第10話 秘密の通路
それから2時間ばかり歩いただろうか。西の城壁に沿うように南へ。もう深夜だ。
ギルは城壁のとある一点で立ち止まった。
「ここは?」
「ただの壁だな」
そこは城壁の門や一定の距離ごとにある側防塔から大分遠い部分。街の西南西に当たる。中心街から割と離れており周囲には何もない。少しの距離に下層民の住む住宅街があるだけだが、もう寝静まっているようだ。
「お前らもしこの先この街に入る用事があったらここを使え。お尋ね者になっちまってるだろうしな」
そう言いながらギルは石造りの塔の一部に手を添え、ゆっくりと押した。
「急いでやると音が立つからな。ここはゆっくりやるんだぜ?」
なんとそこは扉のような形状となっていた。石材のように見えていた壁面は木戸に薄くスライスされたような石材の板が貼り付けられており、それを開けて壁の中に入り込めるようになっていたのだ。つまりただの木造の扉と言って差し支えない構造。
「先輩の奴隷が教えてくれたんだけどさ、ここ、万が一の時の脱出場所になってるらしいぜ?あとは密輸ルート」
扉を開けたギルはきょろきょろと壁の中の左右を見渡して誰もいないのを確認したのか手招きして私達を迎え入れる。そして開けた時と同様にゆっくりと閉める寸前まで扉を戻しながら、ちょうど街側にあった月明かりが薄く壁内に入るくらいまで閉め、月の光に照らし出された反対側の壁が扉の形になっているところに手をかけてゆっくりと開けた。
「よし、そっちをゆっくり閉めてくれ」
「うん」
一番近くにいた私がゆっくりと閉める。
同時にギルが壁の外側にあたる逆側を人と荷物が通れる程度まで開けて、同じように左右を見渡す。
「この辺はさ、西日が直撃するところだからここで寝る旅人はいないんだ」
なるほどと思った。
そう言えばこの壁内の空間は砂漠の夜特有の外の涼しさと比べたらやたらと暑い。それは西日で壁が暖められた結果なのだろう。
全員が静かに外に出て、扉が閉められた。
外から見る限りここはただの石の壁だ。よくできているものだと感心する。
「覚えておきな。ここは西の門から数えて25個目と26個目の側防塔の間だ。まあもう使うことはないかもしれないけどな」
こうして、私達は無事街の外に出た。
「と言っても夜だからなあ。どうする?壁の中に戻るか?」
「いいえ、寒さは多少緩和できる。街道を目指して進みましょう」
アッザーム家が、私達が何処かから外に出た可能性に気づくまで急ぐ必要があった。
杖に魔力を込めて、火と風の魔術を混合した温かい風を拭かせる魔術を使う。使いっぱなしは魔力効率が正直よくないのだが、ここは使い時だろう。杖もあるから素手で使うわけでもないし。
「お!器用なことするなあ。代わりにレベッカの荷物、私が持つよ」
そう言ったギルは私の背負っていた荷物をひょいととりあげて背負った。私より小柄なギルが背負うとすごく大きく見えるし結構重いはずだが、何のこともなさそうに歩きはじめた。
「ねえ、大丈夫?重くない?」
「あん?荷物のことか?あたしはドワーフだぜ。これくらい何でもないさ」
「そ、そう」
こうして、頼もしい力持ちの旅の仲間が一人増えた。これから私達は西の大国マイヤールを目指すことになる。




