幕間5 エピローグ 絶対遮断の結界
約5年後。魔王を倒してから数十日後
主を失った魔王城の前庭を前にして、フェリナの詠唱が大詰めを迎えていた。
数日かけて魔王城周辺に施した神聖魔術の魔法陣を用いて、魔王城及びその敷地と周囲の山を丸ごと封印してしまおうとしている。今はまさにその最終段階。
同時に、フェリナの後ろに立つ私は杖に無色透明の魔術をこれでもかと言うほど詰め込んで、練り上げ精練してゆく。
「……この内に意思を差し挟むなかれ、あらゆる干渉をいれることなかれ、時もこの内に刻まれるなかれ、あらゆる変化を拒絶せん。停止と停滞こそが福音なり。あらゆる干渉を駆逐せよ!」
事前に聞いていた詠唱が完成した瞬間、あの時のようにフェリナに魔術を雪崩れ込ませる。張ろうとしている結界のあまりの強さに、最後は魔力切れになるのが当然の前提だ。二人の魔力全部を足しても構築できるかわからない、魔王城を丸ごと強力に封印しようとする神聖魔術。絶対遮断の結界。
5年前と違うのは、神聖魔術が意思を持つかのように、私の魔力をどん欲に食らいつくしていくことだ。フェリナは最初から私の魔力が注ぎ込まれることを前提に結界を構築していく。
だからフェリナの用いる魔力の流れに合わせて雪崩れ込ませるのではない。フェリナの側から私のすべてが吸いつくされていく。
まだ足りないと。もっとだと。奪い取られていく。
「ぐうぅぅぅ!!!」
頭が焼き切れる!こんな感覚、知らない!
精神が引き裂かれるようにすら思えて反射的にやめようとした。だが、神聖魔術は、それを拒絶した。魔力制御が私の意思から奪い取られ、奔流のように、いや、私の魔力の底が抜けたように、魔力が食いつくされた。
「あ……あ……」
止まらない、止められない魔力の放出。
私の魔力はすべて失われ、そして魂まで引き抜かれたのかと錯覚するような、意識が空虚になる感覚と共に私とフェリナは崩れ落ち、意識が薄らいでいく。
薄れゆく意識の中で完成した結界の姿が目に止まり、魔王城の封印が成し遂げられたことを知って、流れに身を委ねるように意識を手放した。
次回から再び本編に戻ります




