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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第8章 南へ
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第3話 古代の文字

「なるほど、これが原因か」


 魔物を倒し、広間を調べていたらさっきまで水が流れていた先が池になっていて、そこにはぼんやりと青く光る水をくむ桶くらいの大きさをした丸い物体が。本来水が流れるはずの先の水路の入口には石が積まれていて流れなくなっていたのだ。


「卵だね」


「ああ」


 推測だが、おそらくこういうことだろう。あの魔物はどうみても水生の魔物だった。

 しかしこの乾燥した荒地気味の土地が続くこの一帯で繁殖に窮してしまったが水の気配を感じて井戸に飛び込み、水が湧き出るここに住み着いた。繁殖のための池を作るため、水の流れを変えた。

 実際のところはわからないが、この状況から推察するとそういうことなんだろうと思われた。


 積まれた石をどけたところ、水は本来の水路に向かって流れ始めた。

 一方新たな水の供給が断たれたことで、池の水位が下がり卵が水面から顔を出している。


「潰すぜ」


「お願い」


 そこに剣を突き立て、ほじくりまわす。

 すると青い光は明るさを失い、消えた。

 残りの3つにも同じように。


 最後は念のため、バラバラにした。

 バラバラになった何かの残骸がどろりとこぼれてきて吐きそうになる。


「ふう……終わったわね」


「よし、もう遺跡を調べていいかな?」


「ああ、良いぜ。でも気をつけろよ、まだいるかもしれない」


 剣を水で洗い流し、ふき取ったカイルは周りを見渡しながらエスタに注意を欠かさない。


「わかってるよ」


 そういいながら、エスタは軽やかな足取りでここを飛び出していった。


***


 財宝の類は全くなかった。

 多分村人もそれらを探したのだろう。明らかに無価値な割れた皿の類が見つかったにすぎない。

 だから暇そうに空間を散歩して歩くカイルと、遺跡の隅々を見て回るエスタと、古代文字を探して回る私とで色合いが異なる時間が流れている。


 ただ、私が古代文字を読めることは明らかにおかしいので隠しておかないといけないだろう。だから夢中になっているエスタはともかくとして、カイルの目を盗みながら古代文字を探す。


 燭台にあったそれは、多分灯りの魔道具だ。壊れているようには見えないから、意図しながらそれを読めば燭台に灯が灯ると思われる。でも読んだら灯がついてしまうから実験はできない。


 それからもいくらかの文字を見つけることができたが、それらは後世において魔術の研究という大それた使い方しかされていなかったのと比べて、ひどく生活のにおいがする使い方がされていた。

 灯りを点ける魔道具、桶に水を張る魔道具とその隣に書かれていたのは溜まった水を回転させる魔道具。あるいは対象を切る魔道具なんてものもあったのだ。さながら包丁いらずの魔道具だと言えるだろう。

 これらの魔道具は、文字を文字と認識して読めさえすれば、誰でも用いる事が出来る。今もそうだし前世の時代でも普及していた暗所で明かりを取るための光の魔道具なんかは物理的な仕掛けを使うことで起動するようになっている。

 それと比べたら、これらの魔道具は単なる仕掛けと言った方がいいのかもしれない。何も手を触れずに起動できるからだ。


 それらの文字を多く読み進めていった結論として、魔術が今こんなことになっていることの手がかりは何もなかった。

 でも、ここで営まれていた生活を想像すると、とても豊かな日々が送られていたんじゃないか、そう思える。

 豊かな水に恵まれ、仕掛けを作動させれば食事が温まり、風が吹き、灯りにも困らない。そんな生活。

 同時に、何故豊かで便利な生活をしていたであろうここが遺跡となることを余儀なくされたのだという疑問が尽きない。

 何があったのかを知る術はない。

 ただ、人々の営みが失われること、それらが大地に埋もれて永遠に失われること。

 それがひどく寂しく思えた。


 そんな中、ふとさっき魔物と交戦した建物の床に例の古代文字があるのを見つけた。

 もうカイルやエスタは外に出ている。

 そこに書いてある内容から効果を推測し、一度出入り口から外を見て、カイルもエスタも遠くにいるのを確認したうえで、それを読んでみた。


『ひらけ、ひらけ』


 呟くように発した言葉は、私達が普段使う言語に訳せば単純な一言だが仕掛けが起動した。

 ゆっくりと一部の床面が動き、両手を広げた長さより少し狭くて少し浅い空間が生まれたのだ。

 つまるところそれは床下収納の蓋を開け閉めをする仕掛け。重い石の板が自動的に動き、内部の収納への扉が開き、石造りで両手を開いて並べたくらいの大きさの小箱があった。


 ここは村人も見ていなかったらしい。

 そこにあった箱は、祭祀の道具だろうか?

 ここは神殿のような姿をした建物だからそういったものが仕舞われていても不思議ではない。


 それを慎重に手に取る。気の遠くなるほどここに仕舞われていたに違いないが、それでも劣化していないのは特別な理由があるのだろう。

 薄い蓋を開くと、主に石でできた首飾りや髪飾り。

 透明感のない石や白い水晶でできたものであって宝石類ではなさそうなのに、気品を感じる。

 少し考えて、それを鞄に仕舞った。他にもいくつか似たような仕掛けがあったので、しっかりと報酬としてもらうことにした。



***


 ここに潜ってからたっぷり3,4時間くらい経っただろうか。もう外は夜だろう。

 新しい発見もなくなりいい加減疲れてきたあたりで、心配したのか村の人が下りてきた。


「ああ!ご無事でしたか!おかげさまで水が戻っています。ありがとうございました!」


 出口の方を見ると、さっきからひっきりなしに水路に桶が下ろされて水をくみ上げている。大変そうだから、畑には後で水魔術で水を撒いてあげよう。


「ああ、魔物は倒したからこの場所を調べている。しかしここは想像以上だった。すごい場所だな」


「はい、村の長老も何も知りません。一体いつのものだかすらわからないのです」


「あそこで熱心に遺跡を見てる彼曰く、1万年は前だそうよ。千年の単位じゃないって」


「そんなに古いものですか、いやはや信じられません」


「ちなみになんだけど、例えばこの割れたお皿とか、ここで拾ったものとかは全部もらっていいのね?」


「ええもちろんです」


 よし、許可は貰った。


「そう、わかったわ。ありがとう」


 これであの首飾り、髪飾りは合法的に私のものだ。どこかで価値のわかる人がいたら換金させてもらうこととしよう。


「僕はこれで満足だよ。お金になるものじゃないのは確かだけど、1万年以上前から来たんだ。


 エスタが手に持っていたのは小さなお皿。

 割れることを免れて完全な状態のそれはお皿というより杯と表現した方がいいかもしれない。


 一方カイルは特に得るものもなく宿代と保存食がタダになったことで留飲を下げた、そんな顔をしている。

 水が回復したことで優先的にお風呂や料理の提供をしてもらったからいいとしようか。



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