君に百億回の悪夢を見せよう
私は最近魘されている。何度も何度も同じ夢を見るのだ。
───クラスメイトの男子に告白される夢を。
そのことを友達に話したのだが笑い飛ばされてしまった。いったいどうすればいいんだ。
「そいつのこと好きなんじゃね?」
んなわけねぇよ!
だいたい話したこともあまり無いし、顔だってタイプじゃない。なんだってそんなやつに告白される夢を見なきゃいけないのだ。
私は頭を抱え、机に伏しながらソイツを睨み上げた。あんな教室の隅で本を読んでばかりのやつのどこがいいというのか。
しかし私がどんだけ嘆こうか悪夢は終わらなかった。
今日も言えなかった。
書き終わったノートを眺めながら、俺は事実を今一度心に浮かべた。
言えなかったこととは何か。それはもちろん「告白」の言葉である。
俺は何度もあの子に告白しようとしているのだが、声をかけることすらできないまま5年という月日が経ってしまった。
シミュレーションだけでは足りないかと思い、告白の仕方を毎日考え続けた「告白ノート」はいったいこれで何冊目であろう。すっかり勉強机を埋めつくしたそれらを見ながら俺はため息を吐いた。
五冊目あたりの俺キッショ。何考えてんだコイツ。けど、一冊目はたどたどしすぎるような気もする。
過去の自分ができなかった「告白」を見返しながら酷評をし、どうにか自分を落ち着けようとする。
前と比べたら成長してるじゃないか。
そう言い聞かせるのは俺が大分追い込まれているからだろう。
何を隠そう最近夢をみるようになった。
あの子と教室に二人きりでいる夢だ。
それをもう何度も何度も見ている。
焦る気持ちが夢となって現れたのだろうか。
───あーあ。夢の中でなら言えるのに。
そう思って俺は息を呑んだ。
そうか。夢の中で言えばいいのか。
夢の中で言ったって意味はないのかもしれない。
一回一回で意味がなくとも物量で押してやる。
何度だって君に好きだって言って、付き合ってとお願いして
君に百億回の悪夢を見せよう。
目の前にあいつがいる。ということは私は今夢を見ているのだろう。
「よろしくお願いします」
「……………よろしく」
あいつが深々と頭を下げるので私も会釈程度に頭を下げる。この挨拶もすっかり恒例になってしまった。
「お前……こんだけ告白してきてよくネタが切れないよな」
普通に初めの頃は戸惑ったが、もはやこの回数になると呆れきって謎の感心が湧いてくる。
「いや、普通にもうネタ切れてきた」
「じゃあこの悪夢ともおさらばだな」
「なのでこれからは「告白ノート」から引用してこようと思う」
「なんそれ」
「告白ノート」の説明を受けて私は絶句した。
「まじでなんそれ。それが机埋めつくすレベルとか、どんだけ私のこと好きなんだよ」
「分からない。とにかく好きです、付き合ってください」
「キッショ」
目の前にいるこいつはぶっちゃけ気持ち悪いと思うし、正直引いている。夢の中までつきまとってくるストーカーのようだ。
でもなぜだか面白いと思っている自分もいた。
「お前ホントおもしれー男だよ」
「お褒めいただきありがとうございます?」
こいつは首を傾げつつ頭を下げた。
「ネタが尽きるまで付き合ってやるから手を抜くんじゃねぇぞ」
「俺のことを好きになってくれるまで終われないので、どっかで折れてくださいね」
望むところだ。
お前が諦めるまでながながと待ってやる。