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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第6章 新たな仲間と最初の手がかり
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第14話 剣を納めて打ち上げをしよう

 私達は依頼完了の証である剣をギルドに預け、併設されている換金所に熊の毛皮を売却しそこそこの副収入を得た。

 剣は依頼人が本物かどうかを見極めた上で依頼の成否が判定されるからそっちの報酬は明日という話。ついでにエスタもパーティー登録。何とエスタは既にB級冒険者とのこと。

 

「え?冒険者ランク?ああ、ギルド開設当時からだらだらやってるからBランクだよ。Aにするのは面倒だからやってないけど」


 という長寿種族の恩恵を存分に受けたコメントが帰ってきてカイル共々さすがだなあと思ったところ。無理なく依頼をこなしてDランクからCランクに上がるのに15年。そこからさらにBランクに上がるのに30年かけたらしい。

 ちなみにギルドは500年ほど前からどこかの国で始まり、200年ほどをかけて世界全域にゆっくりと拡大して今の全世界的な組織になったという豆知識も彼の知恵から仕入れることができた。


 そんなこんなで旅の買い物も含め終わった時にはもう日が暮れつつあり、ようやく一つの仕事が終わった安堵に包まれている。

 

「なあエスタ」


「なんだい?」


「宿を確保したら一杯やろうぜ。歓迎会だ」


「いいわね!やりましょう!」


「おや?レベッカはもうお酒飲めるの?」


「何よ、お酒くらい飲めるわよ」


「やったね。じゃあ行こう行こう」


 そうしてやってきたのは、宿から少し離れた路地にあるくたびれた酒場だ。

 レベッカの記憶にあるような場所は念のため使わないように。もう明日にはこの街を発つのだから、万が一もないように。


「かんぱーい!!」


 安物の麦酒とお肉と豆を摘まみながら、訪れた一仕事を終えた感覚に身を委ねている。

 

「明日以降どうするつもりなんだい?」


「ああ、明日は先ずギルドで依頼の結果を確認して、その後レベッカの新しい杖を頼んでるからそれをとりにいく。そうしたらその足でもう南に向かう予定だ」


「ヴェルドとは逆に行くんだね」


 くすっと笑ったエスタに私達は苦笑いを隠せない。


「まあな。襲撃されても何とかなるだろうがこの一帯も一応奴らの影響力が及ぶ範囲だからな。もう少し南に行って奴らの目を気にしないようにしたい」


 「了解。僕はここ十数年一人旅が多かったからね。パーティー組んで動くのも久しぶりだ」


「エスタはこの辺の生まれなの?貴方の里はどこ?」


 エルフという種族のことを私は何も知らない。それを聞いておきたいと思ったのだ。


「生まれはこの大陸の、ここからだと…そうだね、大分南東側の大森林の中かな。大きな森を超えたさらに先にあるから、普通の人は簡単にはたどり着けないね。大森林より手前の大きな森でみんな迷っちゃうよ」


「そんなに大きな森があるの?」


「うん、大森林はこの間のペースでまっすぐ進み続けたとしても端から端まで20日以上かかるんだ」


「なら、エルフの人達がそこを出るのって大変じゃないの?」


「うーん、いろいろ理由はあるけど、僕達にとっての20日は大した日数じゃないからね。人族の二人からしたらとんでもない時間だろうけど。まあ、根本的にはエルフってあんまり外の世界には出てこないし」


「あら、なんで?」


「なんていうか、僕は割と人族のみんなと普通に接していられるけど、種族柄のんびりしているからね。外の世界の時間の経ち方を早く感じちゃうみたいなんだ。みんな生き急いでいるみたいだって」


彼ら長寿の種族からしたら私達の考え方はそう映るのだろうか。


「エスタはそうじゃないのね」


「うーん、そうだね。最初はそうだったかな」


「最初?」


「うん、歴史を学ぶのが好きだって言っただろう?人の歴史を学び始めたら、どうして彼らがこんな風に生きているのかっていうことを理解できたんだ。エルフよりもよっぽどしっかり生きているよ。君たちは。それに……」


「それに?」


「いや、これは違うな。今の無し」


「なによそれー」


「まあいいじゃないか。思い違いは誰だってあるのさ。さあ次は二人の番だよ。どうやってここまで来たのかを教えてくれるかな?カイルは」


 さっきエスタは一瞬寂しそうな顔をした。

 多分、彼が誤魔化したのは人とエルフとで違いすぎる寿命の話。

 外に友を作ってもあっと言う間に歳をとり死んでしまう。

 多くのエルフは外でそれを体験してしまったのではないだろうか。親しい友を作り、老いる人と変わらない自分。

 そんなことを繰り返してしまったら、もう外になんて出なくなるだろう。エスタが歴史が好きだというのは、追いかけるのが人の生きていた痕跡であって人そのものではないからだろうか。

 しかし、ふと思ってしまった。

 私はあの牢獄でもう一度転生術を使おうとした。

 もし、もう一度あれが使えるならば、彼ともう一度会うことはできるのだろうかと。


「俺はな―、そうだな……生まれはこの大陸の北の村だ。ヴェルドよりもっと北」


 そういえばカイルの生まれは聞いていなかったな。


「それからは…特に言うこともないと思うんだが、村が魔物に襲われてな。聖堂に一時保護されていたが居づらくて一人になって冒険者になるしかなかったんだよな」


「そうなんだ。ごめんね、嫌なこと聞いた」


「いや、いいよ。結局行きつく先は冒険者だっただろうしな。俺にはこれが性にあってる」


「で、レベッカは?」


 聞かれるわよね。まあ、嘘は言わないように。


「私はこの国の生まれよ。あと実家もこの街」


「え!?そうなの?」


「ええ…私は家のことが嫌で、家出して、いろいろあって冒険者になって、カイルと出会って、たまたまこの街に」


「なら帰ってきたって感じなんだ」


「いや、本当にここに来たのはたまたまだから、家に帰る気はないわ。明日やることをやったらもうこの街を出るつもり。見つかりたくもないし」


「ふうん。親御さんとか寂しがらない?」


「そこは大丈夫だと思う」


「少しは親孝行するんだよ?」


「家出娘に無茶言わないでよ」

 

 そういえばと思い、レベッカの両親の顔を記憶から掘り起こしてみる。

 母親の顔は……記憶がない。ぼんやりと確かにかつて母という人がいたことだけが記憶に残っている。 

 レベッカには妹が二人いる。正確には二人いた。しかし下の妹が産まれる際に母親が死に、その妹も死んだはずだ。

 だから親の顔と言えば父親の顔しか思い浮かばないのがレベッカが持つ両親の記憶。

 ただ、レベッカは家出して死んだのだ。死んだ人間が家族に会っていいはずがない。早くこの街を出よう。剣の家に、魔術の手がかりなどあろうはずもない。

 それならば余計なトラブルを抱える必要はないのだから。

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