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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第6章 新たな仲間と最初の手がかり
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第11話 宝剣を奪おう

 私達は無事1階へと戻り、無人で窓のような外への開口部のある部屋に滑り込み内外の様子を伺っている。

 外は外周から少し距離があるところを見回り要員の賊が見て回っていて、ここからは見えないが、エスタの話によればそれ以外に正面玄関に該当する場所にも門番が立っているとのこと。


 そして四角形の敷地の四隅に当たる部分の近くには櫓が立っていて、視界内の二つにそれぞれ一人ずついるように見える。

 概ね遺跡側には視線を向けていないが、いずれも暇そうにしており気まぐれで遺跡側に視線が向くこともあった。四角形の形状をしている遺跡の一辺に向く視線は3つ。


 つまり玄関のある側を避けつつ、見回りと視界に入る二つの櫓をどうにかすればいい、少なくともどれかを始末できたら、見つかる確率はだいぶ下がると言っていいだろう。


 どうしたものかとみていると、ちょうど交代の時間らしい。

交代のための要員が櫓に登り、元からいた要員が戻ってくる。


「交代して櫓に上ったやつを上手いこと櫓の中に倒せるか?」


「頃合いを間違えなければできるよ。でも倒れた時に大きな音が鳴ってしまったら下を歩いているのに気づかれちゃう」


「下の見回りが堂々と倒れていたら簡単にバレるわよね。他の窓から賊が見ていないとも限らないし」


 だから距離がありそのお腹から下半分くらいが完全に隠れている構造になっている櫓の中に倒れるように賊を倒さなければならなかった。


 櫓相互間は特に合図を送りあっている様子もない。それなら…


「ねえエスタ。弓の腕前、期待していいの?」


「任せてよ」


 ここから櫓までだいぶ距離がある。殺傷距離という意味で射程範囲なのはわかるが正確に当てられるかどうかは別問題だ。


「本当に大丈夫か?」


「もちろん」


「じゃあ音の問題は何とかするわ。向かって右と左、どっちを先にやるか教えて」


「そうだね……見張りの順路と規則性からして、左」


「わかった。ふぅ…よし、いつでもいいわ。矢を射る寸前に声かけて」


「了解。じゃあ、”今”って言うよ」


 エスタは矢を番える。

 これから私がやるのは二段構えだ。


 弓を引き絞り、その時を待つ。


「………今!」


 思ったよりも小さ目の弓がはぜる音。矢が数瞬の間に鋭く飛翔し、櫓の真ん中付近に来ていた男の眉間を貫いた。


……!


 その数瞬の間に意識を集中し準備していたそれを行う。

 まず風魔術でこの一帯、ただしエスタから櫓までの間を除く空間に強い風を吹かせ木々がざわめき葉が擦れる音を一斉に起こし音を音によりごまかすのだ。


 風がそれらの音で周囲を満たす前に、もう一策。


 あの櫓の周囲の空気を風で可能な限り追い出す。初級魔術じゃ”真空”は作れないが空気を可能な限り薄くすることはできる。

 これで下を巡回している賊の耳を最大限度ごまかすのだ。

予想が正しければ、小さくしか伝わらない倒れた音は次の瞬間押し寄せる森のざわめきに打ち消されるはず。


 お願い!上手くいって!


 固唾をのんで賊の挙動を観察する。

 ……遺跡の周りをまわっている賊は、ある櫓の上の賊が倒れたことに……気づいていない。


 よし、上手くいった。


「ねえ、風魔術?」


「そうよ」


「器用だね」


「ふふ、ありがと」


「じゃあ次も行くよ、いい?」


「ええ」


 もう片方の櫓の賊も同じ手で倒すことができた。

 見張りの目が消えたことで、外に出た私たちは壁を登り、巡回している賊が来ないタイミングを見計らい賊の長の部屋へと侵入することに成功したのだった。


***


「よし、これだな」


 長の部屋に侵入した私達は目的の宝剣をついに発見した。

 素材はわからないがそう簡単にレプリカが作れるようなものではない。

 賊の長が使っていると思われる立派な机の後ろにある壁にかけられたそれは窓から入ってくるわずかな光を反射させ室内をわずかに明るくしている。


 壁を隔てた隣室には誰かがいる気配がする。

 おそらく賊の長が寝ているのだろう。


「じゃあ、これを取ってさっさとずらかるか」


 私もエスタも頷きで返事をし、それを確認してカイルは剣を手に取り、隣にあった鞘に納めようとする。その間に窓の外を確認、よし、走り抜ければ楽勝だ。

 そう思っていたのだが……


ーガチャッ


「ん?」


 壁に直付けされたラックのような形状をした、剣がかけられていた部品が上に上がった。剣の重みで何かを押さえていたかのように。


ーガラガラガラガラ!!!!ドォン!カンカンカンカンカン!!!!!


「な、なんだぁ!?」


 大音量響き渡り続ける甲高い音。そしてさっき入ってきた唯一の窓には鉄格子。


「まずい!閉じ込められた!」


 罠だ!

 窓をふさいだ鉄格子を外そうと試みる。

 しかし鉄格子は硬く壁の部材に食い込んでおり、ピクリとも動かない。


「くっ!それなら内側から…」


 そう決意し扉から出ようとしたが、私達が扉に近づく前に開け放たれた扉は多くの賊を私達の前に吐き出した。


「よう、お前らか。やっぱり仲間がいたんじゃないかよエルフの兄ちゃん」


「違う違う。偶然だよ、偶然」


「はっ。まあいい。あんな依頼がギルドにぶら下がってて何の対策もしないと思っていたか?」


 廊下から身なりのいい男が、使い込まれたいかにも賊が使っていますと言うような湾曲のある剣を持って現れた。恐らくこいつが長だろう。


「つまり罠ってわけだ」


「まあ、そういうこともあるわよね。あんなに堂々と依頼の募集なんかやっていれば」


 この程度の可能性には思い至っておくべきだったと思っているそんな間にも続々と賊が入ってくる。入口側のスペースはもう賊で一杯だ。


「はっ、観念しな」


 賊の脅し文句。確かに、逃げ道がなく数で負けていてここは賊の本拠地。賊は一様に勝ちを確信した顔をしている。同時に、何人もが私を品定めの目で見てくる。気持ち悪い。


「カイル、窓の鉄格子、破れる?」


「あの鉄の太さじゃ、すぐには無理そうだ」


「じゃあどうする?降参するの?僕は嫌だよ」


 そんなことを言いながらも降参なんてする気がさらさらないという目をしたエスタ。


「私は嫌よ」


 短剣を構える。


「俺もだ」


 そんな私達のやり取りを聞いていた賊の長は、静かに命令した。


「そうか、ならやっちまえ。ああ、女はできれば捕らえろ」


 うわっ、すごく嫌!


「「「おらあああああ!!!!」」」


 私達に一斉に賊が襲い掛かる。その手に持つ獲物は長短の剣や斧や鎌。

 カイルはその辺にあった花瓶を投げつけ怯んだところに吶喊。

 渋滞を起こした賊の先手を打つ。


「アイスランス!」


 私の武器が短剣なのを見て油断したのだろう。あるいは、生け捕りにして手籠めにでもしようとしたのかもしれない。雑に襲い掛かってきた賊の一団は目の前で突如発生した氷の槍の群れに驚愕し足が止まる。

 そのまま突っ込んできた方がよかっただろうにと思いつつ賊にぶつけ、胴体に数本を浴びた3人がたちまち倒れる。しかし賊もさるもの。

 その後ろから思いのほか俊敏な彼らが続々と斬りかかってきて狭い室内では迎撃が追い付かず、6人ほど倒した時ついに短剣の間合いまで詰められてしまった。もう私は捕らえる対象ではなく殺す対象に変わったようで容赦なく斬りつけてくる。


 エスタもエスタで壁際にいたおかげか彼に襲い掛かる人数は少ないが接近戦が苦手だと言っていたように刃を防ぐので手一杯。カイルは次々と賊を薙ぎ払っていくがこちらに手を回せる余裕はなさそうだ。


「レベッカ!」


 カイルの不安げな声が飛んでくる。

 私は私で倒した賊から剣を奪いリーチの不利は何とか解消。しかしそれでもこのままでは…!


 先日の野盗と比べたら明らかに強い相手に力押しを繰り返され、1歩2歩と押されていく。もう少しで壁。もう逃げ場はないし、下がれない。


……仕方ないか


 身体強化の付与魔術。できるだけ長持ちするように絞って…


「たああ!!」


 鍔ぜりあえば壁に追い詰めるのは簡単だろうと思っていたのだろう。

 見た目の細腕の倍以上の力で振り下ろされた剣に賊の剣がはじけ飛び、驚愕の顔をしたその賊を返す刀で切り伏せ、蹴り飛ばして集団を押し返す。

 強化された脚力で吹き飛ばされた賊は後続を巻き込み、押し返した私は再び壁から距離を取ることに成功。


 さっき下がった分を踏み込み、賊を弾き飛ばして距離ができたら今度は火球。エスタを追い詰めつつあった族の側面から火球を浴びせ隙を作る。


「やべえ!コイツ二系統持ちだ!」


 賊の誰かが叫ぶ中、大やけどを負い倒れた賊を踏み越える。混乱に乗じてエスタがカイルと合流。

 よしこれで行ける!と思った刹那。


 唐突に魔力を感じ反射的に氷の盾を形成。

 間一髪で火球を受け止めた。


「魔術師?」


 そういえば夕方燭台に火をつけて回る魔術師がいた。


「その女は俺がやる。お前らは他に回れ」


 この体になって、戦士や魔物と戦ったことはある。魔術師との戦いは始めてだ。

 果たしてうまくできるだろうか?


「おらぁ!」


 先ずは相手の力量を知らなければならない。それを見誤ると一瞬で死ぬ。

 先ず撃ってきたのは火球の魔術だ。相応に速く、数も速度も十分だ。

 それらに水弾をぶつけて相殺する。


「なんだと!?」


 何を驚いているのだろうか。こんなことは魔術師の日常茶飯事だろうに。しかし逆に言えば相手はこの程度……!


 相手はたっぷり10発も撃っただろうか。私は相殺の勢いそのままに11発目以降も水弾を止めず、相殺されないのをいいことに魔術師やその周りの賊を叩き続けた。


「マジかよなんだよこいつ!」


 奥にいた魔術師にひときわ大きくした水弾をぶつけその勢いで扉の外に叩き出す。退路が開いた!


「二人とも!」


「ああ!」

「やるね!」


 カイルが飛び込み、エスタが続く。私も両手いっぱいに火炎を生じさせ怯んだすきに両脇にその炎を変えた火球を撒きながら脱出。

 廊下に転がりだした先ではカイルが賊の後続を切り伏せたところだった。


「レベッカ!急げ!」


「ええ!」


 階段を駆け下り2階へ。

 しかしそこにも賊が大勢。階段の下にもいてぐずぐずしていたらさっきの族が追い付いてきて挟撃される!


「窓を目指せ!いくぞ!」


 カイルの声に反射的に最寄りの外壁寄りと思われる部屋の方向になるだけ大きくした火炎の弾を叩きつけ、着弾地点にいた数名が火に包まれ付近の残りは火を避けたため賊の壁に穴が空いた。


 カイルはそれを逃さず斬りこみ、エスタもナイフを振り回しながらそれに続いて、私もすかさず、今度は水弾を大きくしたものを左右に叩きつけながら部屋に駆け込む。


 都合よく窓があった!

 その窓から飛び出し、地面に受け身を取って流れるように一目散に森に駆け出す。

 

 背後から何をされるかは想像がつく。

 だから以前ユーリィムの商隊を守っていた時のように、数段の強風の断層を背後に幾重にも展開。

 自然にはまずありえない強風に、私たちに命中するように射かけられたはずの矢は明後日の方向の地面に刺さってゆく。


「畜生へたくそ!追え!」


 賊の誰かがそんな指示を出すころには、私達は森の中に駆け込んでいた。いつの間にか時間がたっていたらしく、空は薄明るくなっている。


「二人とも、この森には詳しい?」


「いや、当然初めてだ」


「そうか、それならついてきて。行き先はギルドのあった街だよね?それなら安全に案内できる」


 エスタがそんなことを言ってきた。

 カイルと顔を見合わせる。


「僕はエルフさ。森の中は任せておいて」


 一瞬どうしようかと思ったが、遺跡の方から賊が繰り出して追いかけてくる音が聞こえてきたから是非もなかった。ここは相手の拠点の傍。危機はこれからだ。


「わかった。頼む」


 そうして、森からの脱出行はエスタの手に委ねることになった。



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