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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第6章 新たな仲間と最初の手がかり
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第10話 エルフのエスタ

 静かに駆け込んで、音もなく閉めた扉とその格子のついた小窓から見えない扉側の隅に身を潜め、息を殺す。


 賊がそれぞれの寝室に入っていくであろう音が聞こえてきていたが、明らかに一人だけこちらに向かってきている。


 そしてそいつが扉の前で立ち止まり、もはや戦うしかないかと手に魔力を込めたが…


「おい、お前の仲間か?」


「え?何の話だい?」


 薄暗くて顔をよく見る暇すらなかったが、この部屋に囚われていたのは若い男だ。


「とぼけてるのか?お前のもう一人の仲間が助け出しにでも来たんじゃないのか?」


「だーかーらー、僕は一人だって」


「この期に及んでまたほざくか。ふざけるなよ。まあいい、こうなった以上明日にはお前覚悟しておけ」


「ちょっと待って!実演してあげるから弓矢を貸してって言ってるじゃないか!」


「お前みたいなやつに武器を渡す馬鹿がどこにいるんだ。お前にとっては最後の睡眠だ。次に寝るのは永遠の話になるからな。思い残すことのないようにしっかり寝とけよ。じゃあな」


 そう言い捨てると、賊の一人は寝室に向かって去って行った。

 再び静寂が空間を包み、たっぷり数分は数えた頃。


「はぁ…このままだと僕の命は明日で終わりか。で、君たちは何なの?おかげで僕は明日殺されることになったんだけど、責任取ってくれるの?」


「お前はここに捕まっているのか?」


「それ以外の何かに見えるのかい?」


「確かにそうだな。ところで、俺達二人はここの賊に喧嘩を売りに来たんだ。要するに俺達は友達になれる、そう思わないか?」


「へえ、興味深いね。だけどそれにしてはこそこそしてるし、何をしに来たのかな?」


「ああ、賊が街から盗んだ宝剣を取り返しに来た冒険者だ」


「……ああ、そういえばそんな依頼がギルドに貼ってあったね」


 エルフの彼も街のギルドに貼ってあった紙を見たらしく、思い出したかのように頷いている。


「あの赤いのに書かれたあの依頼だ」


「へー、あれやる人いたんだ。君たち二人だけで?」


「ああ。だから俺達はまず宝物庫を捜しに来たが見つからなかった」


「なるほどね。もし青い宝石のついた剣なら賊の長の部屋だよ。連れていかれたことがあるからわかるけど、そこの壁にかかっていたよ」


「ああ、たぶんそれだな。今度は俺達が質問する番だ。お前はここで何をしている?」


「見ての通りさ。僕はこの辺の遺跡を調査していてね。人の手が入っているように見えたけど遠慮なく中に入って見学していたら運悪く族の巣になってたってことさ」


「運が悪くてそうなるの?」


「いやー、実はこの遺跡すごいんだよ?歴史的に見るべきところが多くてさー、ついつい夢中になってしまってうっかりしちゃった」


 てへっと言わんばかりの顔をしたように見えた。そして暗がりで少しわかりにくかったが、こいつは耳が長い。この身体的特徴ってひょっとして…?

 指先に小さな火を点けてみてわずかな灯りを加え照らされた姿に、やはりそうだと確信した。


「ねえ、一応聞くけど、貴方、エルフ?」


 エルフとは長い耳が特徴の人族近縁と言われる種族で、寿命が長いと言われている。森の民とも呼ばれていて基本的に森から出てこないが、たまに外に出てくるエルフもいて前世でも数度しか見たことがない。


「うん、そうだよ」


短く切られているが多分綺麗な金髪だ。火の光にキラキラと輝いている。


「じゃあ、この森に住んでいるの?」


「いや?僕の故郷はずっと南東方面さ。ここには用事があって来ただけなんだけどね。さっき言った通りドジしちゃって」


「そう。名前は?」


「エスタ。君たちは?」


「俺はカイル」


「私はレベッカ。よろしくね」


「カイルにレベッカか。いい名前だね。よろしく」


「さて、挨拶と自己紹介も済んだだろう。陽が出る前に何とかしたい。協力してくれるか?」


「うん、いいよ。その代わり賊の勢力圏を完全に抜けるまでは共闘させてほしい」


「もちろんだ。ただそれは良いがエスタは戦えるのか?」


「うーん、丸腰だと厳しいかな。生活に便利な程度のちょっとした魔術は使えるけど訓練された賊相手だと少々心許ないと思う。あと得意なのは弓矢だから室内戦闘には正直向いてないよ」


「魔術は何を使えるの?」


「うーん、風系統を少々。あとはかまどに火を点けられる程度の小さな火魔術と出先で水に困らない程度の水魔術を少々ってところかな」


「ん?三系統使えるのか?」


「僕はエルフだからね。人族から見た見た目より長生きしてるし」


 なるほど、エルフにはそんな特性があるのかと思ったし、カイルもそう思ったようだ。


「ああ、そうなるのか。それで、どうすれば確実に宝剣を取り返せる?」


「うーん、一度外に出た方がいいと思うんだよ。賊の長の部屋は一番上の3階なんだけどそこに至るためには夜勤の賊が詰めているところを通過していかないといけないんだ。だから可能なら外から回って外を上って窓から入った方がいいよ」


「簡単に言うけど登るの?壁を?」


「うん、階段みたいになっているところがあるから大丈夫さ」


「そうと決まれば、早めに動くか。さっきのやつはもう寝たか?」


「どうだろう。でもぐずぐずしていたら夜が明けてしまうよ」


「よし、念のためあと5分。5分待ったら動き出そう」


「ええ、いいわよ」


 話は終わった。靴紐とか道具とか、指先に火をともしながらそういったものを相互に確認していく。

 先ずは私、次にカイルと。


 手ぶらなエスタはのんびりした顔をしながら首を傾げた。


「……君たち何歳?」


「俺が18でレベッカは15だ」


 頷きで肯定する。


「本当に18歳と15歳?」


「ええ、そうだけど?」


「へー、それにしてはしっかりしてるなって。今まで見てきた若い人たち、そういう細かいところを緊急事態でもないのに平気で省略しちゃうからね。細かい一つ一つが命を助けてくれるのに」


 そりゃ前世は……だけどこの話を続けられるのは都合が悪いし、話を逸らそう。


「それにしては遺跡の確認してなかったのよね」


 エスタは痛いところを突かれたときまりの悪い顔をした。


「あははは、面目ない。興味が先走っちゃって最近の構造には全く意識が向かなかったんだよね」


「頼むぜ。ここの構造はエスタが一番詳しいんだからな」


「請け負うよ。任せて」


***


 そんな冗談に話を逸らしながらも装備確認は終了。

 5分経ったため動き出す。


 静かに扉を開けて、廊下を確認。

 誰もいないのを確認し、素早く廊下に出る。


 廊下の先には元来た曲がり角

 その先は賊の寝床となっている部屋がいくつかある。


「ちょっと待って」


 エスタが小声で私達を制する。


「なんだ?」


「20秒頂戴」


 そう言って、彼は壁にかかった矢筒を手に取り傍にあった10本近くの矢を入れ弓と共に素早く背負い、手ごろな所にあったナイフを手に取り腰に佩く。なぜか弓は二張り。これは予備だろうか?


「お待たせ。僕にも武器が必要だからね」


 なるほど、それはそうだ。

 私達はそこらにある武器に用はないから静かに賊が多く寝ているであろう部屋の前を音もなく駆け抜ける。

 寝つきがいい賊のいびきが聞こえてきていた。

 いいぞ、そのまま寝ていてください。

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