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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第9章 信じた結末
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第7話 友の出立

 アッザーム家訪問を終え宿に帰ると、スモーキーさんたちの様子がおかしい。

 どう見ても荷造りを終えたところだ。


「あれ?スモーキーさん達、ここから出るんですか?」


 ちょうど部屋から出てくるところだったスモーキーさんに聞いてみた。


「ああ、ちょっとなあ、今のチェルクはダメだ。よく考えりゃ当たり前なんだが、余所者が大々的に活動できる街じゃねえ。いちいちどうやって入ったか兵士に聞かれるんじゃテンション上がらねえよ」


「そうだったんですか。それじゃあ商売あがったりですね」


「そういうこった。だから明日朝にはここを出ることにした」


「じゃあどちらに?」


 チェルクはザラームの東西をつなぐ結節点だ。ここからは大きく分けて3つの道がある。ザラーム北西部へ向かう道、南へと向かう道、そしてマイヤールという国の首都でもあるマゼルまで繋がる西への道だ。


「とりあえず北だな。その後マイヤールに向かう」


「そうでしたか。じゃあマイヤールで会えるかもしれませんね。私達は数日後にまっすぐ西にマイヤールを目指しますので」


「そうか。じゃあほら、今のうちにあいさつしたいんだってよ」


 そう言いながらスモーキーさんが部屋の中に向けて手招きをして、そこから出てきたのはミスティだった。


「レベッカさん!」


「ミスティ!」


 手を握り合う。もうミスティとはだいぶ仲良しになった。歳は違うし魔術を教え、教えられる立場ではあるけど初めてできた友達というような気がしている。


「もっと魔術を教えてほしいんですが、私達と一緒に行っては……くれませんよね?」


 私は隣にいるカイルとエスタに目配せをして、一同苦笑い。


「それは無理ね。でもミスティは魔術の才能があるわ。教えたことは魔術の基本だから、教えたことに取り組めばもっと魔術が上手くなるし、やれることも増えてくるわ。頑張ってね」


「はい!」


 そんな話をしていたら、部屋からラズも出てきた。


「カイル先生!お世話になりました!」


 12歳の彼はカイルと比べればまだまだ背が小さい。だからカイルはやや中腰になりながら、ラズに告げた。


「まずは体を鍛えるんだ。そしてしっかり食べてきちんと寝ろ。夜更かしはするなよ。体を作らないと技術をつけても意味がねえ。ラズはこれから大きくなる。小手先の技術は成人した後でも遅くない。だからしっかり体を作るんだ。いいな」


「はい!」


「スモーキーさんよ、こいつにしっかり食べさせてやってくれよ。意気込みがある子供を腐らせるなよ?」


「わかってるよ。でもラズ、ちゃんと好き嫌いせず食えよ?」


「子ども扱いしないでよ兄さん!」


 ……ん?兄さん?


「あん?スモーキーさんよ、ラズはお前の弟か?」


「言ってなかったっけか?ラズは弟だ。と言っても腹違いだがな」


「そうだったのか。ラズ、お前の兄ちゃん見かけはあれだがいいやつだからな。きちんと言うこと聞くんだぞ」


「よせよ照れるじゃねえか」


 そんな話をしているカイル達。

 カイルは普段はやや静かな印象を受ける青年だけど、ラズ君への振舞い方を見ていると弟が欲しかったのかもしれないなんて思ったのだった。



***


 翌日の正午頃。


「クパード様、手紙が届いております」


 昨日エルフの客人を迎えた執務室に従者の一人が手紙を携えてやってきた。


「ああ、あのエスタとかいうエルフからだろう」


「御明察、恐れ入ります」


 クパードは手紙を受け取るが中身は開かない。この従者には特に指示がなければ信書の類の中身を先に閲覧することを許しているからだ。

 そしてその内容は想像できた。


「で、売らないから会わないというところか?」


「はい」


「そうだろうな。久しぶりだな。商人のフリをして入り込んだ者は」


 このアッザーム家は現在城門の警備を預かっている。その中で商人か怪しいエルフがアッザーム家を今の地位に押し上げた先祖の名前が出たからやむを得ず入城を許したとの報告があったのだ。

 とはいえ他の仕事もある中、特に何をするでもないというつもりでいたものの、あっちの方から接触してきたのだ。

 会ってみればまあ年の功なのだろうが商人らしい振る舞いはしていたものの、このエルフは商人としては偽者だと断じるに十分だった。


「捕えますか?」


「そうだな。それもいいだろう。ただ、我が偉大なる祖先エラン様と懇意だったというのは確からしい」


「ほう?」


 執務机の上に置かれた古びた書物を指さす。


「これを見ろ。エラン様が残されていた手記だ。そういえばと思い確認すればエルフのエスタという者と何年も共に旅をし、大陸中を見聞したが家がこの有様では旅は続けられぬと記されておる。何度も命を救われたとも書いておるし、書いてある人相から本人だろう。これに免じて命は見逃そうと思う。我らの祖先はエラン様が帰郷なされた後に作られた子だからな。ただあの魔石はもらうぞ」


「なら、盗って来させましょうか?」


「それが穏当だな。さっそく取り掛かれ」


「承知致しました」


 従者は影の役目も仰せつかっている。夕方には首尾よく魔石を回収してくるだろう。そうクパードは考え、それまでの間にと執務に戻ったのだった。


***


「いい感じに揃ったわね」


「次の宿場町まで10日前後か。なんとでもなるな」


 粉にした麦や豆類、干し肉に乾燥させた果実を少々。

 3人で食べていくには十分すぎる物資が揃った。物資の大半が食糧だ。

 悪天候が続いたら穴を掘って待機を余儀なくされるからかなり余分に用意したつもりでもいる。倍の20日耐えられるかは微妙だが、15日は余裕で耐えられるだろう。

 

 準備も整ったから明日に備えて休もう。

 そう思い部屋に戻ると……鍵が開いていた。


「あれ?レベッカ、カギ閉め忘れた?」


「そんなはずないわよ」


 おかしいなと思いながら扉を開けた。


「エスタ、あれ!」


「やられたね」


「ああ、そうきたか」


 その光景を見たカイルとエスタはふつふつとした怒りをこみ上げさせていた。

 荒らされた室内と、その反面魔石だけがきれいに荷物から消え去っていたのだ。


「うーん、レベッカがいいと言えば見逃してもいいけど」


「嫌よ」


 即答だ。これを見逃せば何も起こらずにこの街を出られるだろう。でも、あれは私にとって大事なものなのだ。


「だよね」


「回収がてら御礼参りだな、これは」


 他に盗まれたものがないか改めて確認しながら、カイルが私たちの方針を決めた。


「多分監視はついてるよね。僕だったらこの宿に監視を付けると思う。余計なことをしようとしたら始末できるように。今のところ僕たちを殺すつもりがあるかは微妙だね。殺してから奪ってもいいわけだし」


 それを聞いて、もしやと思いこそっと悟られないように窓の外を伺うと、通りを挟んで反対側の路地の陰に二人の男。

 一人は買い物中に見た気がする。つけられていたのだ。


「いるわ。外に。じゃあ貴族に逆らうわけだし、なんとか見つからないように外に出て荷物を何処かに隠していった方がいいわね」


「そうしようか。裏……いや、昨日出立したスモーキーさんたちの部屋は隣の建物と近かったよね?あの窓からなら外の監視から見えないだろうし隣の建物に飛び移って、変装して出ようか」


「いいわね。そうしましょう」


「じゃあ全部鞄に詰め込んで、隙を見て隣の建物に放り投げる。あそこのベランダなら荷物を予め投げ入れておいても下から見えないわ」


「ここにいるフリもしておかなきゃね。宿の店主はグルだと思うかい?」


「いや、空いた宿に順番に割り当てられるようだからな。それはないだろう。多少金を積んでおけば一晩くらい見て見ぬふりはしてくれるはずだ」


「ジェガンさんのところだけ残ってたよね。出発してもらおうか」


「そうだな」


 そう思い彼らの部屋に向かうと、彼らはちょうど装備を整え寛いでいるところだった。


「おお、これから挨拶に行こうと思っていたんだがな。ちょうどよかった」


「ジェガンさん。出発ですか?」


「ああ。衣服や靴が一部破れていてな。縫いなおすのに時間がかかってしまったがようやく終わった。今出たら変なところで野宿になるかもしれないがエスタさん達も早く出たいだろ?」


「すみません。お気遣いいただいて」


「いやいや、こちらも助かったんだ。礼を言う」


「ところで、恐縮ですが街を出るなら早めに出て、早めに離れてください」


 ただならぬ雰囲気を察したのか、ジェガンさんの目つきが険しくなる。


「どうした?何かあったのか?」


「これから私達、この街の大貴族の一人と喧嘩をするつもりだから。とばっちりは嫌でしょ?」


「はぁ?何言ってるんだ?」


「ちょっとね。僕達のもっていたあの魔石が盗まれたんだけど、荷物の中で盗まれたのはそれだけ。そしてその大貴族は魔石の存在を知っていたし欲しがっていた。だから犯人だと断定してカチこむことにしたわけさ」


 ジェガンさんはクールな人だけど、この時ばかりは目と口を少し見開くようにしていた。


「なるほどな。わかった。じゃあ急ぐことにしよう。おいみんな!予定変更だ!すぐ出るぞ!」


 部屋にいる仲間たちに声をかけた。


「ではジェガンさん、これまでありがとうございました」


「ああ、レベッカ達にも世話になったな。元気で」


「ええ」


 それから、部屋から支度を整え出てきた一人一人と別れのあいさつを交わし互いの旅の無事を祈ったのだった。




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