44話 リーナとガリアの姫君。
「黄金の左であらせられるガリア王妹殿下は、リーナお姉様の憧れのお方でしたっけ」
「憧れも何も、拳闘界では生きる伝説よ。あの方のお陰で、ウチ達にもリングという舞台に登る権利が与えられたようなものだもの」
リーナは得意気だ。拳闘を嗜む女性にとって、黄金の左は特別な存在だった。
「有名な話だよねー。学府にいた頃。片っ端から各階級の拳闘王者をのして回ったんだっけ」
「そうね。その頃はまだリングは女性に解放されていなかったんだけど、あのお方のご尽力により、女性の拳闘参加が公式に認められるようになったわ」
「でも、それだけじゃないだろう? お前が子供の頃に海神の眷属に誘拐されかけた時、助けてくれた恩人が彼女じゃないか」
「貴女も子供の頃だけどね。それに、アレは海神様の眷属を僭称する不届者達の偶像よ。間違えてはいけないわ。主の盟友たる海神様が無法を許すことなど、ありえませんもの」
海神はシシリアを囲む四つの海。総じてマルメディテッラネオと呼ばれる海域に棲む超越種だ。
シシリア近海の温暖な海が気に入っているのか太古より顕現し、時折海上へ現れては大潮を噴き上げている。
普段は海底で眠りについているがこの大潮、大地に恵みを齎し、精神に安寧を与える権能があった。
これにより、幾度ともなく島内の騒乱が収められている。その姿は体内に幾つもの異界を内包する巨大な鯨で、夢見る鯨とも呼ばれていた。
「でも、海獣達は海神の眷属だろう。意思疎通の難しい怪物共など、何を考えているのかわからんぞ。大体、超越種なんてモノが私達に都合の良い存在な筈がない」
「らしくないねー。ノエミ。そんなに超越種達が嫌い?」
「別に嫌いな訳ではないが、彼等は文字通りに人智を超えた存在だ。警戒し過ぎて、し過ぎという事はない。リーナの言うように、私達人類種の中にも彼等の権能を利用して、悪巧みする輩がいるからな。あの蛸烏賊の時のように」
フンと鼻を鳴らすノエミであった。現実主義者の彼女には、リーナ達のように主や超越者達を篤く信仰する者の気が解らない。
確かに多くは善性であるが、気まぐれ一つで都市一つが全滅する事すらあるのだ。
意思疎通の取れる相手でも慎重な対応が求められるのに、海神などのようにそれが出来ない相手を無条件で信仰する事など、信じ難い暢気さだと思っている。
「あの頃は未熟だったわね。蛸烏賊程度に遅れを取るなんて、屈辱よ。今ならあんな醜態は晒さないわ。アンナ。アンタも海に行ったら、気を付けなさいな」
蛸烏賊というのが当時のリーナを拐かそうとした主犯であった。
海中に棲まう彼は九つの頭を持つとされる龍にして、軟体の怪物である。
九頭竜とも呼ばれる超越種であるが、鯨と比べれば与し易い。旧支配者と尊称されるものの、独自言語による意思疎通が可能で、大変な女好きであるからだ。リーナを拐かそうとしたのは彼で、目的は花嫁選びであった。
彼は女の中でも、殊の外幼い少女を好む。
「ク・ルッフ様ですか。そういえば、去年、私も襲われた事がありますね」
「ちょっと! 大丈夫だったの!?」
「ええ。トトが頭を一本落としてくれました。なんでも、流れの料理人さんと協力したそうです。私はお逢い出来ませんでしたが、料理人さんのお料理は、とても美味しかったです」
「あー。あの料理人ね。ウチの時も来たわ。あの時は二本落としてたから、今では六頭龍様なのかしら?」
「この前にビーチ特集がやってた時は、九頭竜だったよー。もう再生したんじゃない?」
アンナとリーナが、ぐっと拳を握り込んだ。
ク・ルッフの脚は八本有り、それぞれに捕食用の口が付いている。この触手が龍の頭に見える為、九頭竜とも呼ばれているのだが、この触手。毒性があるものの、大変な美味である。
専門の料理人の手に掛かれば毒性も消え、万病に効く薬膳に変わるので、かつては珍味を求める貴族達が狂おしいまでに求めていた。
ク・ルッフは海中の有害物質を主食とする為、現在では彼を信奉する宗教団体や環境保護団体の苦情により、州法によって討伐が禁じられている。ただし、自己防衛などの緊急時だけは許されていた。
尤も、海辺の夏祭りで水着姿の幼女達を踊らさせれば彼は自ら触手を切り落とし、陸へ遺してゆくので高価であるものの、まったくの入手不可な訳でもない。
彼とシシリアの人類種達は、緩やかな共生関係にあった。
なお、海が綺麗でないと触手の再生は遅くなる。
近年の大型船は重油を用いた内燃機関を搭載している事が多い為、海水が汚れ、再生が遅れている事が問題視されていた。
「最近の州政府は、観光資源としてのシシリアの自然も重視しているからね。報酬も良くて、私達は大助かりだよ」
「自然を大切にするのは、とても良い事だと思います」
「だよねー。大体さ。リーナが誘拐されかけたのだって、大量のお人形を、海に流そうとしたからでしょ? 悪いのは、リーナだと思うんよ。アタシは」
「う。反省しているわよ」
頬を膨らませてそっぽを向いてしまったリーナにレベッカが含み笑いをしている。
アンナは気になって、何があったんですか? レベッカおねーちゃんと問い掛けた。
「この子ねー。あの頃レーナさんの絵物語に影響されちゃっててさ。大量のお船の模型と、お人形を集めてたんだよね」
「あー。そういえば、海賊ものだったか。そういや、なんで態々海に流そうとしたんだ?」
「そんなの、知らないわ」
ツンケンして言うリーナであった。ノエミは肩を竦めるが、レベッカは事情を知っているようで、ね。アンナちゃんも知りたい? などと尋ねてくる。当然アンナは頷いた。
「その絵物語。病弱な女の子が死期を悟って、お別れとして海に流したおもちゃの海賊達が意思を持つ所から始まるの」
レベッカの言うところ、このおもちゃの海賊達が世界中を冒険する物語のようだ。
病床で死を待つばかりの女の子が手紙を書く語りと、海賊達の冒険譚が交互に描かれているという。
海賊達はその旅路で様々な艱難辛苦に出会い、やがて万病を癒すとされる秘宝を少女の元へ持ち帰る。
彼等は紆余曲折の果てに人類種となっていて、素敵な青年となった主人公格の船長と病が癒えた女の子が結ばれて、めでたし、めでたしという筋書きであった。
「んで、この子。このお話が現実にならないかと思って、実行しようとしたんだよねー」
「若気の至りよ」
「いやさ。それが船一艘とかなら、まだ可愛いもんだけどさー。幾つ集めたんだっけ?」
「……百よ」
「んー? 聞こえないねー。何百なのかな?」
「八百よ! 仕方ないじゃない! 絞れなかったんだから!」
テーブルに突っ伏すリーナを尻目にレベッカが懇切丁寧に説明してくれた所に依れば、当時のリーナは欲張りで、様々な物語の主人公達が人類種になってくれたら。と、夢見たらしい。
その為に、多くの船の模型や人形などを掻き集めていたそうだ。
お小遣いで購入した物や両親や姉にねだって手に入れた物だけでなく、学園の課外活動である廃品回収にかこつけて各家庭を回り、不要となった玩具や人形を頂いていたという。
そうして集めたのが、あわせて八百艘の船に乗せられた大量のお人形達であった。
「あー。あの大荷物、それだったか」
「あれ? ノエミはあん時、お人形の衣装造りとか頼まれてなかった? 何も気付かなかったん?」
「ああ。頼まれてたぞ。我ながら、良い仕事をしたと思ってる。人形は文句も言わずに服を着てくれるのが、素晴らしいな」
「ノエミおねーさんは衣装造りが、本当に大好きなのですね」
当然だと胸を張るのは黒髪紅目の綺麗な女。ノエミであった。
「んで、リーナが海に大量の不法投棄をしようとしたのを見咎めたのが、海を汚すなーって怒り狂った漁師達って訳なのよー」
栗毛の愛嬌のある美人レベッカが言うと、机上にて突っ伏していたもう少し明るい髪色の可憐な美少女であるリーナも顔を上げる。
「彼等も見掛け倒しだったわね。海の男を自称する割には、鍛錬が足りてなかったわ」
「こらー。あんまり失礼な事言わないの」
嗜めるのは侍女服姿の溌剌とした美女クーナであった。
この中では唯一の成人で、最年長者でもある。若い娘の心得違いを正すのは常識的な判断だった。
漁師である海の男達は恵み齎す海を汚さんとする不届者を止めようとリーナに殺到した。
年端も行かない少女であるからして、取り押さえるのは簡単だろうと思っての事である。
海を愛する彼等にとっては、大量のゴミを捨てられては堪ったものではない。
だが、相手が悪かった。
リーナはこの頃既に拳闘で頭角を現し始めており、次の大会に出るつもりで修練を積んでいたのである。
この為、掴み掛かろうとする大人の男達を躱し、反射的に顎へ拳を叩き込んでいく。
男達も仲間を呼び集め、これに対抗しようとした。
倒れ伏す男達の数が五十と少しを超えた頃、海より巨大な影が迫っていた。
そしてとうとう、倒れた男達の数が百を超える。
リーナに襲い掛かる者はいなくなったが、長時間の無呼吸運動により、流石に彼女も疲弊していた。
呼吸は荒く、素手で顎を打ち続けていた為、拳も痛めてしまっている。
そこに海中から立ち上がり銛を投擲し、リーナへ襲い掛かる巨体があった。
感覚が研ぎ澄まされていたリーナは間一髪鋭い一撃を躱し、銛の軌道を逸らし海へと落とす。
更には一撃を加えようと一歩踏み込むが、その巨体に唖然としてしまう。
彼女が見た銛の投げ手は、海岸に建つ三階建ての宿泊施設より大きな、巨大な体躯の魚人であった。
緑色に輝く四肢は人に似るが、それらには鱗や水かきがついている。顔は魚類然としていて、無機質な瞳と鋭い牙、そして角を備えていた。
魚人と呼ぶが、彼等は人類種ではない。海に棲まう海獣の一種であり、海神の眷属ダガン種だ。
彼等は人類種に友好的な怪物で、海洋を行く船や航海者などの守護獣でもあった。
現れた彼は友である海の男達の窮地を救う為に、陸へと上がったのである。友情の為に。
陸上では運動性能が著しく制限されるダガンだが、例え陸上でも巨体と膂力は脅威であった。
リーナは獰猛な笑みを浮かべ、ニイッと口角を吊り上げる。この時彼女は面白いと思っていた。リーチの差は絶望的で、拳は巨体を貫ける程のコンディションではない。
そもそも、通常の拳打では筋肉と脂肪の比率が理想的に仕上がって、鱗で覆われたダガンの肉体には効果が薄いだろう。
だが、ダガンは急所を曝け出している。
頭部の角。人類種における額の位置から生える触角だ。彼等は頭部の構造上、正面を見る事が出来ない。
それを補う為の触角だが、これは鋭く硬いが肉はなく、横からの衝撃に対しては他の部位に比べて脆い。
海中では探知と共に水の抵抗を斬る為に有り、またその抵抗によって傷付く事は滅多になかった。
だが、陸に上がっているのならば話は別だ。
彼等ダガン達は触角を折られると、平衡感覚を失う。海中では問題ないが、陸上で、それも立ち上がっているならば、致命的な弱点だった。
リーナは闘争の予感への悦びと、謎に自分へ襲い掛かってきた男達だが、身動きの取れない彼等を守護らねばならぬという義侠心に依って、ダガンの上陸を阻止せんと心を堅めた。
例え人類種に友好的な怪物であっても、怪物は存在自体が暴力である。
ただそこに居るだけ、動くだけでも力弱き者には脅威であった。
ましてや意識を手放した者には致命的でさえある。
その怪物が、明確な敵意を持って自分と対峙している。滾らぬ筈がない。
狙うのは、巨体を駆け登ってからのフックだ。必要なのは繊細で、迅速な足運びによるフットワークと一撃の重さであった。
リーナはリズムを刻みながら身体を揺らし、拳を堅めた。
幸いにして、上着こそ羽織っているもののリーナは水着姿である。
泳ぎは達者だ。触角を折った後、海へ放り出されたとしても、余程深くなければ溺れはしないだろう。
注意すべきはダガンの自己防衛の為の攻撃だ。
陸上では運動性能が低下すると言っても、それは海中と比べての事だ。
怪物としてはやや鈍重であるものの、それでも速度性能は野生の猿や山猫に匹敵する。油断ならぬ大敵であった。
一歩、二歩。ダガンは陸上目指して歩む。
海面が膝下の高さとなった時、リーナは駆け出し、そして跳んだ。
着地したのは少し突き出たダガンの腹部だ。この場所から、人体で言うところの正中線上には鱗がない。
もしも鱗があったならば、サンダル履きの彼女の足はズタズタに切り裂かれていただろう。ダガン種の鱗は、牙のように硬く鋭い。
着地の衝撃がリーナの身体を抜けた。
彼女にとっては全身を震わす程の衝撃だったが、ダガンにはそうでもないのだろう。掌を広げてリーナの着地した辺りをバシリと叩いた。蚊を潰すような気軽さで。
この時リーナは既に駆け出している。垂直方向へ向けてであった。
真っ直ぐに、ダゴンの頭部、触角を撃ち抜く為に最適な場所、鼻面を目指して。
そんな彼女を追うように、バシリ、バシリと我が身を叩いていくのはダガンである。だが、その動きよりもリーナの方が僅かに疾い。
彼女は駆け登る。怪物の正中線上を。
リーナが巨大魚人の鼻面へ辿り着くと、ダガンは小煩いとでもいうように首を振る。
リーナはバランスを崩さない。どんな態勢からでも拳を振るえるように、鍛錬を重ねてきたのだ。
体幹と下半身の強さは彼女の強味であった。下半身が強靭であるからこそ、小柄な体躯であっても破壊的な打撃を繰り出せる。全ての武術の基本であった。
そして彼女は拳を振るう。駆け引きの必要はない。
ただ威力を求める渾身の一撃を。
ワン。右フック。ミシリと音が鳴るものの、触角は折れない。
鋼鉄を断ち、骨を砕く事も珍しくないリーナの拳だが、一撃では折れない。
ツー。身体の回転を活かしての左フック。まだ折れない。身体構造が根本的に異なる怪物だ。臓器すらも非常に堅い。
スリー。そして更なる回転を加えて、再びの右フック。ミシミシと、何かが砕ける音がした。
触角に、罅が入っている。その音だった。
同時に、彼女はもう一つの音を聴いている。自身の右拳が砕ける音だった。
——秋の大会には、間に合わないわね。
触角と共に平衡感覚を失って、海を求めて無意味に暴れ狂うダガン。彼によって放り出され、放物線を描きながら海上を飛ばされている彼女は、酷く無念そうにそう思っていた。
「海に放り出されるまでは、想定内だったんだけど。まさか、そこにク・ルッフと深き者供達までいるとは思わなかったわ。正直なところ、死んだかもって思ったわね」
深き者供は、ク・ルッフの信奉者を自称しているがその実、多くは陸地に居場所を失った溢れ者や犯罪者達、またはその末裔である。
ク・ルッフは神輿として利用されているだけに過ぎない。
彼等は一ヶ所に定住せず、船舶でもって海を放浪する。彼等は海での掠奪行為によって、生計を立てていた。所謂、海賊であった。
なお、ビタロサ近海を含むエウロペの海で最も有力な深き者供は、ブリテンの私掠艦隊である。
ブリテンは、海は主により齎された大いなる恵み。という思想を建前に、海運から始まる各種事業と海賊行為によって、列強と呼ばれる程に成り上がった国家であった。
各国も、海は治外法権というブリテンの方針に倣った。経済的に都合が良かったからだ。つまりは、大人の事情であった。
従って、各国が統治する陸地と比べると海の治安はあまり良くない。深き者達が大手を振って生きていられるのには、そのような事情があった。
「あの時は、大騒ぎだったんだぞ。お前の不法投棄を止めようとした漁師の皆様方が、なんでかわかんねーが、狂犬みたいなお嬢ちゃんが、ダガンに殴り掛かっている。助けてくれって叫び回っていたわ。アレって、結局どっちを助けてって事だったのかしらね?」
「そりゃ、可憐なウチの事に決まっているわ。あの後しっかりお詫びして、その後はダガンとも仲直りしたもの。彼等には拳闘部の合宿で、今でもお世話になっているしね」
でも、それは全部後の事で、漁師さん達はダガンを助けて欲しかったんじゃないかな。と思ったアンナであるが、口には出さない。
リーナが可憐な事は間違いないし、諺には、口は災いの元というものがあるのだ。古人に学べる賢い娘であった。
「まぁ。どちらでもいいがな。だがな、リーナ。忘れるんじゃないぞ。あの時、もしもガリアの王妹殿下がいらっしゃらなかったら、お前はク・ルッフの花嫁とされていただろう事を。それに、もしもク・ルッフがいなくても、海には深き者達もいるんだ。貞操の危険だってあるんだぞ。あの時は鯨が出なかったからなんとかなったものの、無茶や無謀の代償は、取り返しのつかない事もある」
「忘れないわよ。でも、貞操の危機は大袈裟ね。尤も、拳一つであっても海賊程度に遅れは取らないわ。とはいえ、偶然のせいで花嫁だと勘違いさせちゃったんだから、ク・ルッフには可哀想な事をしたわね」
ノエミによる、まったくの正論であった。
だが、リーナは三分の二を否定する。
彼女自身。本気で無力化は可能と思っているし、あの時の彼女は今のアンナと変わらぬ歳だ。
態々子供を相手に欲望を満たす物好きなどいないだろうと考えていた。
存外な耳年増でもある彼女は知っている。
各地、各街には、そういった欲望を発散する為の場所がある。
海賊の実入りは良い。税金も取られない。海上での行為は陸地では不問とされる為、彼等はそういうお店にとっては結構な良いお客様であった。
持て囃されるし、チヤホヤされる。気持ち良く金を使わない筈がない。そして更に良い扱いを受けるのだ。
つまりは永久機関であった。実はこのような商売、大体が国営か、国家の許諾によって営まれている。無法によって奪われた財をこのような形式で回収するのは、歴史の中で自然に育まれた各国の知恵であった。
リーナは態々嫌がり、抵抗するただの幼女を相手にするよりも、そのような場所へ赴いた方が余程満足出来るだろうという完璧な理論武装をしていた。
結局のところ、彼女も人の悪意や業の深さをあまり知らないお嬢様であった。レーナが心配するのも無理もない。
とはいえ、彼女も三分の一は反省し、しっかりと受け止めている。
もしもあの日、偶々ガリアの王妹が拳闘の後輩を引き連れて海での合宿に来ていなかったなら、リーナはク・ルッフによって海の底へと連れ去られていただろう。
基本的にク・ルッフも、みだりに人類種に害なす存在ではない。ないのだが、この時の場合、例外であった。それは、この事件が起きた日と、例年行われている夏祭りの日取りが、非常に近かった為である。
沿岸部に長く続く風習で、恵みもたらす母なる海と安息を運ぶ海神、そして海を浄化する掃除屋でもあるク・ルッフに、日頃の感謝を捧げる祭祀であった。
海や海神は特に応える事もなかったが、ク・ルッフは非常に喜んだとされている。
その証明が、彼が自ら千切った触腕を置いて行く事だろう。
読まれたいし、感想とかも欲しい。自分の好きを詰め込んでるけど、面白くないんでしょうね。小説が上手くなりたいものです。




