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揺籠の島で揺蕩う少女達。  作者: カズあっと
3章 そんな、日常と。
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28話 ノルド1 端緒。


 アンナは楽しそうに、嬉しそうにしているのだが、リーナとレーナが姉妹であるとか、拳闘談義に花を咲かせる事とかは、今日の来院の目的とは関係の無い話であった。それを思い出したリーナはアンナを撫でる手を一旦止めて、姉に再び向き直る。

「ところで残姉。アンタ、院長と婦長からの全権委任なんて大役、ちゃんと出来んの?」

「えっへん。これでもおねーちゃん、偉い人には結構信頼されてるんですよ」

「レーナお姉様は、大変優秀だそうですからね。フロレンス婦長様も、とても信頼なさっております。それに、上級冒険者ですもん」

「そうね。でも、残姉よ」

 リーナは、レーナと共にドヤ顔を晒すアンナをひっくり返して、お腹をワシャワシャとくすぐった。きゃんきゃん悶えて抵抗するが、やはり大変非力であった。

「心配いりませんよ。おねーちゃんのお仕事は、このフロレンス婦長がお造りになった査定結果を、アンナちゃんに渡すだけですので」

「それって、何もしてないのと一緒じゃない」

「まぁ、いいじゃん。ほら、アンナちゃんも、リーナと戯れてないで、確認しちゃいなよ」

 リーナとレベッカに立ち上がらされて、髪や服の乱れを繕って貰ったアンナは、レーナから封筒を受け取る。封筒を渡す時に、ご確認ください。と告げたレーナの顔付きは神妙で、一部署を預かる貫禄があった。

 封筒に入っていたのは、査定明細と売買契約書だ。契約書は簡潔なもので、アンナの名において、明細に記された物品を対価として、【御使のおくるみ】を病院へ譲渡するという内容だ。特記事項などもなく、非常に穏当な契約であった。アンナが印を刻めば、契約は直ちに成立するだろう。問題は、明細の内容だった。大体の商品相場にこそ日々目を通すのだが、物品と、それらを結べる程には熟れていないのだ。

「レーナお姉様。明細の内容、レベッカおねーちゃん達にも見て貰っちゃって、問題ありませんか?」

「アンナちゃんが良いなら、大丈夫よ」

「アタシ達も見て良いものなの?」

「どうぞ。よろしくお願いします。私、術具の値段とか、あんまり判らなくて」

 てんでバラバラの方向を向いて、明細を目に入れないようにしていたお行儀の良い三人娘である。他人の商取引を覗き見るのは、はしたない行為とされており、その場にいる場合でも無関心を装うのが、一種のマナーであった。

「ふむ。興味深いな。私が聞くところ、なかなかの逸品だ。さてはて、病院はどのような価値を認めたものか」

「ウチも見るよ。あんまり舐めた額だったら、ぶっとばすからね。残姉」

 マナーはマナーとして、元来が好奇心旺盛な娘達だ。三人が額を寄せ合って明細を覗き込む。ちょっと退いたアンナは明細の内容を吟味している。レーナは四人へ向けてクルクルと視線を回し、満足げに何度も頷いていた。ぶっとばすと言われた時だけは、震えていたが。

「え? これマ? ノルズの銘なん?」

「ノルドの銘か。高級品だな。だが、別に不思議じゃないだろう? 高品質な術具は、大体がノルドのものじゃないか」

「ちゃうちゃう。ノルドじゃなくて、ノルズ」

 立てた掌を左右に振って、ノエミの言葉を否定するレベッカだった。だが、ノエミは今一ピンと来ないようで、それに、何の違いがあるんだと問い返した。彼女からしてみれば、地域による言語の微小な差異でしかない。リーナは何かに思い当たったようだった。

「ああ。ノルズね。レベッカ。それ、本物?」

「刻まれた銘は、ほぼ間違いなく。それにしても、こんな希少品、こんな所でお目にかかるなんて思わなかったわ」

「レベッカも、あの番組見たの?」

「もち。っても、ママの香水を王室御用達にどうかって話からの、参考としてだけどね」

 ビタロサ王は前シシリア領主の学友だ。政治的な思惑であるものの、友人の統治する土地の逸品を王室御用達とする事は、有効な経済政策の一貫であった。

「ほう。凄いな。術具なのか?」

 一番に反応するのはノエミだ。身に付けるものには五月蝿い女であった。

「聖水程度の魔除けと、軽度の看過を可能にするよ。権能は有害な毒を見分ける程度だけど」

 毒の見極めは難しい。有害かどうかは、個人差がある為だ。例えば、酒に含まれるアルコールという成分が一例である。それを一定の効力しか有さない術具で判別するのだから、精度は知れたものだ。だが、他に有効な手段も多くはないため、この手の術具は重宝されていた。

「子供騙しだけどね。強い毒性がある物質に、気化した香水が反応して、香りが変わるようになってるの。毒の状態に関わりなく反応しちゃうから、気休め程度のものね」

 軽く言ったレベッカは、無駄話はこれくらいにして、と話題を戻す。

「ノエミはノルドの創業者、アントニオ翁については、どれくらい知ってるっけ?」

「一般的な知識くらいはあると思うが」

「そう。じゃ、彼の心の師については?」

「ああ。あの話か。アントニオ翁が若い頃、家具職人としての修行をしている頃に出会ったっていう北方から来た子連れの旅人だったか」

 ノエミに頷くレベッカだが、彼女には、ウズウズとして喋りたそうにしているレーナが見えていた。彼女も同じ番組を見ていたらしい。

「その旅人の名が、ノルズ。ですよね。レーナさん」

「そうですね。翁は若い頃から好学の人で、様々な著名人に師事したが、終ぞ深く私淑するまでには至らなかった。そんな彼が、唯一永遠のライバルにして友、そして心の師と呼んだのが、ノルズという職人です。彼は希代の家具職人にして、天才的な付与士でもあったそうです。彼と出会った事によって、翁は商人として生きる道を選んだといいます。ノルドの社名は、彼を世に出そうと目論んでのものらしいですね」

 ノルドのアントニオ翁といえば、かなりの高齢だが健在で、経済界の重鎮である。同時に、現代の名工十人に名を連ねる職人でもあった。

「翁曰く、彼と、その作品に出会って、己の非才を知った。自分は職人としてではなく、それを世に出す商人となろう。だったわね」

 リーナが補足する。ノエミは感心したように頷いた。アンナも皆、博識ですね。などと感心している。

「うん。だけど、ノルドが軌道に乗り始めた頃、翁の前からノルズは姿を消すの。王に献上する完成された製品、つまりは現在の玉座よね。それと、『道具は使われてこそのものだ』という、書き置きを残してね」

 そして一区切り。レベッカの語り口は上手であった。あえて余韻を残すと、四人は引き込まれたように固唾を飲んでいる。

「その頃のノルドは、ブランディングが成功して、王室御用達に指定されたの。元々が職人による手作りで、少量生産される高級品として売り出された物ではあったのだけど、これによって、投機目的でも買われる事になったのよ。ノルズの書き置きは、その状況に対する、強烈な皮肉だよね」

 当時のノルドは既製品の制作販売と、完全受注生産の二つのラインを用意していたという。

 その受注生産の責任者であるノルズは、ときの王命により玉座の新調を依頼されて以後、新たな案件を受け入れていなかった。

「王室やノルドは、全霊を以て玉座を制作したことにより、職人として燃え尽きて引退したのだと喧伝したけど、これは建前ね」

「翁の手記や、当時のノルド従業員が残した記録によると、彼は製品が投機目的で死蔵されることを、大変苦々しく思っていたようです」

 付け加えるレーナに、レベッカが頷いた。

「これに困ったのは、翁と残された従業員達よ。ノルズは責任者といっても、職人を育てたり、制作の効率化を図る事をしなかったの」

 彼がした事は設計し、加工して組み立てる事だけだったとレベッカが説明する。彼はアントニオ翁に付けられた職人達が教えを請うと、ただ一言、『見て、盗め』と言ったという。

「それでも、ノルドの工房からは、多くの優秀なデザイナーや、職人が出ているだろう。結果論でしかないが、そう間違った方針でもなかったのでは?」

 ノエミが疑問を挟み込んだ。

「そうね。だけど、高騰した価値を担保していたのは、ノルズという一人の職人よ。その彼がいなくなって、客達は以前と同じように注文するかしら?」

「それは、難しいだろうな……」

 ノルドの迎えた一度目の経営危機が、この時だ。レベッカの言う通り、その後、制作依頼件数は著しく落ち込んだ。これは、投機目的の者達が手を引いたからである。彼等の多くは権力者や富豪、もしくは機関であった。

「人の感情って、割と度し難いものでね。手を引いた彼等は、ノルドを憎んだの。品質が落ちただの、今度の新作はデザインが良くないだのと言って、不買運動と、ブランドのイメージ低下を図ったわ。同時に、ノルドの従業員に対する嫌がらせも記録されてるの。これらは割と徹底したもので、家で雇っている使用人や、傘下の企業の従業員にまで強制したそうよ」

 この波に、暇を持て余した富裕層が乗った。それが伝播して、大衆も叩いても良い企業だと認識する。ノルドの価値は、大幅に下落した。

「それは、いくら何でもやりすぎじゃ、ありませんか? それに、そこまで恨まれような事件じゃ、ありませんよね?」

 思わずアンナも口を挟む。俄には信じ難い話であった。これといった被害があった訳ではないのに、あまりにも悪質に感じられたからだ。

「だから、レベッカは度し難いと言ったのよ。お子ちゃまのアンナにはわからないでしょうけど、人間なんて、叩いても良い風潮さえ与えてあげれば、考える事もなく、いくらでも残酷になれるものなのよ。だからこそ、そういった風潮に惑わされない為に、教養を身に付ける必要があるの」

 リーナの物言いは真摯なものであった。こういった事例には、何か思う所があるようで、声音には、どこか出版社の娘という立場での責任感だけではない硬さがあった。

「そうだな。それに、アンナちゃんにはまだ早いかもしれないけれと、こういった場合、そこまで恨む事もあるのよ。主体となった彼等は、投機筋でしょう。約束されたと思い込んでいる未来の利益が取上げられた時、その怒りの矛先となるのは、言うまでもないわね。少なくとも、自己の不明ではない事だけは確かよ」

「そんな、理不尽な……」

「社会ってものは、理不尽なものだって、ママも言ってたしね。でもさ、ノルドは今でも最高級家具ブランドとして、ビタロサを席巻してるんだよ。この意味、わかるかな?」

 ノエミが現実的な感情論を持ち出し、レベッカも同調するが、ノルド社の現状を伝えて問い掛ける。アンナは少し考えた。ノルドは何らかの手段で以て、理不尽に抗ったのだろう。

「考えられるのは、堅実で誠実な経営と、ノルズに匹敵する職人の出現とかですかね」

「お。半分くらいは、せいかーい! なかなかやるねぇ。アンナちゃん」

 ワシワシとアンナの頭を撫で回すレベッカであった。どうやらリーナが羨ましかったらしい。半分くらいと言われたので、アンナは頬を膨らませて拗ねた。半分だと、物足りないのだ。

「まぁ、そう拗ねないの。正解なんだから。この経営危機にあって、アントニオ翁は、職人として現場に帰る事になるの。無論、信頼出来る者に経営を任せてね」

「そこが翁の凄い所ですよね。心の師とまで呼んだアイツに匹敵する職人は、自分以外にいないって、自分で言っちゃうんですから」

「まさしく翁は、それに相応しい万能の人だと思うぞ」

 レーナとノエミが相槌を打った。二人はよく知っている事らしい。

「まず翁は、現場に戻るに併せて、既製品ラインの効率化を図ったの。価格を抑える事によって、顧客を一部の富裕層から、一般層に広げる為ね。同時に、ノルドは希望する小売からは、商品の引き取りを始めたわ」

 不買運動により、ビタロサ国内での販売が伸び悩んだせいで、小売店も疲弊していた。捌ける見込みのない在庫を抱えたままでは、いずれ干上がることなど目に見えている。多くの小売がこれを受け、また感謝したという。

「でも、多額の出費をした上で、在庫を抱えたままでは、待っているのは破産よ。そこでノルド社は、国外に販路を求めたの」

 ビタロサの首都ロウムには、他国の要人の縁者が、学生として数多く在籍している。

 ノルドは以前から国外展開を目論んでおり、彼等を介して国外販売の見込みを探っていた。

「ロウムに来るのは、学生とはいえ、多くは高位貴族や富裕層の子女よ。物を見る目は肥えているわ。ノルドの製品は、彼等のお眼鏡に適う品質だったのね」

 この頃には、国外展開までもう一息という状況だったのだ。だが、何が阻んでいたのかといえば、それは価格と商品の供給網であった。

「競争力の問題ね。ノルドの製品は、国内でも高額品よ。そこに関税や諸々の経費が掛かってしまえば、商品としての魅力は、どうしたって落ちるわ。これがあるから、ノルドは国外展開に二の足を踏んでいたの」

 彼等は商品の品質に自信を持っていたが、適正価格を大きく超えてまで競争力があるとは、過信していなかった。試算では、大凡の国でビタロサでの販売価格の倍額となるのだから当然だろう。ノルドにとっては国外展開は博打であった。

「そこで、小売から買い戻した製品が生きるんですよね。アントニオ翁が、それらを新古品として、大幅に価格を下げて売り出した辺り、商売人の凄味を感じましたよ」

 新古品とは、翁の造語で、所有権が何度か移動した中古品であるが未使用で、新品同様の性能を有する品を指す。一般論としてではあるが、新品と比べて、中古品の価値は下がる。販売には、別に古物取引認可という資格が必要となるが、取得は難しいものでもない。加えて、多くの国家において、関税率も引き下げられる事になる。

「国外での中古品。翁に習って、ここは新古品と呼ぶべきか。その工夫の甲斐もあって、販売価格はビタロサでの販売価格並の水準に抑えられたそうだ。場所によっては、割安になる場合もあったと聞いている」

「そうは言っても、あくまでも買い戻した在庫を上手に捌いただけですよね。中古品として売り出すやり方は、数に限りもありすし、一時凌ぎのものではありませんか?」

 レーナの感想にノエミが補足をするが、アンナは懸念を口にする。上手くやったように見えて、根本的な解決はしていないのだ。

「リーナちゃん。アンナちゃんってば、本当に九歳児?」

「まだ八歳だけどね。ま、普通の九歳なら、こんなもんじゃない?」

「えー」

 シュペー家の姉妹が囁き合うが、気にしない。何か忘れている気もするが、ノルド社の話は面白いし、レベッカが意気揚々として語るのも珍しかった。大体の場合、知識をひけらかして悦に入るのはノエミかリーナであった。

「うん。その販売戦略はまさに、布石でしかないんよ。翁の狙いは、もっと先にあったの」

 中古品の販売での収益をどうしたのかといえば、現地での工房や店舗の建設に使われた。ノルドは商品販売に必要な人員の中に、腕の良い職人を含めていたのだ。現地で商品を制作出来るようにと。そうして現地での制作、販売準備を整えていったらしい。

「風習や気候の異なる現地での素材調達、商品制作販売は確かに大変だが、悪感情に支配された国内よりは芽があると、踏んだのだったか」

「そうなの。余計な付加価値がつけられず、適正価格で売り出せば、充分に闘えるってね。だけど、それは品質と、それを産み出す職人に絶対の自信を持っていたからこそなのよ」

「その自信の源が、ロウムでの反応だったという事まで語らないと、片手落ちじゃありませんこと?」

 順に、ノエミ、レベッカ、リーナの発言だ。

 三人はアンナを見ている。言葉こそあまり挟まないものの、それで、それでと瞳を輝かせて相槌を打つのだから、話している方としても気分が良い。

「そうよね。さっきも話した通り、ノルドは学生達に向けて、面白い試みをしていたわ」

 それは、無償、もしくは格安での受注生産であった。ロウムの学生の多くは、国内外よりの留学生である。住居の用意がある者など、そう多くはなかった。学府は彼等へ向けて無償の寮を用意しているのだが、家具などの生活用品は自前で用意する必要があった。

「ノルズが在籍していた頃からなのだけど、若い職人達に、学生からの受注生産を無償で受けさせたの。これは宣伝の意味もあるんだけど、職人達にとっては修行の一貫でもあったわ」

 無償とはいっても、製品が完全に無料となる訳ではない。あくまでも工賃や取得、名義維持に纏わる費用が無償になるのであって、原料調達や、職人の技量を超えた術式の付与などは消費者の持ち出しだ。

「そして同時に、学生にとっては勉強と、冒険者組合としてはイメージアップに繋がったの」

 今では当たり前の事である学生の冒険者登録だが、当時はあまり良く思われていなかった。

 冒険者は、良くも悪くも、身体を張る仕事である。かつて流行した自己責任という言葉がこれ程に当てはまる仕事は他にない。親や後見人の保護下にある学生が、小遣い稼ぎに冒険者登録をするなど、道を外れた働きだとも言われていた。

「うん。確かに素材は、お金を始めとする対価を出せば手に入る事もあるわ。余裕のある学生がそうしたのも、頷けない話じゃないよ。でもね、そんな学生なんて、ほんの一握りよ。それに、自分の使う道具の原料を、自分の力で用意する事はとても素敵な事じゃない?」

 レベッカの言葉は、それでは、貴族や資産家の子供が、優位になり過ぎるのではありませんか? というアンナへの回答だった。

「あー。アンナちゃんてば、学園通うのやめちゃったんだっけ」

「はい。恥ずかしながら……」

「いやいや、悪い事じゃないよ! 冒険者してんじゃん。ちゃんと社会に出て頑張ってるんだから、誇ってよ!」

 シュンとするアンナである。彼女は学園という、大勢の同世代の子供達がいる環境に馴染めなかった。それは五つの誕生日前の、とある事件が原因なのだが、そこまでは話していない。様々な呼び方で姉と慕う彼女達にも、そこまで開示する事は出来なかった。

「うーん。だと、感覚としては、難しいかな? 子供って、そういうモノにまで目がいかないってか、考えないっての? ノエミ、なんか良い感じのない?」

「まぁ、そういった背景という物を考えられないというのが、事実に近いかもな。妙な例えかもしれないが、腕一本で生きてきた冒険者が、肩書きではなく、技量を見て相手を値踏みするのと似た感覚と思ってくれていい。社会のしがらみから外れた人間は単純で、彼我の能力差にしか目が行かない。学園という箱庭で過ごす子供なら、尚更さ。尤も、私達だって同じだし、そういう純粋な視点も大事なんだけどな」

 つまりは、他力に見えるモノでは、評価されない世界という事である。そういった複雑な力を知るのは、大抵は社会に出てからだ。箱庭の世界は残酷なまでに、個人主義の、実力社会であった。

「嫉妬もあるとは思うけど、同じ素材を用意するにしても、他人に貰った物と、自分で取ってきた物じゃ、見る側にとっては価値に差が出るのよ。同じ物なのにね」

「ええ。なんとなくですが、理解出来ます。とはいえ、そういった感覚を利用し、あまつさえ克己心へと誘導するのは、並大抵の事ではないのではありませんか?」

「わぉ。そこまで突っ込んじゃう? ノエミ、やっぱ、この子凄いわ」

「流石ね! アンナちゃん!」

「ふふん。アンナ、やるじゃない」

 何故かドヤ顔を晒すのはリーナであった。

 不自然に調和の取れた状況など、長くは続かない。そうである場合は、黒幕の存在を疑え。というのが、彼女の愛読する推理小説に頻出する台詞であった。勧められて読んだアンナは、それを実践しているのに過ぎないのだが。そういう意味では、リーナは確かに得意になる資格があった。

 何かを忘れている気もするが、面白い話だし、為になる。話の続きが聴きたくて、それで、それで。とせがんでいる。

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