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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第9章 信じた結末
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第6話 真偽と正体

「如何でしょうか。1万年以上前の遺跡から出てきた神具です」


「ほほう、どれどれ。これは…興味深い。軽い上にやや透き通っておるな。貝か。こんなものもあるのだなあ」


 ここはアッザーム家応接室。目の前にいるのは昨日お昼頃に見かけた貴族だ。名をクパードといい、アッザーム家を仕切る立場にいるという。

 僕はレベッカとカイルを外に待たせて一人古美術品を売り込みに来ているというわけだ。

 今はレベッカがあの井戸の底の街から拾ってきたという神具を持ち込んでいる。売れたら売ってもいいとも言われているから稼ぎにもなったらなおいいだろう。


「なるほど、ただならぬものだというのはわかるが、この砂漠に合う美術品ではないなあ。これなら、西のマイヤールにでも持ち込んだ方が高値で売れるのではないか?」


 想像通りの反応だ。気品があるのはわかるが砂漠の街の美術品としてはいささか微妙なところがあるのは否めないからだ。


「なるほど、確かにおおせの通りです。ご賢察、恐れ入ります……ところで、実は昨日クパード様がドワーフの奴隷を連れているのを街で拝見致しました」


「おお。そうであったか。確かにあの奴隷も連れて街を歩いていたからな」 


「私としてはアレ。売ってほしいなと思ってるんです」


「おや、奴隷を売ってとは珍しい。いや、あれはドワーフだったな。あの怪力は役に立つ。貴殿が荷物持ちに欲しいというのはわかる」


「ええ。どうでしょうか?」


「いや、あれとはあと4年契約期間があるからな。ダメだ」


 クパードは小さく首を振る。


「契約して奴隷としているのですか?私の故郷の方ではあまり聞かないことですなあ。いきさつをお伺いしても?」


「ん?ああ、あれがこの街に入る際にな、死にかけの同行者を連れてきておった。それを助けてやる代わりに奴隷になれと言ったら承諾したのよ」


「ほう、人徳ですなあ」


「人徳?ふははは、助けるわけないだろう。見れば分かった。もう手遅れだと。砂漠でああなった者は例外なく助からん」


 助けるわけがないということ、そしてその同行者が手遅れだったこと、多分どちらも嘘は言っていないだろう。

 ということは、助けられない者を助けると称してギルディーネを奴隷にしたわけだ。


「おやおや、クパード様もお人が悪い」


「爺のようなことを言うな。そちは何歳だ?」


「もう900にもなります」


「おお、そうであったか!長寿の種族というのは知れば知るほどすごいものだ。この国に来たのは初めてか?」


「いえ、最後に来たのは50年ほど前になります。ただ、私は150年ほど前、アッザーム家9代目当主のエラン様と少々知己がございました」


「なんと!我がアッザーム家中興の祖であるエラン様と!して、どのような?」


「ご存知でしょうか、エラン様は旅が好きなお方でした。エラン様と共に何年も生死を共にする旅を致しました。西のマゼルから東のシャンタウを超えその先まで」


「おお、聞いておる。我が家にはエラン様が旅の最中に得たと言われる宝物が多く伝わっておるぞ」


「例えば、勇者が使っていたとされる腕輪が伝わっているとエラン様より伺ったことがあります」


「それよ。それこそ我が家宝の一つだ。そちは勇者と会ったことはないのか?」


「いや、流石に。勇者が旅した地とは陸地も違いますからね。海を渡ったことはありません。ただあの当時、魔王が勇者に打倒されたという知らせを聞いて血が湧き上がるような気持ちになったことは今でも覚えております」


「そうであろうな。いやいや、その時代に生まれたかった」


「いやー、当時生きていた身として、魔物が魔王や魔族の指揮の下で軍として襲撃してくる時代はもうこりごりでございます。人が国ごと亡ぶなんて日常茶飯事でしたからね」


 僕は苦笑いをしながらとんでもないとばかりに両手を振る。


「ふははは、戯れだ。ところでだ、本題に入らせてもらうがそちの隊商は巨大な魔石を持っていると聞いておる」


「魔石?はい、確かに」


 それはレベッカが持っていた魔石のことだろう。どの魔物の魔石なのかはわからないが、レベッカは魔術全盛時代のものと聞いて受け取ったと言っていた。


「俺はかつての勇者がいた時代の物語が好きだ。勇者たちだけじゃない。世界中で剣士が、聖女が、魔術師が、世に蔓延った魔族達と華々しく戦った物語が」


「あの時代の冒険譚は面白いものが多いですからね。この辺でしたら、砂漠に巣くったベヒモスを退治した男達の物語がありました。砂漠一面を凍てつかせるだけの魔術を使う魔術師が同行していたとか」


「そうだ。しかし魔族は多くがどこぞに消え失せ、血沸き心躍る話はお伽噺の中から出てこなくなった。もちろん強力な魔物がいないわけではない。魔族が絶滅したわけでもない。しかしそれらは多くが軍隊により討伐される時代になった。神々の闘争以後は魔術師も聖女も弱体化したからな。魔族が使う魔術の大半もだ。必然と兵の数を揃えた軍事的討伐がそれに代わるようになった」


「確かにそのような経緯を辿っていますが、ところでそれと魔石にどのような関係が?」


 クパードはおっとしまったと頭を叩くようなしぐさをして本題に戻る。


「おっと、前置きが過ぎたな。許せ。そちのもっている魔石はそういった時代のものであろうと思われる。魔術師が弱体化した後は魔石の存在の意味がほとんどなくなり魔物を倒しても顧みられることも少なくなったからな。だがだからこそ価値がある。是非買い取りたい。いくらだ?」


 少しだけ身を乗り出されたが、あれは本当は売り物じゃない。持参した宝飾品以外は売っていいことにはなっていない。どうしようか。


「ふむ……あまり積極的に売る気はないんですよねあれ。価値はあるものと考えておりますがその割には場所も取りませんし何より金より軽いので最悪の場合の換金手段なんですよ。カネが尽きたら我々としてはやって行けませんからね。仕入れにも金がかかりますから」


「そこを曲げて頼みたい」


「……わかりました。ただ現物を見てもらわないと売るも買うもないでしょう。後日またお会いさせていただきたい。その時にご覧いただくこととしましょう」


「なるほどな、わかった」


「それでは本日はこれにて」


「うむ。足労大儀である」


***


「えー?あんまり売りたくないんだけどあれ。井戸の底から見つけてきた宝飾品じゃダメだったの?」


「あれはいらないんだってさ」


 外に出て二人と合流し、宿への途中魔石の話をしたらこの反応だ。


「あの魔石ってそういえばどこから手に入れたの?」


「独りになってしまった最初の宿場町で貰ったものなんだけど、そんな縁でもらったものだからあまり手放したくないのよね。いざという時にと思っていたけど今がいざというときかと言うと違う気がする」


 そうか、レベッカにとっては一つの象徴的なものなのか。手放したくない気持ちもわかる。


「そうだよね。あの兵士たちも目ざとく見ていたもんだ」


「私は手放したくない。エスタには悪いけど断ってくれない?」


「そうだね。ごめんね。変な話を持ってきちゃって」


「いいわ。あの兵士たちが目ざといのが悪いのよ。でもそうやっていいものを独占してるんでしょうね。アッザーム家とやらは」


「そうだね。じゃあまた会うのは気まずいから手紙でも書くよ。出立の準備を明日には終わらせて明後日にはこの街を出ようね。絡まれたら面倒くさいし」


「そうだな。しかしレベッカは変なもの持ってるんだな」


「いいじゃない。でもいい魔石なんだからどこかできっと使い道はあるわよ」



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