義満様の誕生
初夏。雪姫様に御子がお生まれになりました。名は義満様と名付けられました。ご側室とのご子息に、自分の名の字を取って付けるのは、俊光様のお気持ちの表れでありました。無姫様はこの年、十四になりますが、義満様のことはもう関心すら消え、俊光様のお床入りがないのも、特に気に留めておられませんでした。胸の内では気にしておられるやもしれませんが、朝光様との関わりの中で、そのようなことは忘れておられるように思えました。
「無子。もうそろそろお前も、後継ぎを生まねばならぬのではないか。」
と朝光様がおっしゃりましたが、無姫様は菓子を頬張る手も止めずに
「今は義満様のことでお忙しいでしょうから、もう少し日が経ってから。」
と返答されましたので、
「雪姫様の懐妊を聞いた時はあんなに落ち込んでおったのに。」
とおっしゃると、無姫様は手に付いた砂糖をはたいて、
「今はもう寂しさを感じません。ここに暇つぶしがおるゆえ。」
と冗談を言って、二人で笑い合われました。無姫様は朝光様を深く信頼するようになり、朝光様もまた、無姫様をよく慕いました。無姫様の後の日記によれば、「皮肉を言ってからかう幼稚な反面、落ち込んだ私を真っ先に慰めてくださる優しさをお持ちだ。」と書かれていたと存じます。次第にお二方は互いに多くの感情を抱くようになってしまわれました。
「朝光様、嫁はいつ取られるのですか。」
と無姫様がお尋ねになったので、朝光様は
「結婚相手がいなければどうもできぬだろう。」
とあくびを混じえておっしゃりました。
この年、十六となる朝光様はまだ嫁入り相手の目星すらついておらず、赤松殿のご子息にしてはかなり出遅れており、屋敷の者は皆心配しておりました。また屋敷の者の中には、無姫様が朝光様のご結婚に反対していると噂を立てる者もおりました。
「まぁ、姉上も嫁入り先で後継ぎをお産みになったし、兄上も良い正室を取って、私は後回しであろう。」
と朝光様がおっしゃったので、無姫様は
「お床入りはないですけれども。」
と微笑して返答されて、朝光様は返す言葉に困ってただ苦笑いをお浮かべになりました。