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揺籠の島で揺蕩う少女達。  作者: カズあっと
5章 夏の祭典。
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49話 ある意味での仮定。そして組合へと向かう母娘。


 読まれたいし、感想なんかも……。

 一話で切られてしまう辺りも、作者のダメな所が詰まっていそうですが、書きたいものを書きますね。

 ダメな所とか、教えて頂けると嬉しいです。



「うーん? 良いんですかね? 自分で言うのも何ですが、あまり筋道立った理論ではありませんよ。感情的な要素が強いというか、普遍性がないというか。もしかして今日のマリア、私の事を甘やかしてます?」

「いいえ、いいえ。そんな事は、滅相もございませんのよ。お嬢様。……でも、そうね。アンナに初めて花丸を贈った日の出来事は、覚えているかしら?」

「覚えていますよ。日付はあの方の命日ですし、初めてマリアに認めて貰えた日です。それにドゥラータさんともお友達になった日ですからね。忘れられる筈はありません」

「あら、お利口さん。ご褒美に、本当はもっとお勉強をしてから学ぶ事なのですけど、特別に教えちゃいます」


 マリアが微笑んで、アンナは姿勢を正す。

 何故だか近くの席に座る若者達が手帳を取り出し、ペンを持つ。

 彼等のテーブルには教科書や参考書などが重ねられているので、学生なのかもしれない。


「まず、アンナの仮説がそれ程的外れでない事は、あの日の貴女自身が、証明していますね」

「ほぇ?」

「あら、うっかりさん。納得の工程が、必ずしも必須ではないと仰ったのは、お嬢様ご自身でございますよ」

「それは、レベッカおねーちゃんの交信が上手くいくようになった事からの連想で、私にはそんな閃きなんて経験した事なんて……あ」

「はい。思い出せたのなら、結構です。貴女自身にもちゃんと、閃き。これは降りてくるだとか、噛み合っただとか、他に覚醒だとかとも言いますね。誰にも、そういった経験があるのですよ。その後、大抵の術師は無意識に行使するようになるので忘れがちですが、経験する事なのです。勿論私にもありますよ。多くの初等術式はだいたいそうですし。尤も、使えて当然になってしまうと意識の外へ出てしまうというか、詳細な記憶が抜けてしまうのは記憶に関わる脳機能によるものです。が、こちらの話は良いでしょう。語り始めると何日あっても足りませんからね。覚えていなかったり、忘却すること自体は自然な事である。そう思っていてくださって、問題ありません」

「だから、反復による学習が大切なんでしたよね。脳は忘れる仕組みを持っているから」

「そういう事です。逆説的には、日常的に使用されるモノに関しては、忘れにくくなる事にも繋がります。……言いませんでしたっけ、この手の話になると、何日あっても足りませんと」

「えへへ……」

「まぁ、良いでしょう。ともかくとして、貴女が突然使えるようになった狂化。そしてその時、どれだけ望もうとも使えなかった治癒。その理由はもう既にご承知ですね」


 はい。と頷くアンナである。あの日から、育ち、学ぶ中で考えた。何故、狂化が出来て治癒が行使出来なかったのであろうと。

 日常の中で、様々な術式が行使可能になると、その理由が見えてくる。

 術式。特に理術とは自身の持つ想像力の延長線上にある現象だ。

 経験を積めば行使し易いし、使い込むから自然と練度も上がる。

 術式を用いない素の技術においてもだ。その記憶は脳のみならず、肉体や魂にも刻まれる。

 狂化は身体強化系の術式だ。

 それらは肉体の効率的な動かし方や、鍛錬によって磨かれる。だがそれは術式の一例に過ぎない。


 一般的に信じられている学説によると、これら日常から積みあげたモノが高次元に届き、願いや想いなどといった幻想が現実として顕現展開する事を術式と呼ぶようになったとされていた。


「鍛錬と言える程のものではありませんでしたが、身体を動かすのはとても日常的なものです。呼吸の仕方や歩き方、走り方から跳び方など、特別に教えられる事なく無意識に日々の中で覚えていくものでした。幼い頃の私はあまり丈夫でなかったので、健康の為にとマリアやサルバトーレは身体を動かす遊びを沢山してくれました。それが良かったのでしょうね」


 そんな日常とあの時の想いが噛み合って、狂化という身体強化系術式でも高等術式が行使出来るようになったのだろう。

狂化(バーサーク)強化(ストレングセン)の最上位とされる。

 奇跡的な偶然でしかなかったが、その様な偶然からの事象を覚醒と呼ぶ理由でもあった。


「狂化は身体への負担も大きいので、ちゃんと強度を落として練習するのですよ。あと、もう少し身体が成長したら、肉体鍛錬や武道の時間も増やさなければならないでしょうね」

「お手柔らかに、お願いしますぅ……」

「そのご希望は、サルバトーレへお願いします。あの人ったら、いつからアンナと稽古出来るんだって五月蝿いのですから」

「私、死んじゃいません?」

「大丈夫ですよ。恐らく、半殺しで済みます」


 堪らずアンナはピエーんと泣いた。

 術式には多くの流派や系統があるものの、基本的には上位の術式が行使可能ならば鍛錬では下位術式は使われない。

 この下位、上位という区分。効果の複雑性により分けられている。

 強化は身体能力向上と身体構造の頑強化のみの効果であるが、狂化には精神干渉の無効化などの付加要素があった。

 強度に差はないが、消費される体内術力は上位のもの程多いとされている。

 体内術力は超回復の概念により消費が大きい程鍛錬には有用とされているので、下位術式を練習に使う旨味は薄かった。

 またこの思想から、訓練も負荷が高ければ高い程に見返りが大きいとされている。

 尤も、実戦においてはその限りではないのだが。


「それにしても、なんで強化でなく、狂化だったんですかね。ちょっと、そこがわかりません」

「アンナお嬢様は、恵まれておりますよ。本来高位術式は下位のモノを極めて、その後に習得の機会が巡ってくるのですから」

「とはいえ、腑に落ちません。正直な話、あの時まで私は狂化の詠唱なんて知りませんでしたからね。強化は練習していましたけど、結構違いますし」

「だから、降りるとも言われているんです。一般的な詠唱が、主や御使、神々のような高次元に存在する超越者へ捧げる言葉が多いのは、そういった方々の助力を得て、理外の力を得ようとする意図があるのですから」

「業が深いですよねぇ……」

「人類種の発展に、欲望は不可欠な要素ですから。もしもそれがお嫌なら、全ての者の幸福を叶える事です。やってみます?」

「理論上不可能な事は、出来ませんよぉ……」

「あら。残念」


 笑い合う二人。それが叶うのなら素晴らしいと思うものの、不可能であるとも判っていた。


「結局のところ、力量や練度は別として、私達が定義する納得するのに充分な条件は揃っていたのでしょうね。けれども、治癒はそうではなかったのです」


 少し寂しそうに言うアンナであった。

 あの時治癒が使えなかった事とその理由により、彼女は貪欲に知識や経験を求めるようになった。だからこそ続ける。


「恥ずかしい話なのですが、私はあの頃、傷が治る仕組みも、疲労や痛みが無くなる理由も知りませんでした。それなのに、結果だけを求めて治癒や回復の詠唱ばかりを求めていたのです」

「ええ。そうですよ。貴女の護りたい、癒したいという想いは大変素晴らしいものです。ですが、その想いとそれが齎す結果とは、まったく関係がありません。それを知らないからこそ、求めた結果は訪れない。癒師や医師への道は、知る事で始まります」


 術式はその結果へと至る過程を理解していなければ展開しない。

 身体強化系の術式は運動を元にしており、日常の中で用いられる理の延長線上にあった。だが、治癒などは違う。


「そうですね。人体の構造や、成分の特性などを理解していなければ治癒術式は発動しません。あの時、それらの知識が無かった私には行使出来る筈もありませんでした」

 文明の昇華の中で治癒術式と一言で表されてしまったものであるが、実の所複数の術式の組み合わせによる高等術式である。

 現代でも業としての治療行為が認められた医師や癒師は、難関国家資格であった。


「ええ。治癒には多くの術式効果が用いられます。いくつか例を挙げれば、状態を見極める見診、雑菌の繁殖を防ぐ浄化、切除や縫合の為の精巧な念動術式。痛覚を遮断、あるいは鈍麻させる効果のものや、細胞の再生を促す為の、対象を指定しての強化などです。行使出来るようになってしまえば容易く行えるものですが、その為には人体に対する深い知識と様々な経験が必要となります。構造を理解した上で、化学的な反応を知っていなければなりません。願いだけでは降りる事などあり得ないのです」

「未熟な術師への罠ですよね。術式が扱えるようになると、不思議な万能感が齎されます。そして根拠もなく、詠唱や祈りで想いに応えて発現するのだと信じ込むのです。なまじ、降りてくる、あるいは覚醒という奇跡的な成功体験があるだけに、これも使えるだろうと錯覚してしまう。私はその罠に、見事に掛かりました」


 当時、治癒の詠唱をアンナが知っていたのは教えられたからではない。

 術式詠唱辞典を読んで暗記していた為である。

 この辞典、術式効果と詠唱が一揃いで載せられていて、宿や休憩所などの施設には常備されている。

 彼女が読んだのは、向かいの温泉に置かれていたものだった。


「基礎術式など単純な術式はその高揚感から行使可能になるモノも多いので、そういった錯覚全てが悪い事ではありませんけどね。壁に行き当たった時に問題となるのは、出来ないという思い込みです。術式は便利ですが、繊細なものです。ささやかな感情の動き一つで発動が阻害される事も珍しくありません」


 自衛の為の知恵として、術式詠唱辞典は置かれている。

 詠唱内容と術式効果を知っていれば、まったく対応出来ないという事がないからだ。

 詠唱内容が判れば発動までの最短時間を計算出来るし、効果に応じた防御を講じる事も出来る。

 無詠唱術式や詠唱破棄、術式の展開維持をする相手などには無意味だが、前者二つであればそもそも対応など困難だし、後者の様な危険人物に近付く者はない。

 そういった事も含め、知識は旅する人々にとっては大切な財産であった。

 一般論でこそあるが、障壁展開のような防衛術式や生命力強化などを含む強化系の術式は人類種の生存本能に根差した欲求から発展したものとされている。

 その為、人類種との親和性が高い。強度を度外視すれば、無詠唱も難しくはなかった。

 展開に時を要する場合の多い殺傷性能の高い攻撃的な術式に比べれば使える者も多く、また効率的に発現させられた。


「そう考えれば、銃って厄介ですけど、心強い武器ですよね」


 かつてのロストール女王、エリス陛下により巨人族との争いの中で急速に発展した銃などの火器は、女王没後に各国で更なる発展を遂げている。


「工程が、通常の術式と比べて遥かに簡単ですからね。知識や技術も特別に必要としませんし、狙い、撃つ。の動作が出来るのならば扱えます。数を揃えるだけで、戦力の拡充も望めますので、戦争好き達には垂涎の品でしょうね」


 アンナの何気ない感想にマリアが応えた。

 平坦な表情と声音であるが、彼女の場合それが感情が平静である事を意味しない。

 感情が昂ると、平静を装おうのは彼女の癖だ。

 家の中ではそうでもないが、今の様に外出していると表れるものだった。

 公的な立場を取る時、マリアは従者として振る舞おうと努めている。

 アンナから見ても粗だらけなのだが、指摘はしない。頑張るマリアの姿が好きだからだ。


「戦争が嫌いなのは私も一緒ですが、道具である銃が、勝手に戦争をする訳ではありません。扱う者次第で、有用な理論も危険な兵器となる事を教えてくれたのはマリアでしたね。逆もまた、真也とも」

「失礼しました。少々取り乱しましたね。申し訳ございません。お嬢様」


 怒ったり嘆いたりするマリアは、嫌い……とはとても言えない。

 だが、とても見ていたい姿ではなかった。だからこそ、やんわりと嗜める。

 気持ちは伝わったようで、謝った後は、紅茶の香りを愉しんでいるようだった。

 記録や物語でない本物の闘争を知るマリア達には思うところがあるのだろう。

 その悲惨さ、不毛さを知る者達が平和を求め、表舞台に立っているからこそ、現在の大陸は平穏が保たれている。

 大人達の切なる想いを無駄にしない為には、知る事こそが必要だ。と、アンナは考えていた。

 理想など、叶うはずがない事は解っている。

 それでも、仮初といえども妥協といえども。

 全ての人類種が手を取りあい、平和を望む未来があると、信じていたかった。


「銃は恐ろしい武器ですが、同時に有用な自衛手段でもあります。この力が抑止力となって、暴虐な術師による犯罪が減った事は確かです」

「変わりに、銃を用いた犯罪が増えていますけどね。どうして力を持つと人は、残酷になれるのでしょうか……」


 目を伏せて嘆息するマリアに、アンナが返せる答えはない。

 事実であったし、解決策など思い付かないからである。

 エンナへの街道で起こる強盗は大抵は衆を頼み、銃による武装をしていた。

 護衛をする冒険者には力が求められる。現在は術師の方が優位で抑止力となっているが、技術の進化は驚く程に早い。

 今の関係性が逆転した時、どのような対策が講じられるかが今後の課題であった。


「まぁ、それを考えて実行するのが政治でしょう。私はただの街娘なので、巻き込まれないよう祈るだけです。話を戻しますが、私が治癒を行使出来なかったのは、知識と経験の不足、所謂ところの、お勉強不足でしたね。それをちゃんと教えて貰わなかったら、苦手意識を持ってしまって、今でも使えなかったでしょうね」


 なので棚上げして、話を戻す。

 お茶の時間に深刻なお話をしても仕方がない。『授業』は、楽しいものでなくてはならないのだ。

 楽しくなければ続けられないし、せがむ事もない。


「多分、そんな事はないでしょうけどね。しっかりと必要な知識を教えていれば、当時でも行使出来たでしょう。ただし、背伸びして詠唱だけを覚えて使えるかもと期待したのは、思い上がりも甚だしい事ですけど」

「反省していますって。でも、あの時の悔しさが、お勉強に対する意欲になりましたよ。マリアがちゃんと使えなかった理由を説明してくれたお陰です」

「それは、ちゃんとお話してくれたから、教えられた事ですけどね。まさか、古代語を読めるようになっているとは思いませんでしたもの。油断も隙も、あったものではありませんね」


 温泉に置かれていた術式詠唱辞典は古いもので、古代語で書かれている。古い書物は識字率が低かった頃の名残りで、絵物語形式であった。マリアはアンナが熱心に読む辞典を、それ程重く見てはいなかった。幼児ならば、絵物語などを読んで、文字を覚えてゆくものだ。

 ましてやアンナは言葉の遅い子であった。彼女はルクレツィアが身罷るまで、あまり言葉を発さなかった。

 その為今でも声帯は弱く、傷付き易い。当時のマリアは発育の遅れを疑い、気を揉んだくらいであった。


 アンナが言葉を良く話すようになったのはルクレツィア没後の事である。

 これは後に明らかになった事であるが、彼女は母が二人という状況に、どちらをどう呼べば良いのか決めかねて、声を出せずにいたそうだ。

 語彙が増えたおかげで、母を表す呼び名が複数あると知ってからはよく笑い、泣く子となった。

 それが三歳誕生日の少し後であるのだから、発育の遅れを疑うのも無理はない。

 通常、幼子は生後一年程度で不明瞭ながらも言葉を喋り出すようになる。

 マリアの心配とは裏腹に、よく似ているが、違うと認識が出来ていて、それでいて迷うというのは情緒や感覚の発達が充分であったからだろう。

 だが、それを当時のマリアが見抜ける筈はないし、アンナも何も主張しなかった。


「いえね。あの頃は貴女の身体も未熟だったし、成長の遅い子だと思っていたのよ。尤も、未熟だったのは私の方でしたけどね」


 だから、その後に多彩な術式を教える事もなかったし、身体を動かす為の術式を特に教え込んでいたのはせめて健康な身体にという想いからであった。

 幼子が文字を、しかも綴りや文法が現代文とは異なる古代語までもが読めるようになっているとは思う訳がない。

 マリアにとっても初めての子育てだ。思い違いや至らぬ点があっても不思議ではなかった。


「話を戻しましょう。理術における納得の段階は、貴女の言う通り、必ずしも必須のものではありません。因果を構築する為の想像力があれば、代用が可能です。本来、これを補う為の理論構築法を納得と呼んだのですが、学問の普及と共に省略、同化されました。現在、理術において術式発動の第二段階となる納得と名付けられた事象の本質は、この現実を侵食するに足る想像力を得る事です。また、脳自身が起こされた事象から逆算してその理論構築が行われるとされてもいます。閃きや覚醒と呼ばれる現象はこの働きによるものであろうと仮定されていますね。近頃の理術学派の中にはこの納得と、最終段階である説得を一つに纏めて干渉と表す者もおります。専門家の中にはこちらを好む者も多くおりますね」

「ちょっと難しいお話になってきましたね。でも、そうすると卵が先か鶏が先かのお話になってしまうのでは、ありませんか?」


 そうですね。と笑うマリアであった。

 この辺りの知識は学府で授かるものだと言う。

 学問とは、事象を普遍的に説明する為に体系化、理論化したものに過ぎない。

 このように、明白な回答が存在しない、あるいは複数存在する問題も数多い。それを突き詰めてゆくのが学問を続ける意義であるとまで彼女は言った。


「たしかに、閃きが先か、論理が先かへの解答は未だ結論されておりません。ただ、そのどちらをも否定せず、想像と理論構築に励むのは、とても愉しい遊美(あそび)ではありませんか?」

「まさしくそうですね。……ああ。そういう事ですか。マリア、誘導しましたね?」

「さぁ? 何の事でございましょう」


 鶏卵の例え話を先に持ち出し、口には出さなかった事だがアンナにはもう一つ別の疑問があった。

 納得が必要不可欠でないのならば何故、術式発動においては重要な要素とされているのかだ。

 マリアの教えでも大切な事と言い含められていたし、多くの書物でもそう記されている。

 それは理術だけでなく、様々な術式においてもだった。その解答は学問にあった。


「先人達は術式を技術として学問へ落とし込む為に、納得の概念を用いたのですね。それが最も効率よく理解に繋げる手段であるから。辿り着いてしまった事により起こった、理術における理解、納得、説得という三つの要素は一体のものであるという思想も、それらの不可分性を示すものとするならば、腑に落ちます」

「そういう事になります。言葉を理解し願い、現実に顕れるものだと信じ、そうあれかしと祈る。元は主の御技たる神聖術式の発現方法ですが、唯一神教の三位一体の思想は、様々な学問に影響を与えています。普遍性とは、そう決まっているとされているモノではなく、皆がそう願い、そうであって欲しいと信じる事だと私は思っていますので。ですから、アンナの理術における納得の解釈と脳筋術式における勇気への考察は花丸に値するものです」


 褒められて喜ぶアンナであった。それぞれの二つの氷菓子はすっかり無くなっており。飲み物も空となっていた。二人の議論は中々白熱していて、たっぷりと時間が経っている。


「良い時間になってしまいましたね。そろそろ頃合いもよいでしょうし、お話は一旦中断して冒険者組合へ向かいましょうか」

「おやおや。私の希望への考察は、後回しでも良いと?」

「ええ。後でまた、ゆっくりと聴かせて頂きますね。教えておかないといけない事も、沢山ありますので」


 上機嫌なままのアンナを放っておいて、マリアは近くいたレベッカへお会計を頼む。その際にレベッカは講義の予約を取り付けていた。親子は特に予定もないので歓迎している。

 彼女達にとっては四日間程暇であった。

 治療院でマリアの経過観察が予定されている。彼女の頭部検査とギックリ腰、そしてアンナの筋肉痛が癒えるまで、大人しくしておくつもりであった。

 本日の外出予定は青物の購入だけであったのだが、ノエミからの情報により緊急依頼を知った。

 どうせ暇なのだ。情報収集を兼ねて、冒険者組合へ顔を出してみようと、母娘の意見は一致していた。


「冒険者組合へは、手を繋いで向かいましょうか。また昔みたいに、猫さんに気を取られて迷子になると、大変ですからね」

「いいのっ!?」


 顔を輝かせて声を上げたアンナだが、周囲の視線に気付く。見られている。思い切り視線を集めていた。

 突然子供が叫んだのだから、何事か思って注目を浴びるのは当然だと彼女は思った。

 恥ずかしかったので、何とか取り繕う。


「……コホン。良いでしょう、マリア。貴女はまだ本調子ではありませんからね。私が手を引いて、組合まで案内しましょう。転んだりしたら、大変だからですよ」


 やけにはっきりと、声高に言うアンナであった。具体的な説明を聞かせれば、周囲の人達に変な疑いを抱かれる事はないだろうとの目論見だった。

 マリアはまだ腰が痛む筈なので、うっかり転んでしまうかもしれないと自分に言い聞かせて宣った。

 大変浅はかである。


「あら。光栄でございますわ。アンナお嬢様。それでは冒険者組合へのエスコート、宜しくお願い致しますわ」

「お手をどうぞ。スィニョーラ。ご案内致しましょう」

「あらあら。素敵な騎士様ですわね。ありがとうございます」


 会計を終えたマリアは優雅に淑女の礼を一つして、アンナが差し出した掌を握る。

 アンナは凛々しいつもりの表情で、その手を引いて歩み出す。

 マリアも歩幅を合わせてくれて、静々と続いた。

 アンナは勇ましく、堂々とした足取りを意識して、パーラー・セレーナを後にした。

 なお、アンナは背伸びをしないとセレーナの扉に手が届かないので、気を遣ったレベッカが開けてくれた。お礼に小さく手を振って挨拶代わりとする。

 ニコニコして手を振り返してくれた。嬉しかった。

 店内で爆笑しているノエミはツーンとして無視しておいた。とても心外であるからだ。

 ノエミがこれ程笑い転げる姿など、フェリシアさんの口上以来である。

 スギノコ派の同志であるのだが、一緒にされているようで、ちょっとだけ抵抗があったのだ。





「もー。アンナちゃん、ちょっと拗ねちゃってたじゃん。一生懸命で可愛かったじゃん。何がそんなに可笑しいのよ」

「うむ。とても良い物だった。だが、別に可笑しいなどとは思ってないぞ。最近、私はレーナお姉様の薫陶により、萌えという概念に目覚めたのだ。それが直撃してな。萌え転がっていただけだ。美少女とは、良い物だな……」

「めっちゃ、笑顔だったじゃん。あんま巫山戯た事ばっか言ってると、リーナにぶっとばされるよ。……お姉様?」

「心の師と慕うお方だ。敬意を持って呼びたいだろう? 最初は師匠と呼ぼうとしたのだが、嫌がられてな。お姉様の希望から、そう呼ぶ事にしておいた」

 コイツはもう駄目だ。と、レベッカは諦めた。

 ノエミはどこまでも欲望に忠実な女であった。

 それに百戦錬磨のレーナが燃料を注ぐのである。

 延焼しないようにするには、距離を取る事こそが正解だった。

 幸いノエミは熱しやすく、冷めやすい性質だ。

 放っておけば、そのうち飽きるだろうとレベッカは思っている。

 彼女が師匠認定した人物はこれまでに実在、架空を問わず、両手両足を合わせた指の数よりも遥かに多くいた。


「うーんっしょっと。良い物見たし、今日も一日、良い日になりそうだねー。もうちょっとだけ、頑張りましょっかねー」


 大きく一つ伸びをして、レベッカはそう独言る。

 奇しくもその言葉は、この時セレーナに訪れていた客達の想いと一致するものであった。


 今日も大繁盛中のセレーナは、いつも通りの穏やかな喧騒に包まれている。


 愚痴っぽくてごめんなさい。別作ですが、筆者の良くない所とか教えて貰えてとても勉強になりました。物語って難しいですね。二人でも、読んでくれている事を願って。一人は筆者です。好きなんだけどさ。

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