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1-2.ネットが繋ぐ世界

都内。午後九時過ぎ。

入浴を済ませた後、チカは自室でくつろいでいた。ベッドの上、肩までの濡れた髪をフェイスタオルで拭きつつ、お気に入りの小説を読む。中学に入学すると同時に買ってもらったスマホは二年で飽きた。小説や漫画を無料で読めるのは嬉しいが、チカはそもそも完結していない話が苦手だ。読み切りならいい。けれど、先の展開にやきもきさせられる――しかも、それを時間をかけて追わねばならないことが苦痛であると気付いてから、新作には手を出さないようにしている。

そして、「受験生なんだから」とうるさい母が、なんやかんやと小説なら購入を許してくれるのだ。

(……漫画原作の小説なのに、何が違うんだろ)

表紙の少女漫画風イラストをチラリと確認してから、チカは再び本文に戻る。読み進めようとした時、スマホの着信音がピロンとなった。周囲を見回すも、どこで鳴ったか――どこに置いたか分からない。無視することにして再び本に視線を落としたが。

ピロンピロンピロン――

立て続けになる音に、チカは面倒な予感を覚えた。

チカが登録しているSNSの連絡先は限られている。仲のいい数人を除いたら、後はクラスのグループが一つ。これだけ連続して着信がなるのは後者の可能性が高い。たまに、クラスの中心メンバーが見つけた「面白いこと」を共有するためのグループなので、基本、チカには関係ない話題しか流れない。けれど、だからといって「未読」はまずい。

(スマホ。どこだっけ?)

未だ断続的に鳴り続ける着信音を頼りに、チカはスマホを探す。数分探して漸く、学習机の上――広げっぱなしの参考書の下から見つけ出した。

「え、三十五件?」

開いた画面、未読メッセージの多さに思わず声が出た。

チカはアプリのアイコンをタップする。表示される「未読」のメッセージを上から順に追っていった。


Y-Ri:テレビ見た!? リコちゃん、魔法少女引退って!

かっく:見た! マジで?てなった

Y-Ri:ヤバいよね! リコちゃん、一番人気なのに引退とか!

ミコ:ねー。一番強い人抜けてだいじょうぶなんかね?

おーた:最強はアカリ姉さん。異論は認めない

Y-Ri:リコちゃん、ずっとファンだったのに。悲しー

かっく:泣くな泣くな

おーた:実際、リコが最年長だったしな。引退は順当

ミコ:長かったよねー。五年? うちらが小学生だったでしょ。魔法少女デビューしたの

Y-Ri:次の魔法少女、誰が選ばれるんだろ? ドキドキする!


一連の流れを途中まで追って、チカはへぇと呟く

(……リコちゃん、引退するんだ)

虹夢(にじゆめ)リコ――

通常はフルネームを公開しない魔法少女だが、彼女の名前はみなが知っている。元々――魔法少女に選ばれる前から、彼女が本名で芸能活動をしていたためだ。アイドルとして名の知れていた彼女が魔法少女に選ばれた時、日本中がお祭り騒ぎになった。それから五年間、彼女はソロアイドルとしての活動も続けている。

スリープ画面になっていたスマホが再びピロンと鳴る。

開くと、友人の雨嶋ココナからのメッセージが届いていた。

『グループメッセージ見た? リコちゃんが引退するって。鬱だ。明日からどうやって生きよう』

小学生の頃からリコに憧れている彼女の落ち込みように、チカは嘆息した。

(何て返そう)

ココナは大切な友人だが、些細なことで機嫌を損ねる面倒なところがある。文字しか伝わらないメッセージで、彼女をどう気遣えばいいか。

(……『ずっと応援してたのに辛いね。でも、リコちゃんはアイドルだから。これからもいっぱい応援できるよ』)

結局、無難な返しになったが、すぐに既読のサインがつき、返信が表示される。

『魔法少女だから応援してたんだよ。ただのアイドルじゃ全然推せない』

なんとも返信に困る内容に、チカは画面を眺めて逡巡する。頭の中であれこれ推敲する内に、しびれを切らしたようにココナのメッセージが届いた。

『リコちゃんが落ちちゃうとこ、動画が流れてるよ』

続いて、動画配信サイトのURLが貼られる。チカは、アルファベットと数字の羅列をタップした。

(うわ……)

開いた動画は遠目のアングル。それでも、「変身が解けた」と分かるリコが、ビルの高さから落下していく。それを追うのは炎の魔法少女アカリ。追いついた彼女がリコをキャッチしたため大事に至らなかったようだが、ヒヤリとする。

再び、ココナからメッセージが届いた。

『明日また話そ。ユウリ辺りがウザそうだけど』

同じくリコのファンを広言するクラスの中心人物、本匠(ほんじょう)ユウリの名を挙げて、ココナは「お休み」のスタンプでメッセージを終える。チカは、アニメキャラのスタンプで返信をしてスマホを閉じた。同時に、スマホがまたピロンと着信の音を鳴らす。グループメッセージはまだ続いていた。

終わりの見えない着信。アプリを開きっぱなしにして、チカはベッドに寝転がる。目を閉じてみるも、眠気は訪れない。

前回の――水の魔法少女以来、二年ぶりの魔法少女交代劇。友人たちの熱気に当てられて、チカの胸の内も騒めいていた。





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