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1-1.魔法少女のいる世界

夕暮れ時、都内上空。

愛らしい衣装に身を包んだ少女たちが、オフィスビルの屋上を見下ろす。足元に蠢く肉の塊。戸建てサイズの獣が、短い四肢を伸ばしてビルの外壁を伝い下りようとしていた。赤黒い岩肌のような表面から、新しい足がボコリと生える。

「イスミ、隔離壁展開して!」

少女――桃色の瞳、オパールに輝く長い髪を高い位置で一つに括り、オーロラの煌めきを放つワンピースに身を包む――が、鋭い声を上げる。応えるように、傍らの――青い瞳に水色の長髪をハーフアップにした――少女が、手にした青いステッキを掲げた。ステッキの先端に填められたブルーサファイアが強い光を放つ。彼女の纏う水色のワンピースの裾が魔力の風に浮き上がった。

「オープンフィールド!」

眩い光と共に空間が変異する。直系数十メートルの球状の結界。異空間は少女たちとビルの一部を飲み込んだ。

「よし! じゃあ、こっからは私の番ね!」

「あ、ちょっと、アカリ!」

引き留める声を無視して、長身の少女が獣に向かって急降下する。紅色の短い髪が風に煽られ、額が露わになった。赤い瞳が好戦的に輝く。

屋上に着地した少女が、獣に向かって赤いステッキを掲げた。先端のルビーに光が集まる。

「いくよ! 特大のファイアストリーム!」

呪文と共に、ステッキから巨大な火柱が上がる。炎の暴風が屋上を焼き、獣の身体を高く吹き飛ばした。追撃のため、少女は地を蹴り舞い上がる。ステッキを持つ右手を突き出し、魔力の圧に備えて左手を添えた。

「とどめだ! フレア・エクス・マキナ!」

宙に浮いた獣の上空、何もない空間に、人の手の形をした炎が出現する。大きく開かれた掌がゆっくりと降下して獣を掴んだ。高温で焼かれた獣が一瞬の内に炭化する。最後にグシャリと握りつぶされた黒い塊は、消し炭となって宙に舞った。

「……クロスフィールド」

落ち着いた声。青い瞳の少女の持つステッキが輝き、異空間が収縮していく。彼女の周りに残りの少女たちが集った。

「あー、もう、アカリさんまた独断専行。私、また何もできなかったじゃないですか」

黄色のワンピース、黄色の髪をツインテールにした少女が、プクリと両の頬を膨らませた。

「ごめん、ごめん。ちょっと、学校でヤなことあってさ。次はウイに譲るって!」

赤い髪の少女が悪びれる様子もなく笑う。ウイと呼ばれた少女の栗色の瞳が「しょうがないなぁ」と告げていた。

虹色の髪の少女がため息をつく。

「アカリ。せめて、イスミの隔離壁がちゃんと展開したか確認してね。被害を最小限に抑えるのは鉄則中の鉄則よ」

少女が足下――先ほど赤い髪の少女が魔法を発動した屋上を見下ろす。他の少女たちもつられて下を向いた。黒く焼け焦げた屋上の一部が、生々しい暴力の痕を残している。

「……怒られるかな」

「うーん。まぁ、あの程度なら問題ないと思う。私から狗神さんに説明しておくから」

横から、青い髪の少女が「あそこ」と口を挟んだ。彼女の指し示す先、向かいのビルの窓に数人の人影が映る。明らかに、スマホのカメラを向けられていた。

「うっげ。野次馬? 前みたいにスカートの中撮られてないよね」

「最悪」と呟く赤い髪の少女を、虹色の髪の少女が「こら」と(たしな)める。

「滅多なこと言わないの。この距離ならスカートの中なんて映らないから、もっと愛想よくして」

言って、少女は人影に向かって手を振る。

「……国民の理解を得るのも魔法少女のお仕事、でしょ」

「あー……」

投げやりに答えた少女は、不承不承ながらも片手を上げる。反応した三人の人影が、大きく手を振り返した。はしゃぐ様子が見てとれる。

「アカリさんのファンみたいですね。いいなぁ」

「えー……」

黄色の髪の少女の言葉に、赤い髪の少女は無感動に返す。

「……さて、それじゃあ、そろそろ撤収しましょう」

虹色の髪の少女の言葉に、全員が青い髪の少女を取り囲む。周囲を確認した青い髪の少女がステッキを掲げようとした。その時――

「リコッ!?」

「なっ!?」

「リコさんっ!?」

日の落ちかけた空に三人の少女の悲鳴が響く。

名を呼ばれた少女の髪の色が虹から茶に。驚愕に見開かれた桃色の瞳が濡れた黒に戻り、体勢が大きく崩れて――

「リコーッ!」

真っ白なワンピースの裾をはためかせ落下する少女。その身体を追って、緋線が走る。

魔法の解けた少女を追って、追って、追って――







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