ツンデレのお見舞い
初のツンデレを書いてみました。
皆さんの思ったツンデレとは違うかもしれません。
僕はツンデレ大好き属性の人間です。
俺は木下賢吾、高校二年生だ。今俺は近所の総合病院の一室で暇を持て余しながらベッドに横たわったままでいる。
なぜかって?車に撥ねられたからだよ。
当たり所が良かったのか悪かったのか頭とか大事な部分を損傷することはなかったんだけど、両腕は骨折、全身を強く打ち付けたからまだ体が思うように動かない。だから何もできずただ時間が過ぎるだけの苦痛の時間を強いられている。
でも後悔はしていない。なんたって人助けができたからな!赤信号になっているのに気付かずに横断歩道を渡ろうとしている女の人がいて、そこに車が来たもんだからすかさず女の人を突き飛ばして俺が撥ねられた。
今は面会謝絶らしくて親以外の人は見舞いに来れないんだけど、見舞いができるようになったらすぐにでもお礼に来たいと助けた女の人が言っていると母さんから聞いた。
別に感謝してほしくてやったわけではないけど、女の人ということで少し下心を抱いている自分がいる。それはもうお礼におっぱい揉ませてくれるんじゃないかとか妄想してしまっているけど、健全な思春期の男子高校生なんだ!許してほしい!
妄想を膨らませながら見舞いが解禁されるのを待っていたけど、いざお礼に来た女の人を見て俺は固まってしまった。
体が動かないから固まったままなんだけど、そういうことじゃない。俺の目の前に現れたのは中学時代に疎遠になってしまった幼馴染、村山澪。俺の初恋の人——そして今も恋をしている澪が来たんだ。
「あ、あんたに助けられるとは思ってもみなかったわ!い、一応助けてもらったわけだから、お、お礼に来てやったわよ!あ、ありがとね!」
左手を腰に当て、ふいとそっぽを向きながらお礼を言う澪。
ご覧の通り、彼女は俺のことを嫌っているんだ。普通なら死んだかもしれないんだから体の心配の一つや二つしてくれてもいいわけだ。でも彼女はそんなことはしない。
このお礼だって俺に言うのがよっぽど苦痛だったんだなっていうのが伝わってくる。なんで俺はこんなに彼女に嫌われてしまったんだろう。
彼女は俺の家の向かいに住んでいて保育園に入る前からの腐れ縁だ。ずっと一緒に遊んだりして仲良くやっていたんだけど、小学5年生くらいから急に態度が変わってしまったんだ。
「あんた男子なんだから近づかないでよ!一緒にいたら勘違いされるでしょ!」
「私と帰りたいって?バ、バカ言ってんじゃないわよ!私は友達と帰るから!」
こんな感じで近くに一緒にいることができなくなった。俺は何か怒らせてしまったんじゃないかと思って謝罪したけど無視された。
この時すでに俺は澪を異性として意識していたから結構ショックだった。めげずに彼女に話しかけたり、遊ぼうと誘ったりしたけど拒絶された。
これ以上嫌われてしまったら立ち直れない——そう思った俺は彼女に近づくのをやめた。そのまま中学に上がるとクラスが違ったり、部活の朝練とかで顔を合わすタイミングがなくなり疎遠になった。
せめて高校は同じところに通いたいと思っていたけど、彼女は私立の女子高へ進学したため完全に接点がなくなってしまったんだ。
そんな彼女とこんな形で再会するなんて……。しかもあの時助けたのが澪だったなんて……。
「な、何か言いなさいよ!わざわざお見舞いに来てやったんだから!」
はっ!考え込んでて返事するのを忘れてた。
「すまん、まさか助けたのが村山だとは思わなかったから驚いていただけ。突き飛ばしたあとの記憶がないから分からないけど、ケガとかなかったか?」
一瞬、澪は悲しそうな顔をしたが、どうしたんだろう?
「ごにょごにょごにょ……おかげさまでこの通りなんともないわ。あんたはどう?って見たら分かるか。ごにょごにょ……」
最初と最後に何か言った気がしたけど聞き取れなかった。中学の時もたまに業務連絡程度の会話をしたときもこんな感じだったよな。
「じゃあ私は帰るから」
「え?もう?早くない?もう少し居てくれてもよくない?」
「え……?な、何、あ、あんたは私と一緒にい、いたいってこと?」
「何もすることがなくて暇だからって言うのもあるけど、村山とは久しぶりに会えて嬉しいんだよ。だから昔みたいに話そうぜ」
途端に顔を真っ赤にさせながらプルプル震えている。どうしたんだ?
「け、賢吾のバカーーーーーーーーーーーっ!!」
すごい勢いで澪は部屋を出ていった。どうやらまた何か俺はやらかして怒らせてしまったようだ。これでもう澪と会うことはないだろうな。結構寂しいな。
※
「…………、体大丈夫?私なんかのためにこんなボロボロになって、ごめんね」
次の日、やることがなくて目を瞑っていたら寝てしまっていたらしく、誰かの声で少しずつ脳が覚醒していく。
「はあ、賢吾かっこよくなったなあ。このだらしない顔で寝てるのは可愛いけどね!」
この声は……澪だ!でも待った!なんか今までの澪とは全然違う。
「昨日なんか、本当は私を助けてくれたのちゃんとお礼して楽しくおしゃべりしたかったのに、また恥ずかしくてバカなんて言っちゃった……。ごめんね」
これはもしかして……、澪は俗にいうツンデレってやつなのか?
「せっかくまた仲良くできるきっかけができたのに私のバカバカ!こうやって寝ててくれたらいくらでも素直になれるのに……」
はい、ツンデレ確定ですね!そうか、今までの行動はツンだったわけだな。てことは澪に嫌われたってことではないのか。こうなったら澪のデレを堪能させてもらいましょうね!
「はあ、でも本当に賢吾かっこよくなりすぎ!絶対学校じゃモテモテだよ……。一緒の高校にしとけばよかった……」
正直俺は全くもってモテてなんていない。そこは安心してくれ澪よ!自分で言ってて悲しくなってくるな……。
それにしてもツンが強くて高校別にしたってことだとしたら、澪のツンは相当だぞ。
「やばい!賢吾好き!好きすぎておかしくなっちゃう!もっと一緒にいたいなあ」
デレの破壊力とんでもないですね!しかしこれ今目を開けたら絶対起きてたってバレるよな?そしたら気まずくなるし澪のツンであらぬ方向に行ってまた疎遠になってしまうのも困る……。
ガラガラガラ!
「あら、澪ちゃんお見舞い来てくれたの?昨日も来てくれたって賢吾から聞いたけど、サプライズはうまくいった?」
グッジョブだ母ちゃん!これで自然に目が覚めたって感じで起きることができる!
「こんにちは、お義母さん。はい、うまくいきました!賢吾すごい驚いていましたよ!」
「助けたの澪ちゃんだって誤魔化すの大変だったんだから。でもうまくいったんだったらよかったわ~!」
なるほど、助けた人が誰か言わなかったのはサプライズするためだったのか。驚いたは驚いたけど、サプライズする意味なくね?
「先に私の名前出すと来ないでくれとか言われそうで怖かったのもあるんです。だから伏せてくれて助かりました!」
澪的には俺が嫌ってると思ってるってことか……。いや全くもって大好きですけどね!なんとかして勘違いだって分かってもらいたいなあ。
「それより写真撮った?今なら寝顔の写真ゲットできるわよ!」
「そっか、これはチャンスでしたね!待ち受けにします!」
おいおい、こんな情けない姿、待ち受けにされたくねえよ!
「ん?ふぁ~あ。いつのまにか寝てたわ。お、澪に母ちゃんじゃん。澪は今日も来てくれたのか、ありがとうな!」
よし!この自然に起きましたよ感、完璧だ!なんとか写真撮られるのは阻止できたけどなんでそんながっかりしてるんだよ!そこはいつものツンで来てくれよ!
「うん、昨日暇だって言ってたから話し相手になろうと思って来たの」
あれ?ツンでもデレでもなく普通だな。
「賢吾よかったわね~。私はお邪魔みたいだからまたあとで来るわね」
「ああ!お義母さん行か—」
ガラガラガラ!
「ふ、ふざけんじゃないわよ!なんであんたの話し相手なんかしないといけないのよ!」
え?ここに来てツンですか?しかもかなり無理のあるセリフですよ、それ。もしかして母ちゃんいたから普通だったの?
「澪、それは無理があるって。話し相手になってくれるのは助かるから最近のこととか聞かせてくれよ」
「し、仕方ないわね!話し相手になってあげるからありがたく思いなさいよ!」
昨日みたいに出て行く感じではなくてよかったよ。多少のツンはありながらも澪と楽しく話ができた。今考えたらまともに話したのって小学生以来だよな。
話に夢中になってて気がついたら日が傾いていた。まだ夕日は沈んでないから暗くなる前に帰らないと心配だ。
「そろそろ暗くなりそうだから今日はここまでにしようか」
「え?もう終わっちゃうの?もうちょっとだけ話したいな……」
おっと~、ここに来てデレですか!ありがとうございます!
「俺も話したいけど、暗くなってからじゃ危険だからさ。もし大丈夫だったら明日もまた来て話し相手なってくれよ?」
「うん!明日も来るね!」
デレのまま澪は帰っていった。デレの澪はたまりませんな~!
※
その次の日からは
「ふん、今日も話し相手になりに来てやったわよ!べ、別に会いたいからとかそんなんじゃないんだからね!」
から始まり
「あんたバカなんじゃないの!?」
「ニヤニヤしててキモイ!」
などのツンが入りつつ会話が進み、帰りになると
「え~、もう終わりなの?もっと話したいよ~!」
「また明日も来ていい?やったあ!楽しみにしてるね!」
とデレで〆るというまさにツンデレの模範を見ているかのようなツンとデレのギャップに俺はもうメロメロだった。
そんな毎日を過ごしながら俺の体も回復し、明日退院することになった。だから今日で澪との楽しい会話も最後になる。
退院したら澪の態度はどうなるんだろうか?また前みたいに疎遠の関係に戻るんだろうか?それは嫌だという自分がいるのは確かだ。
ガラガラガラ!
澪が病室に入ってきた。でもいつもみたいな感じではなく寂しそうな表情だ。
「今日もお見舞い来てあげたわよ。明日退院なんだってね。おめでとう……」
「ありがとう。てか全然おめでたくない感じで言ってるよな。なんだよ、俺に退院してほしくないってか?」
「だって!退院したらこうやって賢吾と会えなくなるもん!」
モジモジしながら俯く澪。もうカワイイしかありませんね!
「それなら大丈夫だ!見ての通り、俺の腕はまだギプスが取れていない。しばらくは誰かに面倒を見てもらわないと生活は無理だ。だから澪がよかったらだけど、澪にお世話をお願いしたいと思ってる」
俺はもうツンデレの魅力に見事にハマってしまっている。これからも澪のツンデレっぷりを味わいたいんだ!
「そ、そう!なら仕方ないわね!しばらくお世話してあげてもいいわよ!」
ふんっ!と腕を組みながら不機嫌そうな態度をとる澪。
よし!とりあえずギプスが取れるまではツンデレを楽しめる!
こうして俺と澪とのツンデレ(たまにいちゃいちゃ)ライフが幕を開けるのであった。
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