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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第9章 信じた結末
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第5話 墓所での出会い

 街に入る際、エスタが言っていたことは嘘ではなかったらしい。

 墓所が集まる一角。

 一通り買い物を終え、夕陽が城壁に隠れようとする中、私達は街の中のとある墓の前にいた。


 ちょっとした石造りの塀に囲まれた立派な墓所。ここは王族ではないがそれなりの身分の貴族たちが葬られている墓が集まっている。

 その墓石にはエラン・アッザームと刻まれている。


「ここは変わってないね」


 エスタは市場で買ってきた砂漠に咲く花を数輪供え、膝を折って祈りをささげる。

 私とカイルは少し後ろで見ているだけだ。たっぷり1分ほどそうしていたエスタは少し寂しそうな目をしながら立ち上がる。


「友人って言っていたわよね?」


「うん。150年位前のことだけどね。エランって家出貴族でさ、何年も一緒に旅をしていたし、彼が父親の病を知ってこの街に戻ってからも交流があったよ。彼と旅をしていたときも楽しかったね。その時代にはこの街は出入り自由でもっと賑わっていたよ」


 家出貴族。私と同じだ。だけどエランという人は戻った。私は戻らなかった。

 その意味ではエスタの中で私に対して何か思うところはあるのかもしれない。もう何も言うことは無くなったが、カイルよりも私が実家に戻らないことを心配していたからだ。


「さ、帰ろうか。付き合わせて悪かったね」


「いや、いいぜ。たまにはこういうのもいいものなんだろう?」


「そうだね……ん?」


 エスタが足を止めて視線を送った先には一人の女性の姿があり、掃除の用具を抱えてこっちに向かってきていた。


「たしかあの子は」


「うん。さっき見た子だ」


 昼間に街の大通りで見た同一人物に間違いないだろう。少し耳がとがっていて少々褐色で小柄な女の子だ。ドワーフの女性だというが、見た目に反して年齢は私よりは上だろう。


「珍しいな。こんなところに墓参りに来るやつがいるのか」


 その子は粗末な身なりをして足枷や手に重りとなる大きなブレスレットを付けられている。それらはかなり重たそうなのに、大して気に留めてもいないように普通に動けているように見える。


「どきな。掃除の邪魔だ」


「ああ、すまないね……君はドワーフだよね。どうしてこんなところに?」


「どうでもいいだろ。ん?なんだ、大分昔の人の墓に用があったんだな。珍しいじゃん」


「150年も前のことだけどね」


「ああ、エルフか、あんた。なるほどな。じゃ、用が済んだなら掃除の邪魔だから帰れ」


「うん、邪魔したね」


「……待ってくれ。あんたら、見ない顔ってことは他所からきた商人だよな?」


 確かに用は済んだし仕事の邪魔をしては悪いと思い立ち去ろうとしたが、不意に呼び止められ数歩進んだ私たちは振り返ってその声の主と目が合った。


「……うん、そうだけど」


「それなら一つ頼みごとを聞いてほしいんだ」


「おい、俺達が商人だと聞いて頼み事か?対価は?」


 カイルは間に割って入ろうとする。

 

「まあまあ、聞くだけ聞いてあげようよ。君、僕達は聞いても何もしないかもしれない。いいかい?」


 そんなカイルを制したエスタ。こういうところは商人っぽさがないよね、彼は。


「もちろんだ。わかってる、それを承知で頼みたいんだが、捜し人がいる。1年ほど前にこの街に来た男なんだが…」


 その後語られたドワーフの彼女が奴隷になったいきさつ。

 恩人である男性の行方が分からないという。


「なるほどね。お金は取らないけど何かのついでに調べられるなら調べてあげるよ」


「本当か?」


「ああ。君は……この墓所を掃除に来たってことはアッザーム家の奴隷だね」


「そうだ」


「今仕えているのは、昼間に君が大通りを歩いていた行列の前にいた男かい?」


「ああ、そうだ。お前ら、あたしのことみてたのか」


「うん、買い物をしていたら偶然ね」


「エスタ、いいのか?」


「うん。ただ期待はしないでね」


「わかってる。恩に着る。あたしはギルディーネって言うんだが、特に何もなければ毎日この時間、掃除に来る。もし何かわかったらこの時間にここに来てくれ」


「わかったよ。じゃあね」


 再び歩き出した。

 少し歩いてから少しだけ振り返ったらあの子は掃除を始めるところだった。その間ずっと私たちの後姿を見ていたのだろう。


「いいの?安請け合いしちゃって」


「うーん、どうかな。セロンってさ、奴隷みたいなものが嫌いだったんだ。それなのに時代も変われば同じ家で奴隷を取っちゃうんだもん。それが少し残念でね」


「でも奴隷なんてどこの国にも多かれ少なかれいるもんじゃないのか?」


「それもそうなんだけど、家訓として我が家には奴隷はいらないみたいなことを書くって意気込んでいたことを思えばね。彼の友達には奴隷階級の者たちもいたくらいだし」


「貴族なのに随分と顔が広かったのね」


「それはそうさ。飲み屋街では国王より偉かったしね。旅を終えてこの国に戻ってきてからというもの夜はお店をとっかえひっかえして飲み歩いていたよ」


 随分と気さくな人だったようだ。ひょっとしたらエスタの性格は彼に影響を受けているところがあるのかもしれない。

 高貴な種族だとさえ聞いていたエルフなのに人懐っこい性格をしているのだから。


「だからさ、少し調べてみたいんだ」


 商人という建前で入ったことを利用する、それが彼の考えだった。

 もしかしたら、下級貴族にすぎない家を興し大貴族まで育てた偉大なエランの意向をないがしろにする今のアッザーム家に対する静かな怒りがあったのかもしれない。



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