第6話 迷宮深部
第6層まできた。
今度は最初から道が二股に分かれている。
第4、5層の攻略で、だいたいこの迷宮が何を求めているのか掴めてきた。
つまり、あの光と別のことをやって協力しながら踏破せよ、そう求められているのだ。
だから光がどちらに進むかが大事だ。
すると道が左右に分かれている通路の中央にすぐに例の古代文字が壁に刻まれている。
「ジュリナ、お願い」
「わかった」
まずは一読。
目を疑ったので目をごしごしとこすってもう一度。
「は…?どういうこと?」
書かれている内容に困惑する。
「なんて書いてあるの?」
「えっと…”共に進む友を信ぜよ。信ずれば裂かれる道は必ずや一つに合する。一度の別れは永きの別れを意味せず”だって」
「で、どうすればいいんだ?俺たちは」
状況を察したフェリナとカーター。一人飲み込めないでいるアレクが怪訝な顔をしながら聞いてきた。
「多分…多分だけど、聞いてね?」
そのタイミングで左右に分かれた内の左に光が進んだ。
「ああ」
「私達はここを右に進んで、見えないあっちの光達と協力しないと進めない…そういうことを言いたいんじゃないかしら」
「はぁ!?」
アレクは驚愕し、カーターとフェリナはやっぱりそうかと額に手をやり渋い顔だ。
「私の予想が正しければ、この奥からそれらしい仕掛けがあるはずよ。行きましょう」
3人はそれぞれ顔を見合わせて
「本当に大丈夫なのか?あれが敵じゃないらしいことはわかってきたが」
「もう進むしかないじゃない」
「だな!精霊銀が待っているんだからな!」
「本当にあるかわかんないのに!」
確かに言われてみれば。
でもいつの間にか背後の道は消えてしまっている。撤退方法がわからない以上進むしかない。
そして上に続いていた通路を駆け上がり、辿り着いたそこは円柱に近い構造をした大空間に、途中の壁面から円の中心まで突き出した桟橋のような場所。
それは半ばで途切れていて、先端に石碑のようなものが置かれている。
「これは…?」
走り寄った石碑に刻まれているのは短く区切られた古代文字の文がいくつか。
「ねえジュリナ、下を見て」
「下?」
落ちないように慎重に左側の下方を見ると、先程別れた光達がいる。高度差にして10階分以上はある。
左手側から現れた光達だったがその先に進路はなく、広い空間の逆側に黒い穴が開いている。
「おいおい待て待て待て」
動揺したアレクの声に振り返ると、私達が来た方から最初に遭遇した魔物と同じ魔物が複数体出現。
「マジかよ」
アレクとカーターが剣を抜いて、剣を振るうなら二人並ぶのがやっとというほどの幅しかない足場に並んで備える。
「要するに、背後のあれらを何とかしながら下の光を通さないといけないのね」
もうやるしかない。
「神よ、道を誤りしかの者達の時を澱ませよ!」
フェリナが遅滞魔術を発動した声を背後に聞きながら、私は仕事にとりかかった。
現在の状況はこの空間はほぼ円柱に近い形状で、ほぼ円心に近い部分の上空にいるのが私達。そこから遥か下方にいるが進路がどこにもないのが光達で、光達がいる反対側には通路らしきものが開いているが、この円空間は対岸まで走っても十数秒は余裕で必要な距離があるため飛べるわけがなく、かつ、そこまで行ける道はない。
目の当たりにしている円形に近い石板は円形を20箇所ほどの数で均等に区切った中に短く古代文字が刻まれている。そして古代文字が刻まれた20か所ほどが個別の石板になっているようだ
試しに真ん中を読んでみた。
「真を嗣ぐものなし。されば世は変わらぬ」
読み終えたとき、読んだ当該の石板がうっすらと発光し、同時にゴォンと下方から音がしたから見てみると、下方の空間の一部に床が出来ていた。
床が出来ていたのは下方の円形の空間の、”ど真ん中”と言える場所。私達がいる場所の真下だ。
要するに、これを読んだ場所に床ができるんだ!
「そういうことか、じゃあ……」
今光達がいる部分から反対側に足場を繋げてやればいいんだ!
そう思ったが、さっきできた床はものの10秒程度で消失した。
あの床は時間制限付きなのか。それならばひとたび床を作ったらもうぐずぐずする暇はない。
その時激しい金属音がしたから反射的に背後に目を向ける。
アレクとカーターが激しく魔物と戦っている。狭い空間で側面を取れないためか戦いが始まった地点よりもこちら側に押し込まれつつある。
どのみち時間はない!
「よし、やるか」
円の中央部は文字が消えてしまい空白だから、もっとも中心部に近く直線的に行けるルートを選択し、読み始めた。
光達に最も近いものを読み、ゴォンと先程と同じ音がしたから二つ目を読みながら下を確認すると光達が生じた最初の足場に足を踏み入れていた。
そして二つ目が読み終わったと同時にゴォンという音がまた響き、今度は下を確認することなく順々に目星をつけた合計6つを連続して読んでいく。
一番最初の真ん中の足場を造るための石板は朽ちてしまったからそれを奥側に避けるようなルートで足場ができたのだろう。
6つ目を読み終わったとき、再度下を確認するとちょうど最後に生じた足場から、光達が円の右側の通路に入っていくところだった。
「よし……で、私達はどうすればいいの?」
背後の戦いはもう私がいる石板の場所を目前としていた。
下の光達を導けば何かしら状況がよくなると思っていたのだが、それもなさそうだ。
周囲を見渡すと、今気づいたが石板のある場所の向こう側、空間を隔てて大分先に通路が口を開けている。
あそこに行ければ……!
しかし通路はない。どこぞで出会った魔女のように空を飛べるわけじゃない。
杖を握り魔物に向き合う。ひょっとしたらアレクとカーターに一気に下がってもらって強力な魔術で押し返すというやり方が必要になるかもしれなかった。
石板は完全に朽ちて光を失い、ここで私がやるべきことはない。
杖を構えて、奥から更に現れた魔物の増援に対して魔術をぶつける。決して先頭の2体以外は近寄らせない。
それでも傷が治癒されてしまう魔物相手の戦いという劣勢を覆すことはできず、ついに先頭の石板があるやや広い場所まで追い込まれつつあった。
第4層の時とは違い、ここは”叩き飛ばされたら死ぬ”のだ。
地獄の底ともいえるこの空間の底に落とされたら絶対に助からない。
だから距離を詰め押し込むこともできず、さりとて魔物の前進を放置することもできず、状況の好転が見込めないと判断したフェリナがついに停魔の神撃魔術の詠唱を始めたときだった。
ゴオン!
という地響きが生じ、何かと思い振り返れば石板の先に道が出来ていた。
「みんな!走って!」
「神よ、道を誤りしかの者達の時を澱ませよ!」
私の合図に、停魔から遅滞の神撃魔術に瞬時に切り替えたフェリナの魔術が効果を発揮した瞬間私達は回れ右。
奥へと走ったのだった。
最奥に開けた入り口に飛びこむように走りこんだ私達が振り返った先には私達を追いかけてくる魔物の姿があり、たった今石板のある所を通過したところだ。
通路が消えてくれるとは限らないから、もう通路を吹き飛ばす!
「ヘルファイア・エクスプロージョン!!」
中級魔術でも大丈夫だと思ったが、万が一通路を破壊し損ねるよりはと、炎属性の強力な爆発を伴う上級魔術を、魔物達と私達の間の通路部分に叩き込み、強烈な爆発による衝撃で足場は完全に崩壊。
不死の魔物2体は奈落の底へと落ちていった。
「よし、ここはもう大丈夫そうだな」
「ええ、行きましょう」
通路を急いで進んだ先、道が合流するところで別方向から光達がちょうど到着したところだった。
再び光達と共に歩き出し、奥へと進んでいくのだった。




