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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
幕間5 大魔術師
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第4話 迷宮守護者

「迷宮化した場所には大抵迷宮守護者と呼ばれるボス敵がいる。そいつを倒せば迷宮も全体として弱体化することも多いからな、迷宮の制覇と迷宮守護者の討伐はほとんどイコールの関係なんだ」


 というのがアレクの談。ここにもそんな強力な魔物がいるのだろうか。


 大廊下を抜けた先にも魔術を行使する魔物はたくさん出現した。

 しかしフェリナの対魔術結界で奇襲を防ぎつつ、姿を現した魔物には私が魔術をぶつけ、堂々と正面から魔術を放つ魔物がきたときには魔術で魔術を相殺し、完封する。


 放つ魔術が全部相殺された魔物は何もできずに私の追加の魔術やアレクかカーターの剣の餌食となった。

 ただ正直なところ、私一人でも何とでもなる。大したことはないというのが迷宮と、魔物に対する感覚であり、かつ、実態でもあった。

 

 そんな中辿り着いた迷宮の最奥。


 そこにあったのは、燭台のような台座に置かれている球状の物体。


「何だあれは」


 大広間のようになっているここに入れば迷宮守護者が襲い掛かってくるだろう、そんな話をして身構えながら入ったこの空間、だが襲い掛かってくる者どころか魔物一匹見当たらない。


 しかし空間の真ん中にぽつんとそれがあり、嫌でもその球状の物体に気を引かれ、それでも周りを警戒しながら近づいていく。


「何もいなかったな……どれ、これはなんだ?」


 アレクがそれに近づき触ろうとした瞬間だった。


「アレク!離れて!」


 フェリナの警告にアレクは飛びのいたがその巨大な水晶球にも見える球体から放たれた電撃が私達に襲い掛かり直撃。


「ぐっ!」


 私はマシな方だ。電撃が放たれんとするそのわずかな間に球体が発した雷属性由来の発光を見て反射的に土属性の防壁を展開しかけていたのだから。

 だが雷属性の魔術が最も優れているところはその速度だ。

 少しでも油断があると防御しきることはできない。


 だから展開しかけの不十分な防壁は破られて体に電撃が突き刺さった。油断していた。


 急激な暑さとしびれが体の自由を奪い、遅れて猛烈な痛覚が感覚のすべてを埋め尽くした。


「痛った……!くそっ!エクスヒーリング!」


 気が付いたら地に伏していた私は治癒魔術を自分にかけながら杖を支えに立ち上がる。

 表向きはいざ知らず、真実としては魔術の力を期待して旅に誘われた身として、魔術にやられるとは何たる失態か。


 そう思い、立ち上がったそこには倒れている3人と、そしてあるはずの巨大な球体はなく、球体は徐々にではあるが人型に近い形をとりつつあった。

 

「アーティファクト?そんな!あんなに大きいものなんて!」


 要するに最初の球体は魔術工芸品であるゴーレムの核だったのだ。人が作ったものではない。魔族かもしれないし、それ以外の得体のしれない誰かの悪趣味としか言いようがない魔術工芸品。

 球体が変形し、作り出された体に埋没していく。

 この手の魔物は、魔術耐性が高い。体が魔力でできているからだ。


「ちっ!」


 そこに私が普段攻撃魔術で中心的に使っている氷の槍を叩きつけるが、効かない以前に硬度で負ける。刺さらない。この硬度。多分火も土もダメだ。風は非力すぎる。

 ならばと、雷属性を撃とうとして、さっき撃たれた雷属性の魔術を思い出し、やめた。

 逆効果になる恐れが高すぎる。私の魔力をくれてやる結果になりかねない。


 もうまもなくゴーレムは完全に形作られ、動き出すだろう。

 

「……くそっ!」


 悪態をつきながらちょうど足元にいたフェリナに杖を向けエクスヒーリングを、意識朦朧としていたフェリナが上級治癒魔術により意識を取り戻したのを見てアレクとカーターに走り、なんとか敵が動き出す前に回復が間に合った。


「すまない!助かった!」


「……ええ」


 内心煮えくり返っていた。魔術を使う相手に対して為す術がない。

 あるにはあるのだ。その手段は。ただし無防備に倒れている3人も巻き込んでしまうから無いのと同義。 


 戦いの枠の中でなら何でもできるとさえ思っていたのに。よりによって魔術を使う相手に対して手詰まりを感じてしまうなんて!


 パーティーとして態勢を立て直し、剣士二人を前ににらみあう。

 その間ゴーレムが放つ魔術をひたすら相殺し、アレクとカーターが隙があると見て斬りかかるがそれはゴーレムの罠であったり、実際に隙があったとしても剣が硬質を極めたゴーレムの体に通用しない。


「ジュリナ!こいつの対策、何もないの?そもそもこいつは何?」


「……多分、古代のアーティファクト。魔術で作られた、人形。本で読んだことがあるだけで見たのは初めてよ」

 

「剣も通じねえぞ!弱点はないのか!?」


 何度繰り返したかわからないアレクとカーターの攻勢も全く成果がないのだ。文字通り傷一つつけられず、撃退される。

 この空間がある程度の広さがあることもあって、その外周を移動し続ければ追い込まれることはないが、この手の魔物の魔力はおよそ尽きることはない。

 しかし私もフェリナも魔力の限界はいずれ来る。

 このまま戦い続けても緩やかな敗北へと歩んでいるに過ぎなかった。


「……弱点、あると言えばあるわ。それは厳密には弱点じゃなくて、目の前の魔物をどうにかできる手段に過ぎないけど」


「倒す方法があるのね、どうすればいいの?」


「その前に、最寄りの人里まで距離はどれくらい?」


「あん……?一昨日泊まった宿場町が最寄りだ」


 つまり山の麓にあったあそこだ。

 この一帯の地形は……ここは台地の上、両脇を山に挟まれていて、台地と山の間に谷があってそこから流れる川の合流地点にその宿場町があったはずだ。

 だめだ、巻き込む。


「アレク、その宿場町、巻き込んでいいなら、倒せるわ」


「何?」


「この迷宮丸ごと、吹き飛ばす」


「な……!それはダメだ!」


「なら無理よ。あいつの魔力を完全に上回る魔力を叩きつけて体を構成している魔力ごと分解するしかないの。それをしたら、強烈な爆発が起きる。フェリナの結界があれば私達は何とかなるけど、爆発で生じた土砂が宿場町に土石流となって流れ込むわ。谷が埋まるの」


 この間にも魔術の撃ちあいと、アレクやカーターの攻撃は続いている。

 体の疲労は魔術で解消できても、精神面での疲れまで癒してくれるわけじゃない。終わりの見えない戦いに、走り回っている二人に疲労の色が見え始めた。


「ジュリナ、それ以外の方法はないのね?」


「あるかもしれないけど、思いつかない」


「確認だけど、それは要するに強力な爆発が起きて周囲を吹き飛ばしてしまうから問題なのよね?」


「そうよ。私達はフェリナが守ってくれる前提だけど」


「……いいわ、やりましょう」


「話聞いてた?」


「ええ」


 アレクが焦ったようにフェリナに視線を向ける。


「フェリナ、町を巻き込むんだぞ!」


「大丈夫よ。護ってあげる。結界を2枚張ればいいだけなんだから」


「町に?でもそれじゃあ」


 そんな距離に結界を?遠すぎる。


「違うわ。この迷宮の外側に、逆向きの結界を張る。本来外から入ってくる攻撃を防ぐ結界魔術だけど、中の攻撃を外に出さないこともできるのよ。だから私達を護るための普通の結界の大きく外側に、逆向きの結界を張る」


「そんな事が出来るのね」


「ええ、もちろん」


 いやしかし、フェリナはとんでもない聖女だ。私は聖女じゃないけど、フェリナが平然とやろうとしていることがとんでもないことだというのはわかる。

 だから、出来るというならやってもらう。私は私の仕事をするだけだ。


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