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ダンジョンってのは男のロマン!!行くしかないよね。

ヤルタさんと共に応接室へ戻り、俺たちは再びソファに腰を下ろした。大きなソファは柔らかく座り心地が良いが、目の前の巨人族ハーフを前にしていると、妙に緊張感が消えない。


ヤルタさんが先に口を開いた。


「で?ダンジョンに行きたいそうだが、金か?」


切り出された話題に俺は一瞬戸惑いつつも、正直に答える。


「それもあります。ですが、戦闘にも慣れておきたいと思いまして。自分の身ぐらいは守れるようにならないと」


ヤルタさんはその言葉を聞き、少し茶化すように言った。


「あれだけ派手に配達してりゃ、『狙ってください』って言ってるようなもんだしな」


「そうですよね~」


ユフィさんが横で軽く笑いながら相槌を打つ。俺は内心苦笑いしつつ、ヤルタさんの次の言葉を待った。


「それにパンをスラムで配っているらしいじゃねえか。そりゃ金もかかるだろう」


「えっ、なんでそれを・・・」


驚いて聞き返す俺に、ヤルタさんは肩をすくめた。


「ここは冒険者ギルドだ。この街の耳みたいなもんだ。街を爆走してる奴の情報くらい耳に入るんだよ。そういえばお前は聖人にでもなりたいのか?」


「いやいや、そんなことはないです」


俺は慌てて否定しながら、目を逸らして笑いで誤魔化す。本当の理由――いいねポイント稼ぎのためだと言っても理解してもらえないだろうしな。


ヤルタさんは俺に構わず話を続けた。


「身を守るためってんなら、冒険者ランクをBまで上げるのも手だな」


「Bランクになれば身を守れるんですか?」


俺の質問に、ヤルタさんはふむと頷く。


「冒険者のランクは基本的には強さが基準だ。DやCランクまでは依頼の達成数で上がるが、Bランク以上は試験に合格しなければならない。しかも、Bランク試験はかなり厳しく設定されている」


なるほど、Bランク以上は実力主義というわけか。


「なんでBランクだけなんですか?」


「箔を付けるためだ。Bランク以上は試験を突破したという事実が冒険者内での信頼に繋がる。それに、下のランクの連中が絡んでくる心配もほとんどなくなるからな。一部のバカを除いては」


確かに、それなら目指す価値がありそうだ。Bランクになれば、街での安全も確保しやすくなるかもしれない。


「僕もBランク試験を受けられるんですか?」


「ああ。まだ動きはぎこちないが開花したばかりと考えれば納得いく。本来ならCランクまで上げなければいけないが、お前が戦闘に慣れたなら推薦状を出してもいいレベルだ。書く前に実力は見させてもらうが」


「これが次のBランク試験の日程です」


ユフィさんが横から滑らかに紙をテーブルに滑らせる。俺はそれを手に取り目を通した。


「大体一か月後ですか」


「その試験の二日前に俺のところに来い。実力を見せてもらって、問題がなければ推薦状を出す」


「ありがとうございます!」


俺は頭を下げて感謝を伝える。なんとなく目標が定まってきた。


「ちなみに、Dランクには今すぐ上げられますよ~」


ユフィさんが微笑んで付け加える。


「あん?もうそんなに稼いでるのか?」


「依頼達成数が多いですし、評価もかなり高いですよ~。Cランクも頑張ればすぐ届きそうです」


ヤルタさんも少し驚きの表情を浮かべた。


「お前の評判はそこまで良いのか。まあ、配達員の才能があるならそうか」


俺は少し照れながらも、評判の良さをありがたく受け取る。


「で、ダンジョンに行くって話だが、パーティーはどうする?」


ヤルタさんが問いかける。俺に冒険者の知り合いはいない。横を通りかかって眺めるだけだ。大体4人でいる事が多いから4人がパーティーの上限だろうなくらいの知識しかない。


「ソロで行こうと思います」


いいねポイントの件もあるのであんまり俺は集団行動に適していないというのは分かっている。

朝は配達の仕事でポイントを調達したいし、マリアさんのところの差し入れは毎日したい。あれはお金はかかるがすごく効率よく稼げる。

それを続けるうえでもう少し収入が必要と感じたのでダンジョンでも収入を得たいのだ。


「そうか、ソロか」


ヤルタさんは少し難しい顔をするが、ユフィさんがフォローを入れる。


「ギルド長、ノボルさんなら大丈夫ですよ~。かなり慎重派ですし、無茶はしないタイプかと」


「お前がそう言うなら信用するが」


ん?と思いながらもユフィさんの後押しに感謝の目線を送ると、彼女はお茶目にウインクを返してきた。


「後はユフィに任せる」


そう言ってヤルタさんは立ち上がり、俺に向けて一言。


「一か月後、待ってるぞ」


力強い声に背中を押されるような感覚を覚えながら、俺は思った。


――あと一か月で、どれだけ強くなれるだろうか。





ヤルタさんが部屋を退出し、俺はユフィさんと二人でソファに座っていた。彼女は笑顔を浮かべながら、テーブルの上に資料を広げる。どうやらダンジョンについての説明が始まるようだ。


「では、ノボルさん。これから『深淵の塔』についてお話ししますね~」


ユフィさんののんびりとした口調に少し安心しながらも、俺は真剣に耳を傾ける。


「この街には『深淵の塔』というダンジョンがあります。とても古い時代の遺産で、動いている仕組みは冒険者ギルドでも正確には分かっていません」


「遺産・・・って、どれくらい古いんですか?」


「うーん、5千年以上前とか言われてますね~。塔の入口には踏破者の名前らしきものが刻まれているんですが、『シャル』とだけ書いてあって、その人物が誰かも分かっていないんですよ」


ユフィさんは続ける。


「塔の入口には、個人を認識するためのシステムが存在しているようです。入るときには転移装置の前に行くと、塔内に転送してくれる話す装置があるんです」


「話す装置ですか?」


「はい、不思議な声で話してくるらしいですよ~。でも、あまり深く考えすぎない方がいいかもしれませんね。仕組みを気にしてもわからないので」


どうやら、現代の技術では解析できない謎の存在が入口にいるらしい。ファンタジーに近未来的なエッセンスが混じっている。


「塔の内部にはパーティー単位で挑戦できます。最大4人までが登録可能で、一緒に転送されます。ただし、登録していない人とは別々に送られる仕組みになっているみたいです」


「パーティー単位なんですね。でもソロでも入れるんですか?」


「もちろんです。ソロで挑戦する人も少なくないですよ~」


ユフィさんは笑顔で話を続ける。


「現在、冒険者ギルドで確認されている最高階層は45階までです。その記録を出したのは、Sランク冒険者を4人集めたパーティーで、さすがにものすごく強いですね」


45階その先に何があるのか気になるが、まずは足元の1階層を目指すべきだな。


「1階層あたりの広さは端から端まで歩くと約3時間くらいの距離があるそうです。次の階層に進むか、地上に戻るかを選べる転送装置が各階層にあるので、無理せず進むことができますよ~」


「そんなに広いんですね。何か目印になるものとかはあるんですか?」


「ダンジョン内は階層ごとに色んな世界が広がっているらしいですよ。次の転移装置に関しては光の柱が天に伸びているらしいですね」


塔の内部には広大な空間が広がっているらしい。ファンタジーのダンジョンとはいえ、ここまで壮大だと想像が追いつかない。


「5階層ごとにボスが待ち構えていて、そのボスを倒すと宝箱がドロップします。中にはアイテムや装備が入っているので、冒険者の間では目玉イベントですね。ただし、ボス戦は1日に1度しか挑戦できないので注意してください」


「なるほど、それは慎重に挑むべきですね」


「はい。でもその分、報酬はとても豪華なので、挑戦する価値は十分にありますよ~」


「塔内のモンスターは倒されると光の塵になって消えます。一定確率でアイテムがドロップしますので、それを地上に持ち帰ってきてもらえるとギルドで買い取ります」


「どの層が狙い目ですか?」


「2層のコボルトの牙と、3層のグレイウルフの毛皮がギルドで人気ですね~。逆に1層のゴブリンはドロップアイテムが買い取り不可なので注意してください。ただ、たまに宝箱がドロップして、中から小さな宝石が見つかることもあります」


少しずつ情報が整理されていく。初心者としては1層からスタートし、徐々に稼ぎやすい層へと進むのが良さそうだ。


ユフィさんの説明が一通り終わったところで、俺は深淵の塔への興味をさらに掻き立てられていた。準備を万全にして挑まなければ、無謀な挑戦で終わるだろう。


「よし、まずは1層からですね。ありがとうございます!」


「どういたしまして~。ノボルさんならきっと上手くいきますよ♪」


ユフィさんの励ましの言葉を胸に俺は気合いを入れなおす。

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