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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
幕間2 光の迷宮
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第8話 迷宮守護者と光の正体

 予想した通り、光は3交代制で休息を取り、等間隔の休憩時間を置いたのち、動き始めた。

 私達もそれに続いて動いていく。


 それからしばらくはやはり互いに出現する魔物を倒しつつ進み、ついに一番奥と思われる空間に行き当たった。

 それは神殿に近い構造をしている。


 光もここが最奥だと察したらしい。

 その空間に入る直前の広くなった部分で態勢を確認しているように見える。

 そんな光達を横目に私達も装備の確認と戦う場合、ギミックを解決する場合のそれぞれを想定した方針を決める。

 どちらかはっきりした瞬間に動き出さないとここのボス格の魔物は非常に危険なのだ。


 そうこうしている間に、光は動き出した。


 私達も続いてその空間に足を踏み入れる。

 光は広い空間の右側に飛んでいったから、私達は自然と広い空間の左側に。

 

 光に私達。

 全てが入り終わった時、背後の通路が消えた。もう戻れない。


「さて、言われている最下層の第9層。ここが一番奥のはずだ。何を見せてくれるんだ?」


 球を上下に輪切りにしたような半円状の広間。

 その中央に陰とも靄とも呼びうるものが生じ、次第に形を取り始め、ついに巨大な魔物が現れた。


 蛇とも龍ともとれるような首を複数持つ怪物。


「師匠に聞いたことがある。多頭龍っていうらしいよ。こういうの」


「なるほどな。で、どっちが手を出すんだ?」


 これまでは魔物と戦うにしてもどちらかが魔物と戦い、どちらかは仕掛けを解いていた。

 だがどこを見渡しても仕掛けらしきものはない。


 光の方を見ても戸惑っているように見える。

 私達と同じ?


 その結論は、多頭龍が示してくれた。

 唐突に、一つの首から私達のいる一帯を薙ぎ払うかのごとく強烈な火炎が吐き出されたのだ。


「同時かよ!?」


 私達も光も散開し戦闘態勢。

 私は反射的に分厚い水の壁を展開する。

 視界の端では青い光も同じように水壁を展開しパーティーへの火炎を防いだ。

 だが光の方は火炎を防御するに必要十分な最低限度に留まっている。

 無駄がある私のそれとはちがう。

 いや、無駄を作ったとは思っていない。だけどあっちと比べたらこちらに無駄があったことに気づかされるのだ。


「なによ、それ」


 あの光達は相当高い戦闘能力を持っている。私と同じことを反射的に、しかも私より精密にやってのけるなんて信じられない。

 ただそんなものはどうでもいい。悔しさを感じている暇はない。

 いつだか師匠は言っていた。その多頭龍と戦った時、毒の息や吐いてくる火炎に苦労したと。


「フェリナ!毒を防ぐものってある?」


「ある!」


「火炎だけでなくそれもお願い!」


「わかった!7秒頂戴!」


 詠唱を始めたフェリナを重点的に守るように氷の防壁を展開。

 間断なくこちらに吐き出される火炎を押し戻し、火炎が止まったところで氷の防壁を氷の槍に転換しその口に叩きこむ。


 時間を稼いでいる間に神聖魔術を完成させたフェリナは私達に火を防護する不可視のカーテンと、毒の耐性を付与する神聖魔術を唱え、私達にその光がしみこむように消えていく。

 その直前、フェリナはチラッと光達の方を見て、一瞬悩んだのだろうか。目を細めながら光の方にも耐性魔術をかけていた。意味があるのかはわからない。でも、同じ相手に共闘するなら区別はしない、そう言うことなのだろう。


 口に弱点属性を叩き込まれた炎の首にアレクとカーターが襲い掛かり、その連携された剣閃が炎の首の半身を切断する。

 しかし別の首から放たれた強烈な突風が二人を吹き飛ばし側面の壁に叩きつけられそうになったところに私が反対側から同規模の空気の塊で押し戻し、体勢の制御可能な程度に減速できた二人は壁になんとか”着地”し、反発力を持って再び多頭龍に襲い掛かる。


 あの首は風属性……!

 師匠が話していた多頭龍と同じものであるならば6つの首のうち、一つは炎、一つが風と確定した。

 一方、光達と交戦している首の一つが氷のブレスを吐き出し、それを青い光が中級魔術の火炎流で相殺したと思えば逆に上級炎魔術のヘルファイアアローで攻撃。

 しかしそれを更に別の首が横から土砂交じりのブレスで減殺しながらそれを全体にバラまいてくる。


 その土砂を私は高密度の風魔術で拡散させつつ水壁で防御しながらブレスが止まった刹那空間の隅に水で押し流す。


 そのとき、残った二つの首のうち一つの首が上を向いた。

 ブレスを吐く準備行動だ。

 そして私は大失態に気が付いた。

 足元が濡れている。そして吐き出されようとしているのは2分の1の確率で雷属性……!


「やばっ!」


 感電する!


 それから私がやったことは、上級魔術格のもの3つ同時行使。

 一つ目はブレスに対して石壁を構築し、ブレスそのものを受け止め威力を弱めること。

 二つ目は足元の砂漠化。乾燥なんて悠長なことを言ってる場合じゃないと足元の水分を全部砂に吸わせる勢いで砂を敷き詰め、乾いた砂で満たす。

 三つ目は、それでも残り得る水分を全部強度に凍らせ、私達の足にまとわりつかせない。


 それは間一髪間に合い石壁で防ぎ拡散した電撃は足元の砂地に吸われて散っていった。

 私は石壁を即時石槍に転換しそのブレスを今まさに吐き出しきった口の中に叩き込む。

 首は怯み、それにつられて多頭龍が数歩後ずさり。


 これで全ての首の属性が判明。アレクやカーターと一瞬の目配せが完了。

 この機を逃すまいと熟練の剣士二人がフェリナの防護魔術の援護の下で突入する。

 私は判明している5系統の首全てに対して対応した弱点属性魔術を叩き込むがそれは同時に青い光からも行われ、二人分の魔術師により叩き込まれた魔術によって行動が阻害され、隙をさらけ出した炎と雷の首に襲い掛かり一刀のもとに両断。


 同時に、光達も土の首を両断し、ブレスを吐きかけていたであろう氷の首には青い光から上位魔術の白青に光った火炎閃が叩き込まれ、氷の護りがあるはずの内側からそれは貫通。首は焼け落ち転がり落ちた。


 5系統の首の中では最後に残った雷の首めがけていつの間にかカーターが跳躍し一閃。その首も地面に落ちる。

 

 それとほぼ同時に、残った最後の首が大きく息を吸い、その口元からどす黒い紫色の息が漏れ出し始めた。

 師匠が言っていた多頭龍がこいつなら、毒を吐くはず……


「毒が相手なら大丈夫、吐き終わった後を狙って」


 フェリナは最初にかけた防毒の神聖魔術に確信を持っている。それならフェリナを信じるまでだ。


 杖の魔石に全属性の魔力を集めて、瞬時に叩き込む準備をする。

 その刹那まき散らされたどす黒い紫色のブレスが私達を覆いつくさんとするが私達は、いや、光達もフェリナの護りによって毒のブレスを受けることはなかった。


 そしてそれが終えたとき、アレクの目にもとまらぬ跳躍に始まり、それを速度で追い越した私と青い光の魔術が毒の首に殺到。

 毒の首は相当の防御を持っていたようだが同時5系統の魔術攻撃がそれらをぶち抜き魔術が炸裂。

 顎と頭、そして眼球の一部が欠損したその首に、アレクの剣が振り下ろされた次の瞬間、その首も他の首と同じ運命をたどり地面に落ちた。


 しかし全ての首を失ってもなお長い首を鞭のように振り回し暴れようとした多頭龍。

 カーターが私達に当たりそうだった首をさらに切断しそれを防ぐと、赤い光がその片脚を斬り落とし、バランスを崩し転倒してからは、動かなくなった。

 そして首や脚部から流れ落ちた血がその胴体と同じくらいの広さまで広がったとき粒子となって多頭龍は消失した。

 

 私達はついにこの迷宮の主を打倒したのだ。


「やったな!」

「ああ!」

「そうね!」


「え……?」


 勝ち誇りたくなるような高揚した気持ちはフェリナが唖然とした声を出したことにより中断され、その視線は3色の光があった方に向いていた。


「どうしたの……?えっ?そんな……!?」


 私も同じような声を上げてしまった。そこにいたのは、光ではなく、3人の人。さっき光があった場所それぞれに人がいる。


 その人達も驚愕の面持ちでこちらを見ている。


 彼らは、大斧を持つ赤髪の大男と、長剣を抱えた金髪の剣士と、そして……


 白髪もない。くたびれた皺もない。

 だけどはっきりとわかる。

 黒く長い髪を無造作に束ね、もう使わないからと私にくれたこの杖と同じものを持つ。


 師匠だ。シモンだ……。


 師匠は酒に酔ったときに一度だけ過去の冒険仲間たちを自慢げに語ったことがある。

 それは彼にとって最高の仲間であり、悲しい思い出。

 涙と共に酒に潰れた姿はひどく惨めに小さく見えたのだ。

 何かと鼻にかけ、傲慢にすら見えていた師匠が抱えていた心の傷。


 ああそうか。


 私は今更気づいた。


 30数年前、この迷宮を踏破したのは、師匠のパーティーだったんだ。


 大っ嫌いだった師匠。それでも感謝を伝えることを考えた矢先に突然逝ってしまい、それすら許してくれなかったからますます嫌いになった師匠。


 幻かもしれない。だけど今なら…


 ”師匠、ありがとう”


 そう口に出そうとした瞬間、彼らは光に戻り、消えた。


「し…あっ!?」


 そこにはもう何もいない。


「ジュリナ、どうしたの?」


「今そこに、師匠が」


 カーターが今見ていたものが幻ではないと教えてくれた。


「ひょっとして、あそこにいた長い黒髪の魔術師、ジュリナの師匠か?」


「うん……」


 もう何もなくなり明りに使う光の魔道具がぼんやりと照らしているだけのその空間。


「ああああああ!!!!もう!!!!!!」


 さっきまで師匠たちがいたところに火球を投げつける。

 火球はその辺の地面を盛大に焦がして消えた。


「あんのバカ師匠は!幻の分際で勝手に消えないでよ!」


「ジュリナ?」

「おい!?」

「どうしたんだ!?」


 何か驚いた声が聞こえるけどどうでもいい。

 そんな彼らの声を尻目に火や水、氷、あらゆる魔術をそこに投げつけ続ける。


「馬鹿!なんであんたは!いっつも!いっつも!いっつも!」


「ちょっと落ち着け!」


「ああああ!!うるさい!だって、あのバカ師匠、また……」


 どうでもよくなりこの部屋丸ごと破壊してしまおうと思いつき、上位火魔術風魔術混合の空間爆破魔術を叩きつけようとしたとき


「まって!ジュリナ!」


 背後から、フェリナに抱きしめられた。


「貴女、泣いているのに、気付いてる?」


 え?

 

 目頭が熱い。頬を何かがつたっている。我に返ったその時の口はへの字に曲がっていた。


「泣いてる…?私…」


「ええ」


 向きを変えたそのままフェリナに抱きしめられた。

 私を包み込むようにそっと。

 そんなフェリナのやさしさに子供時代の、いや、アレク達が私を連れ出す前まで持ち続けていた感情が溢れだす。


「だって、師匠って、いつも、いつも私のことなんか聞いてくれなくて。尊敬してたのに、私……馬鹿だったし」


 何言ってるんだろう私。言いたいことは沢山あるけど口は回らないし頭の中はぐっちゃぐちゃ。だけど師匠に持っていた気持ちが言葉を溢れさせることが止められない。


「今日こそはって、師匠にお礼をって、何度も思って、でも何度も喧嘩して。それでも今度こそって思ったら、師匠、家で冷たくなってて……」


「だから嫌いになっちゃったんだ?」


「うん……」

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