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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第9章 信じた結末
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第1話 チェルクに入ろう

 砂漠の申し訳程度に目印がある街道らしきものを、紆余曲折ありながらも歩き続けること10日。ようやく目的地のチェルクが見えた。


 その城壁は年季を感じるものでところどころ大規模に補修された跡があるが、8層以上はあるだろうその威容は一国の王都であることを示す威厳を放つには十分といえた。

 

 そんな街を見ながら、急造ながらもなんとなく一体感が出てきた私たちの偽隊商はチェルクに近づいていく。そしてあと十数分という距離まで来たとき、城壁の外側に別の街が形成されているのが目に入ってきた。

 旅人のキャンプだ。


 そして武器を抱えた複数の男を抱えた屋台のような出店が点在している。

 あれはぼったくりの出店だ。近づきたくはないが、どの程度ぼったくっているのかは率直に興味がある。

 しかし今は街に入ることが先決だ。入り方は聞いていないからどうすればいいかと歩きながら思案していたら、おもむろに開いた城門からラクダに乗った3名ほどの兵士が走ってきた。


 気にせず進んでいたがやはり彼らの用事は私たちだったらしい。


「とまれ!貴様らは商人か?」


 先頭の、ターバンに羽をつけた男がエスタの乗った車に向かって誰何してきた。


「ええそうよ。入城はどうすればいいの?」


 私が間に入り答える。


「まず人数は?」


「15名よ。女が5名。残りが男」


その申告に対して部下と思われる別の男が全体を数え始める。


「内護衛は何名だ?」


「6名。みんな男よ。護衛の皆様、手を挙げて教えて差し上げなさい」


 前衛と後衛に分かれていたカイルたちが手を挙げ、別の兵士が私たちの数を何度も確認する。


「商品はなんだ?」


「宝石類や古美術品です。仕入れの旅をしています」


「見せろ」


 エスタを一瞥。彼は頷く。


 箱に入れていた先日入手した魔石やみんなからかき集めた宝石類、魔物の素材や井戸の底で拾ったものといったところ。


「なるほどな。ところでその濃い青色の石は何だ」


 指さされたそれを見ると私の魔石だ。


「魔石だけど、それが何か?」


「こんなに大きなものは初めて見たな。他の荷も改めさせてもらうぞ」


 はあ?なんで?

 商品としての見栄えがない普通の荷物まで開けようとしていたところにエスタがそりゃないぜと言わんばかりの口調で声をあげた。


「おいおい、この街は先代の御代にはもっと寛大だったじゃないか」


「何?」


「まず僕たちは、西国のマイヤールに向かう途中なんだ。海を越えた先のものを仕入れたくてね」


「この手持ちでか?」


「手持ち?この砂漠を超えるにはむしろ軽いほうがいい。それにマイヤールのモス商会とは懇意にしていてね。そこにだいぶ資産を預けてあるからそこで引き出した方が便利なんだ」


 ペラペラとあることないこと出てくるもんだと感心した。

 多分マイヤールという国やモス商会とやらは実在するんだろう。そこはエスタの長年の経験といったところか。


 そして極めつけの一言がこれだ。


「見ての通り僕はエルフだ。貴族のアッザーム家は知っているよね?5代前の当主とは懇意にしていたんだ。ついでに陵墓を訪れて墓参りをしたいと思っている。セロンの陵墓はまだあるよね?」


 それを聞いた兵士たちは困惑しながら顔を見合わせる。

 同時に、彼らの警戒心が幾分緩んだらしい。


「これは失礼しました。城内にご案内しますのでついてきてください。くれぐれも城壁近くにたむろしている旅人と関わらないように」


「承知した。じゃあみんな聞いたね。隊列を組んで行こう」


 兵士を先導に列を保ったまま歩き出す中、兵士たちに悟られないよう自然にエスタに耳打ちする。


(エスタ、これは?)


(多分ね、隊商に紛れ込もうとする旅人が多いんじゃないかな。紛れ込めれば入城できるからね。彼らはそれを防ごうとしているんだろう)


(なるほどね。ところでアッザーム家とかセロンって何?)


(ああ、かつてこの国にいた僕の友達さ。後から貴族だって聞いてびっくりしたよ)


 小声でそう教えてくれたエスタはもう一つ付け加える。


(傍系に移っていなければ今の王家の先祖の一人のはずさ)


(すごい人とお友達だったのね)


(そうでもないよ。アッザーム家は当時はちょっといい暮らしをする平民と大差なかった下級貴族さ。いろいろあって爵位が上がって、娘の一人が当時の第二王子に嫁いで、その系統が今の王家のはずさ)


 少し懐かしそうな遠い目をしながら彼はそう語ったのだった。



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