1 豊穣の舞
マリエールはモメット王国の王女様、魔法が得意で豊穣の祭りで舞をまう。多分これが最後だと思って大量の祝福を送る。
1 豊穣の舞
マリエール12歳、この国モメット王国の国王の唯一の子どもだ。国王はこの国を悲観している。東の国に長年攻撃され、今は属国同然だ。明るい未来は見えない。マリエール以外子どもをなさなかった。
マリエールは魔法が堪能だ。特に豊穣魔法と治癒魔法は得意だ。時々豊穣魔法をかけ、怪我人病人がいれば、治癒魔法を放つ。マリエールは国民の希望だ。美しく優しい王女様は国の誇りだ。
今は3月、豊穣の祭りが執り行なわれている。主役はマリエール。楽器の演奏に合わせて、マリエールの舞が奉納される。多くの国民が見守る。マリエールの豊穣の舞が確かに有効なのが知られて
6年が経った。その間飢饉もない。しかし東の国に絞り取られて、豊かにはなれない。しかも豊穣の祭りが終わるとマリエール王女は東の国の第2王子と婚約式だ。国民に取っても鎮痛な思いだ。マリエールの声が響く。
「これより国に幸ある事を祈って豊穣の舞を踊ります。皆様が願ってくれるほど、神に祈りが届き安くなります。是非皆様もお祈り下さい。豊穣の神よ、我が願いを叶えよ。」
舞と演奏が始まった。巫女衣装を着たマリエールは真剣な顔で踊る。踊りの巧みさも、マリエールの神々しさも相まって、この世のものとは思えないほど美しい。時々打ち出される祝福もあって、この舞が神に届くのを確信させる。
「ああ、なんて美しい事だ。」
国民の一人が呟く、
「この世のものと思えないほどの美しさだ。」
別の呟きがする。
「あの方が東の国の王子と婚約されるとは、不憫な事だ。」
皆が思う事だろうが、怖くて相槌が打てない。
舞も終盤にかかった。マリエールの祈りの声が木霊す。
「豊穣の神よ、我が願いを聞き届けよ。」
大きな祝福が会場全体に広がった。昨年はこれほど大きくはなかった。マリエールの魔力が大きくなったのだろう。会場の人々の歓声が上がった。マリエールは、
「豊穣の神に祈りは届きました。今年も豊穣は約束されました。」
会場の歓声は一気に広がった。昨年マリエールはそんな事は言わなかった。巫女は未婚の少女の仕事だ。マリエールは結婚するわけではないが、婚約する今回が最後の勤めであるという思いがある。もう豊穣は祈れない。
豊穣の祭りが終わり、マリエールは自室に戻った。一刻で婚約式だ。婚約など親の同意だけで決まるものだが、東の国の世継ぎ問題で、第2王子を担ぎ出そうとする勢力を牽制するためマリエールと婚約させて、そのままモメット王国に住まわせる事になったようだ。だから何人も見届け人を付けて婚約式をするそうだ。だから結婚式には東の国の人間は呼ばなくてもいいらしい。東の国の第2王子のラキウスも気の毒な人かも知れない。マリエールはなんとなくそう思った。年はマリエールより1歳上、時々顔を見るが、気の弱そうな子どもだ。残虐、冷酷な東の国の王子に見えない風貌だ。東の国では合わないのかな。それならこの国に来て良かったのかも。マリエールは人事の様に考える。婚約、結婚なんて実感出来ないから。
豊穣の祭りが終わり、一刻後には婚約式だ。相手は残虐、冷酷な国の第2王子だ。気の弱そうな子どもだ。