31話 ヴァルキリー談義。
リーナから見て、アンナが集団動を苦手とするとは思えない。思慮深い子だし、観察眼もある。それに素直なので、とても可愛い。子供らしい頑固さや突飛さこそあるものの、情深く、優しい子であるとも思っていた。
だがそれが、同世代の子供達に簡単に受け入れられるかは別だろう。社会性の未熟な子供のうちは、傑出した者への忌避感があるものなのだ。それは半ば本能的なもの。突出と異物である事とを同一視してしまうのも、経験の浅い者ならばありがちな事である。そして、子供達は一面ではとても残酷なものだ。異物の排除に躊躇いがなかった。
リーナには、幼い頃からノエミとレベッカという友がいた。レーナの学園生活には、誰もいなかった。そしてアンナにも、いないであろう。そう思ってしまえばやるせなく、過去の怒りが再燃していた。
「残姉。あの盆暗共の、なんだっけ? 元宰相閣下のご令嬢と、その取り巻き共のアレ」
「フェリシアさん達の事ですか? だめですよリーナちゃん。良家のご令嬢に、盆暗とか言っちゃ」
「あんなん盆暗で充分でしょ。それよりも、あれよ。あの痛々しいアイツらの自称、頭悪い奴。頭空っぽなアレ、なんだっけ?」
「それは、『聖地へと舞い降りし麗しの乙女達、月と太陽に溺愛されし純潔なる永遠乙女。それは涙と笑顔の運命により殺戮に彩られし黄昏の美少女戦士たる愛の四女神、ことフェリシアと、その仲間達。ここに颯爽降臨!』の、ことですか?」
堪らずリーナはブフォぅと吹き出す。プルプルと全身を震わせて、バンバンと机を叩いた。
「それよ! それ! 残姉も、よく覚えているわよね! もー! さいっこうー! アイツら、馬鹿だけどセンスだけは、スッゴイもの持ってるわよね!」
「や、やめてくれ。そういうのは、ちょっと耐えられない……」
息も絶え絶えな様子で、ノエミもバンバンと机を叩いた。レベッカは何も言わずに俯いているが、肩が震えている。それに、平然としているように見えて、レーナの頬も紅潮して、ピクピクと震えていた。だが、アンナには何が可笑しいのか判らない。それで素直に、疑問を投げかける。答えがあるとは限らないが、疑問があれば尋ねるのが一番であった。
「それは、お祈りか、何かの詠唱ですか?」
ブフォと、最初にレベッカが決壊した。ノエミ同様にバンバンと机を叩き、それマ? などと言っている。その程度であればまだ良い。
ノエミなど、マジかー。マジもんの箱入りなのね。すっごいチュッチュしたいんだけど。などと危険な事を言い始める。そこまで言葉を崩すノエミを知らず、アンナは少し冷たい汗を掻いた。あと、チュッチュとは、もしや接吻の事ではあるまいかと慄いた。流石にそれは避けたかったのだ。チュッチュなど、風邪を引いた時に、マリアにされた事しかない。
「アンナ。アンタ、マジ?」
アンナとて、マジの意味は知っている。本気で、や、真剣に。という意味だ。聡明なリーナなら、頷いた所で誤解はないだろう。自信満々に、アンナは深く頷いた。リーナは本気で言ってる? と問いかけたのだが、アンナは本気で言っている。当然頷いた。だがリーナは、すごくやべー物を見た。という顔をしていた。
「残姉。悪いんだけど、説明出来る?」
「……ええ。行けます。リーナちゃん。おねーちゃんの勇姿、見届けてくださいね」
「ええ。しかと、見届けさせて貰うわね」
どこか悲壮感さえ漂う様子に、アンナの背筋は引き締まる。もしや、禁忌に触れたのではないかと彼女は思っていた。流派による禁術は難解な言語を以て伝授されるものだという無駄な知識が、彼女にはあった。
「聖地とは、この星、またはこの大陸を指します。そして舞い降りし麗しの乙女達というのは只の自称です。この意味、理術使いのアンナちゃんなら、わかってくれるよね?」
術式には、彼我の区別をはっきりとする事が重要だ。術式の効果を高める為には、その対象を明確にする必要があった。詠唱の始めに世界を定義し、途中で術者の自称を含める事は、恩恵を得る為には最も効果がある。
「月と太陽に溺愛されしは修辞語ですね。一般的な言い回しではないけど、この一言により、天体の加護を得た気分になれるの」
アンナは頷く。術式の効果を増幅するのには、そういうものが必要だった。星や月、それに太陽のような天体や自然へ祈る事は効率が良く、それを習慣付けるように、マリアにも指導されていた。
「で、純潔は、流石に知ってるわよね?」
それも知っている。男の人の腕の中で眠った事がない女の事だ。親族はノーカンとされているので、当たり前のようにアンナは頷いた。稀に三人で川の字で寝る事はあるが、それは当て嵌まらない筈である。
「月と太陽とは、森羅万象を指しますので、永遠に掛かります。その心は解かなくてもよいものですが、この場合は運命です。涙と笑顔とは、お互いを暗喩しています。これらも問題ありませんよね?」
当然、アンナは頷いた。暗喩と反復による術式強化だろう。最効率ではないが、手軽で扱い易い。だが、疑問があった。
「その後なのですが、ここまでの流れと対峙する、殺戮などの、あまり良くない不穏な単語を挟むのは、逆効果ではありませんか? あと、言語としては斜陽や衰退を示す黄昏も、この手の術式の発動にはあまり良い物ではないのはないかとも思います」
「逆効果とは?」
「術式の発動と、効果にですよ?」
これらの言霊は、それを好む者以外からは忌避されがちだ。神聖術式においても、こういった言語を織り込むと、祈りを捧げても届かない事が多い。向かい合うレーナとアンナは、お互いに頭上に疑問符を浮かべているようだった。
「あと、流石に、フェリシアさんという方が、最後にご自身の名しか顕さなかったのは、とても看過出来ませんね。少なくともこの詠唱? それとも聖句? 聖句の方が近そうですね。複数の協力によって、始めて力を発揮する文言なのですから」
何故か独言ながらも納得し、そして否定するアンナであった。どうやらこの痛々しい台詞、彼女が言う所に依れば、聖句であるらしい。
リーナ達には夢にも思えなかったのだが、歴とした使い道があるようだった。
「聖句なの?」
「大胆過ぎる改変が入ってますけど、聖句の文法ですよね。古代語っぽい訛りもありますし。言葉選びからは、心身への強化系のものだと推察出来ますけど」
「で、その恩恵が十全にあった場合、彼女達のスペックはどんなもんになると見る?」
「四名の四乗ですから、十全ならば少なくともそれぞれに二百五十六倍の身体能力強化の効果は見込めるでしょうね。とはいえ、あの文言ですと、フェリシアさんが他の三人の力を借りるだけですが」
「マジで?」
「マジですよ?」
聖句かどうかの確認は、立ち直ったリーナからのものだった。レーナはまたもや頬を膨らませて、プルプルと震えている。他二人も、バンバンと机を叩いていた。意図は解らないが、あんまりな態度である。ちょっとだけ拗ねるアンナであった。リーナはどこか遠い目をしながらも、アンナの肩に手を置き、口を開いた。
「いいわね。アンナ。よく聞きなさい。あの台詞は、聖句でもなければ、詠唱でもないわ」
真剣な口調であった。だが、解せない。そうでもなければ、あのように大仰な物言いをする必要はない筈だ。あれはね−−。とリーナが言葉を区切る。不思議な静寂が満ちた。
「ただの、口上なのよ」
「口上? ですか?」
そこでレーナがとうとう決壊し、盛大に吹き出したのだが、アンナには気にかける余裕がなかった。口上の意味は知っている。知っているのだが、素直に意味が受け取れない。消化出来ないので、鸚鵡返しになってしまう。そこで、噛んで含めるようにして、リーナは再び言葉を紡いだ。
「アンタも、おはよう。とか、ごきげんよう。とか、言うでしょう? あの口上は、フェリシア様達にとっては、それと同じものなのよ。謂わば、ただの挨拶ね。わかってくれて?」
「え? あの、聖句のように長い口上が、ただの挨拶ですか? あ。それは、きっと、常在戦場的なものですね。なんと立派なお心掛けじゃありませんか」
なんとか理解しようと言葉を繋ぐが、どうもしっくりと来ない。直感が、そうではないと告げている。それを補強するように、リーナは首をフルフルと横に振った。
「いい。落ち着いて聴きなさいな。彼女達は、おはようの挨拶替わりにあの台詞を言うわ。そして、ごきげんよう、さよならの替わりには、颯爽降臨が、颯爽昇天に変わるのよ」
とうとうレーナまで、バンバンと机を叩き始める。良い大人にあるまじき、はしたない振る舞いだ。他二人も、お腹を抱えて笑い転げていた。ちらりと、淑女として、それはどうなのだろうか。と、アンナは思ったのだが、彼女には、リーナの言葉に呆然として、頷く事しか出来なかった。
身動きも取れず、立ち竦むアンナを他所に、ただ一人落ち着いていたリーナは、人数分のお茶を淹れた。既に場は滅茶苦茶だ。仕切り直したいという思惑が見えた。
リーナがそれぞれにカップを配り終え、アンナの心身に漸く再起動がかかった時には、場は大分落ち着きを取り戻していた。彼女達は、それぞれの言葉でお礼を告げる。
「失礼。少々取り乱しました。アンナお嬢様。私の質問に頷いていた時、どう考えて頷いていたのか聞いても、支障ないでしょうか?」
レーナのアンナへの呼び方は、お嬢様呼びであったり、ちゃん付けであったりと今一安定しないが、些細な事である。アンナがハイと頷くと、じゃ、再現しますから、答えていってくださいね。とレーナが言った。
最初の問い掛けに、詠唱には彼我の区別が有効だからと答えれば、詠唱ではないので、あまり意味はありませんね。彼女達の台詞を直訳すれば、世界は舞台、主役は私。という意味です。深い意味なんて、一つもありません。と返される。
溺愛されしの修辞語の辺りは、気分を盛り上げる為のものらしい。太陽と月や涙と笑顔の下りは、その日の気分で変わるようだ。お互いに暗喩となる前提で、昼と夜だったり、キノコとタケノコだったりもするそうだ。戦争の遺恨は根深い。ちなみにフェリシアさんは、スギノコ派でしたよ。と教えられたのだが、同士を得たのに、どういう訳だか、あまり嬉しくなかった。それらの修辞表現は、文字通りに、加護を得た気分を出す為だけのものらしかった。純潔なる永遠なども似たようなものだと軽く流される。
月と太陽と掛けて永遠と解く下りも、その心にあまり意味はない。フェリシアが、キノコとタケノコと掛けて美味しいと解きます。その心は、だが、どちらもスギノコには敵わない。とドヤ顔で大声で言って、各所から非難を浴びた事もあると、レーナは懐かしむように話してくれた。この時ばかりは、取り巻きの三人娘達ですら離反したらしい。彼女達にも譲れぬ想いがあったのだ。押し付けは良くないよフェリシア様。と、アンナは静かに思った。
そしてアンナが疑問を呈した殺戮の下りだが、どういう訳だかレーナは言い難そうにしている。どうも上手い説明がつかないらしい。思えばさっきも、アンナの疑問によって説明は有耶無耶となっていた。レーナの瞳が、察して欲しいと訴えてくるのだが、アンナには、何を察せば良いのか判らなかった。そこに、助け舟、あるいはトドメとなる一撃が入る。
「いや。前提条件が足りてないじゃん。レーナさん、アンナちゃんってば、放送殆ど見ないよ」
え? そうなの? と、レーナはアンナに問い掛ける。アンナは頷くが、ちょっと憮然としている。交友関係が広がる度に、そう皆から驚かれるのだ。彼女の家では普通である。そんなに珍しがられると、少し居心地が悪い。
「うーん。そっか。なら、気付かないのも無理はないか。アンナお嬢様が聖句や詠唱だと思った口上ね。あれの前半部分は、安息日の朝に放送している、女の子向けの番組で出て来た台詞を元に、上手く? まぁ、いいか。それなりに組み合わせたものなの」
「最初に出てくる、聖地へと舞い降りし麗しの乙女ヴァルキリーは、ここビタロサを舞台とする空戦物よ。翼を持ち、空を自由自在に駆ける、飛天と呼ばれる異形に支配された。という設定のね。そのビタロサの空を救う為、主より遣わされし御使、機動性と空間把握能力に優れ、精密射撃を得意とする、麗しの戦乙女ヴァルキリー。彼女は第一話で、飛天達の奸計に嵌り、その使命を果たす事なく、儚く散るわ。そんな彼女の今際に駆けつけたのが、その日八歳になった、健気な少女ヴィーラよ。両親と共にお祝いとして王都の遊園地に遊びに来ていた彼女は、卑劣にも、両親と共に飛天達によって人質とされていたの。自分達を救ってくれた美しい御使を助けたくて、彼女は駆けるわ」
珍しく大変淑やかな言葉遣いで、滅茶苦茶ノエミが語っている。アンナは口を挟む事なく、頷く事しか出来なかった。
「暴虐なる飛天達、いいえ、後に人類種により否天と呼ばれる彼等は、遊び気分でヴィーラの事を撃つのよ。健気とはいえ、只の少女であるヴィーラには、それに抗う術はない。その運命を儚く散らそうとした時、ヴァルキリーが己さえ捨てて、彼女を救うの。御使には、魂を保ったまま産まれ変わるという、転生の秘術が存在したの。でも彼女は、命運を儚く散らさんとする少女の為に、それを捨てたわ。意識さえ失いそうな瀕死の彼女は、死の淵にあるヴィーラへと問い掛けるの。辛く厳しい道程だけど、助かる術はありますと。それが、憑依合体」
そして、ノエミは喉を潤す。リーナの淹れたお茶である。文句などないようだった。
「憑依合体。自らの魂を犠牲として、現世に主の奇跡を起こす御技。それは、自らの転生を捨て、久遠の消滅を意味するわ。戦乙女ヴァルキリーは、それを使って、ヴィーラを救おうとしたの。主の奇跡は、死者蘇生や、完璧な時間操作さえ為す秘蹟よ。瀕死の者を全快させて、安全圏に逃す事など容易いわ。何も知らない少女は、それを知る事なく、その提案に頷いたわ。これは後の話で明らかになるんだけど、ヴィーラは己の生命を捧げて、ヴァルキリーの回復を狙っていたの。彼女には、ちょっと変わった力があったから。だから、深く考える事なく、提案に頷いたのよ」
ノエミはアンナが疑問に持ちそうな所を先回りして語る為、やはり相槌を打つしかない。
「そして誕生したのが、聖地に舞い降りし麗しき戦乙女ヴァルキリーよ。彼女は驕った否天を打ち破り、一時の平穏を取り戻したわ。でも、彼女達には誤算があったの。それは、ヴァルキリーの力だけでなく、その魂までもが、ヴィーラの肉体で同居している事だったわ。これは考察班によれば、ヴィーラの戦乙女への親和性が非常に高かったからだとか、ヴァルキリーが特別な戦乙女だったからだと言われているけど、私的には、これよ。お互いの想い合う心に、主がそうあれかしと望んだからこそだというのが、私の見解よ。公式から回答の出ていない事だから事実はわからないけど、真実は、人の心と同じだけあってもいいものでしょう?」
はい。と、四人は応えるしかなかった。
「まぁ、これ以上はネタバレになるから止めとくけど、その後の物語は、二人で一人の戦乙女による、壮大な大河物語よ。彼女達と、ビタロサという国と民によって紡がれる、活劇あり、ロマンスあり、お色気有り、人情有りの、とても素敵な物語なのよ。安息日の朝第一期、しかも史上初というアニメーション番組とあって、その力の入れようは凄かったわ。実物と見間違う程に精巧なビタロサ国の風景描写に、とても可愛らしい女の子、ヴィーラという珠玉のキャラクター。加えて、麗しきという形容こそが相応しい、もう一人の主役である戦乙女ヴァルキリー。脇を固める女の子達だって、とても可愛らしく描かれていたわ。それに、物語の構成上脇役に甘んじている大人達だって美しく、そして凛々しく描写されているの。否天の造形も凄くて、その悍ましさと美しさが同居する描画は、今も業界の壁の一つよ。それに、二人の戦乙女の会話で画面に縁取られるのは、美しい百合の花。これは美しいだけでなく、とても暗示的で、その後の百合物と呼ばれる分野での描写へ、深い影響を与えたわ。それでね、最高なのが、なんといっても、衣装設定なのよ。敵味方関係なく、空戦なんかにまったく向く筈なんてないドレスを纏うのだけど、これには理由があるわ。見られ、憧れられる事によって、戦乙女は力を増すの。敵もそれを知る為、羞恥心がありながらも自分への注目度を増さんと画策するのよ。これがまた、凄く良いものでね。恥ずかしいけど、私が綺麗な衣装を創りたいと思ったのにも、影響が大きいわ。ともかく、少し古い作品だけど、今は収録版がお手頃価格で販売されているのでアンナちゃんも、見てみると良いわ。ノエミおねーさんの、お薦めよ」
長い。そしてとても早口であった。
「大変、興味深いです。マリアに相談してみますね」
「是非に」
やっと口を閉ざしたノエミであるが、その様子から、まだまだ語りたい事は多いぞという姿勢が見て取れた。だが、独壇場としてはならない。ならば切り捨てるのみ。アンナはハイと頷いた。アンナの見る所、傍若無人で最も社会不適合の気のあるノエミであるが、大変な話上手でもある。もう少し聴いていたい気もするが、今の主題はそうではない筈だった。
「で、月と太陽に溺愛される純潔たる永遠は、ヴァルキリーの後継番組ね。溺愛シリーズの第一作なの」
次いで口を開いたのはレベッカだ。彼女は苦笑しながら、目顔で、気楽に聞いてね。長くならないから。とアンナへ伝えてくる。
「ヴァルキリーは社会現象と呼ばれる程に各界へ影響を与えたんだけど、それは製作委員会が意図した事ではなかったの。ですよね? レーナさん」
「はい。本来の安朝企画の意図では、朝食時やその後の暫しの団欒時に、母娘で楽しめる暖かい番組を提供したいという目的がありました」
振られたレーナが、訥々と語り出す。
「第一作目という事で、製作委員会は力を入れ過ぎたのです。興行は大成功、経済効果も鰻登りで、世間の評判や高評価は勿論喜ばしい事なのですが、万人受けを意識しすぎていて、安朝の企画としては失敗でした」
アニメーションという、目新しい専門技能を用い、大変な手間を掛けて制作されたヴァルキリーは、満足度の高い作品だった。現実を超えた描写により、美しく描かれた風景や、煌びやかで可愛らしい衣装を纏って活躍する姿に、少女達は憧れる。迫力の空戦を始めとする戦闘は、少年達の男心をくすぐった。時折採用される人情話や、淡いロマンスには、母親達の琴線に触れる何かがあった。
そこまでは、国営放送局と製作委員会の期待通りの反響だ。
だが、元来のコンセプトである空を取り返すという物語自体が、血生臭い話である。更には幼く健気な少女の肉体に、気高く嫋やかな女性の魂が同居するという複雑なキャラクター造形は、一部の視聴者の性癖に突き刺さった。
群像劇に近いこの物語、一部の放送回では、対飛天の指導者であるビタロサ王子や、大人達の視点から展開される。
主人公であるヴィーラ=ロリーヤからは少し離れた立場の彼等の視点回は、何故だか異常な迄に、作画に力が入っていた。物語としては、主役であるヴィーラへ焦点が当たるのは当然だ。だが、そういった視点回では、可愛らしくも健気な少女ヴィーラが、気高く嫋やかながらも艶めかしい、女性の表情も見せるのだ。
ちなみに、キャラ設定としてはありがちな事に、王子は美形である。とっくに成人済みだが、飛天との闘いにより恋を知らず、ヴァルキリーと憑依合体したヴィーラを見て、初めて淡い想いを抱く。その後もヴィーラとしても満更でもない描写がされているが、架空の存在とはいえ、彼女は幼女である。絵面としては犯罪的でさえあった。その彼の、ヴィーラへの呼び名がロリーヤ嬢。そこから取って、幼児性愛者の事をロリーヤコンプレックス、略してロリコンと呼ぶようになったのは、この頃からだ。
当然ながら、彼の初恋は破れる。健全な作品であった。であるのに、一部界隈では謎の人気があり、彼の造形は、後の当て馬ヒーロー達の原型とされている。ともあれ、穏やかな安息日の朝を提供する筈だった番組は、情熱と興奮の火種となった。
アニメーション談義に花が咲く。三人娘は幼い頃に視聴して育った為か、強い思い入れがあるようだった。満足げに彼女達を眺めるレーナの表情には、喜びが溢れている。知識の無さから口を挟めこそしないものの、この空気は好きだった。何か忘れている気もするが、アンナもリーナの淹れてくれたお茶を口にして、とても楽しんでいた。




