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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第6章 新たな仲間と最初の手がかり
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第1話 これからのこと

 ストウカルージュの街から南に一日ほどの距離にある綺麗な湧き水に恵まれた森の一角。

 天然の横穴が山腹に開いた場所。

 天井付近にもいくつか小さいが穴が開いているため昼間はそれなりに明るく、今は火や灯りの魔石を使わなくとも十分に明るい。


 実はここに滞在して三日が経っている。

 

 カイルが折よくお肉の美味しいダークベンソンを狩り、先日街から調達してきた穀物や野菜、調味料に香辛料。

 先ほどまで一番おいしい腿の部分を口いっぱいに頬張り、カイルが焼いたパンに野菜や肩のお肉を挟んだものを堪能していた。最初に訪れた宿場町で似たようなものを幾度も食べたが、段違いの美味しさだ。


 見た目に反してカイルは料理が上手い。

 私もそれなりにやるつもりだけど、彼はそれ以上かもしれない。

 少なくとも他人が作ってくれたご飯は美味しい!

 あっと言う間に間食した。


 口の中を水を飲みこみ洗い流して一息つきながら、体の痛かった部分を揉んだり曲げたり、力を入れたりしてみる。

 まだ痛い部分はあるがようやく、身体中の痛みも取れてきたから、明日には出発できるかな。


「調子はどうだ?」


「うん、だいぶ良くなった」


 カイルが採ってきてくれた疲労回復と体力増進に役立つという薬草をすりつぶして、湧き水と一緒に飲み込む。

 冷たくて美味しい湧き水は薬草の苦みを和らげてくれる。不思議なんだけど、魔術で作る水よりも美味しいんだよね。魔術で作る水は無味乾燥というか、ただ渇きを癒すだけだけど湧き水は心も癒してくれる、そんな気がする。


 こんなところにいる理由だが、拷問による疲労や痛みがあるにもかかわらず無理を推して街を出発したところ発熱してしまい、カイルが万が一の追撃の心配が極力少なく休める安全な場所を思いつき、ここに担ぎ込まれたのだ。

 あれからここに行きつくまで治癒魔術を使うというところに全く頭が回らなかったほど私の体力は限界を迎えていたし、多少回復してから治癒魔術を使ってみたがあまり効果がなかった。中級以上のものが必要だったらしく、大人しくして体力の回復を待つしかなかったのだ。

 そしてここはカイルの隠れ家の一つらしい。


「ありがと」


湧き水を汲んできてくれたカップを返す。


「おう」


 ようやく体調を取り戻してきたけど病み上がり特有の脱力感が体を満たしていて、葉や毛皮の上に布を敷いた寝床に大の字に寝転がる。夏に向かおうとしている気候の中で、涼しい洞穴の中は快適な気温が保たれている。

 

 このままうとうとしているのもいいかもしれない。少なくとも明日の朝までここから動かないことに決めているからだ。


 次に飲む薬草を彼がすりつぶして用意してくれている音を聞きながら、頭のてっぺんがぼーっとし始めたところで、カイルが口を開いた。


「なあ、これからどうするんだ?」


やや定かではなくなりつつあった意識が引き戻される。


「ん、どうするって?」


体を起こして彼を見る。

カイルは薬草をすりつぶす作業を中断して振り返る。


「これからの目的だよ。ヴェルドじゃもうやっていけないからな。この国にいたらいつユーリィムに寝首を搔かれるかわからない。遠くへ旅をするにしても、適当にふらふらするのか?」


 つまりこれからの大目標の設定の話というところか。前世で言えば魔王を倒すという大目標のためにいろいろ寄り道をしながら旅を続けていたっけ。


「うーん、これからかぁ」


 どうも先日の張り詰めた拷問による緊張がほぐれてからどうも集中力が散漫になっている気がするが、よく考えればこれからどうするということを考えていなかった。

 結局、どうしようかと考えていた中、カイルから誘われて一緒に行動するようになってから流されて今に至っているのだ。

 どうしようか考えつく間もないままこうしているのが実情だ。


「ねえ、貴方はやりたいことはないの?」


逆に聞き返す。


「さあな。だが俺は知りたいことがある」


「知りたいこと?何?」


「…今は言えない」


「なによそれ」


「まあいいだろ。それにそこにたどり着けるかわからないし、どうすればいいかもわからないんだ。もしたどり着けそうになったら、何が知りたいのか言うことにするよ」


 自由に生きている彼にとってもそういうことはあるのか。

 まだ出会って日も経っていないし、繊細な事情があるならばまだ聞ける立場でもないか。 彼とはしばらく一緒に行動するだろうから、彼の言いたくないことをほじくり返す必要もない。だけど、彼の言葉で私はやりたいことが思いついた。魔術だ。どうして魔術がこんなことになっているのか、それは知っておきたいと思ったのだ。


「で、結局レベッカは何もないのか?」


「……ある」


「お?それは?」


 手に火球を作り出し、それを見ながら望みを語った。


「私は、魔術がなんでこんなことになっているのか知りたい」


「……どゆこと?」


 突拍子もないことを言ってしまったのかもしれない。カイルのそんな怪訝な声に、今度は手のひらに火球と入れ替わりで作った水球を見ながら続ける。


「私は、もっと強力な魔術があるのを知ってる。それがあればこの間の龍だって一人で倒せたし、迷宮も一人で踏破できた」


「……」


 あ、しまった。変な風に取られてしまったかもしれない。

 水球を消してカイルの目を見て目標を告げた。


「あ、別にカイルが弱かったって話じゃないの。むしろ逆。カイルみたいな凄い人に一緒にいてもらえなかったら、私は迷宮を抜けられなかったし、龍から逃げることすらできなかったかもしれない。例えばアブソリュート・フリーズ。あれがあれば龍ごと凍り付かせられたかもしれない。上位魔術があるはずなのにできないまま。私はもっとできるはずだ。そうでないと師匠に顔向けできない。だから、魔術が今みたいになってしまっている理由を知りたいの。もし今できる人がいるなら教わりたい」


「それは……」


 カイルは何かを言おうとして、だけど思いとどまって、それでも同調してくれた。


「俺が知りたいこととレベッカが知りたいことには共通する部分があるかもしれない。だから俺はレベッカに協力するよ」


 思わずぽかんとしてしまったかもしれない。

 そんな変なことを考えないでもっと楽に生きようなんて言われると思ったからだ。


「いいの?」


「ああ。俺もレベッカの知りたいことに興味がある。さっきレベッカが言ったアブソリュート・フリーズは古代魔術に属するものなんだ」


「古代魔術?」


 新しい言葉が出てきた。


「ああ、もう失われた魔術なんだ。多分この世で使える人はいないはずだ」


「どうしてそんなことに……いえ、どうして失われてしまったの?」


 聞き方を間違えそうになった。過去からみた将来の経過の原因を知りたいがそれを言ったら転生がばれてしまうかもしれないから気を付けないと。


「それがわからない。今使える人はいない、過去に確かにそんな魔術があったということだけが、俺が知識として知っていることだ」


「そうだったの」


 魔術が失われる。そんなことがあるのだろうか。

 有史以来人類が継続的に用いてきた上位魔術が廃れる?前世の当時、魔術研究は魔王を倒してからも各国でしっかり行われていたはずだ。

 それなのに失われるなんてあるのだろうか。


「じゃあ、どうすればわかるのかすらわからないけど、一緒についてきてくれる?」


「ああ、もちろんだ」


 こうして、私とカイルの長い旅が始まった。

 その最初の手掛かりを得たのは、意外にもそれほど時間はかからなかった。


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