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2-3.クラスメイトの反応

翌朝。

チカは学校に行くのが憂鬱だった。クラスのみんなに何を言われるか、考えただけで気が重くなる。人の目が怖かった。

けれど、「行かない」という選択肢もとれない。「魔法少女になっても普段通りの生活をとるように」とアドバイスを受けており、母もチカの休みを認めないだろう。

何より、一度でも休むと二度と行けなくなるのではと、チカ自身に不安がある。

登校中、チカは人目を避けるように下を向いて歩いた。靴箱で靴を脱ぐ時に、誰かが「魔法少女」と口にするのが聞こえた気がした。それがチカに向けてのものかは分からない。けれど、チカは急いでその場を後にした。

緊張と不安で心臓が破裂しそうになりながらも、教室の扉を開いた。途端、それまで騒がしかった室内が静寂に包まれる。椅子に座っておしゃべりしていた子たち、黒板に日付を書いていた日直、窓際で大声を上げていた子たちも、みな、チカを見ていた。そこに悪意はなく、あるのは好奇心。だけど――

(……怖い)

逃げ出したい。

チカは人から注目を浴びるのに慣れていない。浴びたいとも思わなかった。それが今、大きな圧となってチカを襲う。

本気で逃げ出そうかと思った時、背後から肩を叩かれた。

「おはよう、チカ!」

「……ココナ」

振り向いた先、向けられた友人の笑顔に、チカの身体からドッと力が抜ける。緊張が解け、汗が一気に噴き出した。

「何してるの? 教室入ろうよ。それで、昨日のこと聞かせて!」

ココナに手を取られ、チカは教室に足を踏み入れる。クラスメイトたちの視線がチカから離れ、それぞれの会話へ戻っていった。

「巧田先生、チカがどうなったのかちゃんと話してくれなくてさぁ」

ぼやきつつ、荷物を自席に置いたココナがチカの机の前に立つ。

「ね。やっぱり、チカが魔法少女なんでしょう? 絶対そうだよね!」

「ココナ、声、大きい……」

教室中に響く声。自意識過剰かもしれないが、みなが自分たちの会話に聞き耳を立てているようで、チカは気が気でない。

それでも、好奇心たっぷりの期待に満ちた目に逆らえず、チカは小さく頷く。

「……うん。一応、魔法少女に選ばれた、よ」

「すっごーい!! やっぱり、やっぱりだ! すごいすごいっ!」

気持ちが爆発したのか、ココナは大袈裟なほどに「すごい」を繰り返す。らしくもなく、ピョンピョンと飛び跳ねて喜ぶ彼女は、チカの目には奇異に映った。

ココナの声が聞こえたからだろう。離れた席の女子が「千野さん」と話し掛けてきた。

「ごめん、聞こえちゃったんだけど、やっぱり、千野さんが魔法少女なの?」

「えっと……」

自ら喧伝するつもりはないが、聞かれた以上、嘘はつけない。チカが肯定しようとすると、横からココナが「ちょっと」と口を挟む。

「宮田さんさぁ、昨日、巧田先生に言われたでしょ? チカが魔法少女に選ばれてようが選ばれてなかろうが、今まで通りに接してくださいって」

そう言って、チカとクラスメイト――宮田の間に割って立つ。

「友達でもないくせに、チカが魔法少女になった途端すり寄るの止めてくれる? そういうの迷惑だよ」

「ちょっと、ココナ!」

チカは驚いてココナの制服の袖を引く。宮田の言葉のどこに「すり寄る」ような要素があったというのか。彼女はただ、チカに確かめただけ。それも、きっかけはココナが大騒ぎしたせいだ。

宮田は一瞬、不快そうな顔をしたが、結局、何も言わずに自席へ戻る。

代わりに、全く別の場所から聞えよがしの声が聞こえた。

「うっざぁ」

チカは反射的に声の主に視線を向ける。本匠(ほんじょう)ユウリ。教室の一角で男女の友人たちに囲まれた彼女はチカを見ていない。明るい色のロングの髪をいじり、大きな声で独り言のように告げる。

「なんか、いきなり調子乗り過ぎ。魔法少女がそんな偉いわけ?」

向けられた言葉の鋭さに、チカは下を向く。

「偉いのはさぁ、頑張ってるリコちゃんとかアカリちゃんで、何にもしてない女がはしゃいでんのって、クソださくない?」

彼女の言葉に、友人たちが追従する。聞いていられず、チカは教室を逃げ出そうとした。しかし、ココナがチカの腕をグッと掴んで引き留める。

「なによ、ダサいのはそっちでしょう! 自分が選ばれなかったからって僻んで、恰好悪い!」

「はぁ? ふざっけんな! 誰がそんな女僻むわけっ!?」

一瞬即発の空気。チカはココナの袖を引く。これ以上、ユウリを刺激して欲しくなかった。

「ココナ、止めて」

「だって、チカ! チカは魔法少女なのに!」

興奮したココナを宥めようとするが、頭に血が上った彼女は話を聞かない。力尽くで連れ出そうにも、彼女は一歩も動こうとしなかった。

チカが困り果てた時、教室の外から名前を呼ばれた。

「千野チカさーん。いますかー?」

呼ばれて、チカは廊下を見た。顔だけは知っている野球部の男子がチカを見て手招きしている。

(なに……?)

これ以上の面倒は嫌だ。けれど、現状から逃げ出すために、チカはもう一度ココナの腕を引いた。

「ココナ、呼ばれてるからついてきて」

「……誰あれ? 知ってる人?」

「知らない。多分、野球部の人」

興味を引かれたのか、ココナは今度は大人しくチカについてくる。

ホッとしたのも束の間、廊下に出ると、呼び出した男子は不躾な視線をチカに向けてきた。ココナがムッとした表情を浮かべる。

「なに? チカに何か用なの? 魔法少女だからって見世物にしないでほしいんだけど」

「へー、やっぱり、千野って魔法少女なんだ」

そう感心したように呟いた男子は、「あのさ」と告げる。

「野球部の卒業生で一高に行ってる先輩がいるんだけど、その人に千野の噂話したら、『会いたい』って言ってさぁ」

男子は、近隣でもトップの進学校の名を挙げ、「めちゃくちゃ格好いい先輩」と付け足す。

「一回でいいから、ちょっとだけ会ってくれない?」

「……会わない」

チカがボソリと返すと、相手はうるさいくらいのボリュームで「えー!」と抗議の声を上げた。

「いや、まじで一回、一回だけでいいから! めっちゃいい先輩なんだって。千野って弟いるだろ? アイツにとっても先輩なんだよ!」

「……今は、知らない人と会っちゃ駄目って言われてるから」

もらった資料や母の言葉を盾に、チカは拒絶する。彼は「えー」と再び叫声を上げた。

「俺が井出先輩に怒られんじゃん。……最悪。どうすんだよ」

悪態をついた男子は、もうチカのことなど眼中にないらしい。不平を零しつつ、さっさとチカたちに背を向け去っていく。

「……なにアイツ?」

ココナの不機嫌な声に応えられず、チカはため息を零した。


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