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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第8章 南へ
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第12話 魔術を芸に

 宿場町を出発してから、幾度か魔物との戦闘があった。

 大抵は私の魔術やエスタの弓矢で近寄らせず、一部接近を許した魔物はカイルやスモーキーさん、ジェガンさんが撃退。

 大事なく初日が終わろうとしている。


「レベッカさん」


 道の目印の近くにある岩場にキャンプを張り、食事の支度をしている際にミスティと言う暁の風の少女から声をかけられた。彼女は14歳と聞いている。

 私は16になったから2つ下だ。


「何?」


「レベッカさんって、魔術師なんですね」


「そうよ。大したことはできないけどね」


 彼女からの視線は感じていた。水の補給や幾度かあった魔物との戦闘で私が魔術を行使するのを見せたときからだ。

 特に魔物との戦闘後にその視線を強く感じていた。


「私も少しだけ魔術を使えるんです」


「そうなの」


 そういえばスモーキーさんが子供一人が魔術を使えるような話をしていたっけ。ミスティがそうなんだろう、そのミスティは何かを言いたそうだ。

 

「何か言いたいことがあるんじゃないの?」


「あっ、その、私、魔術で食べていきたいんです」


「冒険者になるってこと?それとも宮廷魔術師とか?」


「いえ、違います。その、なんとか吟遊詩人として魔術を生かせないかなって」


「吟遊詩人で魔術を生かす……要するに芸か何かの一環で魔術を使いたいってことかしら?」


「はい!そうです!」


 この子は面白いことを考えるものだ。それもいいだろう。


「面白そうじゃない。それが私に何か?」


「はい。今日の戦闘でレベッカさん、すごく上手に氷魔術を使われていました。私も氷の魔術、使えるんですが明後日の方向に飛んで行ってしまうんです。だからどうやってるのか教えてほしいなって。思ったところに飛ばすくらいできないと芸にも生かせないですし」


 ああ、そういうことか。


「いいわよ。旅の間の休み時間ならね」


「ありがとうございます!」


 私も何もしていない間は暇だったし、たまにはこういうのもいいだろう。

 そういえば、前世で多少子供達に魔術を教えはしたが人に教えたことはあまりなかったと思う。

 教える側にちゃんと回るのもいいかもしれないなと思った。


***


 夕食後、まだうっすら明るい時間。

 今日のキャンプ地とすることにした岩場となっているこの一帯で、30歩ほど歩いた先にある、私の背丈と同じくらいの高さと両腕を広げたくらいの大きさがある岩に向けて魔術を見せてもらうことにした。


 まずは私が目標にする岩を示す意味も込めて、左手を向けて一発の氷弾を作り出し、撃ちだす!


 カンッ!パリンッ!


 とある岩のど真ん中にぶつかった氷は甲高い音を立てて砕けた。突き刺さるような硬度にすることもできるがお手本ならばこのくらいでいいだろう。


「じゃあ貴女もやってみて」


「はい!……ふぅ」


 息を吐いた彼女は両手を向けて一つの氷矢を作り出し、飛ばしたのだが……本人は明後日の方向に飛んでいくと言っていたとおり、視線を眼球が動く限界くらいまで動かさないと視線の中央に捉えられないほど岩から遠い方向に飛んで行ったのだ。

 狙って外れたというよりも最初からそっちを狙っていたのではないかと疑いを持ちたくなるほど目標にした岩とは違うところにいってしまった。


「どうでしょう……か?」


 不安げにミスティは私を見る。


 氷の形成はうまくいっているから放つときに問題があるんだろうけど。

 素手で魔術を使っているミスティに一つ聞いてみる。


「貴女、杖はないの?」


「杖?……あれって必要なんですか?」


 あっ、そこからか。


「ええ。杖はあった方がいいわよ」


「でも今レベッカさんも杖がないじゃないですか。杖なんて飾りだっていう人もいるくらいですし。昔私に魔術を少し教えてくれた人だって杖は持っていませんでした」


 今私が杖を使わなかったのはミスティが杖を持っていないように見えたからだ。本当は使った方がいいのだが。困ったものだ。


「つまり杖を使ったことがないの?」


「はい」


 驚いた。最初の一発目の魔術こそ素手でやることが多かった気がするが、それが出来たら後は杖を使う方が昔は多かったはずだ。前世の私みたいな魔術師ですら魔術を覚えるときには杖を使っていたほどだ。補助があった方が撃ちやすいに決まっているのに。

 変な魔術師に教えられてしまうと後がよくない。直してあげないと。

 ……それとも700年のうちに常識が逆に?いやまさかそんな。


 そういえば転生してからこの方、一般の販売品でろくな杖を見ていないと思いながらも気を取り直して足元に置いてあった杖を渡す。


「じゃあはい。使ってみて。私の杖」


 そう差し出された杖に、ミスティはおずおずと手を伸ばして握る。

 杖をしっかり持ったのを確認してもう一度先程の岩を指さした。


「いつもよりかなり軽い感じで氷が作れるはずよ。だからあの岩に思いっきり意識を強く持ってもう一度やってみて。杖は手の延長だから、同じようにやってみて」


「はい!」


 ふぅ……と目を瞑り息を吐いたミスティは、目を開けると同時に氷を作り出して……放つ!


 カッ!


 甲高い音と共に岩の外側に氷が着弾した。

 それを見たミスティは驚きの顔をしながらこちらを見る。


「当たった!杖……すごい!」


「ミスティ、もう一度。忘れないうちに。もっと集中できる」


「はい!」


 カンッ!!


 今度は真ん中付近くに命中。


 カンッカンッカンッ!!!


 さらに3連続で岩の中心近くに命中した。


「やった!」


 ミスティは歓声を上げる。


「いい感じよ。多分だけど、魔術を作り出すことに一生懸命になりすぎていたんじゃないかしら。だからそっちに集中力を取られてしまって撃ちだす方向が変になっちゃったんだと思う。慣れるまでは簡易のものでもいいから魔石が乗った杖を使った方が上達するわよ。この杖はちょっと物が良すぎるからその辺は割り引いてほしいけど」


「はい!じゃあもう少し……」


 そこからコツを掴んだのだろう。ミスティはより素早く、より多くの魔術を岩に命中させる事が出来た。

 まだまだ狙いは粗いが、大分矯正できたのではなかろうか。


「じゃあ最後に、杖なしでやってみて」


「えっ!?」


「今のあなたの普通は杖なしよ。一度でいいからやってみて」


「……はい!」


 杖を私に返したミスティは両手を岩に向ける。その面持ちは先程より緊張しているように見える。上手くできるといいけど。


「……じゃあ、いきます!」


 そうして放たれた氷弾は割といい感じに岩に向かい……


 チッ


 岩を掠って奥の砂地に着弾した。


「惜しい!いけるじゃない!」


「嘘!?ちゃんとできた……!」


「もう一度」


「はい!」

 

 この子は十分な才能がありそうだ。短い付き合いに過ぎないのは残念だけど、できる限り教えてあげよう、そう思ったのだった。


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