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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
幕間5 大魔術師
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第5話 共同作業

「じゃあ、いくわよ」


 杖を構えなおす。


「ええ。いつでもいいわ」


 私は所定の手順に従い、この話をし始めてから蓄積していた魔力を練り上げていく。より高密度に、より高出力に。


 だが私は彼らに一つ説明を省いていた。

 相手を上回る魔力を叩きつける。それ自体は正しい。ただしこれは相手の構成魔力を多少中和して弱体化を図るだけであって、爆発なんて起きるわけがない。

 実はもう一つ手順がある。

 世の中では上級魔術が最強の魔術だと思われている。しかしそれは属性単体での話だ。

 上級魔術を混合することによって悍ましいほどの、想像を絶する威力の魔術が発動できる、上級魔術のさらに上の階層にあるというべき魔術群。

 もっぱらその領域に達した魔術師の中だけで受け継がれているから一般の魔術師には存在すら知られていない。

 これ一発で万単位の人口を持つ街を吹き飛ばせる。せいぜい城を吹き飛ばす程度の上級魔術とは威力の桁が違う。

 私自身、実際に使うのは初めてだ。発動直前の段階までしかやったことがない。


 だが、このゴーレムを倒すにはこれが絶対に必要だ。


「フェリナ!お願い!」


「……我が決意は神の御意思の如くにて、既に不可侵のものなり。これを害さんとするあらゆるものを駆逐せよ!」


 詠唱を続けていたフェリナが結界を張り終えた瞬間、練りに練り上げ暴発寸前まで至っていた魔力を開放。ほぼ同時に、雷と炎の上級魔術を中心に風と土魔術も混合した上級魔術の”更に上の階層”の魔術を発動。


 光が、収縮していく。本来、電撃であれ、火球であれ、発動すれば拡散していくはずのものが、収縮していく。

 ”爆発”と言う表現があるが、それならこれは”爆縮”とでもいう現象なのだろうか。


 師匠は、これを神の怒りと名付けていた。

 師匠が名付けたのか、師匠にこの魔術を教えた者が名付けたのかは知らない。

 師匠はこれを使ったことがあるらしく、一言だけ注意を添えていた。


 ”光が集まったと思ったら次の瞬間大きな街が簡単に吹き飛ぶ位の爆発が起きる”と。


 師匠が言っていた通り、光が収縮していく。

 一瞬の出来事であるはずなのにやたらゆっくり見えたその光景。

 光に包まれたゴーレムの表面が波打つように沸騰し、恐るべき硬質が嘘のように融解しながら蒸発し、護りを失い魔術に到達された丸い核は身をねじるようにして魔術に抵抗したように見えたが光の収縮が極限に達したとき、突如肥大化して弾けちぎれ飛び、消えた。


 その刹那、一転して強烈な熱線も伴う爆発が一帯を襲った。


「あああああああああ!!!!!


 フェリナが全開で結界を構築する。しかしその結界は、フェリナの全開以上の魔力出力にもかかわらずひび割れ退縮していく。

 何とフェリナは外側の内向きの結界を優先していたのだ。たとえこちらの結界が崩壊し瞬時に私達が死んだとしても爆発を抑え込み切れるように。


「フェリナ!」


 そんなことをしていたせいで瞬く間に魔力不足に陥りつつあったフェリナに背後から抱き着き、無色透明の魔力を流し込んだ。流し込む?そんな生易しいものじゃない。

 私の魔力を、ありったけフェリナに全部雪崩れ込ませたのだ。


 私の無色透明な魔力はフェリナの指図に従って、フェリナ自身の魔力と混ざり合い、フェリナ単独では決して造り得ない得ない遥かな高みにある結界を形成し、強固で、かつ強度に破壊的威力をはじき返す私達の守りのためにある結界と、爆発を外に出さない結界の間で共鳴し続け反射し繰り返される破壊の波を受け止め続けた。


 私達の視界を轟音と先行で満たし続けたそれらすべてが収束したとき、この迷宮はほぼほぼ更地と化していて、私達がいた場所とその周囲が中心となったクレーターが形成されていた。クレーターは辛うじて台地の中に収まり、多少の土砂は周囲にまき散らされたかもしれないが、大きな被害は出ていないだろう。


「はぁぁぁ……あー、もう空っぽ」


 周りをそう確認したら力が抜けた。

 べたんと、座り込み腕を支えに天を仰ぐ。


 そこにあったはずの迷宮の天井は既になく、もうすぐ夕方にむかうやや赤く色づいた空があった。


「何つー威力だよ、おい。一面消し飛んでる」


「信じられない。これが、魔術の極みなのか」


 アレクとカーターが瞠目しながら周囲を見渡している。 


「ねえジュリナ」


「なに?」


 同じように座り込んでいたフェリナはずいずいとこちらに寄ってきて、光る汗がつたう顔を近づけ笑顔を見せた。


「やっぱり、ジュリナを誘ってよかったわ」


「どうして?」


「ええ。確信が持てたの」


「確信?何の?」


「ジュリナと進めば、魔王を倒せるって。私、護るなんて言ったのに、途中で無理だと思っちゃった。すごい威力に押し潰されるかと思った。巻き込まれてみんなを死なせちゃうんじゃないかって」


「……」


「だけどジュリナは助けてくれた。あんな方法があったのね。足りない魔力を補ってくれる術があるだなんて。だからジュリナと、みんなと歩んでいけば魔王を倒せるって!」


 そんな術があると認識していたわけじゃない。

 だから思い返せば、とっさの判断だった。

 ひび割れていく結界。皆には申し訳ないが、内心宿場町が巻き込まれるのは仕方ないとすら思っていたけど、ここで死にたくはなかった。

 先の大廊下で受けていた魔術の滝を何乗もしたような圧力に、瞬間的ではなく継続的にさらされることに気づいていなかったから、そうなってしまったことでフェリナの張れる最高の結界すらも危機にさらされてしまったことをどうにかしなければならなかった。


 でも、私は知っていた。

 無色透明の魔力を作ることさえできれば、相手に流してその者の魔力のようにふるまわせる事が出来ると。

 使う魔術が違う聖女にも同じ事が出来たことは少々驚いたけど、結果としてよかった。


「ぶっつけ本番よ。できなかったら、死んでたわね」


「ほんとね」


 くすりと笑いあい、私もフェリナも支えていた手を崩し仰向けに寝っ転がって天を仰いだ。

 フェリナと共同で為したことになった結界構築と言う共同作業。このことが、フェリナとの間にあった垣根を取り払ってくれた。

 それまではただの同行者だった私が、少なくとも彼らを、友人、あるいは仲間と捉え始めたのがまさにこの時だった。


 二人で見上げた空は、さっきと同じ空のはずなのに、少し違って見えた。



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