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テンプレ初成功!!これが異世界チートを手に入れた感覚ってやつか。

ヤルタさんは俺の答えを聞いた後、しばらく驚いた様子で口を開いた。


「つまりお前はデュアルだということか?」


デュアル?聞き慣れない単語だが、文脈から察するに、才能が二つある人のことを指しているのだろう。正確には「二つある」のではなく、俺の場合は一つを付け替えているだけなのだが、説明するのも面倒だし、深く突っ込まれたくない。


「才能が二つある人をそう表現するなら、そうなりますね」


軽く頷いて流しておく。ヤルタさんは「そうか」と呟くと、顎を手で揉む仕草をしながら考え込むような態度を見せた。


「で、その才能はなんだ?」


その問いに少し言葉を探しつつ答える。


「えーっと、徒手格闘戦が強くなる才能ってありますか?」


「あるな。モンク、かインファイターだな。回復系統もできるのがモンクで、徒手格闘に特化したのがインファイターだ」


モンクが僧侶のような役割で、インファイターが俺の職業で言う「拳闘士」にあたるのだろう。俺は小さく頷きながら言った。


「そのどちらかで言うなら、インファイターですね」


「そうか」


ヤルタさんは再び顎を撫でながら考え込む。その横でユフィさんが興味深々の顔をしてこちらを見ている。お茶目な性格が顔に出ていて、ちょっと和む。


「配達の才能とインファイター系の才能のデュアルか。まあ正直、望外ではあるな」


「どういうことでしょう?」


デュアルだと何か特別なメリットでもあるのだろうか。俺が尋ねると、ヤルタさんは視線を向けながら説明してくれた。


「非戦闘系の才能の場合、自衛手段に乏しい奴が多い。だから護衛を派遣しなきゃならん。だが、デュアルで片方が戦闘系ならその必要がない。こちらとしても守る人員が減る分助かる。正直今回もギルド職員として受け入れる予定だった」


なるほど、冒険者ギルドとしては才能持ちを守るのも仕事。守るために雇って近くに置くということだろうか。


「なるほど」


と答えながら納得する。どうやら俺が特別扱いされる理由も見えてきた。するとヤルタさんは一息ついてから言葉を続けた。


「でもまあ、一旦お前の実力を把握する必要があるが。ユフィ」


ヤルタさんがユフィさんに目配せすると、彼女はすぐに立ち上がった。


「了解しました~」


そう言いながら部屋を出ていく。俺はその背中を目で追いながら尋ねた。


「ユフィさんはどこへ?」


「今からお前の戦闘の実力を試す。才能が開花したばかりなら、まだ一般人と変わらん可能性もある。もしそうなら、成長するまで護衛が必要になるからな。その確認だ」


戦闘能力のテストか。テンプレ展開すぎて心の中で小さくガッツポーズを取る。これって主人公が驚かせるやつだよな!


「わ、わかりました。よろしくお願いします」


表面上は戸惑いを装いながら、内心では期待感でいっぱいだ。すると間もなくユフィさんが戻ってきた。


「下の訓練場、空いてますよ」


何事もなかったかのように戻ってきた彼女に、少し驚く。こんなに早く空き状況を確認できるものなのか?


「では行くか」


ヤルタさんが巨体をソファから起こし立ち上がる。それに続いて俺も立ち上がる。


「あの、すみません。その前にお手洗に行ってもいいですか?」


「おう、行ってこい」


「お手洗いは部屋を出て右側の扉ですよ~」


ユフィさんが指で方向を示しながら教えてくれる。俺は彼女に礼を言いつつ、部屋を出た。


廊下は静かで、木製の温かい感触が足元に伝わってくる。右手の扉を開けると、案内された場所に清潔なトイレがあった。鏡に映る自分の顔を確認し、軽く気合を入れる。


さて、せっかくやってきたテンプレ展開だ、しっかり準備しないとな。

俺はそう考えながらステータス画面を呼び出す。


拳闘士のスキル一覧を眺める。


朝の時点で残っていた12ポイントに、配達で得た38ポイント、そして孤児院で獲得した50ポイントを合わせて、現在のいいねポイントはちょうど100ポイントだ。このポイントを使って戦闘に必要なスキルを取得する。


【極限状態】(アクティブ/50ポイント/MP消費10)

10秒間、力+30、敏捷+30、耐久+30の強化を得る


【気合の一撃】(アクティブ/20ポイント/MP消費3)

力を溜めて破壊的な一撃を与える


【剛腕の覚醒】(パッシブ/30ポイント)

戦闘中に全身の力を覚醒させ、力+10、敏捷+5


これらのスキルを選び、計100ポイントを使い切ることにした。今回は蹴り技は控えめにして純粋に拳と身体能力を強化する方向だ。力のステータスをまだ振っていない現状では、スキルで補強するのが合理的な判断だろう。


正直、瞬歩を使ってみたい気もするが、いきなり移動スキルを使いこなす自信はない。今回はシンプルに殴ることに集中することにした。


「よし」


スキルを選び終わり、気合を入れて立ち上がる。ドアを開けると、外でユフィさんが待っていてくれた。


「じゃあ行きましょうか~」


ユフィさんは、いつもののんびりとした調子で階段を下りていく。どうやら訓練場は地下にあるようだ。


「まあまあ、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ~」


どうやら俺の緊張が伝わったらしい。確かに初のテンプレ展開に少し力み過ぎていたのかもしれない。


階段を下りてたどり着いたのは、大きな石造りの部屋だった。小学校の体育館の半分くらいの広さはあるだろうか。壁は石で囲まれ、どこか堅牢な雰囲気を醸し出している。部屋の中央にはヤルタさんが立っており、その隣には大きな石に刺さった藁でできた案山子が立てられている。


「来たか」


ヤルタさんが低い声でそう言いながら、微かに笑った。やっぱりこの人怖いな。


「すごい部屋ですね」


俺が壁や天井を見渡しながら感嘆の声を上げると、ヤルタさんが楽しそうに説明してくれる。


「ああ、ここは特別製だ。壁には魔法障壁が張られていて、外にはダメージがいかないようになっている。金もそこそこかかったが、その分安心して力を使える」


ふと横を見ると、ユフィさんが壁際に移動していた。


「あれ?ユフィさん、なんでそんな端に?」


「いや、危ないので」


待て待て、危ないって何がだよ!?急に不安が襲ってくる。俺は、視線をヤルタさんに戻すと、彼が満面の笑みを浮かべていた。やっぱり怖えよ、この人。


「じゃあ、まずはこの人形を思いっきり殴ってみろ」


ヤルタさんは案山子の肩に手を置きながらそう言った。


「わかりました」


俺は案山子から5歩程離れた位置に立つ

空手の間合いでいえばめちゃくちゃ遠い。だが安心してほしい。

空手をやっている人でも最大火力はその場での正拳突きではない。

思いっきり速度と体重を乗せたパンチだ。

空手の道場でみんなは一度はやる、走り殴り。一番サンドバックを揺らしたものが勝ちというルールのもとみんなで競争しあう。サンドバックあるあるだ。


俺はちなみにこれが結構上手いと自負している。4歩で一気に速度を乗せて最後の一歩は全力ブレーキで踏ん張る。

体全体の慣性を右手一本に集中させてやや前傾姿勢で打ち込む。

何度もやったことのあるこの動きをここで再現する。


そこでさっき取得した【気合いの一撃】を起動する。

初めてのアクティブスキルの発動。はじめはどうすれば発動するのかと思ったが、頭の中で唱えればいいだけだった。

俺の右手に熱がこもっている感じがする。「こんな感じか」と感じて腰を落とす。そして【極限状態】も起動させる。

俺はそこから全力で走り込む。


1歩左足を前へ蹴りだす。勢いをつけるためにより体を前に倒す。

そこから2歩、3歩、4歩どんどん体を加速させる。

今まで感じたことのない速度に一瞬驚くが脳と視覚は驚くほどクリアだ。

最後の一歩5歩目。左足を地面に打ち付けて全力でブレーキ。

それと同時に腰をひねり。右腕を一直線になるように意識をして突き出す。


角度はやや斜め下。案山子の顔面を狙ってその後頭部を地面に叩きつけるイメージでインパクト。


その瞬間案山子が地面で3回バウンドして錐揉み回転。そしてすさまじい速度で壁に叩きつけられる。


どーん。


「ぇー」


俺は自分の拳を見つめる。これが異世界チートパワーか。やりすぎた気がするが、テンプレ的には成功したっぽい?


ギギギと首を回し、ヤルタさんの顔を見ると、彼は顎を揉みながら俺をじっと見ていた。ユフィさんは「おー!」と手を叩いて楽しそうだ。


「これは護衛はいらなそうだな。あの尋常じゃない加速は配達の才能のおかげだろう。こんなシナジーがあるとはな」


ヤルタさんは冷静に分析を始めた。そして一言。


「開花したばかりの話が本当なら、将来的にはSランク冒険者も視野に入るな。もう十分だ、上に戻るぞ」


案山子を片手で持ち上げ、部屋の中央に戻すヤルタさん。


俺は、これはテンプレ展開成功か?と内心で喜びながら、部屋を後にした。


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