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揺籠の島で揺蕩う少女達。  作者: カズあっと
5章 夏の祭典。
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50話 行列へ驚き、夏の祭典の思い出。


 所変わって冒険者組合カターニア支部前であるが、長蛇の列が出来ている。

 そこに行儀良く並ぶのは筋骨隆々で悪相の大男や、華美な装備を纏った気障ったらしい青年。

 妖艶な雰囲気の美女も居れば、落ち着いた感じのふくよかな女性も居た。

 実に様々な数多くの人々が冒険者組合へ入る為に並んでいる。


「ほわぁ……」


 ポカンと口を開けて呆けてしまったアンナであった。

 彼女はここまで混み合う組合など見た事がない。セレーナからの道中、途中までは張り切って先導していたアンナだが、歩幅の差からやがて並ばれて、辿り着いた頃には逆にマリアに手を引かれていた。

 マリアは成人女性としては小柄だが、アンナも子供としても小柄である。結果的には結構な体格差があった。


「お祭り好きが多いようですね。ノエミちゃんの緊急依頼の情報は、どうやら間違いないようです」

「ほえー」

「こら。はしたない。お口が開きっぱなしでごさいますよ」

「おっと。少々驚かされましたが、なんの、この程度の行列。私には、リーナお姉様達と共にオーガスレイヤーズブレイドの作者直筆限定サイン入り最終巻を入手した実績があります。あの時の試練に比べれば、こんな行列、モノの数ではありません」

「貴女達、そんな事してたのね……」


 オーガスレイヤーズブレイドは去年から大人気となっていた絵物語だ。アニメーション放送もされていた。

 堕ちた鬼人族であるオーガから人知れず人類種を守る為、日夜悪意と闘う鬼人族の若者達を描いた絵物語であった。

 その最終巻を記念して、夏の祭典で販売されたのが作者直筆一人一冊限定サイン入り版だ。

 購入者にはその場で作者直筆で登場人物が裏表紙に描かれる。

 これはそれぞれが唯一品で、リーナの蒐集家魂を大いに刺激した。友人達を誘う。行かないかと。

 文化を尊ぶレベッカも乗り気となり、ノエミは取り敢えず流行に乗っている。ミリアムも上手く乗せられて付き合いで参加した。アンナも誘われて、一緒に購入の為に並ぶ事となった。

 何故ならオーガスレイヤーズブレイドの主要登場人物は五人おり、推し文化によりそれぞれに固定ファンが着いていた。

 リーナは作品自体を推す箱推しだ。一つに絞れず、五つあればその中から選べるだろうと目論見、四人を誘ったのである。

 掛かる費用は全て、リーナ持ちである。お金持ちのお嬢様、ここに極まれり。

 オーガスレイヤーズブレイドの版元はシュペー社なので両親に頼めばどうにでもなりそうなものだが、リーナはそのような真似はしない。

 欲しい物は自らの手で手に入れてこそ。という、武人肌で潔いお嬢様であるからだ。


「後に聞いた話では、限定版は十万部以上売れたそうです。実に長く苦しい闘いでした」


 本当に長く苦しい闘いとなったのは実の所、作者である。

 何せ、十万冊分も絵を描いている。後日、作者は筆を持てない程の腱鞘炎となった。連載終了して、休養期間でなければ大惨事であった。


「闘いですか? 長いとはいえ、単に行列に並んでいたのではなくって? 例えばこのような感じの」

「マリア。真夏の陽射しを甘く見てはいけませんよ。それに行列は一度抜けてしまうと、最後尾に並び直さねばなりません。補給の為に列を抜ける行為は愚策です。レーナお姉様からの教えによると、祭典の参加者の多くは孤高を愛する、謂わば一匹狼達です。祭典を甘く見た準備不足の者や、体力不足の者から脱落していったそうです」

「大変なのね。貴女達は大丈夫だったのかしら? 去年の夏場に、アンナお嬢様がひどく体調を崩されたような記憶はないのですけれど」

「その点、私達には抜かりはありませんでした。リーナお姉様は春夏冬の祭典それぞれを、全て経験していらっしゃる古強者。補給は充分用意していて、対策は万全でした。……あ、四季のうち秋にだけ祭典を行わないのは、ヤボンの言葉で『あきない』は『飽きない』と『商い』に通ずる語呂合わせらしいです。祭典の末永い継続と、商売繁盛を祈っての語呂合わせらしいのですけれど、中々粋で、お洒落な発想ではありませんか」


 そうなのね。と、相槌を打つマリアであった。アンナの言う祭典は伝統的な儀式ではなく、数年前から始まったものだ。

 有志達が手製の創作物を持ち寄り、売買する為の一時的な市場であり国家と行政の許可を得て行われる。

 謂わば公認即売会場であった。

 会場はシラクザに建てられた大規模展示場である。

 マリアも興味がない訳でもないのだが、行った事はない。


「それで、どうして苦しい闘いになったのかしら。補給は充分で、経験者の引率でしょ?」

「それを語るには、私の軽率な行動を語らねばなりません……」

「叱られるようなことかしら?」

「誓って、主や名に恥じるような行動ではありませんよ。ただ少々騒ぎとなってしまったので、もう少しやりようがあったのかと」


 祭典の参加は応募制で、一人から複数の参加が認められていた。特に制約のない一人参加と、団体割引の適用されるものであった。

 この両者、実は扱いに多少の差があった。

 単体参加は基本的に自由である。

 一人で祭典を周り切るのは不可能だろうが、事前の下調べがあれば、求める物くらいはなんとでもなるだろう。

 一応は転売対策として、一人一品の購入となっているものの制約はそれ以外にはない。

 そしてリーナが応募した団体参加であるが、こちらも事前申請分の人数を上限としての一人一品である。

 割引以外は一見条件は五分なように思えるが、隠れた利点があった。

 基本的に列に並んだ場合、一度抜けてしまえば最後尾に並び直さねばならない。

 だが、団体ならば過半数が列に残っている場合、他が抜けても元の位置まで戻る事が許された。

 それはこれまで十回以上開催された催事における参加者達による暗黙の了解だった。


「この暗黙の了解を利用した私達の継戦能力は、非常に高いものでした。お花摘みや補給へ誰かが一度抜けてしまっても、順番は確保されます。このような素晴らしい戦術を思い付いたのは、レーナお姉様です。盤面に上がる事なく、お姉様は私達にこの策を授けられたのです。まさしく名軍師とも呼べるでしょう。戦争は始まる前に終えるべし。まさしく金言かと。そもそも……」

「はいはい。レーナちゃんの素晴らしい戦術はわかりましたわ。それで、その素晴らしい戦術を用いた貴女達、いえ、その中でも貴女は、一体どのような失敗をしてしまったのかしら?」


 アンナが脱線しそうになるのをマリアが嗜めて、強引に軌道修正を施した。

 この娘は好奇心旺盛な上に思考そのものを愉しむ癖がある。その為、往々として会話が脱線するきらいがあった。それをよく知るマリアである。実に簡単な誘導だった。


「そうでした。私たちの作戦は完璧でした。ですが、それは他の参加者達を無視し、作戦の遂行のみを目指していればの事でした。先程、祭典の参加者の多くは孤剣を恃む、誇り高き求道者達であるとも説明しましたよね?」

「そこまで、大袈裟な表現ではなかったと思うのだけれど。確か、単体参加の方々が多かったのよね」

「はい。彼等は衆を頼まずに、己自身の力のみによって、列に並んでいたのです。しかも初日からの参加者も多く、酷暑は耐え難いものでした。やがて前の方に並んでいた一人が疲労により体調を崩し、倒れました」


 これだけ言えば、マリアは察してくれるだろうと、アンナはチラチラとマリアの顔を盗み見る。

 実はこの時の話、アンナはマリアへあまり詳細を伝えたくなかった。詳しく知ってしまえば、恐らくマリアは怒る。

 それも、アンナや姉貴分達ではなく、祭典主催者や、他の参加者達に対して。


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