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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第8章 南へ
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第14話 賊との戦闘

 最後の宿場町を出て7日目。

 明日にはチェルクからの哨戒圏内に入る可能性が高くなる。だから雑に進んでいけるのは今日までだ。


 今日は昨日までとは違い、すれ違う旅人も商人もおらず、ただただ暑い日差しの中進んでいく。

 短時間なら魔術で冷風を吹かせてもいいのだがこの暑さとこの人数相手でそれをしてもかえって暑さと涼しさの急な変化に体のバランスを崩してしまうだろう。

 だから倒れる人が出てきた場合に限っているけど幸いにして今のところ誰も倒れるとか体調を崩す人はいない。


 7日も一緒にいると、割と一体感が出てきてカイルやエスタ以外の全員とそれなりに話ができるようになっていた。

 特に比較的年も近いせいかミスティにとって私は話しやすいらしく、魔術を教えていることも相まってよく話をしている。

 

 そのミスティ、魔術の才能は結構あると思う。前世の時代だったら普通にいくつかの中級魔術くらいは問題なくこなしていただろうし、得意属性なら上級魔術に手が届いたかもしれない。

 そんな才能を生かしきれないことになっている今がちょっと残念だった。


 そんなミスティと他愛のない話をしながら列の後ろを歩いていた時、突如として警戒の声が上がった。


「みんな止まれ、前に何かいるぞ!」


 警報を発したのは、先頭でラクダに乗っていたバーニッシュさんだ。

 その背中に軽いラズがすぐさまとりつき、肩に乗ってより遠くを見渡す。


「ラクダに乗った人の群れだ!こっちに向かってくる!4、50はいる!」


「野盗か?チェルクの軍勢か?どっちかわかるか?」


 隣にいたジェガンさんの場所からはまだ前は見えていないようだ。


「わからない!でも多分みんな男だ!」


 ただならぬ雰囲気に私は仕舞っていた杖を取り出した。

 同時に武器を使える者は武器を手に取る。

 これはチェルクの正規軍の巡察だったら逆効果になりかねないのだが、もし正規軍以外の盗賊のような連中が相手の場合出遅れれば致命的なものとなるから、やむを得ないと事前に話し合って決めていたことだ。


 そしてその取り決めが正しかったと知るのに5分とかからなかった。


 はっきりと視界に入ってきたその集団は、砂塵を巻き上げながら街道沿いに正面から接近し、その一部がそれぞれ左右に展開。私達を囲もうとしているのは明らかだった。


「賊だね。あの旗印はザラーム砂漠の族の一党だ。まだいたんだ」


「俺にもそう見えるな。北西部に移っていたと聞いていたが戻ってきていたか」


 エスタとジェガンさんのため息交じりの呟きが皆を戦闘態勢に移した。

 相手が賊なら何も気にする必要はない。戦える者が外周に。子供二人と戦いの術を持たない3人が内周に。


「やれやれ、数ばっかり多いじゃねえか」


 こちらから仕掛けるのは難しい。族の目当ては何か。金品か、それとも女子供も含むのか。第一撃が無差別の弓矢なら前者。後者なら飛び道具は限定的のはず……


 その答えは、すぐだった。左右の賊、片側10騎。合わせて20といった数の賊から一斉に矢が放たれた。誰を狙うというわけでもない面制圧的な射撃。 

 弓矢による攻撃は一方向だけからであれば盾を構えて防ぐことは案外容易だ。体を隠せてそれなりの厚みがある板1枚あればなんとかなる。

 だが両側からとなると話は別だ。

 かつてユーリィムの隊商では戦わない者たちは大楯を隙間なく屋根のように構築してそれを防いだ。

 だが私達には大楯なんてものはない。

 

 だから強く魔力を込めた杖を一閃。

 弓を構えた賊の集団は統制の取りながら矢を一斉に射かけてきた。

 つまり相手は熟練の賊なのだろう。私達の正面進行方向から吹いてきていた風を計算に入れて的確に放たれた矢に、私達の背中側からの逆の強風をぶつける。

 するとたちまち20本ほどの矢は私達の前方に突き刺さり、それに驚いたのか次の矢を番えていた賊にためらいが生じる。


 次の矢が来ないその隙に私はいつも使っている氷槍を片側の人数分形成し、一斉に放った。

 向かって右側の集団に向かった氷槍だったが、私の魔術形成を見たのか、矢を捨て剣を抜いた賊達によって半数が叩き落された。もう半数は迎撃に失敗したのか次々とラクダから落ちる。

 残った5名は突っ込んできた。

 魔術師相手に遠距離戦は不利と悟ったらしい。


「レベッカさん、私も……!」


「ミスティにはまだ早い!」


 魔術を撃とうとしていたミスティを制して突っ込んできた賊に再び氷槍を放つ。なんと彼らは瞬時に隊列を縦に整え先頭の一人が全部を吸収。先頭が倒れる中二人目以降が一気に距離を詰めてくる。


「ちっ!」


 それならばと足元に杖を向け、石製の逆茂木を私達を囲むように展開。二人がそこにもろにラクダの足を引っかけてしまい転倒。それを狙って再び氷槍を放ち今度は仕留めた。

 ただし石の逆茂木は多くが重さで砂漠にやや沈みかけ、一人がついに低くなったところを飛び越え肉薄してきた。氷槍は叩き落され、賊は剣を振りかぶる。


「ふんっ!」


 私と私を狙い突っ込んでくる賊との間に割り込んだのはジェガンさん。

 巧みな剣でラクダの勢いのまま突っ込んでくる賊の剣を受け流し、賊は背後に抜けていく。


「ありがとうございます!」


「ああ、だがレベッカも大したもんだ。次は逆からの連中が来るぞ」


「はい!」


 とはいえ、私はこっちだけを見ているわけにはいかなかった。

 隊列の正面から賊の主力が来ていたのだから。


 逆側はエスタが矢を連続して放ち列の先頭を射落としてその統制を乱して時間を稼ぐことに成功していた。


 正面賊の主力は小隊単位ごとに分散しながら押し包むように向かってくる。

 そしてさっき見たように砂地に石造りの重い防備はあまり向かない。

 それならば……!


 頭がチリチリする感覚を覚えるほど地面に向けた杖に魔力を注ぎ込んで、私達が今いる場所をそっくりそのまま嵩上げしながら、かつてどこかで見た陣地を参考に逆茂木や壁を構築して賊の侵入ルートを限定する。

 そしてさっきそのままだと砂に魔術で生成した陣地が沈んでしまうことが分かったからその足元から石に変えて持ち上げて……!

 いつもは何かするにも3人分でいいのに15人分の広さはきつい……!


「んっ…ぐっ……、できたっ!」


 前世で上級魔術を大層連射したときよりきつかったが、なんとか即席の砦が出来た。

 石槍と石壁、そしてアースホールを組み合わせた即席陣地。

 石槍を組み合わせてできた逆茂木を含む柵と空堀、石壁を地面に垂直ではなく平行に、しかも私達の立つ砂地の薄皮1枚下に分厚く作り出す。

 相手が攻城兵器でも持っていたら簡単に崩される代物だろうが、ここは砂漠のど真ん中。相手は騎兵で武器と食料と水の類しかもっていない。

 こういう相手なら、何とでもなる。


 賊は突如目の前に出現した砦に動揺したのか足が鈍る。

 そこにエスタとマッドブルが次々と矢を射かけ、たちまち数名が倒れる。

 

 賊は障害物相手にラクダでは突っ込めないからラクダから下りて剣を構えて押し寄せる。

 しかし簡易的とはいえ砦と化した場所に立てこもる私達に一斉にかかってくることはできず、カイルとジェガン、そしてスモーキーがいくつか開けた通路に立ちふさがる。

 それを私とエスタ、マッドブルが援護し、それでも何とか柵を超えようとする賊には残った皆が投石を繰り返して妨害し、それでも抜けてきそうな相手は私が魔術を飛ばして対応する。


 時間としては数分に過ぎなかっただろう。

 しかし賊は損害の大きさにたまりかねたのかその足が鈍り始めた。


「よし、押し返すぞ!柵からは出るなよ!」


 カイルの合図とともに、それまで柵の間で通路を塞ぎ仁王立ちしていた彼らが一歩を踏み出す。

 賊はその圧力に耐えられずじわじわ後退。

 彼らが結局金品と女子供、どっちを目的にしていたのかはわからないが、損切のタイミングなのだろう。


 多くの死体を残し、負傷者を抱えながら撤退していく。


 その光景を見ながら、安堵のため息がひろがったとき、不意に背後で剣戟の音が響いた。


「ミスティ逃げて!」


 賊の一人が忍び寄っていたらしい。

 賊の湾曲した剣をラズが死体から拾ったと思われる剣で止めていた。




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