第2話 戦い方を確認しよう
カイルの隠れ家を出て数日。森を抜けて街道に出た。やや丘陵をなす地形の比較的平坦な部分を縫うように街道が形成されている。
「ふぅ、ようやく歩きやすい道に出たわね」
「ああ、ユーリィムを撒かないといけなかったからな。街道の宿場町を4つはスキップした。もし追っ手を差し向けてきていても4つも情報なしじゃこっちじゃないと判断する期待は持てる」
「いつまでも町に寄らないっていうのも非現実的だもんね」
「そうだな。この調子なら明日の昼頃には次の宿場町にたどり着けるはずだ」
たまに商人や旅人とすれ違う。彼らから私達の情報が伝わってしまうことはあるんだろうか。
そして今はしいて言えば緩い谷の底に街道が伸びているようなところを進む。
何か記憶に引っかかるものがあるような気がするが、気のせいだろうか。
「ところでだ」
「ん?」
「龍を倒した迷宮や途中の森では狭かったし俺が前衛でレベッカが後衛ってシンプルな戦いをしていたがこういう場所ではどうする?」
「どうするって、そのままでいいわよ。カイルは前衛としてすごく頼りになるし」
うん、前世のアレクやカーターと比べるとまだまだかもしれないが、十分に前を守ってくれる信頼感は既に持っている。
やや思い出補正があるかもしれないけど、前世のそれを割り引いて考えてみるとカイルってやっぱりすごい剣士なんじゃないだろうかと思えるだけの何かがある。
「わかった。俺もそれでいいが、背後を取られたり囲まれた時の対応は考えておかないといけない。魔物もそうだが、ユーリィムの配下が襲ってきたらいきなり囲まれていることもあり得るからな」
なるほど、相手が魔物なら話は結構単純だ。しかし相手が人間だとしたら、こういう広い平原や森や山地を通る街道は逆に危ない。わずかな起伏や藪の中、あるいは崖の上や木の上等兵を忍ばせておく場所はいくらでもある。
「たしかにそうね。どうすればいいと思う?」
帰ってきた返答は、何とも力の抜けるものだった。
「正直、わからん」
がくっときた。きっといい解決方法が聞けると思ったのに!
「なによそれー」
「いやだって、出たとこ勝負じゃないか?先制攻撃されたら巻き返しは大変だぞ」
「それはそうだけど、話を振ってきたんだからきっと何かあると思うじゃない?その期待をどうしてくれるのよ」
「そんなものはないな。状況が無限大過ぎてなあ、むしろ決まりごとに硬直した方が問題があるんじゃないか?」
「そうねえ」
立ち止まる。
「じゃあ、こういう時はどうすればいいのかしら?」
「そうだな、困ったな」
丘陵の、窪地気味になっているこの場所。
私達は、野盗に囲まれていた。
私たちが囲まれていることに気づいたのを察したのだろう。
野盗の一団は多分8人くらい。
知ってる顔や見たことあるような装備を身に着けた者はいない。装備の一体感もほとんど感じず、雑兵にすら見える。
ならこいつらはユーリィムの配下ではない。
「おう、俺たちになんか用か?」
「金目のものとその女を置いていけ。さもなければ殺すぞ」
まあ、なんて典型的な脅し文句なんでしょう。
「嫌だと言ったら?」
「こうだ!」
カイルの背後側にいた賊が矢を放つ。
その矢はカイルの背に向かって飛びそのまま・・・刺さらず脇の地面に刺さった。
「こうだ?何かしたか?」
「てめえ馬鹿野郎!外すんじゃねえ!」
「ちげえよ!絶対にあてたと思ったんだよ!」
ちなみにいつぞやのように矢の飛翔するであろう空間につむじ風を起こして明後日の方向に飛ばしたのは私だ。
「はぁ……」というカイルのため息が聞こえた。こいつらは本当に有象無象の野盗の集団のようだ。
こちらに視線を向けたカイルと目が合い、頷き合う。
こいつらは大したことない。ならば…
「なあレベッカ、さっさと片付けるか」
「ええそうね。後ろから援護するから前だけ見ていればいいわ」
「わかりやすいね、助かる」
次の瞬間カイルはすさまじい俊敏さで正面にいた野盗に斬りかかり、応戦しようとした野盗の剣を初激で弾き飛ばして返す剣で斬り捨てていた。
同時に私も動き、存外いい反応をしていたその隣の野盗に氷槍を飛ばして串刺しにし、その背後で矢を番えようとしていた男を水弾で弾き飛ばす。
弾き飛ばされた男は近くの岩にぶつかり崩れ落ちて動かなくなった。
飛ばされなかった別の男にカイルは斬りかかり、私は試してみたいことがあったから、私の背後側から襲い掛かってきた男を魔術ではなく短剣で迎え撃つ。
ああ、やっぱりそうだ。
数戟交わしただけでただ力任せに剣を振っていて何の技術も感じないことがありありとわかる。そのくせ力も乗ってきてない。踏み込みも足りず私が短剣なのにリーチも生かせていない。
つまりこいつらは剣も大したことがない。数を頼みに楽をして戦ってきたのだろう。私程度の腕でもそこまで苦労せず勝てる相手だ。
とはいえ、2人目を倒し3人目を処理にかかっているカイルが心配そうな目で見てきているからこれ以上の危険を犯す必要もない。
雑に振り下ろされた剣を受け止め、腹部に蹴りを入れ距離をとりながら氷の槍を飛ばし心臓を撃つ。
同時に死角から襲ってきていた男にも氷の槍をお見舞いして私側の野盗は一掃した。
その頃カイルも4人目を倒していたため、瞬く間に戦いは終わった。
「レベッカ、大したことない相手だったからよかったが無茶はやめてくれ」
「あら?無茶だなんて思ってない癖に」
「いきなり本気出してくる場合だってあるだろ?」
「そうかもね。でもこいつら最初から大したことなかったじゃない」
「そりゃそうだけどなあ、純粋な腕力じゃさすがに勝てないだろ?だから気を付けておいてくれ」
「なるほどね、そうするわ。ありがと」
心配してくれていたのだ。忘れがちだが私は15歳の女の子だし、素直に従っておくことにしよう。
襲ってきた野盗の死体から金目のものだけきれいに頂き、あとは死体を焼却してその場を去ることにした。




