンライ様。錬金術の基本を疎かにするところでした。ご忠告、感謝致します」
そう言ったアンナは、服を脱ぎ出した。
慌てて三面犬の面々は頭を伏せる。幼女とはいえ女性の着替えを直視するなど、紳士的な彼等には度し難い事であった。
なお、アンナはまったく気にしていない。
冒険者なのだから外でも着替える。
家の中以外ではずっと監視が着いているので、見られている感覚には慣れきっていて、とても無頓着であった。
「もう。皆さん、気を遣い過ぎですよ。子供の下着なんて見ても何もありませんし」
そして下着姿となったアンナが苦笑する。
上下お揃いの蒼い下着だ。幾重にも織り込まれた生地に、可愛らしい花のフリルが付いている。
胸の真ん中辺りには、大きな蒼い薔薇の花を模した飾り。腰骨の辺りにも一つずつ、同じ飾りがついている。マリアの選んでくれた下着だが、アンナも勿論気に入っている。
首からはブリーシンガメンを下げていた。太腿や手首足首に巻かれた装飾品も術具であった。
脱いだ服や靴は、近くに置いてあった紙袋に仕舞っておいた。
ご自由にお使いくださいと書かれていたので、ありがたく紙袋を頂く事にしたのだ。
アンナが服を脱いでいる間、ハァハァと息を荒げるムンライがうるさかったが、気にしない事にしていた。
この頃のアンナには、あまり下着を見られる事に頓着がなかった。
彼女がその恥ずかしさを意識するようになったのはこのおよそ四月後。リーナによる、下着と閨についての講義を聴かされてから後の事である。
「顔を上げて下さいって。素材、選べないじゃないですか」
ちょっと不機嫌になって言うアンナの声に男達は頭を上げる。あくまでも仕方なく、命令だからであると己が魂に言い聞かせて。
だが、顔を上げてアンナを視界に入れた男達は鼻血を大量に吹き出し再び跪く。そして額を床に擦り付けた。
口々に勘弁してください。恐れ多い。などと言いながら、またもや頭を下げてしまう。
なお、ムンライだけは顔を上げる前から鼻血を吹き出していた。さっきうるさかったのは、そのせいだろう。口呼吸はうるさくなりがちなのだ。
しかもそれは三面犬の面々だけではない。老人介護をしていた面々や担架を作り終えた者達も、それに連絡係や保冷箱の持ち主まで。
つまりは十名全員が、大量の鼻血を吹き出したまま跪き、何故だかアンナに許しを請うた。
彼等が見せられたモノは神々しいまでの美幼女の、下着一枚に幾つかの装飾品を着けただけのあられもない姿であった。
アンナは彼等にとっては女神様と呼び、崇拝する幼女である。
度し難い変態であるロリコン達には刺激が強過ぎたのだ。




