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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
幕間2 光の迷宮
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第7話 青い光

 第7層と思われる階層にきた。

 ここは細い通路を光達に続いて抜けていくと、目の前に広大な奥行きがある広い大空間が出現した。

 私達がいる手前側の足場がテラスのような形状になっていて、その下は崖のようになっており下に下りることはできない。

 そして足場から突き出たように二つの、詰め込んだら20人くらいが立って収まるくらいの大きさの足場が左右にひとつずつ伸びている。

 

「で、俺たちは今度は何をするんだ?魔物はいない。石板みたいな仕掛けもない」


 光達も戸惑っているように、足場の淵に立って下を眺めたり、青い光なんかは背後の壁をうろうろしたり、手掛かりを探っているように見えた。


 そんな中、黄色い光と、そしてウチのアレクが少しでも足場の先に行こうと思ったのだろうか、突き出た足場にそれぞれ乗った。

 

ーガコォン


!?


 何かの鈍い音と共にその足場が分離。ゆっくりと動き始めた。


「おいみんな!乗れ!」


 アレクのとっさの声に、私達は慌てて飛び乗る。

 光達も同様だ。

 青い光は落ちかけたのだろう、動きだした空中に浮く足場の縁にいたが、赤や黄色の光に助けられ、引き上げられたように見えた。


「やっぱり、人なのかしら。あれ」


 そんなやり取りを見ながらフェリナがそんな感想を漏らしていたが、それよりも空中に浮いた足場に乗って移動しているという現状が私達の理解の外だった。

 

「飛んでる?信じられない」


 走るような速さで飛行する足場の下の地面ははるか下。落ちたら命はない。

 どんな原理?どんな魔術?

 私達が踏みしめている足場は徐々に加速し、加速が止まるまでの間は慣性に持っていかれないようについついしゃがみ込んでしまったくらいだ。


 しかし、動く足場は唐突に減速をはじめ、前につんのめらないように踏ん張らなくてはならなくなったが、足場は壁に近いところで停止した。

 

 いつの間にか光達が乗った足場は大分遠ざかり、もしあちらに人が乗っていて互いに話をしようとしたら思い切り叫ばなくてはならないほどの距離が開いている。

 いや、光達の乗る足場が私達の足場に遅れたまま、大分後方で止まってしまったのだ。

 あちらもこちらも止まった状況。


「あっちはどうしたんだ?……おい、あっちの連中襲われてるぞ」


 カーターは後ろを遠目に見ながら訝しがっていたが、どこから湧いてきたのか知らないが有翼の魔物が光達が乗る足場に群がり攻撃している。

 光達は主に魔術で抵抗しているように見え、火球の爆発や、凍り付いた魔物が落ちていく光景が見えるが魔物の増援が止まらない。


「まじか。ジュリナ、援護は?」


「無理。ここから魔術自体は飛ばせるけど光や足場に当たるかもしれない」


「ちっ、じゃあ俺たちはどうしたらいいんだ?」


「ねえジュリナ!ここに例の文字があるわ」


 ジュリナに指をさされた先には壁にやや目立たずに埋め込まれていた石板のようなものがあり、やはり例の古代文字が刻まれていた。


「読めばいいのね?一応魔力を流しながら……『時よ満ちよ』」

 

 短い一言のそれを読み終えたとき、石板がうっすら光ったかと思うとそこから線のように伸びた赤い光が後方で戦っている光達が乗った足場の方に向かい、その足場が動き出す。

 動き出したあの足場は急速に加速し、魔物達を振り切りながら私達を追い抜き、はるか先で止まった。


「ほう、それで?」


 私達の乗る足場は動かない。しかし動いているものがいる。そう、光達に群がっていた魔物達が今度は襲撃の矛先を私達に変えてきたのだ。


「ちっ、それなら!」


 かまいたちと呼ばれる中級風魔術。

 空を飛んでいる魔物相手なら効果てきめん。翼をズタズタにされた魔物は揚力を失い次々と落下していく。この足場は狭く下がれないのだ。近寄らせる前に倒す!


 しかし、死角の真下から浮上してきたであろうガーゴイルや闇蝙蝠といった魔物達が急に目の前に現れて急な接近戦を迫られてしまった。


「フェリナ!中へ!」


 石板のある壁面を背に、近接戦が特に苦手なフェリナを中心に他3人でフェリナを守るように魔物と向かい合う。

 次々と襲い掛かる魔物の勢いは凄まじく、私はとにかくこの一帯の空間全部を焼き尽くしてしまいたかったがそんな暇をなかなか与えてくれない。

 

 アレクもカーターも全力で魔物を切り伏せているし、私も足元から踊り出してくる魔物にあらゆる魔術を叩きつけているが、魔物との接敵距離が近い分強い魔術を使えない。

 

「畜生!狭すぎる!」


「カーター!間隔気をつけろ!」


「わかってる!」


 アレクとカーターの二人も難儀している。距離が取れないから互いが剣を振る間隔に注意しなければ他の3人の誰かに剣が触れてしまうからだ。

 その上、頭上の魔物に火球を飛ばして倒したら燃え上がる魔物が足場に落ちてきて連携が乱れ、より魔物の接近を許してしまう。

 全力で戦えれば……!


 その思いは、フェリナが叶えてくれた。

 

「……我らが意思は御心の如し、御心は何者も侵すこと能わず。故に我らを侵さんとする者もまた同じ!全てを弾け!」


 私達を黄金色のオーラが包み込む。上級神聖魔術の対攻撃結界だ!

 

「もういいわよ!足場も安全だから全力で戦って!」


 フェリナが防刃と防魔術の結界をそれぞれに張ってくれた。これで全力で戦える!。

 

「「「助かる!」」」


 思わず3者同時に出た同じ言葉。

 一瞬笑いそうになったが、目配せし合って放ったのはギガントトルネード。

 真下にいる魔物には効果は薄いかもしれないが先ずは一息つくために視界を埋めようとする魔物を一掃するのだ。

 範囲一帯に猛烈に生じた暴風が魔物をズタズタに引き裂き、視界から魔物が消えた。

 足元からは増援が向かってくる音が聞こえてくるが、これで一息つく。

 再び足元から上がってきた増援を、体勢を整え各個に迅速に撃破する。先程のように上まで展開される前に叩く!


 その時だった。先行した形になっている光達の足場の方から壁伝いに光が伸びてきて、それが私達の足場に到達したとき、足場がゆっくりと動き始めた。


「みんな!加速に気を付けろ!」


 カーターの警告に皆足元に膝をつき、身を低くして備える。次第に加速した足場はぐんぐんとその速度を上げ、はるか遠くにあったはずの光達が乗っている足場を瞬時に追い越しそしてさっきと同じくらい距離が開くほどのところで、急激に速度を落とし、止まった。


 さっきと同じようにはるか後方の光達が乗る足場の周りには魔物が群がり始めている。


「急ぎましょう。今度はこれね。『我らは眠る』」


 今度はぐずぐずしない。古代文字を読み上げると、光達が乗る足場も動き出し、先程のように魔物達に絡まれる前に加速しそれを振り切ることに成功。私達を追い抜き、大分先で停止する。

 つまりすぐに古代文字を読めば魔物に絡まれることも最小限に抑えられるのだ。


 光達もそれを把握したようで、光達の足場がはるか前方で停止してからほどなく、私達が魔物と十数秒程度戦った時に足場が動き出し、魔物の群れを後ろに引き連れるように加速。

 加速が一段落したと思った私は減速にも備えながら背後に杖を向け、再びギガントトルネードを放ち追撃を断った。


 そして次が私が読むべき最後の古代文字だ。


『継ぐ者を待たん』


 最後の古代文字を読んだときには相互の足場が合流するように並んで飛び、最初に足場に乗った時のような場所で停止した。

 もう魔物の追撃はない。

 そしてすぐのところに下に下りる通路が開けている。

 

 私達は動き出した光達に続いて次の階層へと下りて行った。


***


 第8層。言われていることが事実ならここが最終層のはずだ。

 これまではなんだかんだで魔物が出現していたがこの階層に来てからは静かなもので、拍子抜けするほど何もなく、逆に緊張が緩んでしまい、疲れを自覚するようになった。


 休息などしている暇もなく光と共に走り続けてきた私達。

 流石に疲れた。

 体力的にというか、さすがに眠気も感じ始めている。特にさっきの防護の結界は停魔の神聖魔術ほどではないにしても高すぎる防御効果の代償にフェリナを消耗させるもの。

 フェリナの顔色はあまりよくない。本人は大丈夫だと言うけど……


 そんな折にあったとある小部屋のような空間。

 光はそこに入っていったので私達も。


 これまでこの光と迷宮を共に移動してきて、半ば確信しつつあった。この光は人なのだろうと。

 動きの端々に人間臭さもあるのだ。

 この光はきっとここで死んだ冒険者とか、そういう人の魂が光になって存在しているものなのかもしれない。


 よって、迷宮慣れしている私達が疲れているということは、この光たちも疲れているということだ。

 もう感覚としては同行している他所のパーティーという認識を持っている。光3つだから3交代で休息をとるだろうと判断し、私達もそうすることにした。

 私が最初に見張りに立つことに。一番消耗しているフェリナは見張りを免除された。

男性陣から先ず私は寝るように言われたが、交代を気にせず休めた方が良いからと最初の見張りを志願して今ここにいる。


 そして、赤、青、黄の3色のこの色の光のそれぞれの役割はもうわかっている。赤い光は主に打撃役、黄色い光が主に盾役で、青い光が魔術を使うのだ。入れ替わりながら赤と黄色の光が前にいて、青い光は終始後ろに陣取っている。

 

 そんな青い光が同時の見張り役のようで、入口の右側に光が、左側に私がいる。

ふわふわと腰くらいの高さで浮いている光と、通路の左右に視線を行ったり来たりさせながらこの光の正体に思いをはせる。


 この光が放つ魔術は相当なものだ。

 光が魔物と戦う際にも強力な魔術が魔物を薙ぎ払い焼き尽くし、凍り付かせる。

 どう低く見積もっても中堅国以上の宮廷魔術師長程度の力はあるだろう。複数属性をいずれも中級以上で使ってのける。

 命を散らした魔術師の魂の集合体、そう考えれば辻褄があう。もっともどうしてそうなるのかの説明はできないが。


「あんたは、何者?」


 当然のことだけど光は答えない。


「あんたの魔術論、話ができたら聞いてみたかったわ」


 小部屋の入口。

 魔物の襲撃もなく不思議な時間が流れた。

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