25話 姉達と。
3章開始。24話 夢から醒めて。からの直接の続きです。
基本的に、この物語はグダグダしています。それでも、お付き合い頂けたら幸いです。宜しくお願いします。
初対面の人達だ。マリアに躾けられたアンナが、礼を失するような真似をするはずもない。
ミリアムの友人達も、学園で礼儀作法は勉強しているので、幼い少女が披露した、その完成度に驚いた。最初、これが壁となった。
上位貴族であるアンナ達には当たり前の行いであるのだが、実の所、礼儀作法には上下関係を明確にする意味がある。学園生である彼女達は授業でそれを学んでいたので、どう対応すべきか悩んだ。アンナがマリアを連れている事も、それに拍車をかけた。
自分達よりは、幾つか年上の女性だ。レベッカの見たところ、学府生か、社会に出たてくらいの年齢に見える。唇に薄桃色の紅を差しただけの薄い化粧と、かっちりとした侍女服の着こなしに、隙がなかった。
彼女達の年頃に、この年齢差は大きい。親や教職員を始めとする大人の女性達は、怒らせると怖い存在である。見えている地雷を踏みに行くのには、少々の躊躇いがあった。
そんな中、ミリアムだけは普段通りに平然としていた。まだ二度目の邂逅とはいえ、既に知らぬ仲ではない。ミリアムはアンナが可愛くて仕方がないし、マリアの事も慕っている。
これは厨房に引っ込んでいるダイダロしか判らぬ事だが、巨人族の女性らしい振る舞いだった。彼女達は情が深い。身内認定した同性ならば尚更である。そのお陰で、少しづつであるが、レベッカ達の緊張は解れていった。
そして、彼女達は目敏かった。
ミリアムがアンナに話し掛ける時、一人称がおねーちゃんになっている事に気付いたレベッカが、アンナに耳打ちする。「様付けなんて、他人行儀じゃなくてー、ミリアムおねーちゃんって呼んであげたらどうかなー」と。
突然の提案に少し驚いたアンナだが、それは良いなとも思った。ミリアムはダイダロに対してお父ちゃん呼びだ。お母様の事もお母ちゃんと呼んでいた。そう呼べば、もっと仲良くなれる気がすると考えた。そこで、言ってみる。
「ミリアムおねーちゃん! マリアの事も、マリアおねーちゃんって呼んでくれると、アンナ、とっても嬉しいです!」
緊張に少し声が上擦ってしまい、叫ぶように早口になってしまった。だが、言った。言ってしまった。立ち上がったミリアムが、アンナを抱き締めて、可愛い、可愛い。と言いながら頬ずりする。えへへと、はにかんで、アンナはマリアを見た。そこには、ほんの僅かな間であるが、赤面して固まってしまったマリアが居た。
「マリアおねーちゃんって、呼んでもいいかな……」
そしてミリアムが直球を投げ付ける。
「こんなおばさんに、おねーちゃん呼びはないでしょう。私は、アンナの母親ですよ?」
マリアは嗜めるように言う。が、彼女はしっかりしてそうに見えて、存外にチョロいのだ。判りにくいが口角が少し上がっている。アンナの経験上、満更でもなさそうなお顔をしていた。
「でもさ、やっぱりアタシには、マリアさんがおねーちゃんだったら嬉しいなって、気持ちがあるよ」
真っ直ぐなミリアムに、好きに呼んで貰って構いませんよ。などと澄まし顔で言うマリアであったが、耳まで赤い。
「え? あ? 嘘? 待って、マリアさんって、アンナちゃんのー?」
「はい。マリアは、私のお母さんですよ」
「ぅゎぁ。マジかー。……いや。顔立ちは似てるなっては思ったんだけどー。お姉さんとか、従姉妹とかではなくて? お母さん?」
「ええ。アンナは、私の娘です。ごめんなさいね。レベッカ様。こんなおばさんが、若い娘さん達に混ざってしまって」
「いやいやいやいや! 私の事は呼び捨てでいいですって! でも、こんな綺麗なお姉さんが、母親か……」
「まぁ。お上手ね。それなら、遠慮なくレベッカちゃんって呼ばせて貰うわね。良いかしら」
嫋やかに微笑むマリアに、レベッカはガクガクと何度も頷いた。彼女は強い衝撃を受けていた。母親の仕事上、化粧品に慣れ親しんでいる彼女である。その都合上、それを使用する女性の肌や、顔立ちに対する鑑定眼には、それなりの自信があった。それを崩されたのだから、何か秘密があるに違いないとの疑いを持ってしまうのも仕方がない。
「あのー。マリアさんが、スキンケアで気を付けている事とか、何かありますー?」
うーんと、考え込むマリアであった。この反応から、何か特別な工程を踏んでいる作業ではないと、レベッカは推察する。だが、それで良いのだ。生活習慣や、日々の細かな積み重ねこそが、美容の味方であるとの信念が彼女にはある。元はショウモデルもやっていた母からの受け売りであるが、今や彼女自身の信条であった。
「期待を裏切るようで申し訳ないのですけれど、特にこれというものは、ありませんね。早寝早起きと美味しい食事、あとは温泉ですか……。ああ。そういえば、調合した洗浄薬や乳液を使っています。この子もですね。ビタロサの冬は空気が乾いていて、肌に合うものがあまりないのです。私達の肌はあまり強くないので、家で自作するようになりました」
アンナの頭を撫でながら、答えるマリア。
レベッカは、それが肌に良い働きをしているのだろうと納得しかけて、ふと疑問が浮かぶ。
「家で自作……。ですかー?」
「ええ。シシリアはとても資源豊かな、恵み多き地です。水も土もとても良質で、素材には困りませんでした」
「お家に、工房がおありでー?」
「ええ。これでも錬金術には、多少の嗜みがありまして」
「資格持ちですかー。差し支えなければ、位階などを、お聞きしてもー?」
「僭越ながら、ビタロサ王国錬金術師協会には、一級の優を頂いております」
「ぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
暴れ牛のように、突然叫びだすレベッカ。隣に座る、華やかだが少し幼い見た目の娘が、「どうどう」と嗜めながら、マリアへ頭をペコペコと下げている。マリアは気にしないでと微笑むが、同時に、この子は、どうしてしまったのだろうと訝しんだ。
「マリアお姉様。ごめんなさい。レベッカってば、いきなりどうしたのよ? 失礼よ」
このリーナと名乗った娘も肝が太い。さも当然のように、マリアの事を、お姉様呼ばわりだ。彼女は四人の中での少数派、綺麗なお姉様が欲しい派だった。
「……あ。ごめーん。……失礼しましたー。マリアさん、ごめんなさいー」
レベッカも落ち着いたようである。アンナは先程のレベッカの叫びに驚いていたのだが、ミリアムともう一人、ノエミという少女に、いつものことだよ。と諭されて静観していた。というよりも、二人に構い倒されているので身動きが取れない。リーナを除く三人は可愛い妹が欲しい派なので、仕方のない事だった。彼女達は普段摂取する事の出来ない栄養素を、これ幸いと摂取しているのだ。
「あのですねー。私のママとパパがですねー。化粧品を作って売ってるんですけどー。エルポラレっていうんですけど、知ってますかー?」
「承知しておりますよ。東広場にお店を出していますね。とても素敵な化粧品が置いてありますので、私も使わせて頂いております。と、すると。レベッカちゃんは、ヴィッティ様のお嬢様なのですね」
「ママの事、知ってましたかー。もしかして、お知り合いでしたか?」
「残念ながら、面識はございませんが。錬金術師協会の偉大な先達ですし、今やヴィッティ様は、シシリア女性の憧れと尊敬の的と言っても、過言ではありませんからね」
マリアの賛辞に、はにかむレベッカだった。母親が褒められて嬉しいのだろう。そんな彼女を、隣のリーナが肘で突っついた。目顔で、説明を求めると言っていた。
「ああ。うん。リーナは知らないよね。錬金術の資格取得に試験があるのは当たり前だけど、位階ってのは、その時の成績なんだよね」
それで驚いたのかと、リーナは納得顔を見せる。一級の優とは、字面から相当優秀な成績なのだろうと彼女は察した。
「で、まぁ。ウチのママも、位階は一級の優。実はこれって凄い事で、一級ってのは、錬金資格の最難関で、優っていうのは、学科、実技共に満点って事なんだよねー。それ以外は良になるんよ。ほら、理論上は有り得る事だし、毎回複数人出る可能性だけはあるんだけど、少なくともここ五年は出てないんだよね。というか、私もママ以外には知らなかったし。年単位で、事実上の主席ってやつ? やばいっしょ?」
「素晴らしいですわ! マリアお姉様!」
説明を受けた途端、キラキラとした眼差しで叫ぶリーナであった。レベッカは、この娘はもうダメだと捨て置いて、再びマリアへ謝罪の言葉を述べた。そして大きく息を吸うと、お願いがありますと、マリアへ向かって頭を下げた。
「マリアさん。いえ、マリア先生。お時間のある時で構いません。謝礼も、出来る限りにご用意します。ですから、お願いです。どうか私の錬金術の勉強を、見て下されないでしょうか」
ひどく真摯な声音だ。口調までも変えている。リーナまでギョッとしている様子から、余程珍しい姿であるのだと、マリアは察した。
「レベッカさん。理由をお聞かせ頂いても?」
頭を上げてくださいと前置き、マリアが尋ねる。尤もな質問だ。それはレベッカも解っていたのであろう。ポツリ、ポツリと語り出す。
「私、小さい頃の夢は錬金術師だったんです。それで、昔から勉強してて、ママの通ってたっていう王都の学園を、受験しました」
マリアは、レベッカの母親であるヴィッティ錬金術師協会、前会長の略歴を思い出す。彼女は生粋ともいえるエリートだ。最終学歴はユニバーシティ・オブ・ロウム理学部錬金術科博士課程修了。ロウム総合で医学と薬学の教授をしていた両親の元で産まれ、各年代で最優秀進学校を首席で卒業している。
「受かりませんでした。元々ママには、性格的に錬金術にはあまり向いてないとは言われてましたが、それでもショックでした」
ヴィッティ前会長は言葉足らずな癖に直言癖がある事でも有名だ。娘にもそうなのね。と、半ば感心し、半ば呆れたマリアであるが、口は挟まない。黙って頷くのみである。リーナにも特に驚いた様子はない。承知の事なのだろう。
「でも、諦められませんでした。なので、今でも勉強を続けています。ロウムの錬金術科に入る事が、今の私の目標です」
成程と、マリアは頷く。恐らくこういう堅実な所が、元会長が錬金術師に向いてないという由縁であろう。研究とは深淵だ。細かい実績を積み重ねる事を好む勤勉な者程、その目的を見失う傾向がある。研究に失敗はつきもので、その度に一喜一憂するような繊細な性格では、心が保たない。そういった事に耐えられる図太さがなければ、研究者として大成する事が難しいというのが、協会の見解でもあった。
「錬金術師を、今でも目指しているのね。詳細は後で決めるとして、ご両親の都合の良い時はおありかしら? ご挨拶に伺わせて貰います。それと、そんなに畏まらなくても大丈夫よ。普段通りの姿勢でいいわ。いつも気を張っていても、疲れちゃうでしょ?」
「……はい。ありがとうごさいます」
「でも、その前に、これは言っておかなきゃね。レベッカちゃん。貴女は何故、錬金術師を目指そうと思ったのかしら?」
それは……とレベッカが言い掛けたところで、答えなくても良いわ。と、マリアが遮る。
「ただ、勉強に行き詰まった時や、身に入らない時には、それを思い出しなさい。きっと、貴女の力になるわ」
深く頷いたレベッカが、よろしくお願いします。せんせー。と頭を下げた。その隣のリーナが尊いですわ。と呟きながら恍惚としていたので、アンナは目を逸らしていた。
「お待たせしました。お嬢様方。こちら、季節の丸ごと果実のシャーベットをお二つと、桃のシャーベットをお一つ。梨のシャーベットをお一つとなります。以上で、ご注文は全てお揃いでしょうか?」
そして待ちかねた氷菓子が、席へと届く。見知った少女に運ばれて。
「ノエミお姉さん。お久しぶりです」
「ご無沙汰していますわ。ノエミさん」
「ええ。ご無沙汰しております。マリアお姉様に、アンナちゃん。レベッカに聞いて、やって来ました。アンナちゃんは私の服、着てくれているのね。着心地はいかが?」
背は高くないが、スラリとして怜悧な印象の黒髪紅目の少女が、アンナへ語りかける。アンナの纏うケープは、彼女が創り出した作品であった。
「綺麗な色ですし、広がる時のふんわりした感じが、とても可愛いです。生地はしっかりしてるのに、軽くて、暑くないのも良いです」
相好を崩したノエミは、アンナちゃんは可愛いですね。と笑いつつも、頂きます。と、祈りを捧げて梨のシャーベットを食べ始めたマリアへ顔を向けた。
「それに比べて、マリアお姉様ときたら……。はぁ……。ノエミ、とても悲しいです」
わざとらしく溜息を吐き出したノエミは、悲しいなどと目頭を押さえて言いながらも、真顔である。手を止めたマリアが申し訳なさそうにしているが、アンナは頂きます。と祈りを捧げて季節の丸ごとシャーベットを食べ始めた。
今日の果実はゴールドキウイフルーツというものらしい。遥か南方にある大陸から運ばれてきたものだという。目敏いエンナの農民達が栽培に取り組んでいるのだが、未だ輸入品に品質で及ばず、悔しい思いをしているそうだ。
「そ、そのですね。頂いたドレスは、とっても素敵なのですけど、私みたいなおばさんが着るには、刺激が強いというか、露出が多いというか……。とにかく、普段着とするには少々場所柄にも相応しくありませんので。夜会などがあれば、きっと着ていきますわ」
苦しい言い訳であった。アンナのケープもそうだが、ノエミは普段着としても使えるドレスをキリュー夫妻の協力の元、仕立てのだ。色はアンナとお揃いの鮮やかな空色で、一対となってより映えるように、ノエミはデザインしたつもりであった。
「ノエミお姉さん。マリアは時々、こっそりとドレスを纏って、鏡の前で立っています。恥ずかしがっていますが、満更でもないお顔でした。まだお部屋から出られませんが、きっと、もうちょっとですよ」
「「え? 嘘!?」」
アンナの爆弾発言に、異口同音が重なる。方や喜色に溢れ、方や羞恥に悶えてだ。
「ふむ。なら、もう少し待っていましょう。アンナちゃん、お揃いの色の服で、一緒にお出掛け出来る日が楽しみですね」
「アンナに、見られていた……?」
泰然とするノエミと、愕然とするマリア。二人へ向かって頷いて、シャーベットを口へ運ぶ。酸っぱいのに、甘くて美味しい。だというのにエンナの人々は味に納得しておらず、捨て値のような廉価で市場に流しているそうだ。人の業って深いな。などと、マリアとノエミ、そしてゴールドキウイフルーツのシャーベットを見比べながら、悟ったような顔をして思うアンナであった。
「うーん。そんなに露出高いですかね? リクエストにお応えして、普通のロングのワンピースドレスに仕上げたつもりなんですけど」
思案顔するノエミである。ここ暫く続く夏の流行は、スタイルを際立たせるメリハリの効いたシルエットと、露出の高さだ。
とある若い女冒険者などは、胸丈までの短い上着でお臍を出し、足を大胆に露出するホットパンツのスタイルだ。自らの肉体を誇り、少ない布地にありったけのお洒落を込める事こそが粋であるとの思想らしい。実力が高く、気さくな人柄でもあるので、彼女には人気がある。組合の戦略もあるが、触発された若い娘達がそれに倣うので、流行の先端にいるその女冒険者の服装スタイルこそが、ここ暫くの間、シシリアではトレンドだった。
「スリットが深いし、上だって、その、腕とか脇が、丸出しじゃないですか……」
ノエミの創り出したドレスは、マリアの懇願により、ロングスカートで足の露出を抑え、加えてお臍も露出しないものである。リクエストには完璧に応えていた。何が不満なのかが、彼女には判らない。
流石はセレーナの超ミニスカート制服の考案者である。露出に対して一向に抵抗がない。
「やれやれ。マリアお姉様は、いいお歳なのに我儘お嬢様ですね」
そう言ってアンナに同意を求めるが、素直に頷ける話ではなかった。こんなモノ、見られて困るモノでもないだろう。と言い、ピラピラとスカートをめくり上げるノエミだ。マリアやミリアム程ではないにしろ、彼女のスタイルは良い。しかも、見た目だけは清楚な黒髪紅眼の美少女だ。中身は大変癖が強い性格であるのだが。
「マリアお姉様イジリはこれくらいにしておいて、ちょっと裏取りをしておきたいの。良いかしら」
黙って頷くアンナであった。桃のシャーベットを食べ始めていた。贅沢にも、交互に味わっている。
「ありがとう。春先くらいから、気になる噂があるの。異界、霊峰エトナ火山の植生に、変化の兆し有り。ってね。知ってるかしら?」
スプーンを置き、コクンと頷く冒険者二人。知っているも何も、先日はその調査の為にエトナに登った二人であった。思わぬアクシデントにより、たった一日で帰って来たのだが。
「そして今朝、冒険者組合の名で、霊峰エトナ火山調査隊の緊急編成依頼が出されたそうね。同時に、上級冒険者達に対し、特別指名依頼が入ったとも聞いているわ」
マザー・ドゥーラの仕事が早い。昨日の今日で、もう動き出している。あるいは、以前から準備をしていたのかもしれなかった。
また、上級冒険者に対しての指名依頼のくだりは、ダイダロから聞いたのだろう。ノエミは現在、セレーナのシフト管理を任されている。店主であるダイダロが、彼女に相談しない筈もない。
「店長の件はどうしようもないとして、これに、ウチのスタッフ達も応募する気満々よ。これも、仕方がないことだけど」
セレーナのスタッフの半数近くは現役の冒険者である。当初の目論見通りに、ドロテアが紹介し、ダイダロとミリアムが受け入れた冒険者達だ。能力的にも、人格的にも、なかなかの粒揃いであったが、こういった緊急事態の場合、パーラー・セレーナの優先度は高くない。
「元々冒険者としての技能向上が目的でセレーナを紹介された方々ですからね。ノエミお姉さん達とは、立ち位置が違います」
セレーナは年明けに酒類の取り扱い許可が降り、営業時間が延びた。夜はバー・セレーナとなる。アンナは夜に訪れた事はないが、マリアはフロレンスと連れ立って、何度か通っているようだ。夜間のスタッフは当然ながら大人ばかりで、少ないが男性も何名かいるらしい。ちなみに制服は正装が用いられているので安心よ。と、マリアは言っていた。
「いいえ。それは良いのよ。お店を開けていられる算段はついてるの」
問題なのは、調査隊の危険度ね。と、ノエミは語る。続けて、危険と隣り合わせの冒険者達にこんな心配は余計なお世話かもしれないけれど、怪我なく無事に戻って来て欲しいものね。と、彼女は言う。
アンナはつい嬉しくなって、彼女の手を取った。マリアは粛々と梨のシャーベットを口へ運び続けている。
「別に、アンナちゃんが思っているような優しさじゃないわよ? せっかく育ったスタッフが一時的に抜けるだけならともかく、再起不能になったら勿体無いってだけなんだからね」
「成程、これがツンデレですね」
「どこで覚えたのよ。そんな頭悪い単語」
「リーナお姉様の絵物語ですよ」
「あの子は、もーっ!」
リーナは良くアンナ達の家に遊びに来る。最初はレベッカの講習に着いて来ていただけなのだが、段々と頻度が上がっていった。彼女の目当てはマリアお姉様なのだが、アンナにも気安い。リーナの実家はシュペー社だ。その為なのかは不明だが、大変な読書家で、趣味が昂じて絵物語まで自作している。その本や、読み終えた書籍などをよくアンナに貸してくれるのだ。
「もしかして、上級冒険者への特別指名依頼、レーナお姉様にも出されてるんですかね?」
そして、なんたる偶然か、レーナはリーナの姉だった。リーナはレーナの妹とも言うが、どちらも同じ事である。
「あの子、今日は残姉を説得しなくちゃならないから、休ませてって言ってたのよ。多分、指名依頼されてる筈よ」
残念な姉、略して残姉。それがリーナによるレーナの呼称であった。彼女達の関係が明らかになったのは、アンナが『御使のおくるみ』を正式に譲渡する為に、病院へ赴いた時だった。




