第6話 砂漠の魔物
より砂地の強くなった荒れ地にあるとあるオアシス。ここがキーリカとザラームの国境だ。
国境に線を引いたら荒れ地にずっと線が引かれていくんだろうけれど、そんな何もないところを通るモノ好きはほとんどいない。密出入国し放題なのが実情だが、一応両国で巡回警備は行われている様子。
両国の関所が一つのオアシスを共用していて目と鼻の先にあるせいで、私達がキーリカの役人に出国のための身分確認をしているのを見たザラーム側の役人があらかじめ準備をしていて、私達は十数秒歩いて入国の確認をはじめられた。
これまででもっとも速い出入国となった。
「さて、僕もこの砂漠を通るのは何十年ぶりかだけど砂漠の魔物はサソリとか、大きな芋虫みたいな奴とかサボテンが魔物化したやつとか、結構強いから気をつけてね?この国、必要な時に護衛は出すけど街道の巡回とかはほとんどやらないから魔物が多いんだ」
「わかったわ」
私自身、砂漠を旅するのは初めてだ。気を付けることにしよう。
この国の街道は、街道の体をあまりなしていない。おおむね砂丘の尾根を通っていく中、ある程度の目印が設置されている程度だ。この目印は罪質はそれぞれ設置時期によって違うようだが、木材や金属、あるいはそれらの複合でできた高い棒を砂漠に突き刺している。
そして高い棒の先には光を反射しやすくするガラス材や鉱石のようなものが貼り付けられていて、太陽や夜月にその光が反射してできるだけ発見しやすく作ってある。
雨がほとんどなく基本は晴れが続く気候だからこそできるやりかただろう。
一つ目印を見つけると、遠目に別の目印が見えるからそれを目指して尾根を縫うように進むのがこの砂漠の流儀だ。
「この目印、埋まってしまわないのかしら?」
「それだけはさすがに何とかしてるみたいだよ。高さが足りなくなったり壊れたりしたら交換したり再設置してるんだって」
「なるほどね」
目印は命綱だし、流石にそうよね。
***
強烈な太陽、強烈な暑さ。
最初は雑談をしていた私達だが、もう必要なこと以外はしゃべる気も起きない。
そりゃ水も氷も魔術でいくらでも作れる。だから倒れるとか熱病になるとかそういうことはない。
だけど暑いものは暑い。風もあるから正直冷たい風を魔術で作っても効果が薄く、さりとて風を止めても汗が蒸発せず逆効果でなにをしても面倒だから対処するのをやめてしまった。
「オアシスはまだなの……?」
「まだだよ……今夜は大きな砂丘を見つけてその陰で夜営さ」
「うへぇ」
そんな話をしていると、視界の端に何かがいた気がした。
「え……?」
そんな気がした右側に視線を送ると、その先では地面の砂が畝状に盛り上がり、それがこちらに向かってくる様子が見えた。
「右。多分魔物!」
正直なところ一同暑さにダレていた。それでも魔物となると瞬時に反応し戦闘態勢。
砂から飛び出してきたのは私の数倍の長さはあろうかという巨大な褐色の芋虫。サンドワームというらしい。
大きいものでは目の前にいる個体の10倍にもなるという砂漠の主。他の魔物や人や駱駝を食って生きている。円筒の先端に牙が付いた形状は正直グロテスクだ。
そんなサンドワームは私たちを餌だと言わんばかりにまっすぐに突っ込んできて最も近いところにいたカイルに襲い掛かろうとする。
「ふうん!……ぐっ!?」
カイルはその大きな口を何とか剣で止めようとするが剣の刃はその牙で受け止められ、その力や質量に押し込まれそうになる。
そこにエスタが横から矢を放ち私も氷槍を何十発と叩きこむ。
横からの攻撃にひるんだのかサンドワームは一度体を引きその隙にカイルは何とか脱出。しかし再び砂に潜ったサンドワームは畝を作りながらこちらに接近。
次は足元から食い散らかすつもりだろう。
でも今度は私の方から!
単純な長さで言えばいつかの龍に近いサイズ。
私の魔術で有効な打撃を与えられるかは疑問だ。
だから、こうする。
地面に杖を向けて、穴と、水。
サンドワームが今まさに頭を突っ込もうとしたそこを水没させる。そして進行方向の穴の壁は砂ではなく石板にして突破できないように。
瞬時に出現した深みのある水たまりに突っ込む形になったサンドワームは、おそらく前にしか進めないという弱点そのままに石壁につんのめりながら全身が水没。
水たまりの中で暴れるサンドワームに次はエレクトリックを。
万全な状態のサンドワームに同じことをして効果があるかはわからない。しかし先程の攻撃で側面から出血しているサンドワームには効果があった。
痺れているのか沈んでいく。そして水底で動かなくなった。
「……倒した?」
「どうかな」
エスタと二人で穴の中を眺める。そしてカイルも穴をのぞき込んで一言。
「多分こいつ泳げないぞ」
「じゃあ、水の供給止めても大丈夫?」
「ああ」
水が落ちるように吸収されてしまう砂地で水たまりを維持するために供給し続けていた水魔術を止める。
するとあっという間に水が引いて、底に沈んだサンドワームが現れた。
なんだかこう、しんなりしていて、もう動かない。
「大丈夫そうね」
「ああ」
このくらいのサイズのサンドワームならこの手が使えるけど、多分これ以上大きなサイズの水たまりは作れない気もする。そうなったら逃げの一手になるかも。
「砂漠の魔物は水たまりに突っ込むなんざ想定していないだろうしな。溺れたんだろう」
確かに、似たような魔物でも蛇とかああいう魔物なら水なんて何のそので飛び出してくるかもしれない。
***
次に遭遇したのは砂漠ではよく見るという大きなサソリのような魔物だ。この砂漠のサソリは全部こうなってしまったらしく、ここでサソリと言えばこいつを指す。
こちらは人の大きさくらいだが鋏と毒針のある尻尾が大問題だ。
しかしこちらはそこまで動きが速いわけじゃないし、サンドワームみたいに近くに来るまで接近に気付きにくいというわけでもないから遠目から接近が見える。
たまにある砂丘の陰になる死角に注意しておけば問題はない。
そしてまた遠くからサソリが近づいてくる
「ねえレベッカ」
「何?」
「今割と強い風が吹いてるけどさ、その風、無くせる?」
風をなくす……一応初級魔術の範疇だったはず。
「多分……」
「じゃあやってみて、お願い」
「ええ」
エスタが近づいてくる一体のサソリに
杖を上に掲げて所定の魔力を込めてやると、それまで吹いていた風が凪いだ。
「ありがと。それっ!」
エスタは一本の矢を放つ。
その矢は高く鋭い弧を描いたかと思うと、高くなった分を勢いに変えて急降下してサソリのど真ん中を射抜いた。
接近してきていたサソリはエスタの弓矢を真上から受け地面に縫い付けられるように奇麗に射抜かれ、それは矢も再利用可能な状態。
そしてサソリでもっとも値が付く尾の部分もキレイに残っていたのだった。
「僕ね、この砂漠を通るたびにこいつをこうやって倒して小銭を稼いでいるんだ」
そういいながら尾の部分をナイフで切り取るエスタを見て、エスタは見かけ以上にちゃっかりしているんだと再確認したのだった。
長年冒険をしているのだから当然か。




